招待&正体
『前回のあらすじ』
少し前の時代で調律者の施設・人間牧場へ潜入したネロと貴紀。されど警備している筈の機械兵達は機能停止済み。
気になりつつも各フロアを調べながら、下へと降りて行くと……二つの繁殖フロアを発見。その光景に思わずフロアを破壊。
その騒動を聞き付け、駆け付けた勇者候補生のフェイク達。しかし女僧侶は貴紀の魔力から正体を看破し忠告するも。
フェイクは受け入れず、返り討ちに合い撤退。捕まっていた仲間達やルージュと巴を連れ、脱出。施設をスカーレット・デーモンズ・ノヴァで破壊した。
人間牧場と言う名の施設を、スカーレット・デーモンズ・ノヴァで完膚なきまでに破壊した。
青空の下、天高く昇る黒煙を背に歩いていると、心の準備や整理も終わらぬ内に、再び奴が現れた。
「この感じ……ユウキ=マドカブレイド、か?」
「俺の名はアルファ。獣人、お前達がそう呼ぶ人物ではない」
知っている、分かっている。ユウキは……ノエルと共に己を犠牲にし、自分を助けて死んだのだと。
それでも、淡い期待を抱いてしまう辺り、まだまだ未熟者なんだろうな──自分と言う奴は。
恋の発する言葉を否定し、此方へ歩いてくる。突然走り出して殴り込む……様子もない。
「調律者様達から、お前達を我らが拠点へ案内せよ。と──命令を受けたのでな、迎えに来た」
「おぉ~!! まさか調律者様の住まう空中移動都市・アリウムへ招待される日が来るとは!」
「空中移動都市。どうして敵であるボク達を、君達の本拠地に?」
「その通りだ。僕は何か裏がある、と見るが……ご主人様、どうする?」
皆、思いも思考も様々。喜ぶ、疑問、相談。自分個人としても、これは奴らの罠としか思えない。
が……リスクなくしてメリットはない。虎穴に入らずんば虎子を得ずって言う、ことわざもある位だ。
準備は出来てない、魔力も多く消耗してる。けど、人生は準備不足の連続。顔を上げ、アルファを睨み──
「その招待、受けてやるよ」
「ほう……二、三時間で顔付きが戻ったか。そうでなくてはな、俺が倒す甲斐がないと言うものだ」
「御託はいい。さっさと連れて行け」
不安と恐怖心でガタガタの心に、虚勢と言う仮面を付けて招待を受ける。
そうと知ってか知らずか、そんな自分の評価を見直したらしいアルファ。いや、なんでやねん!
そこは見抜けよ。その眼は節穴か!? あ、そう言えば常時仮面を被ってたな、お前さん。
てか、個人差にもよるが二、三時間もあれば立ち直る人もいるからな。そっちの方がすげぇよ。
「承知した。転移装置、起動」
ハッキリとそう言った後、青空から照射される一筋の光が自分達を捉え、包んだ──次の瞬間。
「こっ、此処が!! 調律者様達の拠点!」
「魔力や霊力すら感じなかった。この人数での転移を、機械だけで行える技術力を普通に持ってる訳か」
「んん~……魔力や霊力の源、マナが異質と言うか。薄いとでも言うべきかなぁ?」
転移した先は、緑溢れる木々に囲まれた場所。鳥の鳴き声や花の香りもある……が、鳥は見当たらない。
やはり各々、思う部分は違う。そんな中、無言を貫いてる巴、ムート君、ネロ。巴は怖がった様子で──
身震いをしてる辺り、恐怖心で余裕が無いんだろう。ムート君はそんな素振りもなく、愛娘であるネロも。
真剣な表情で辺りを見渡し、口や鼻をハンカチで押さえ何かを探している。……魔力のマスクで口と鼻を保護するか。
「応接間はこっちだ」
半透明のトンネルを案内されている間も、峰平進は兎に角喧しかった。外の景色は平原になっており。
絶滅したマンモスや数々の恐竜、フクロオオカミ……その他多数。終いには未発見の花があると騒ぎ、カメラに収める始末。
新聞記者としては正しいんだろうが──案内されてる間は黙って欲しい。
「此処は……ディーテの製造工場!?」
「最新型No.μ、量産型No.ρ。破壊者、お前が戦った近接型・アポトーシスや支援型・ネクロシースも此処でな」
道中、通り掛かったフロアをふとに見てみると──無数の機械が順番に機械兵を組み立てて行く。
骨となる素体に、次々装着されるパーツ達。最新型は青色を帯びた銀に、関節部が金。
逆に量産型は白銀のボディに対し、関節が赤い。目立たない様に……なのか、ゴムらしき人工皮膚や。
眼や耳、鼻に口もある。パッと見、人間と見分けがつかん。これが社会に紛れたら──考えたくもないな。
「試しに全力で殴ってみろ」
「やっちゃえやっちゃえ! 君の全力がどれ程のものか、見せつけてやるんだ!」
「ルージュ……なんか、無駄に元気になってないか?」
工場フロアから、完成した最新型を重力を上手く扱い此方へ持って来たと思いきや、その一言。
何度も右手を頭上へ突き上げ、頑張れとエールを送ってる様子。とりま、手加減無しの一撃を叩き込む!
