悪夢の中に潜む答え
『前回のあらすじ』
空中移動都市・アリウムの応接室に閉じ込められた一行。出口も転送機能で送り込まれた量産型ディーテ・ρの大群で塞がれた。
非戦闘員の仲間達を恋が自身の元へ集め、転移の符を使い、離れた巴を残し一時退却。貴紀とルージュは時間稼ぎに残る。
ディーテ達を相手に苦戦する二人の前に現れたのは……ナイトメアゼノ・ホライズン。その圧倒的な実力で敵を一蹴。
貴紀達に謎と真実を与え、逃げ切るまでの時間稼ぎを引き受けてくれた為。裂けた壁からスカイダイビングで外へ脱出した。
最悪、足がイカれてもいい。大将の一人娘である巴や、勇者候補生のルージュだけでも助けねば!
そんな思いでウォッチのダイヤルを回すべく、背中からゼロに手を伸ばして貰い、ルシファーの絵柄で操作。
三回叩かせ、サポート効果を得て背中に十二枚もある光の翼が生えるも──骨だけ、みたいな感じと思いきや。
魔力切れで消え、落下先はストレンジ王国。激突に心の中で覚悟を決めた時──落下速度が突然遅くなった。
「エリ……ネ? エリネ・フィーア!?」
「御主人ちゃまッ……たしゅけにっ、決ましゅ……にゃあぁぁ!?」
金髪ゆるふわウェーブで、踵まで届く長い後ろ髪。オレンジ色の瞳に、瞳孔の形が白い十字架と言う。
外見は人間に似ても、背中の白い羽は天使族の証。上着のコートを掴み、落下速度を緩めてくれるも……
小学四年生女子の体には、酷と言うもの。数秒は維持してくれたが、今度はエリネも加えて落下──
「全く──本当に世話の焼ける」
「あはは……本当、すいません」
する直後、自分達の体が浮き──投げ掛けられた言葉は、世話焼きな姉とも思える魔王・琴音からだった。
どうやら浮遊の魔法で、自分達を浮かせているらしい。隣に並び、ゆっくり街の外側へ降下し後少し……
何故かルージュが頬を膨らませ、見るからに不服そうな顔をしていた。ハムスターか、お前は──あぁッ!?
「ターゲット、確保。これより、我らが主の元へ連行する」
「お前っ……ケンプファー!」
そんな事を思っていたら……突如遥か上空から俺目掛けて一直線に空を切り、首を掴んで急降下。
地面に叩き付けられ、誰かと思えば闘士の意味を持つケンプファー。淡々と喋る野郎を睨み付けると……
黒い髪に白い肌、男とも女とも思える、中性的な顔立ち。極めつけは──掴まれた首から感じる魔力。
何処かで掠め取ったか、それとも魔力までコピーして作り出せるのか……サキとルナ、それにムートの魔力だ!!
「クソッ……ッ!! もしかして──ケーフィヒ牧場を燃やしたり、逃げ出しす後ろ姿は……お前か!?」
「肯定。ワタシは王より回収の任を受け、立ち寄っていた」
「王……だと!?」
首を掴む右腕を両手で掴み、引き離しながら訊ねれば──奴はさも当たり前、と言わんばかりに肯定。
追加で『王』と言うワードまで付け足して。コイツは調律者姉妹を名前で呼ぶのに、何故王と言った?
ダブルスパイ……その言葉が、脳裏に過る。誰が、何の為に、管理者勢力へ送り込んだのか?
「聞きたい事は山ほどあるが……何故お前から、ナイトメアゼノと同じ匂いがする!?」
「愚問。ワタシの核に放射能物質、ゼノライト鉱石が使われている為に、決まっている」
「ゼノライト鉱石……トリスティス大陸で一時期、ドワーフ達に付着してたアレか」
「そして──ホライズン様から溢れ出した、超濃縮された魔力と霊力の結晶体」
聞けば聞く程、ポロポロと喋ってくれるケンプファー。まるで俺に情報を与えている様に思える程……
絶妙過ぎる。掴んでいる奴の右腕は完全に引き離せず──かと言ってこれ以上、押し込んで来る気配も無い。
強いて言うなら、第三者から不信に思われない為の偽装。となれば……コイツは敵か味方か、どっちだ?
