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ワールドロード  作者: オメガ
三章・alternative answer
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理解 -アンネセサリー-

 『前回のあらすじ』

 ライチの案内で大樹の下へ突入する貴紀達。されど其処で出会ったのは……勇者候補生のフェイク一行。

 一方的な絡みを難無く一蹴。更に正論をぶつけた後、地上で待たせたライチや別行動中のネロ、復活した峰平進も到着。

 その先で待っていたのは──無惨にも人間の形を止めていない、ケーフィヒ牧場の姉妹や他の人間達。

 解放して欲しいと言う言葉を受け、苦渋の想いで彼ら彼女らを解放。ネロ達に地上で待つ様伝え、決戦の地下空間へ。




 穴の下は予想以上に広く、この星の図鑑には載ってない花が咲き誇る花畑へ着地。

 予想に反して明るいが……天井の光源からは熱を感れず、霊力の補給が出来ない。恐らく、蛍の光と同じ原理。

 その花畑の中で、ポツンと立っている女が一人。まあ、外見上の性別は女──なんだがな。


「よう。久しいな、ヴルトゥーム」


「来たか、終焉の破壊者!! 今度こそわしが貴様に勝利し、この星へ根付いてくれるわ!」


 近過ぎず遠過ぎない、一定の距離を保ちつつ話し掛ければ──奴も此方を視認し、怒りをあらわにする。

 正直、それで良い。お互いの正義をぶつけ合い、身勝手に善悪を決め合う。俺達には、それだけで十分!


「ッ!!」


「滅びろ、古の骨董品め!」


 奴の足下から勢い良く蔓が伸びては、俺の五体や胴体に強く巻き付き、身動きを止め。

 続けて新しい蔓を捻って束ね、ドリルの様に回転させながら、俺の胸部を貫こうと伸ばして来る!

 太さからして、心臓と肺二つを同時にぶち抜ける……直感も即死コースだと警報を鳴らす程。


「何ッ!?」


「サーキュラーショット!」


「フンッ! えぇい、小賢しい」


 右指を擦り合わせて音を鳴らし、瞬間移動で奴の背後へ。同時に拘束からの脱出と即死攻撃を回避。

 牽制のハンドショット、必殺のサーキュラーブレードの合わせ技。サーキュラーショットを右手から放つ。

 小さな三日月型の魔力弾は一直線に飛ぶも、いち早く気付いた奴には手で弾かれ、壁や花畑に着弾。


「チッ……やっぱり威力にムラがあるか」


「当然じゃ。事前に貴様のカード(選択肢・戦力)を削り、時期を見定め、計算し尽くしたのじゃからな!」


「打てる対策は打った……と言う訳か」


 着弾時の爆発は大小と様々で、出力が安定していない。こんなんじゃ直撃を与えても、倒し切れん。

 手札、戦力共に不足。良くてワンペア、最悪ブタと言う手札でどう戦い、勝利するか。読み勝たなくては……


「頼みの綱は欠如、他の仲間じゃ力不足の足手まとい。結局貴様は、わしと一対一で戦わざるをえんのだ!」


「触手と蔓が邪魔で……踏み込むタイミングがっ」


「哀れだなぁ、オメガゼロエックスゥ。誰も貴様を理解しない、出来ない、しようとしない。それがこの星の生命だ!」 


 まるで複数の槍兵か達人に、連続突きを気分だ。幾ら避けてもキリがない上、疲れ知らずと来た。

 持久戦に持ち込まれれば不利。けど、懐へ踏み込むには触手が邪魔で、タイミングが掴み切れん!

