役割
『前回のあらすじ』
何度やっても連続三位一体融合が出来ず、焦る貴紀に近付くケンプファー。
間に入った琴音とルージュを一蹴。ホライズンの攻撃を辛うじて凌ぐも、命の代わりに二人を貰うと宣言。
激しく震える感情が、疑似・ファイナルフュージョンを可能に。その力はホライズンをも上回る程。
しかし無限再生と複製を持つ相手に、時間制限付きでは勝てないと判断。ケンプファーの核を抉り取り、仲間を連れて脱出した。
遺跡を世間から隠す為に建てられた、イエッツト城へ瞬間移動で跳んで来たが……
やはり、ジェネシス・オーラが弱まっているな。今さっき気付いた訳ではない。
ケンプファー……奴の蹴りを防いだ時だ。本来は防ぐと同時に、過剰防衛で接触部分を破壊していた位だ。
「魔王・琴音……いや。貴紀では無い、俺と言う存在が唯一惚れ、愛した女」
可愛らしい寝顔で寝息をたてる琴音や、寝ている仲間達を心苦しくも、固い石の床に屈んで寝かせると。
維持時間の限界が近いと知らせる為、スーツの魔力経路が点滅。そろそろ、貴紀にバトンタッチ……か。
そう理解し、目蓋を閉じた瞬間。違和感を感じ、目を開けば──久しく会わなかったお前達に再会するとはな。
「一万年と二千年振りね、デストラクション」
「もうそんなに経ってたのか。久しいな、ヨグ=ソトース。それに、お前達も」
「壊す事しか出来ない不良品が……私に馴れ馴れしく話し掛けるな」
「久し振りだな、デトラ」
それはネタかガチか……どっちだ、幼女姿のヨグ=ソトース。お前も変わらんな、シスター姿のナイア。
そんでハスター……お前、邪神麺とか言う移動式屋台を始めたそうだな、おめでとう。
「余り、悠長に話してる時間は無いんだがな」
「時間を止めてあげてるのに?」
「忘れてる様だから改めて言うが──俺に干渉系能力は効かん。ジェネシス・オーラの所為でな」
弱まっているとは言え、根本的な部分。外部から身を守る……って言う部分は変わらん。
故にパラレルワールドや次元を移動しても、記憶改変は効かん。少なくとも、このオーラを使える者はな。
「そうだったわね。なら、手短に要件だけ」
「第三装甲はデトラの力を断片的に使える様、俺達が設計し、超古代文明人に作らせた代物だ」
「断片的過ぎて、ピーキーな性能と限定な活動時間になってるけどね。お陰であの子が苦労してるじゃない!」
手で判子を押す様なリアクションを取り、思い出した様子。手短に要件だけ……ってのもありがたい。
第三装甲──やはりな。十中八九、俺とアインと貴紀。三つに分けた魂を一つに戻す意味もあるのだろう。
性能に関しては、確かにピーキーだ。本来、全て揃っている事が前提の装備だからな。
「しかし、グラビトン・アーマー。なんだアレは? 干渉系は能力で破壊してるが、あの板とか砲筒は」
「あぁ……アレは姉貴と俺達の親が見た、機動戦士的なアニメの影響だ」
元々、俺の装備にあんな空飛ぶ珍妙な板や、砲筒は存在しない。
聞けば人類が作ったアニメに影響され、設計に盛り込んだとか。扱い難いんだが……
「そんな事より──本当のファイナルフュージョンは、いつ出来るのよ?」
「紅い光が分割した力を全て取り戻し、全員集まった時だ。それまでは、疑似で凌ぐしかあるまい」
本当のファイナルフュージョン。それは俺やアイン、貴紀達の内の誰か一人か、紅い光へ戻る事。
三位一体融合や疑似とは違い、時間制限が無い。当然変身解除や、複数人に分かれる事もない。
ナイアとクトゥグアは貴紀寄り、ハスターとクトゥルフは俺寄り。最終的な決断は俺達だがな。
「話は以上か? そろそろ時間も限界なんだが」
「最後に一つだけ……貴方の力で魔神王は倒せそう?」
そう聞かれ、時の止まった空を見上げ、少し考える。
魔神王……か。操り人形であるホライズンは倒せる。が、所詮はホライズンも働き蜂の一匹。
女王蜂であり、全ての元凶となっている魔神王を俺だけの力で倒せるか否か。と聞かれれば、答えは勿論──
「無理だな。破壊の力は通じるだろうが、俺やアインは夢を見ない。故に願いも小さく、人の心も分からん」
勝てない。俺やアインでは、魔神王相手に善戦は出来るだろうが、勝つ事は絶対に無理だ。
そう伝えると、ヨグ=ソトースはやっぱり……と言った顔で俯いた。だが、勝てる奴を、俺は知っている。
「俺やアインでは、魔神王には勝てない。だが──貴紀なら、魔神王に勝てる見込みがある」
「へぇ~……その根拠は?」
「人間だからさ。種族が……じゃない。アイツは自分が心から願う夢を見て、掴む事の出来る夢想家だ」
俺の言葉に興味深そうな返事をし、奴は最後まで聞いた。
そう、アイツは夢想家だ。自分の夢の為に、自分が正しいと思う事の為に動き、結果を叩き出している。
それを正義とは呼ばず、悪と自ら認識しながら。己が掲げる悪の為、他者の夢や願いを打ち砕くが故に。
「アイツは俺達より、もっと強くなる。大切に育て、支えてやれ。俺達の分も」
「えぇ。そうさせて貰うわ」
そう言うと、奴らは早々と撤退。止まっていた時も自然と動き出す。
「……琴音、狸寝入りなのは分かってる。その上で言う。あの日、突然姿を消してすまなかったな」
「謝る位なら一言位っ、言ってからでも良かったじゃない。バカッ……」