「彼からッ──離れろ!!」
「二番目の花嫁……やはり、夫の危機には駆け付けるか」
青空から着地しては、即座に斬り掛かって行くルージュ。その顔は普段の余裕ある表情とは違い──
余りにも真剣……まるで、大切なモノを必死に守ろうとしている様な、そんな感じだ。だからなのか……
鬼気迫る気迫に圧され、ケンプファーは振り向くと同時に慌てて俺から距離を取り。
斬られた右頬から流れる、紫色の血を左手の甲で拭い──奴もまた、真剣な表情でルージュを見る。
「二番目とか花嫁とか、どう言う意味かボクには全く分かんないけど!! 彼の命が狙いなら、君もボクの敵だ!」
「速い……それも、ワタシの予測データを全て、塗り替える程に!」
「セイッ──やぁ!」
激情している……風に見えるが、それは表面上の話。素早く動き、力強い踏み込みで懐へ入るなり──
首目掛けて剣を振り──首を跳ねた。地面に転げ落ちる首、少し遅れて首のあった部分から噴き出す血。
膝を着き、座り込む体。終わった……そう認識したルージュは動かなくなった体に背を向けた。次の瞬間!
「きゃっ!」
「悪夢は……首を跳ねても、決して、終わる事は──ない」
「あっ……うっ、うぅ……」
突然奴の体は動き出し、ルージュを背後から抱き締める形で拘束。万力で締められたが如く動けず。
無防備な所へ──首から血管っぽい触手を生やし、ルージュへ飛び付き首に噛み付いた!?
あの姿は……イブリースと同じだ! なんて言ってる場合じゃない、助けなくては!
「行け、フォースガジェット!」
槍モードに切り替え、筒の両端から魔力光の刃を作り、ケンプファーの頭部目掛けて投擲。
狙い通り、俺の声に気付き顔を上げた瞬間──奴の眉間に深々と突き刺さり、胴体と共に転げ落ちた。
崩れる様に座り込んだルージュへ駆け寄ると、左首からの出血が酷い……首筋には生々しく、歯形が残っている。
「もう、大丈夫だぞ。ルージュ」
「あはは……君を助けに来たのに、ボクの方が、助けられちゃったね……」
「そんな事を気にしてる場合──ッ!?」
話ながらも肩を貸し、横に並んで離れようとしている時……左背中から左胸に掛けて、貫かれてる感覚を覚えた。
確かめる様に下を向くと──フォースガジェットの刃が、俺を貫い……て、いて……
「貴紀!? ッ……このっ、悪夢風情が!」
「ご……ご主人ちゃま!! 今、傷を癒しまちゅ!」
意識を失う、失わないに関わらず、俯瞰視点は現在を映し続ける。何故フォースガジェットが?
その疑問は、実に単純な答えだ。鬼の様な頭になったケンプファーが、突進して来たから。
背後に回り込むと奴の頭を鷲掴み、無理矢理引き抜いては地面に叩き付け、睨み付けて暴言を吐く琴音。
傷を癒やそうと、青空から舞い降りてくるエリネ。ふと気付けば、あのクラゲだか円盤かも分からん奴まで来て……
「右腕……掌握。記憶……読み取り、完了」
そう言うと、半透明な触手で俺の右腕を勝手に動かす。そのままウォッチを弄り、叩いて起動させると……
「これ……は!」
起動したのは──覚える能力。頭に浮かぶ映像は……燃え盛る太陽から飛び跳ねた紅の炎が。
遠く離れた俺の傷口へ、飛んで来る。だが……熱くない。それどころか、力が沸き上がって来る!
「三位一体・限定融合、賢狼愛!」
「ご……ごごごごごっ、ご主人ちゃまの、右腕が……!」
「パワードスーツと狼、それに筋肉質の白い男が……貴紀の右腕と──融合した!?」
本来は体全部で行う融合。それをホライズン……奴を見習って右腕限定に留めて、融合させた新しい力。
青いパワードスーツの右腕は、増加した筋肉が丸分かりな程にギチギチだが……意外に動き辛くない。
腕に噛み付く形で、青い狼の手甲が付いてる。左手で触ると下顎を開閉出来て、中にあるアレもいい感じだ。
「腕限定の融合──フュージョンアームズ、とでも呼ぶべきかしらね」
「いいな、その呼び方。さて……コイツの試運転に付き合って貰うぞ、ケンプ──あれ?」
魔王から直々に、新しい腕の呼び名を貰えた訳だし。試運転も兼ねて振り返り、ケンプファー……が居ない?!
