友と愛と約束の為に
『前回のあらすじ』
管理者こと調律者の右腕、アルファから彼らの拠点──空中移動都市・アリウムへ誘われる。
そこは機械兵達を組み立て、緑も生い茂る一つの島。しかしその緑に不思議と違和感や疑問を受け取る、ルージュ。
通された応接間で会話もそこそこに、本題である自身の傘下へ入る様に言われ、メリットも伝えられるが……貴紀はこれを拒否。
最後のメリットとして、ケーフィヒ牧場のサキとルナのクローン姉妹を出すも──それは、逆鱗に触れるだけだった。
調律者・桜とアルファから提示された提案を断り、交渉は決裂。俺達と奴ら、どちらが生き残るか?
どちらが正しいのか。調律者・桜はその答え合わせをする様に、席を立ち声高に宣言。そして再度指を鳴らす。
「さあ、無事に此処から逃げ出してみなさい。警報レベルが最大となっている、私達の空中都市から!」
今の音がスイッチなのか──この部屋に転送されては、俺達を囲う量産型ディーテ達。その数……約二十。
部屋は体育館程に広い。その為かこの応接間、どっちかと言うと避難所みたいに思えてしまう。
「ルージュ。すまないが──ご主人様の事を頼む」
「任せてよ。本気を出したボクと彼なら、どんな強敵にも負ける気はしないからさ!」
「皆、僕に掴まるんだ。一度、此処から離れるぞ!」
「待ってください!! 貴紀さんが……」
互いに背中を合わせ、一切振り向きもせず、真剣な表情で話す二人のそれは──長年連れ添った相棒も同然。
二人同時に離れると、ルージュは俺と背中を預け合い、恋は非戦闘員たる仲間達の下へ駆け付ける。
仲間達へ呼び掛け、自身に掴まったのを確認後、転移の札を右袖から取り出して発動。
淡く光り、消える瞬間──巴が俺の心配をし、届かない距離と知りつつも懸命に右手を伸ばすのを、見送った。
「あ……あら?」
「あっちゃ~……」
筈が──巴は転移する瞬間に、掴んでいた恋の肩から手を離していた。これは……想定外の大誤算。
置いて行かれ、キョトンとする巴。あ~ぁ……と言いたげに、ルージュは困った様子で首を横に振る。
好機とばかりに微笑み、指示も無く指を鳴らしただけで、量産型ディーテ達は一斉に襲い掛かって来た。
「コイツらッ……俺の行動を大半、読みやがる!」
「本当っ──君だけに、対応している様だね。でも!」
巴を俺達二人が背中越しに挟み、守りながら戦うも……流石は量産型。力・速度・防御力、全てが均一かつ同一。
それが、数の暴力で襲って来る。何度攻め込み、フェイントを絡めても、さも当然の如く防ぎやがる。
けど──間にルージュが入る事で、奴らの対応を突破。どうやら本当に、脅威は俺だけと認識している様子。
「ち、近寄らないでください!」
「巴!! クソッ、奴らの狙いは巴か!」
「護衛対象や足手まといを狙う。姑息だけど、戦術的には極めて有効だね……」
しかし、数の暴力はキツイ。それが──ディーテの量産型ともなれば、なおの事。手が回らん!
二人一組で倒している為、どうしても四方八方から襲って来る量産型を倒し切れず、幾らか抜けられる。
非戦闘員である巴を狙い、捕獲しようとするのを食い止めるも、周囲を囲まれては逃がす方法もない。
そんな時、この場の誰もが口笛……違う。指笛の音を聴き、辺りを見渡すも、音を鳴らした本人の姿はない。が──
「うっ……ぐぅ!? こ、このタイミングで、来るか!」
「お……押し、潰されちゃう程の、圧倒的な、プレッシャーだよ。これ……」
「あ、アルファ?! これは──どう言う事!?」
「赤く丸い檻より、悪夢が……襲来する」
以前は感じ取る事すら出来なかった、奴の──蟻が恐竜に挑む。そんな無謀にさえ思う程に。
圧倒的過ぎる力。それが俺達に見境無くのし掛かり、押し潰そうとする。膝を着いてなお、震える足。
謝罪をする様に両手を床に着けても、震えが止まらない体。そんな俺達の前に、奴は天井をぶち抜いて現れた。
「myfriend……my dearly beloved daughter」
「何を、言っているんだ……? 彼は」
「hello。Sehr erfreut、my story villains」
俺達と調律者・桜やアルファの間に降り立ったホライズン。奴は此方に振り向くなり、私の友達──と、何?
驚く表情と声から、ルージュは理解している様子。もっと琴音から英語を学んどけば良かったなぁ……全く分からん。
調律者・桜達に振り向いて挨拶と……何かよく分からんが、私の物語の悪者達? なんかそんな事を言っていた。
「ふ、ふふっ……漸く会えたわね。赤く丸い檻に閉じ込められしモノ──『終焉であり虚無なる王』」
「応接間の汚染濃度、急激に上昇ッ。特殊中和ミスト、散布開始。汚染濃度の無害化──成功、空気の換気……開始」
この押し潰されそうな空気の中。調律者・桜は苦しそうに表情を歪めつつも、何処か嬉しそうに微笑み、言う。
ナイトメアゼノ・ホライズンが、アナメやスカルフェイスの言ってた──『終焉であり虚無なる王』?
