天秤 -ジャッジ-
『前回のあらすじ』
決戦の地下空間へと降り立ち、狼の森から栄養を奪い取っていたヴルトゥームと対面。
巻き戻しと歴史改編の異変、その張本人にして、調律者に裏で指示を出す首領。此処で倒せば、三勢力の一つを崩せる。
そんな思いで戦うも、言葉巧みに第三者から理解をされない事を挑発するが、貴紀かアンネセサリーと返される。
途中ライチが地下空間に落とされ、助けて負傷。人を救う価値は無いと発言し攻めるも……乱入したジャッジの一撃で真っ二つに。
いつの間にかヴルトゥームの背後に現れ、大斧の一撃で奴を両断したジャッジ。
相変わらずデケェ図体……その大斧もテメェの身長を越してて、逆に扱い難そう。そうこう思ってたら──
「ジュゥゥダァァァ……ス」
「っ!」
「ライチ──俺の傍を離れるなよ?」
喉元に大斧の切っ先を向けられ、目の窪みで光る赤い光が此方を見詰めている。
恐怖心の余り、背後に隠れるライチにそう言う。コイツ相手に護衛対象有りは普通にキツい……
「答えろ……貴様が、我らが王を裏切った、その理由を」
「馬鹿正直に言ったとして、アンタ達は納得するのか? 個人的には嘘扱いされて襲われそうなんだが」
真実を話せ。とか言う場面があるけど、言ったところで聞いてる側が納得するか否かは、また別問題。
真偽の有無関係なく激情して、襲われるとかはマジ勘弁。それじゃあ、何の解決にもならない。
それを伝えると、ジャッジは此方に向けていた切っ先を引いた……と思いきや、勢い良く突いて来た!
「……ジューダス。あの時、我らが王は泣いておられた。我らは、その理由も含めて知りたいのだ」
大斧の切っ先は、俺の背後を上から突き刺していた。ライチは──無事。奴が突いたのは……
「まあ、そりゃあ泣くだろうよ。俺がドゥームに託された想いや願いは、そう言う類いだからな」
「オメガゼロ・エックス……さん?」
「だがな、ジャッジ。ドゥームから託された約束、その内容は幾らお前達相手でも言えん!」
「ならばジューダスゥ!! 貴様の重ねた罪を裁き、尋問した後に断罪するゥゥ!」
突き刺した背後を見れば──其処には先程ジャッジが倒した、ヴルトゥームの姿が……成る程な。
スキル・スレイヤーが訴えていた正体はコレか。野郎、既に地中へ核を複数植えてやがった!
早い話、長期戦で俺が疲れ果てるのが狙い。で……俺はジャッジに軽く挑発をし、シャベルを握り締める。
案の定、俺に対する怨念とドゥームへの忠誠心に火が付き、狙い通り狂戦士化して襲って来た。
「限定融合解除、身魂融合へ変更!」
「遅イィ!」
限定状態から通常の三位一体身魂融合へ変更。右腕から全身へパワードスーツが広がって行く。
しかし限定から通常へ戻すのは初めて。四苦八苦する中、振り下ろされる大斧を前に指を擦り鳴らす。
頭から足下までの縦一閃を決められるも、断たれた俺は軽い発破音と共に紅葉が舞い散り、破裂。
「分身ッ?!」
「そう。元々第三装甲はお前達、融合四天王との戦闘を想定した専用装備」
「はわわわわ……お、オメガゼロ・エックスさんが、増えた!?」
分身が消えた後、ジャッジの背後に現れ、更に奴を囲う形で四方に分身体を召喚。
一号はデータ収集用。二号から五号は実戦で得た情報を元に、改修を繰り返し施すタイプ。
何せ、悲劇的な弱体化をしたんだ。様々な状況に対応可能な装備は必須、無くては勝てない。
「霊力集中……甲破手裏剣!」
「小癪ッ!!」
「お、オメガゼロ・エックスさん。これは……」
四方から霊力を練って作った、青白い大きな手裏剣を投げるものの……
小癪の一言と共に、遠心力で振り回した大斧の一撃で全て砕かれ、俺や分身全員に風圧と鎌鼬が!!
成る程……『霊華が思う剛力』って、ジャッジみたいな中距離も対応可能な奴か。これは殺られ──
「何っ!! 全て分身だと!? えぇぇい、何処へ消えた!! 出て来い、ジューダス~!!!」
殺られた。そう確信したのに……奴の疑問と怒り声が耳に響き、ふと目を開けると。
紫のウェットスーツに黄色のライン、胸に赤い十字。道化の仮面を被った、黒い眼が俺を見詰める。
「お待たせ。魔人・ファウスト、君への借りを返しに来たよ」
「アナ──っ。今、拠点が襲撃を受けてる筈じゃ?」
「確かに襲撃を受けてたけど、コードネーム・白兎が介入して、助けてくれてたからね」
魔人・ファウストへと変身したアナメに抱えられ、子持ちのコアラさながら天井に張り付いている。
驚きの余り、大声で言い掛けた口を右手で塞ぎ、逆さま故にジャッジを見上げ気付いてないか確認。
疑問を投げ掛けるも、トリスティス大陸やマリスミゼルで助けてくれた白兎が、今回も来てくれた様子。
「奴を攻略する。アナメの力を……いや、命を俺に預けてくれ」
「勿論! 断る理由なんて無いよ。あぁ、キミは着地したら離れといてね?」
「声──其処かぁ!!」
「行くぞ。破壊者と道化師のタッグで、奴を此処で仕留める」
無茶な願いをあっさりと受け入れ、力強く返答するアナメに頷くと、ジャッジが此方に気付いた。
天井から離れ降下。すると相手も此方を迎撃せんと掲げた大斧を振り下ろすので、ウォッチを使用。
「skill・ゼロ。attack、Are You Ready?」
「っ!!」
「ジュゥゥーダァァース!!」
ゼロを選択し、自身に魔力を上乗せし着地。振り下ろされた大斧を両腕で防ごうとすると。
アナメが側面から強烈な蹴りを大斧に叩き込み、軌道を外してくれた。飛び散る小石は少々痛いが……
しかし安堵するには早く、即座に薙ぎ払いが迫る。三人揃って伏せて回避したら、ライチを遠ざけ。
戦える俺達二人だけで、ジャッジの懐へ飛び込む。俺の腕力や脚力じゃ、アイツの鎧には通じん。ならば!