魔力探知にも引っ掛からない。まるでリアルな白昼夢を見ていた様な……そんな感じだ。
「逃げられた……違うわね。元々此処には居なかった、か」
「どう言う事でちゅの?」
「文字通り、何者かに悪夢を見せられていたのよ。その証拠に──ほら、貴紀や勇者候補生に怪我が無い」
「あ……言われてみれば、首に噛み付かれた歯形や傷もない。幾らか、疲労感はあるけど」
腐っても鯛──いや、メイドでも魔王、か。俺も忘れてたナイトメアゼノの特性を、初見で見抜くとは……
確かに傷跡は残っていない。酷い悪夢を見た疲労感で、幾らか息切れや心拍数の上昇はあるが。
琴音達の反応から、やはりコイツは見えていないと判断。俯瞰視点とか、特別な眼で見れるコイツは一体?
「ケンプファー……操り人形である、ホライズンの──操り人形……」
「ッ!?」
ドゥーム……違う。ホライズンが、操り人形!? で、ケンプファーは操り人形が操る人形?
つまり、黒幕が存在すると言う訳だが──何故そんな事を知っている? それっぽいのを話してるだけ?
「闇から、光への贈り物……それは、人が持つ力の種。光……それを芽吹かせ、知恵・力・勇気を合わせ持つ」
「君は、誰なんだ?」
「リュンヌ……saki、スール」
その言葉は俺……自分が持つ、三つの能力の出自を言い当てる内容。それを知るのは──
自分とドゥームを除けば、誰もいない。なのに、コイツは言い当てた。故に何者か訊ねたら。
また知らない言葉だ。ただsakiってのは、普通に英語読みだってのは、分かる。……サキ?
「takai……brother」
今度は、全部英語だった。それも、簡単な部類の。だからか、思わず正体を予想してしまった。
そしたら──自然と涙を流していた。発言から繋がる様に、ケンプファーの正体をも予想し、膝から崩れ落ちる。
救えない、救いがない……どうかしたの? そう慰めてくれる仲間達の優しさが、今は凄く辛い。
「ごめん。話せる時が来たら、ちゃんと話すから」
(確かにコイツの事……今話すのは、ベストじゃねぇな)
(最悪、俺達ノ胸ノ内ニ留メテ置ク事モ、検討スベキダナ)
(私達が倒す事で、苦しみから解放されるって言うのなら……倒すしかないでしょうね)
今はただ、それしか言えなかった。話せば、皆の士気は上がるかも知れない。けど──
それは同時に、奴らの残酷さや他者をどう思っているか。なども、伝える事にも繋がる。
ゼロ、ルシファー、霊華の言う通り、話すタイミングや敢えて話さない選択肢、秘密裏に倒す必要もあるだろう。
「貴紀。彼女達──ケンプファー達を倒す時は、私も同行させなさい」
「でも……琴音」
「全部一人で背負おうとする、思った事が顔に出る癖、昔のままよ? それに、私にも関係ある話だし」
そんな考えをしていたら、琴音に手を差し伸べられ、決着をつける時は同行させろと言われた。
琴音には関係の無い事だし……そう言い切る前に。昔からの癖を見抜かれ、自身にも関係あると発言。
取り敢えず、言われた通りにしよう。ケンプファーは自分の手に余る相手だ、卑怯でもいい。
仲間達の力を合わせて──倒すんだ、彼女達を。青空から夕焼けに変わる空を見上げながら、そう誓った。
『ちょっとした報告と謝罪』
先週はメンタルと体調の不調により、更新を控えさせて頂きました事、この場でお伝えしておきます。
現在は回復しておりますので、ご安心を。今後また、体調やメンタルに不調が出た場合は、回復するまでお休みにさせて頂きます。
いやまあ……普通に執筆だけならまだいいんですが、動画投稿者にもなりましたので、流石に心身の疲労が抜け切らない時もありますので……
その時はTwitterに、更新のお休みなどを呟かせて頂きます。ペンネームと同じなので、気になった時は見てください。




