心情 -ゲミュート-
『前回のあらすじ』
調律者の本拠地にて、知らず知らずの内にヴルトゥームの芳香で支配されており、襲い掛かる琴音達三人。
真夜の助けが無い事を疑問に思い、振り返れば……ルージュも支配されており、戦っていた。
四人はヴルトゥームの芳香により、異形・阿修羅へと変化。仲間を巻き込まない為、敵を連れ城下町へワープ。
歌舞伎衣装の阿修羅と戦うも、貴紀は全く歯が立たず、寧達の作った戦闘機の助力を得て脱出しゼロへ交代する。
「いよっしゃあぁぁ!! 暴れ暴れ、暴れまくってやる……ぜぇぇっ!?」
ウォッチの効力でゼロと交代。久し振りの出番だからか、滅茶苦茶張り切っている──
と思った直後。なんとフュージョン・アームズは突然解け、恋だけが弾き出されてしまった……
「やっぱ、俺と狐じゃ相性が悪いか……だが!」
顔を上げると──奴が直ぐ其処まで来ており、ゼロは奴の胸部に拳を叩き込み、取っ組み合う。
自分が押し負けた力比べも、全く負けていない。互いに一歩も引けを取らない程、均衡している。
「あっ、なんたる剛ぉ~力ぃ~ッ!!」
「ほぉ~……今の俺様と互角の腕力か。コイツはちったあ、楽しめそう……何っ!?」
自ら剛力を名乗る奴に剛力と言わせるとは……まあ、自分で言う辺り、自称かも知れんが。
だが、疑問ではある。自ら阿修羅と言うのにも関わらず、顔は一つで腕は二つ。余りにも普通過ぎる──
そう疑問を抱いた時。奴の赤い長髪に隠れた背中より長い腕が四本も生え、ゼロの頭を掴み真正面に固定。
「フラッシュ・ウインクぅ~!」
「うぉっ?! まっ、眩し──」
「あっ、隙ありぃ~!」
負けん気で対抗し、睨み合っていた時──奴が素早くまばたきをした途端。
記者会見を思わせる程のフラッシュが視界を奪い、眩しさで怯んだところを掴み上げ、放り投げやがった。
「おっと……まさかそんな技まであるとは。だがまあ、格闘技を嗜む以上、この程度!」
「ぬっ、ぬおぉ~っ!?」
けど、方法が悪い。ただ単に放り投げただけじゃ、格闘家などには受け身を取られ易い。
身を丸くして受け身を取り、右腕を勢い良く伸ばし、首根っこを掴む──と同時に腕を戻す。
「残念だったな。今のは放り投げる──ではなく、こうするべきだったな!!」
今度は逆に担ぎ上げ、そのまま背中から地面へと力強く叩き付ける。確かにこれなら、受け身は取れん。
そもそも、ゼロのファイトスタイルはほぼ受け身を取らせないのがモットー。故にプロレス技。
怯む奴を逆さに抱き起こし、両太股で頭を固定。軽く飛び、繰り出すは──脳天打ち。
「お……おぉ~……っ」
「勝負ありだな。そんじゃ、核となってる三人を抉り出すとすっ──?」
俯けに倒れ、弱々しい呻き声をだすだけで、動かない剛力阿修羅。
決着はついた。取り込まれた三人を助け出そうと、右手を伸ばした直後……
奴の赤髪が右腕に巻き付き、条件反射的に右腕の方へ注意が向いてしまう。
「燃えよ燃えよぉ~!! あっ、我が歌舞伎魂ぃ~!」
「ハッ。生ける炎ならいざ知らず、俺様にこの星が持つ熱程度じゃ……あいだだだだだっ!?」
「あっ、油断大敵ぃ火事親父ぃ~。怒髪天を突くぅ~!」
ゼロは高温低温に滅法強い。クトゥグアの神性を帯びた炎と熱には、滅法弱いがな。
だけど、コイツはそうじゃない。巻き付けた赤髪から、無数の毛針を飛ばして来やがった!