「どんな装甲だって!!」
「ただ、打ち貫くのみ!」
「「リボルビング・インパクト!!」」
息を合わせてくれてるのか。俺達二人の動きに大きな乱れは無く、お互い片腕に魔力玉を六発装填。
がら空きの懐へ無事潜り込めば、腹部に各々の拳と魔力を一気に叩き込む。
するとジャッジの重々しい体が少し宙に浮き、続く衝撃が更に巨体を浮かせ、仰向きに倒す。
「このまま追撃を──」
「いや、追撃はいい。寧ろ、やれば此方が殺られる」
追撃を~と意気揚々に向かおうとするアナメの肩を掴み止めつつ、辺りを見回す。
第三装甲・三号。フォックス・アーマー改めミラクル・アーマーのバイザーには、透視能力がある。
その機能を使い、土の中を透視して奴の本体を見付け出すも……地中から引きずり出す方法や技がない。
アイツが倒れてる今しか、装着してられる今しか、奴を引っ張り出すチャンスは無いって言うのに!
「終焉様……奴は、この位置に居ります」
「良くやった、ジャッジ。さて、悪いが卑怯者と手を組む気は無くてな。出て来い、来訪者」
「なっ、何っ?!」
ジャッジが何やら呟いたと思った次の瞬間。終焉の声だけが地下空間に響き、複数の赤黒い鎖が天井を貫通。
そのまま地下へ潜り込み、止まった──かと思えば、何かを地中から引きずり出そうとしている。
そうして引きずり出されたのは……やや女性寄りな顔立ちのケンプァー。声だけは年配の男性だけど。
「何故だ! 我々は共通の敵、オメガゼロ・エックスを倒す為だけに手を組んだ筈じゃ!」
「確かにな。だが、ジャッジは極一部の要因さえ除けば、実に公平な裁判官。その裁判官の判決だ」
「判決じゃと!?」
「そう。貴様は公平な戦いをしていない……とな。その仮初めの器で破壊者と戦い、勝利するがいい」
天井を見上げ、吠えるケンプァー……いや、ヴルトゥーム。共通の敵を打破するべく手を組んだ相手。
無月終焉の声と会話するも、納得が行かないらしい。これがわしの正義、戦法じゃ~! とか喚く始末。
小者臭が酷く漂って来たな……てか、ジャッジが来たのは奴の本体をサーチする為のポインターかよ。
まあ、俺も挑発して暴れ回るのを利用し、ヴルトゥームを引きずり出そうとしてたけどさ。
「ジュゥゥーダァァ~ス……今回は終焉様の指示により引き下がるが、次は必ずや貴様の口より聞き出す」
「だから、全部終わったら話すっての!」
言いたい事だけ言って此方の言葉は聞かず、闇のゲートを通り帰って行った。
本当、裁判官なら被告人の言葉にもちゃんと耳を貸せってえぇの! まあ、極一部の要因が俺なんだがな。
「それで? コイツが今回の黒幕?」
「そうなるな。調律者を影から動かす首領にして、火星からの侵略者・ヴルトゥーム」
「フン……移住希望者、と言って貰おうか」
改めて振り返り、奴を視界に捉えて話す。ミラクル・アーマーの制限残り時間は……二分。
超能力の使用を抑えても、まだ減りが早い。会話よりも手が先! 今の内に右手に霊力を集めて……
「何が移住希望者だ。不法侵入及び、侵略者の間違いだろ!」
「否定はせんよ。だが、この星ではこう言うのだろう? 勝った者が正義だと!」
返答と一緒に甲破手裏剣を投げるも、容易く素手で弾かれ、挙げ句の果てにはこの言葉。
確かに勝てば官軍、負ければ賊軍。とは言うのはあるが……んなモン、戦争を都合良く飾るだけの言葉だ!
「こんな老害、倒しちゃうのが世の為だね。やろう、破壊者君!」
「テメェご自慢の正義とやらを、俺の悪で無に返してやんぜ!」
「掛かって来い、この星の小童。そしてわし本来の肉体を破壊せし、憎きオメガゼロ・エックスよ!!」
此処からが本番。頭の固い来訪者の野望と計画は今度こそ、今此処で完膚無きまでに叩き潰す!
頑固が時には身も世界も滅ぼすって事。その仮初めらしき器を通して、教え込んでやんぜ。
……平行世界、パラレルワールドだとしても、今度こそライチを救って見せる。死なせてなるものか!!




