ジェネシス・プラン
『前回のあらすじ』
貴紀の中で眠る分割していた、デストラクションの魂が再度起きた事により、ストレンジ王国からイエッツト城へ帰還。
その場へ現れた副王達とジェネシス・オーラ、第三装甲、ファイナルフュージョンに関する話を交わす。
再びの別れに涙を流す琴音。次の目的地は狼の森、未来ではエルフの森と呼ばれる土地。
世界に与えられた役割が何か? そんな事を思いつつ、イエッツト城の地下遺跡へと向かう。
イエッツト城の地下にある、第四の遺跡へ戻ると──何やら騒がしい声が聞こえる他。
肌が焼ける程に痛い高温、金属を強く打つ音も聞こえてくる。……一体、何をやってるんだ?
「寧ちゃん、頼んでたデータを此方に頂戴!」
「送ったよ、マキちゃん。アナメさん、シュッツさん。レヴィアタンの改修用加工はどう!?」
大量の汗を流しつつ、声高に聞こえるマキと寧の声。その理由は、グラビトン・アーマー。
そのサポート……違うな。サモン・サーヴァント、レヴィアタンの改修に、何かを加工している様子。
いやいや、換気の効かない地下空間で鍛冶をするな! てか、この熱気はそれが原因か……
「大丈夫。今まで加工して来た素材じゃ絶対に無理だけど、このエボリュウム合金なら!」
「幾ら貴紀殿の為とは言え……この合金に触っていると、生きた心地がしないな」
「それは同感。首に鎌を当てられながら、作業をしてる気分……」
二人はパワードスーツの素材でもある、白い金属・エボリュウム合金を。
作ったのか元から在ったのか、不明な鍛冶場で金床へ置かれ、赤熱する金属を金槌で叩いていた。
加工する相手を選ぶ金属……名前の意味も知らず得たいの知れん鎧を着る自分は、もう少し疑問を持つべきだな。
「お帰りなさいデスマス。進化すればカーンですよ!」
「地方が違えばカーンじゃなくて、バーンだけどな」
いち早く帰還に気付き、話し掛けてきたのは……今も昔も変わらない。這い寄る混沌の真夜だ。
そんで会話に混ぜてくる何かしらのネタ。まあ、それに付き合って返せる自分も、楽しんでるんだがな。
「さっすが、分かってらっしゃルーメン! まさに舞台上でスポットライトを浴びる主役の如し!」
「誰が主役だ、誰が」
「あふん。それはそうと、かなりの無茶をしましたね? 此方でもオーバーフローを確認しましたよ」
あれやこれやと身振り手振り。百面相にも思える表情とリアクションで、自分に求めるのは──
漫才で言うツッコミ。なので少し強めに頭を撫でてやり、髪型を崩してやる。
そしたら気の抜けた声で、満足げな顔に。とも思えば、表情と姿勢を正し、真面目な話へ移行。
「それで、今は何を作ってるんだ?」
「我々邪神が描くオメガゼロ計画の最終段階。ジェネシス・プランにある──ガジェット・ツールの開発です」
率直に疑問を聞いて返って来た言葉は……オメガゼロ計画とジェネシス・プラン。
十中八九、調律者の管理者や魔神王軍の夢想とは違うだろう。
ん~で、ガジェット・ツールねぇ。デトラが副王達と話してる記憶が残ってるから、ソレなのは確か。
「貴紀。気を失ってる面々は何処に寝かせて置くの?」
「部屋の隅っこで寝かせよう。鍛冶をしてる金属音も、気持ち程度は煩くないだろうし」
背後から話し掛けられて振り向くと、複数人を魔力で軽々と浮かべて運ぶ辺り、やはり魔王だな~と思う。
常人なら自身だけで三センチ。魔法に才能のある人でも、自分だけ浮いて飛ぶのが関の山。
それを踏まえ、運ぶ姿を見るも……やっぱりすげぇなぁ、琴音は。デトラが惚れるだけはあるよ。
「完成したサポートメカの試運転がてら、オーバーフローもリアルタイムで見てましたよ」
「リアルタイムでって──何処にそんな精密機械の部品が……あ!」
「気付きましたか。そうです。貴紀さんが城下町で倒した機械兵からぶんどりました」
そう言って見せてくれたのは、少し大きい模型の戦闘機。
塗装や細部までしっかり作り込まれており、重量もある。更に言えば、分離・合体も出来るっぽい。
どうやらコレを飛ばし、見ていた様子。もし実物大サイズだったら、乗ってみたかったなぁ……
「どうかした? 子供みたいな目をしてるけど」
「こ、琴音!? あぁ~……いや、うん。その……はい」
空想と言うか、妄想と言いますか。頭の中でイメージを浮かべていたら、背後から肩に手を置かれた上。
琴音に話し掛けられ、我ながら情けなく思うものの。反射的に跳び跳ねてしまった……
尊敬する先輩とかに、秘密にしてた趣味がバレた時の様な──そんな気持ちで、誤魔化しの言葉も出ない。
「相変わらず、こう言うのが好きなのね」
「っ~……別に良いだろ?」
「普段はクールだったり、仲間想いな面が強い癖に。好きなモノには子供の如く目を光らせたわよね。デトラは」
横から顔を出してはニコッと微笑み、何度も自分の心をドキドキさせてくる。
こう何度もやられっぱなしだと、反撃したくなる。そう言う秘密を知ってるのは、俺も同じだからな!