「……かっ──てぇ……」
も──その硬度に魔力強化した拳は全く歯が立たず、逆に痛い目をみるハメになった。いや、そりゃあ。
ロボットを素手で殴るのは愚行だけどさ? 基本は物理で攻めてるし、それが当たり前だったから……
「やはりな。相反する二枚の装甲板を採用したのは正解だったな」
「……へぇ~、これは面白い技術だね」
声から察するに、結果通りでつまらん。みたいなアルファと、最新型を軽くノックしているルージュ。
相反する二枚の装甲──恐らく外に硬め、内側は柔らかいの衝撃吸収方法だろう。
仮にぶち抜くなら、吸収出来ないレベルの衝撃を叩き込むか、鋭利なモノで裂くしかあるまい。
その後。再度案内された広い部屋には──調律者・姉の桜だけが、桜色のソファーに座っている。
「桜様、破壊者とオマケを連れて参りました」
「ご苦労様、アルファ。久し振りね、オメガゼロの名を与えられた、真っ赤な偽物さん」
「喧しい。喧嘩を売る為にわざわざ、俺達を呼び出したのか?」
礼儀正しく頭を下げる強敵に対し、主であるコイツは……人の神経を逆撫でして、そんなに楽しいのか?
まあ、確かに『オメガゼロ』の名と役割的な種族名を与えられただけで、自分は奴じゃないしな。
……ちょっと待て。今、自分は何を思って思考を張り巡らせた? 自分は──オメガゼロじゃない?
「それで、そちらの拠点に呼び込んでまでの要件ってのは──なんだよ」
「単刀直入に言うわ。私達、管理者の傘下に入りなさい!」
「断る!」
向かい合う形でソファーへ自分と峰平進が座り、残る恋達は後ろで立ったまま待機。
率直に要件を言われるも、これを即座に拒否してやった。何故敵対している奴らの傘下に入らねばならないのか?
その理由を事前に話す様子も無ければ、此方に傘下へ入るメリットも言っていない。交渉下手か!
「んんっ……桜様に代わり、俺が補足をさせて貰う。桜様の傘下に入るメリットは、以下の通りだ」
やはり交渉下手を理解しているのか。調律者・桜の後ろで立つアルファが口を開き、補足をする。
此方のメリットは──技術・素材・機材等の無料提供、不老不死、死者蘇生、旅が終わった後の安全確保。
仲間の事を考えれば、魅力的な条件は一番最初と最後の二つのみ。なんだが……個人的には全て却下。
「成る程な。此方のメリットはそれだと言う事を加味して言う返答は──断る!」
「貴様ッ……正気か!」
一つ、お前達は寧達を甘く見ている。彼女達はジャンクから新しい発明をし、楽しむ挑戦者だ。
二つと三つ。それは今の生涯を共に走る自分達が一番嫌う、禁句の一つ。当然、死者蘇生も含めてな。
そして四つ。俺達の進むべき道へ、勝手にレールを設置するな!! 俺達は各々好きな道を選びたいんだよ!