狸寝入りをしている琴音に声を掛け、匿って貰っていた頃。何も言わず姿を消した事を謝ると。
寝転んで此方に背を向け、拗ねた様子でバカ呼ばわり。まあ、それは甘んじて受けよう。
「言い訳はせん。だが……泣き虫と交代する戻る前に伝えておく。今も愛しているぞ、琴音」
後一分も姿を維持出来ない。お喋りやらスキンシップもしたかったが……仕方ない。
最低限伝える事を伝え、それ以上の会話や触れ合う事もせず、アーマーを全て送り返し。
俺はあの泣き虫と交代する。泣き虫の一人称が俺になる時だけは、俺が今までより強く出るだろうがな。
「頭・尻尾・足・手……そして翼。その五つが、第三装甲に与えられた、本来の役割……」
デトラ──いや、デストラクション。何故、彼や最初に製造されたオメガゼロ・アイン。
彼らでは魔神王に勝てないのだろう? 何故、自分なら勝てる見込みがあると言ったのか。
夢を見て、掴む事の出来る夢想家? 夢想……確かに夢の中でアレが出来たら、コレが手元にあれば。
そんな事は思うし、願いもする。夢の中のモノや出来事を、現実に持って来れたら……とも。でもそれは夢想家とは違う。
「ん……っ!! あれ? 敵は、どうなったの?」
「無限再生に完璧複製とか言うチートを持ってたから、撤退して来た」
「うわぁ~……ごめんね? 手伝えなかった事とか、力になれなくて」
目が覚めたルージュは直ぐに剣と盾を構えるも、敵が居らず場所も違うと言う点から、構えを解く。
どうなったのか訊かれたので、手短に話す。力になれなかった事を謝罪されたが、首を横に降り否定。
「アレは対策も無しに戦い続けるのは無謀だ。情報を得れたし、今回は戦略的撤退だ」
「それで、何か対策は打てそう?」
「奴らのチートには何か、カラクリがある筈だ。先ずはそれを見付け出し、討つ。決着はそれからだ」
淡々と話を交えつつ、ウォッチのダイヤルを自分に回し、一回だけ叩く。
覚える能力で奴らかチートである元凶を探る。場所は……エルフの森の地下。今の時代で言い直せば。
狼の森の地下か。あの辺り、今だと人間大サイズの虫やら人も対象の食虫植物がある、嫌な所と出たか。
「……一度全員集めて、今後の動き方を決める」
「情報と意見交換だね。うん、僕もそれには賛成だよ。ほらほら、魔王さん。泣いてないで、立って立って!」
「べっ、別に泣いてなんかないわよ!」
今改めて気付いたが……目が見える。俯瞰視点を使わずとも、以前のように。
これが吉と出るか凶と出るかは、流石に分からんがな。
琴音と少し距離を取って、気持ちを整理して貰おう。泣き顔は見られたくないだろうし。
「ご主人様。これからの予定を聞きたい」
「狼の森へ行く。もしかしたら、奴らの無限再生と複製を止められるやも知れんからな」
「了解だ。愛達には、僕から伝えておくよ」
左側に七本ある線の内、橙から飛び出しては礼儀正しく頭を下げる恋。
予定を訊かれたので包み隠さず返答。すると愛達にも伝えると、左腕にある橙色の線へ戻って行った。
「貴紀、大丈夫なの? この時代と月日って事は、また彼女を……」
「ソレニ。下手ニ歴史ヲ変エレバタイムパラドックスニ繋ガリ、新タナ歴史改変ガ起キル」
「俺達がやる事は主に歴史改変の修正と破壊。それがメインだからな」
霊華が心配する様に、自分はこの時代で一人の少女を犠牲にして、苦い勝利を得た。
未来──もとい、転移前の時代ではエルフの森と名前を変えた森に在る、大樹に宿る魂。
そう言う意味では、彼女には三度も助けられている事になる。それが、本来の役割とでも言う様に……
「誰しも命を得る以上、何かしら役割を与えられるモンだ。それを歪める役割を、自分は持ってない」
「役割……ソウダナ。人ヤ機械ニモ、何カシラ役割ハアルモノダ」
「憎まれっ子世にはばかる、善人ほど悪い奴はいない、善人ほど早死にをする──とは言うが、コレは皮肉だな」
生きる権利は誰にも平等にある。まあ、そうだろうよ。それが役割なんだろうから。
悪人は長く生かさせ、死の恐怖や苦痛を味わわす。善人は早死にさせて救う。それが神のやり方だと。
副王からそんな話を聞いたな。けど自分から言わせれば、善人や悪人も大差変わりはない。
地獄への道は、善意で塗装されるのだから。結局は善人も悪人と同じ。偽善位が丁度良いのかもな。
「それはそうと霊華。今度また狐巫女の姿になる事があったらよ、やって欲しいのがあるんだが……」
「はいはい。気が向いたらね」
失って初めて分かるって言うのは、当たり前だった何かが突然無くなった時、本当に実感する。
名前、家、飲食物。身近にあるのが当たり前だからこそ、感謝も忘れる。……自分も人の事、言えねぇな。
「ねぇねぇ!! 早く秘密基地に行こうよ!」
「秘密基地じゃなくて、地下遺跡だって何度言えば理解するのよ……」
良くも悪くも元気なルージュに呼び掛けられ、声のする方を向けば──
イエッツト城の入り口で、此方に向けて手を振っていた。その隣で琴音が呆れている様子が見える。
命には良し悪し関係なく、役割がある。調律者姉妹が率いる管理者が管理しても良い理由はない。
自分は──俺は俺の為に戦う。例え世界と言う舞台劇に立つ、一人の役者だとしても。