「っせぇ。そう言う琴音も人前じゃ着れない服を、自室で自己投影した人形に着せて遊んでんじゃねぇか」
「ちょっ!? それを引っ張り出すのは反則でしょ!?」
「うるせぇ。何度ノックしても返事一つ返さないから、心配して入っただけだろうが!」
匿って貰ってた頃。内密の緊急情報が届いたから伝えに行くも、何度ノックしても全く出てこねぇ。
暗殺やら病気か!? と思って入ったら、着せ替え人形で遊んでたのを、仕返しにバラしてやったら。
懐かしい感覚が込み上げ、話している内にお互い笑っていた。あぁ、昔に戻った、良い気分だぜ。
その時、またもや背後から肩に手を置かれ、振り返ると──俺は這い寄る混沌にぶん殴られた。
「いぃ~っ……真夜!! 何しやがる!」
「いえいえ。戻って来れた様で何よりです」
グッと足に力を込めて踏ん張り、堪えてなお響く痛みが怒りの感情を込み上げ、怒気を含んだ声で。
突然殴って来た理由を、怒鳴る形で問い質す。そしたら悪びれた様子も無く、この一言。
ハッと理解し、口に手を当てる。琴音と話してた時、主導権が……デトラに移っていた事に気付く。
「そう言えば……ムートは?」
「口調……いえ。彼の肉体は既に死んでますよ」
「やっぱり、そうか」
口調は徐々に戻るだろう。その認識でムートの所在を聞くと──やはり、と言うべき返答。
分かってはいた。ただ、それを信じたくなかった、自分自身の単なる我が儘だと言う事も。
「アイツが……この時代で調律者姉妹に改造された、第七世代のオメガゼロ。ケンプファーだったか」
分かっていたさ。デトラが、ケンプファーの核を抉り取るよりも前に。
あの俯瞰視点でないと見えない浮遊生物。アイツが見せてくれた、教えてくれた情報の中にあったからな。
「予想通りとは思いますが、一応。ケーフィヒ牧場の民家が火事になった時、です」
「そうか……」
「一番面倒なのは、回収したのは異形の悪夢なんですよね~。で、その悪夢を回収したのが管理者なんですよ」
「いや、ちょっと待ってくれ。つまり──どう言う事だってばよ?」
死亡予測時期は当たっていた。が……三人の焼死遺体を回収したのは、ナイトメアゼノ。
で、そのナイトメアゼノを行動不能に追い込み、異形の悪夢諸々回収したのが、管理者勢力。
更にムートやサキ、ナイトメアゼノを融合改造したのが、第七世代型オメガゼロのケンプファー。
……野郎、アポトーシスやネクロシースで分かってはいたが、コイツは──どたまにきたぜ。
「決戦の為とは言え、時季が最悪なあの森へ行くのも承知してます」
「ねぇねぇ。最悪な時季ってさ、何の事?」
「一々煩い恋敵ですねぇ……ちゃっちゃと大人になりやがれ! ってんですよ!」
面と向かって話してると、興味を引かれたのか。ルージュが真夜の背後から顔を出し──
ちょこまかしては、鬱陶しく思われていた。まだ十六歳、されど十六歳。
真夜が言うのは、精神的な意味で言ってるのだろう。てか、ルージュを恋敵と認めてるのな……
「ねぇ。最悪な時季って、どう言う事よ?」
「あの森、気分屋でな。冬を越す為に栄養を求めて気性が荒いんだわ。丁度今がその真っ只中って訳」
「シオリからそんな話、聞いた事ないわよ?」
仲良く喧嘩してる二人を眺めていると、隣からひょっこりと顔を出し、説明を求められた。
前情報無しで付いて来て貰うより、伝えた方が良いのは明白。必要な部分だけを話すと。
当然の返答が返って来た。シオリは森の巫女と言う役職を嫌っていたから、話さなかったと予想。
今思い返すと、森の巫女ってシステム。お偉いさん連中が安全に逃げ出す為の機能に思えて来た。
「まあ、シオリにも色々あるんだろうよ。下手な詮索は止めておこうや」
「そうね。で……重要な話に移るんだけど、良いかしら?」
「なんだよ」
誰にも触れて欲しくない部分はある。それを伝え、話を終えた……のだが。
今度は重要な話と言われ、耳を傾けると──まだ喧嘩中の真夜とルージュを指差され。
二人を止めないと、話も準備も進まないと目で訴えられた。成る程、確かにそうだわ。
「取り敢えず……ジェネシスの方は、ガジェット・ツールの完成が求められそうだな」
「それまで待つ?」
「まさか。先手必勝、今出来る準備をして、森へ乗り込む!」
ガジェット・ツールの完成まで待ってはいられない。今出来る最大限の準備をしたら。
森へ向かう事を伝えると、ゆっくり頷き、肯定してくれた。さあ、時間を遡った復讐を終わらせてやる!