「死者とも再開できるのよ? それこそ、彼の様に……ね」
「それもッ……断る理由の一つだと、何故気付かん!」
頑なに断る此方に対し、傘下へ入る魅力として伝えてくる言葉は全て、俺の神経を逆撫でするのみ。
アルファに手を向け、そう語る調律者を鋭い目付きで睨み付け、断る理由だと突き付ける。
「つまり──どうあっても、私達の傘下には入らない。敵対関係を続けると……そう言う風に受け止めていいのね?」
「あぁ。少なくとも、俺達はアンタ達の計画やメリットに対して、不信感や不満を持っている訳だからな」
「完全な男女平等、全人類平等の幸せ、死別や不幸すらない完全無欠な世界。それに何の不信感や不満を抱くと言うのかしら……」
漸く此方の意志を理解した調律者・桜。追加で不信感や不満を持っている事も、釘として打ち込む。
なのにまだ、俺達が管理者の掲げる理想郷を拒む理由を理解出来ていない。コイツ……相当頭がおかしいのか?
「話は終わったな? 俺達は帰らせて貰うぞ」
「……よし! 今の会話も全て記録させて貰ったぞ。これでまた次の新聞も真実が書ける!」
話は終わりだと思い、席を立つと──珍しく静かだった峰平進も立ち、会話を記録していたと話す。
「貴方は──彼を、ユウキ=マドカブレイドを救いたくはないの?」
立ち去ろうとするその背中に、掛けられた言葉を聞いて──思わず少しだけ振り返り、睨み付け。
「もし……本当にアルファがユウキだったとしても、俺が取る選択肢は一つ。お前達を倒す事だけだ!」
「威勢のいい事。その言葉と気迫に敬意を表して──」
例えアルファがユウキでも、調律者達とは敵対関係を続けると言う事。
兄貴分のユウキを倒してでも、調律者姉妹を倒すと言う旨を伝えた。すると調律者・桜は右手で左顎へ手をやり……
プラモデルのパーツでも取るかの様に、パカッとその顔を自ら外した。その素顔は──
「ロボット……いや、サイボーグ?」
「そう。私は機械・植物・肉体で構成された、女性型サイボーグ。勿論、性行為や妊娠も出来るわよ?」
「ッ……まさか、貴女は……」
「流石は天狐。読みが鋭いわね」
機械と肉の上を植物の蔦が伸びており、今まで見た事のないタイプのサイボーグだった。
そして何故か、普通の女性と同じ事が出来るとも。何故そんな情報を提示するのか意味不明だったが……
その言葉から恋は慌てた様子でアルファを見て、再度調律者・桜へ向き直り、理解した何かを言おうとした。
「私は、ユウキの子を身籠っているのよ?」
その言葉は、衝撃と怒りを覚えるには……充分過ぎた。ユウキには、リリスと言うパートナーが居るのに。
コイツは死んだ兄貴分を再利用しただけじゃ飽きたらず、伴侶となる約束の相手すら奪いやがった!!
「ほら、貴方にも」
「何──を……」
指を擦り合わせて音を鳴らすと、ガチャリと音が鳴り、一つしかない扉から部屋へ入ってくる二人の女性。
「あっ……もしかして──はぐれた仲間が見付からなくて、ルナとお姉ちゃんの所へ帰って来てくれたの?」
「もう……帰って来てくれるなら、手紙の一つ位送ってくれても良かったのに……」
「破壊者。貴方が立ち去った数日後の記憶までを保持した、彼女達のクローンよ?」
それは──ケーフィヒ牧場で死んだと思っている二人のクローン。嬉しさで涙が溢れるも……
次の瞬間には受け入れた現実が、二人はもう居ない事を伝え、怒りが勝り──俯いて握り拳を作り。
二人のクローンに向け、両手を向けて魔力を放射し消し去った。こんな命を弄ぶテメェらを……俺は絶対に許せねぇ!!
「俺の逆鱗に触れた以上、お前達は絶対に破壊する!! 俺自身の存在と、アイツとの約束の為にも!」
「ふふっ……私達の掲げる正義と、貴方達と言う悪。どちらが生き残り正しいか──勝負と行きましょうか」