肌が沸騰しそうな痛みに襲われるも、アルファは部屋の機能を使い、汚染を無効化。お陰で痛みは収まったが……
「貴方と破壊者達を私達の手中に収めれば、私達は世界を完全に支配し、管理出来る!」
「行けッ……ディーテ達よ。悪夢を捕らえ、我ら管理者に、人類の未来と繁栄を!」
「Schneide」
俺達は動けないのに、調律者達は苦しくも立ち上がり、自身達の計画成就に必要な情報を、迂闊にも漏らす。
確かに機械であるディーテなら、ホライズンの放つ放射能汚染も関係ない。その上、中和と換気もされ。
数の暴力で攻め込むも──あんっ……のクソ硬い装甲も何のその。右手の一振りで、部屋ごとディーテ達を横一閃。
切り裂かれた先には、副王に時間や次元を飛ばされた時に見る、世界の道……とでも言う不思議空間が見えた。
「ただの一振りで──次元を切り裂いたぁ?!」
「デタラメ過ぎんだろ……」
「でも……何でしょう。私達に敵意を向けていないのが、どうも不思議で……」
見せ付けられた、余りにも圧倒的で桁違いな実力差に俺達は驚き、呆れる。これが俺の倒すべき──相手。
だけど巴の言う通り──俺達には敵意を向けず、どう言う訳だか……調律者達にのみ、攻撃をしている。
「promessa、trust……ami──destruction」
圧倒的な力で量産型ディーテ達を倒し、尻餅を着く調律者・桜と……主に寄り添い、怪我の有無を心配するアルファ。
ホライズンは此方を向き、何やら訳の分からない言語を話し始めた。分かる言語もあるが……
ディストラクション、破壊。即ち、俺に対して何かを言っているのでは? 程度の認識をした時──
「あ、頭が……割れ、そう……」
「monere」
「ッ!!」
酷く痛む頭。何か……記憶の奥底で眠っている何かが、ホライズンの言葉に反応している様な感覚。
思い出させる、気づかせる、警告する、忠告する。その意味を内包した言葉が、眠っていた記憶を呼び覚ます。
フラッシュバックの如く、次々と思い返して行く昔の記憶。それでも、全てじゃない。約束を交わした……
大親友との、大切な思い出。アイツから託され、俺が引き受けて果たさなければいけない、重要な約束。
「その声……まさか、ドゥームか!」
「ドゥーム……ですか?」
「あぁ。俺の古くから続く大親友だ」
此方の問い掛けに対し、奴はゆっくりと頷いて肯定。しかしまさか……ホライズンの正体がアイツとは。
不思議そうな巴に訊ねられ、俺は手短に答える。ドゥーム──遥か昔、俺が終焉の闇の組織に仕えていた頃。
当時のリーダーでNo.01、終焉の異名を持つ大親友。全盛期の俺で漸く対等だった、史上最強の好敵手。
自他の『ZERO』を自在に操る能力──要するに、ドゥームは存在にすら干渉し、操れる滅茶苦茶な奴。
「destruction──promessa」
「あぁ、ちゃんと思い出したよ。お前との、大切な約束を」
今度は……何となく分かる。俺とお前が交わしたあの約束は、必ず果たしてみせるさ。
ドゥーム──お前が俺に持たせてくれた、覚える能力と装填する能力に、俺の破壊する能力で必ずや……
お前達と本体を破壊し、俺達の因果に終止符を討つ!! 永遠に繰り返される、光と闇の戦いを止める為にも。
「それより、ボク達も此処から早く脱出しないと!」
「それもそうだな。巴……すまん!」
「な、何を……キャッ!?」
大きな声で呼び掛けられた事で、懐かしい思い出に浸っていた俺の意識は呼び戻された。
ドゥーム……いや、倒すまではホライズンと呼ぼう。幾ら約束とは言え、情を持っては力も鈍るしな。
我先にと先導してくれていたルージュは、ホライズンの作った大きな切れ目の前で、俺達を待っている。
一言伝え、巴をお姫様だっこで持ち上げて三人で脱出──もとい、空間断裂の収まった箇所から、命綱無しの飛び込みを実行。
「アルファ! 量産型に追い掛けさせて、奴らを捕らえなさい!」
「ハッ。試作型ディーテ、聞こえ……ッ!?」
現在、絶賛落下中。それでも俯瞰視点を使えば、奴らの事は視れる。主からの指示を受け、行動に移すが……
突然アルファはヘルメットも兼ねている、特製の仮面を慌てる様に脱ぎ捨て──ホライズンを睨む。
「妨害電波も使えるとはね……恐ろしい生命体だわ」
「桜様、一刻も早い避難を。此処は俺が、奴を何とかしますので」
話から察するに、妨害電波のノイズを大音量で聴いてしまったが故の──先程の行動だろうな。
まだまだ知らないホライズンの能力。それに戦慄よりも、好奇心が勝っている様な顔で見る調律者・姉。
されどアルファが避難する様に言うと、短く頷いて応接間から出て行く。残ったのは──悪夢のトップと調律者の右腕。
このバトルは是非、最後まで見届けたい! 敵勢力上位の戦闘とか、見たくない? 自分は見たいけど……
「まだ俯瞰で奴らを視てるの?! それは構わないけど──先ずは目の前の現実を、何とかしなくちゃ!」
「あいよ! とは言え……この高度、普通に魔力強化しても死ぬんですが……」
「お──落ち、落ちッ!!」
注意され、視点を自分達に向け直せば──まだ雲の中から出た辺りの高度。着地するにしても、まず耐えられない。
飛べば良いじゃん。って声が聞こえてきそうだけど……人間は、自力じゃ、飛べない!!
浮遊の魔法や奇跡もあるけど、アレは呪文にしてイメージし易くしただけ。その両方とも使えない自分は……
着地しか出来んのだ! いや、本当にどうしよう……魔力を逆噴射? 無理、残量が圧倒的に足りん!