眼への直撃は瞼を閉じて避けれたものの、顔や体中に刺さった毛針は火を帯びて、激しく燃え盛る。
鎮火も含めて無我夢中に転がる内、主導権が強制的に自分へと戻され……ウォッチを再度回し、叩く。
「力押しの近接戦が駄目なら、堅実な戦法で挑むまで。来い、黒刃! 悪魔王・ルシファー、参る!」
「何をぉ~っ、フラッシュ・ウインクぅ~!」
恐らく、宿主となった新聞記者・峰平進のカメラが、フラッシュ・ウインクの元だろう。
毛針と発火は、ストレスから来る怒りと鬱憤だろうか? 幾ら考えても、憶測の域を出ないがな。
ルシファーと交代し、起き上がると──フラッシュを盾で防ぎ、呼び出した黒刃を左手で握る。
「ぬぅ~っ……何故距離を空けるぅ~!」
「先の戦闘で腕の射程、毛針の対象距離も一・五メートルと理解した。ならば、堅実な距離で攻める!」
背中の手を文字通り伸ばし、攻め込もうとするも──ドリルの如く回転する黒刃で的確、確実に。
執拗な手を弾き、叩いて迎撃。更に寧達が巧みに操る小型戦闘機の撃ち出す、バルカン砲での援護。
これによって注意がそれた僅かな隙も見逃さず、連撃に繋げ、魔力を込めた強烈な突きで吹き飛ばした。
「力によるごり押しとちょっとの小細工。その程度、俺には通じん」
「ぬぅ~っ……ぬぅわらばぁ、フェイス・チェンジ!」
「成る程。交代して戦う俺達に対抗して、阿修羅を選択した訳か。ある意味、正しい選択だ……なっ!!」
形勢不利と見るや否や、顔が横に高速回転。同時に奴の背後から此方へ、空間が飲み込まれて行くも。
易々と許すものか!と言わん勢いで、青空に浮かぶ城に立つ顔面に黒刃を突き出した時。
回転中の顔が止まると同時に──黒刃が直撃する寸前に急停止。
武器を握る手が震え、動揺が隠せない様子。本当にどうし……たぁ!?
「なっ……何故、貴様がアイツに!!」
「さぁ? なんでだと思う?」
歌舞伎衣装の剛力阿修羅から一転。長い赤髪は黒髪に変わり、髪型はポニテに留め用の赤い布。
優しそうな顔、赤と青が入り交じった綺麗な瞳。スラッとした細身の体。
少し裾が短く、三角形に開いた長袖服はお腹が幾らか見え、胸元には紅いリボン付きの蒼いブローチ。
独特なロングスカートを履いた女性──リリス。仲間であり、試作型イヴ第一号で、ルシファーの義妹。
「隙だらけよ!」
「しまっ──ッ!!」
突然の出来事に驚き、動きが止まっていたのもあり、先手を取られ──
先ずは左手の黒刃、続けて右手の黒い盾を素手で弾かれ、魔力を纏った爪による振り上げを受け。
後方へ大きく吹き飛ばされ仰向けにダウン。右脇腹や胸元を触るも傷口は浅く、少し出血してる程度。
「ふぅ~ん……流石は悪魔王。良い反応するじゃない」
「咄嗟の行動で被害は最小限に食い止めたが……直撃なら腸と心臓は、確実に殺られていた──な!」
「ご明~察ッ!! あははははっ、凄い凄い。これも回避してみせるんだ~!」
ルシファーは命中箇所を魔力障壁で防護し、自ら大げさなバク転で直撃だけは回避したらしい。
会話の合間に起き上がり──頭を横に傾げると、不意打ちの一撃が左頬を掠め、傷口から血が滲み出る。
「鉤爪……いや、手甲鉤か。それも、通常とは……異なる、形状ッ!」
「もっと──もっともっともっとぉ!! 狂った様に踊って、楽しませてよ!」
その鉤爪は手の甲に三本、左右側面に横向きが一本ずつと言う代物。例え拳を紙一重で避けても。
側面の刃が紙一重の隙間を埋め、敵を裂く。そんな手甲鉤で繰り出す、顔狙いの素早い連続突き!