 上半身を捻り、曲げ、屈んだりして避け続ける中。奴はそんな挑発(事実)をわざわざ口に出して煽る始末。

 ちょっと……カチンと来た。リュックの右側面に退けてたスコップを手に取り、足を止め──


「何ッ?!」


「人は他人を完全に理解する事は出来ねぇ。そして俺は、部外者からの理解は基本的にアンネセサリー(不要・無用)だ」


 スコップの先端に魔力を集め、迫り来る触手を全て切り捨てたら──蜥蜴の尻尾みたく跳ねとるんよ。

 なんか絵面的に締まらないので……右足で横に蹴り飛ばし、左手に持ったスコップの柄を肩に乗せる。


「ヴルトゥーム!! 貴方……火星へ襲来した時と同じく、反発されるとは思ってなかったの!?」


「知れた事を。わしの花をこの星に植え、圧倒的な科学力で時間を稼ぐ。ただそれだけで十分。全土支配など容易い話」


「止セ、霊華。コイツニ何ヲ言オウト無駄ダ。コイツハ王以上ニ、他者ニ理解ヲ求メテ等イナイ」


「文字通り、理解不要って訳か。頭の良し悪し関係なく、常識や認識が根本から違うんだろーよ」


 木の根っこの太い触手は突き刺し、薙ぎ払いや叩き付けを行い。蔓は叩き付けの他、四肢の拘束を狙う。

 その点にさえ気を付ければ、多少は動きが読み易い。とは言え、疑問点が幾つか残るんだよなぁ。

 ……なんで少女の外見に年老いた男性の声と一人称やねん。アンバランス過ぎて、寧ろ逆に気になる。


「宿主様、見えてっか!?」


「あぁ、見えてる……が、変なんだ」


「変? 貴紀、何が変だって言うの?」

 

 一つ目の疑問。視界が捉えている奴の他に、複数体ものヴルトゥームが居ると、スキルが眼に訴え。

 同時に倒し方も教えてくれる。但し……この森と、その範囲内にある大地を全て消し去るのが条件とも。

 それはつまり、奴が其処まで根付いている証拠。でも何故、それが一番確実と出た?


「ふむ。このまま拮抗状態が続いても詰まらんのう」


「ッ!! ヴルトゥーム、今何をした!」


「何、退屈凌ぎのアクションを起こしたに過ぎんよ」


 奴の言う通り、この拮抗状態が続くのは詰まらない。それもあるが、個人的には非常に不味い。

 あんにゃろうは集中力やスタミナも無尽蔵だが……此方には限界がある。元々俺は短期決戦向き。

 持久戦は苦手。それもあり、奴の指を鳴らすアクションに対し、過剰に反応してしまった後──


「わあぁぁあぁぁ!?」


「アレは……ライチ!?」


 戦闘音と互いの声しか聞こえない空間に、突然聞こえて来る悲鳴が一つ。

 霊力を眼に回し、動体視力を上げ視認した相手は……ネロ達と地上へ戻らせた筈のライチ。

 あのまま落下すれば、仮に即死は免れても骨折は確定。脚に魔力を流し、落下地点へ全速力で先回り。


「わひゃっ!」


「ッ……間に合った、か」


 ライチを抱き抱える形で受け止め、彼女に怪我無い。まあ、ビックリして変な声は出してたけど……っ!


「ハハッ、ブラボー!! 迅速かつ美談にもなる行動だ。その対価が、事前に理解出来ていたとしても」


「──!! 人間さん!」


「この程度っ……なんて事はない」


 此方に向け、拍手喝采と言葉を送るヴルトゥーム。野郎……俺の行動も、計算に入れてやがるのか。

 受け止める際に腕を上げた時、がら空きになった横っ腹へ根っこを突き刺して来やがった。

 幸いにも、食らったのは左側だけ。それもゼロ達が内側で食い止めてくれたから、致命傷は回避した。


「故に、わしは理解に苦しむ。何故わざわざ、自らを不利にする行動が出来るのかを」


 横っ腹に刺さった根っこを抜き、蓋をする様に左手で押さえ付け、霊力で応急措置。

 残る右手で懐から取り出したお札を使い、全方位の結界を張って時間稼ぎ。止血さえ済めば……


「あぁ、オメガゼロ・エックス。増援を期待しているのなら、諦めた方がいい」


「オメガゼロ……エックス?」


「今、貴様の下へ潜り込ませたスパイから連絡があった。量産型ディーテが足止めに成功したと」


 ネロが戻って来る。そう思った矢先──スパイの存在、量産型による仲間への足止め。

 そんな情報が耳に届き、奴を睨む。聞いた事のない名前に、首を傾げて呟くライチ。

 百八十度。触手や根っこの攻撃は防げていたが、真下からの攻撃は防げず──予期せぬ一撃を貰った。


「オメガゼロ・エックスさん!」


「大丈夫……ただの掠り傷だ」


 条件反射的で咄嗟に仰け反ったお陰で、額を掠めた。傷口以上の流血はあるが、問題ない。

 横っ腹の応急措置が終わった左手で、額を拭うと同時に、霊力で応急措置も施す。


「半ば中途半端な力と残酷な運命を得たばかりに。わしへ挑もうとする蛮勇を持ち、悪の偽善で己を傷付ける」


「ふぅー……ふぅー……何が、言いたい?」


 自信満々、余裕綽々な態度で語り始める野郎を睨みつつ、息を整え苛立つ心を静める。

 心を落ち着けて少しでも魔力、霊力の漏れを抑えなくては……ガス欠だけは何としても避けねば。


管理者勢力(アドミニストレータ)の首領として言う。命を救う価値は無い。幼稚な精神を徹底的に管理、人格を淘汰した末に、漸く価値が出る」


 調律者姉妹の首領が──ヴルトゥーム? つまり奴さえ倒せば、三つある勢力の一つを潰せるのか。

 それと……ある意味奴と俺は考えが近く、昔の──光闇戦争初期の俺なら、賛同したかも知れない。

 正直に言えば、今も迷っている。守り、救っても、結局は同じ事を繰り返すのではないだろうか?

 そんな目に見えない未来が、曖昧不定形な善悪が、いつも俺の心を揺さぶり──惑わす。


「確かに……その通りかも知れない」


「オメゼロ・エックスさん………」


「そうであろう。貴様は何度も人を救い、裏切られて来た。故に命は管理し、淘汰すべきと気付い──」


 築くは難しく、壊すは容易い。人の社会がそんな風に見えるのは、俺自身の個人的な偏見だ。

 ライチの物悲しげな声や、ヴルトゥームの理解者を得て嬉しげな声も。俺個人の世界が唱える見解。


「でも──そんな夢や希望も無い鳥籠(ケーフィヒ)の未来なんて、俺達は望まない。寧ろ、嫌悪する」


「構わんよ。人類も、家畜に夢や希望などは与えんだろう? それと同じ話だからな」


「まあ、それ関しては俺がどうこう言う気はねぇよ。人と他の命に、何ら違いは思ってねぇからな!」


「よく分かっているじゃないか!」


 木の根っこを此方に向け、先端に魔力を集めて放って来たのを、お札五枚で張った結界で防ぎ。

 右手を地面に着け、微弱な魔力の波動で他の根っこ等を探知。そうと悟られない様に、会話に応じる。

 確かに、一般的な思考なら家畜と人間を同じ価値扱いするな。とか、違うと言うのが普通かも知れん。

 それに関しては、肯定もしなければ否定もしない。今までの当たり前を、当然とは思えないからだ。


「それに俺は、人類の為に戦うなんて臭い台詞はもう吐かねぇし、その気もねぇ」


「ほう。では、一体何の為にわしと戦っていると言うのかね?」


 魔力砲を防ぎ切ったら、今度は触手や根っこで直接、結界を叩いて来やがった。

 亀裂は入ったが、まだ十分耐えられる。人類や人の未来の為! なんて台詞、今は言う勇気もねぇしな。


「何の為に、火星で邪神と伝説に語られたお前と戦うか? ンナもん、親友との約束を果たす為だ──よ!」


 ハッキリ言ってしまえば、コレだ。大親友・ドゥームと交わした約束を果たす。ただそれだけの為。

 報酬がある訳でも、何か弱味を握られてる訳でもない。託された想い、願いを叶えてやるだけ。

 その想いや願いを叶えてやる為には──ヴルトゥーム!! テメェを始め、三勢力を潰す必要がある!


「そんな不確かで曖昧なモノ──わしが作る未来設計図にはアンネセサリー(不要・無用)じゃ……あ?」


「お、オメガゼロ・エックスしゃん!! あ、あの方が……真っ二つに!」


 結界を破られ、触手や根っこが直接襲い掛かろうとした瞬間……ヴルトゥームは真っ二つに裂けて倒れ。

 その背後に立っていたのは──こんなタイミングでは会いたくない連中上位の……裁定する狂戦士(バーサーカー)・ジャッジだった。





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