負けじと刃が届く距離も含め、上半身だけ、最小限の動きで紙一重の回避を続けるも。
「上半身集中狙い……か~ら~の~、足下ががら空き~!」
「悪いが、その程度は読めている」
「な──ッ!!」
ずっと上半身だけを狙い、此方の意識を手甲鉤に集中させていたが──本命は足払いによる蹴り。
されどその程度。と言わんばかりに弧を描くサマーソルトキックを繰り出し、回避と反撃を両立。
伸ばした爪先は奴の下顎を見事に捉え、勢いのままに蹴り上げ、仰け反らせつつ仰向けに倒す。
「ふう。綺麗に決まったな」
「てっ、テンメぇ……!!」
「成る程。正体はお前だった訳か」
顎を擦りながらも立ち上がる奴は──蛇が脱皮するかの如く、リリスと言う外見を脱ぎ捨て。
美しい貌を持つ北欧神話の悪神、ロキが姿を表す。トリックスターの異名を持つが故か、服装は道化師。
もしくは、此方をおちょくっての衣装やも知れん。何はともあれ、油断は出来ん。
「まあ、別に良っか。俺ちゃんも楽しめたしぃ~。あ~ばよ、堕天した悪魔ちゃん!」
「逃がさん!」
怒りに呑まれた顔の時、急にコロッと表情を変えたかと思えばニッコリと笑い。
糸に吊られた人形の動きでルシファーを小馬鹿にすれば、自らの手で頭をロールの如く回転。
また交代と見抜き、黒刃の上中下段を回転。エネルギーを集め、紫のエネルギーストームを放射。
「何──ッ!?」
敵目掛け放射したESは命中する直前。意図も容易く跳ね返され、構えた盾に出来る限り身を隠し。
吹き飛ばされない様に踏ん張り──後方に在るイエッツト城への被害を、最小限に抑え込む事に成功。
それでも、西洋の城にある上層部は幾らか消し飛んだ。そして、再び交代した奴の姿は……
「……随分と醜くなったな。琴音」
「天覆う暗雲集い、裁きの雷と氷にて、我が敵を討て──ジャッジメント・ウェザー」
「ジャッジメント・ウェザー!?」
青空に浮かぶ城から一転。暗雲に覆われ月明かりも無い、イエッツト城下町の夜空へ。
光すら通さない暗雲からは豪雨と、幾つもの不規則な雷を落とし、眩い閃光を放つ。
されどその閃光に照らされ、降り注ぐ── 人の拳位はある、雹と呼ぶには余りにも大きな塊。
「コイツは捌き切れん……霊華、交代だ!」
赤黒き麒麟の角より鍛造されし、黒刃を天高く掲げれば、落雷は黒刃へ吸い寄せられ無効化。
だが……雹塊だけは別。此方は砕かなければならず、落雷の無効化は対処出来ない。
そこで防御術を多く持つ霊華へ呼び掛け、ウォッチを操作し、黄色い光に包まれて交代。
「聖なる光よこの手に集い、我と汝が力持て、降り注ぐ災厄を払い除けん──セイント・エンチャント!」
意思を持つかの如く襲い来る雷、天より降り注ぎ地を抉る雹塊を読み──柳の葉の様に全て受け流す。
雷や雹塊に触れるも、奇跡の術で発生した白い光は高温低温や火傷すらも通さず、手や腕を守る。
「剛力はゼロ、変化はルシファー、魔王は私。試験的に私達を真似、対処した──って訳ね」
「どうして……どうして!! アタシの邪魔ばっかりをするのよぉぉぉ!」
何故阿修羅と言う存在を模倣対象に選んだのか? それを理解した母さん……霊華は言う。
力のゼロには力と強引、手堅いルシファーなら変化と動揺、霊華だと圧倒的魔力と激情なのだと。
論より証拠。と言わんばかりに激情に魔力を乗せ、瓦礫や標識などを次々飛ばして来るも──
「物事には何事も、順序ってものがあるのよ、琴音。今の貴女はそれを理解していないの──よ!!」
飛んで来るモノは、基本的に此方へ一直線。小さい瓦礫は上半身を左右へ捻ったりして回避。
大きな瓦礫や塊は拳と蹴りで砕き、標識は腕や足を使い、弾き落とし──
お返しにと魔王へ豪速球で投げ返す辺り、容赦も何も無い。のだが……
「成る程ッ……ね。あの暗雲は、攻防を兼ねている──と」
「誰も彼も、ドイツもコイツも……アタシの邪魔ばっかり」
魔王が右手を天に掲げると落雷は手に集い、返された標識へ手を向ければ放電し、迎撃と同時に爆発。
攻防を兼ね、鏡の如く魔王の心を映す暗雲。雨は更に強く降り、雷の落ちる頻度も速くなって行く。
コイツを倒し三人を救うには、どうすれば良い?! やはり……デトラを呼び起こす他に無いのか!?




