仮面に隠れた真実
『前回のあらすじ』
新しい第三装甲開発の為、必要な部品を買いにストレンジ王国へ来た貴紀達。其処は峰平進が勤める本社がある場所。
調律者の技術提供により、失われた機械技術を取り戻しているものの、峰平進はこれ以上の技術提供は反対だと発言。
そんな時、巡回警備中の新しいディーテを発見。無用な先頭を避けるべく案内された場所は……なんと新聞記事の本社。
其処で弟の峰平歩、リトライに巻き込まれていない筈の大将や女医のニーア、重傷のリグレットと再会。歩から有益な情報を得、再度人間牧場へ向かう。
新聞記者兄弟の弟、峰平歩君から巴やルージュが捕まっている、詳しい場所──今の人間牧場基地。
その他の情報を聞き今現在、昼過ぎの茂みから目的地を伺っているんだが……これ、ちょっとヤバいかもな。
「まだ量産型と最新型だけなら、対処も出来たんだがな……これはちょいっとマズイかも知れん」
「ご主人様がそう言うとは──そこまで面倒な相手なのか。白いパワードスーツを装着したアイツは」
「白いって言われると、ホワイトラビット……白兎も該当しちゃうんだけどな」
一つはストレンジ王国で見た、警備中の量産型ディーテ。もう一つは背中に長方形の飛行ユニット?
らしき物を二つ装備した、最新型と思わしきディーテ。コイツら、人間と同じ肌色をしてるが、コーティングか?
で、コイツが一番の大問題。自分とは対極的に、白いパワードスーツを装着するアイツ──アルファ。
量産、最新は一体ずつで攻略は可能に思えたのに、此処でアルファが見張りに参加するとか……予想外過ぎるだろ!?
「どうするんだ、紅君!」
「どうするもこうするも、夜を待っての奇襲と潜入しかないだろ」
焦った様に聞いてくる兄の峰平進。小声なのに相変わらず声がデケェし暑苦しい……
とは言うものの、結局は無理矢理の突破。結局は防衛レベルを上げられ、潜入出来ても脱出が困難になるだけ。
「はぁ、はぁ……や、やっと追い付いた」
そんな時。隣の茂みから此方に近付き、話し掛けてくるムート君。留守番を頼んだ筈なのに、どうして?
そんな思いを知ってか知らずか、右手に持った代物を此方に差し出して来たのはUSBメモリ……だな。
「これを……ふゅーじょん・ふぉんに差してください。確かあっぷぐれーど? とか言ってました」
「機能の拡張か。何が追加されるのやら」
やや疑問や不安は残るが……手渡された USBメモリを受け取り、フュージョン・フォンの下側にある、差し込み口へ接続。
USBメモリのランプが点滅していたが、それも止まり、抜いてみるも……何も変化は見られない。
と思っていたら、フュージョン・フォンが何やら振動している。開いて見ると、追加された機能が表示されていた。
「……紅さん。俺に、俺に紅さんの変装能力を使ってください!」
「何を言って──そうか、そう言う事か。怖くは……ないのか?」
「怖くない。と言えば嘘になりますが……それでも、今の俺にしか出来ない事なんです!」
俯瞰視点だからこそ、何処を見ていたかの理解は早かったが──まさか自ら志願するとは、予想外。
しかし時間を無駄に出来ない今、この新しく現れた選択肢は重要な選択だ……ハイリスク・ハイリターン。
仲間を失う可能性と得る可能性。損失で言えばプラス方面だが、一般人と言う立場の人材も貴重だ。
alternative answer、二者択一の答えと返答──支払うべき代償、か。
「分かった。その覚悟と命、自分の為に使わせてくれ」
「ッ……はい!!」
直ぐに言葉の意味を理解したのだろう。 ムート君は俯くと歯を食い縛って少し間を空け。
顔を上げた時には覚悟を決めたらしく、涙と鼻水でグシャグシャの顔で答え、敬礼してくれた。
「クッソ。良い仲間を持てて嬉しい限りだぜ……support、ゼロ。Are You Ready?)」
ウォッチを回し、彼の頭に左手を置けば、効果が自分では無く彼に与えられ──
ムート君は服装や容姿が自分と同じ姿へと変わった。すると自ら茂みから飛び出し、発見されるや否や。
来た道を逆走し、追跡する二体を引き付けてくれた。アルファは無理だったが、一対一ならまだ勝機はある!
「恋、峰平進。自分が奴を引き付ける。その間に潜入、捕まっている人達を救い出し、情報を集めろ」
「アイツと決着をつけたいのか。分かった、先に行ってるから、ご主人様も後から来るんだよ?」
「おぉ~! 隠された秘密、それを暴き、世間に広く伝えるチャンスが遂に来るとは……」
二人に軽く作戦を伝え、バックルへ携帯電話を横から差し込み、黒いパワードスーツを装着。
陸上選手が行うクラウチングスタートの姿勢で足に魔力を限界まで溜め込み、一気にアルファへと突撃。
「貴──様ッ!?」
腕を胸元で組むアルファに、不意打ちも同然の奇襲が成功。アメフトやラグビーを真似たタックルでこの場から引き離す。
勢い余ってかなり離れ、雑草の生い茂る坂道を二人揃って転げ落ち、少し距離が空いた状態で起き上がる。
「久しいな。MALICE MIZERでの決着、此処でつけさせて貰う」
「フン、それは此方の台詞だ。あの時より、少しは成長したんだろうな?」
「お互い、パワードスーツにはタイムリミットがあるんだ。立ち止まっての無駄なお話は──」
「言わずもがな。桜様の邪魔となる貴様は、必ずや俺が倒す。その首を手土産とする為にな」
恋達の事を察知されない様、前回の戦いを持ち出して此方に戦う意志があると、アルファに示す。
向こうもその気になっていたらしく、挑戦を引き受けてくれた。とは言え、これが奴らの罠である可能性も否定出来ん。
可能な限り早く倒して、二人を追い掛けなくては……手加減は不要。セーフティギリギリの全力全開で行く!
「ッ!?」
「まさか……俺の扱う重力に何の対策も無く挑んで来たのか? とんだ愚か者だな、貴様は」
身構えていると体が急激に重たくなり、突然の事で片膝を着いてしまう。そうだ……コイツは重力使い。
今回まではこんな使い方をしなかったから、正々堂々な奴と言う印象を受けていたが──俺の先入観が悪い。
自分には重力の影響など関係ない。と言った様子で此方へ歩いてくるアルファに、何も出来ないでいると……
「ムッ!?」
「サポート・ユニット、レヴィアタン?」
「感謝しろ……私が呼び寄せてやった。コイツのアーマーなら、重力の影響など……関係ない」
宙を泳ぐ様に飛んで来ては俺達の間に入り、アルファに後退させて間を空けてくれた。
左腕から静久の声が響き、呼び寄せた理由を理解。サポート・ユニットと言うだけあり、第三装甲も持ち運び可能らしい。
「トリニティ・フュージョン!」
易々とさせるものか! と攻め込んで来るアルファを前に静久、ゼロ、パワードスーツや第三装甲と融合。
「なっ──!!」
「全く……毎度毎度、心臓に悪い体験ばかりさせる……」
殴り込んで来た右手を左腕で回転中のタービンで受け止め、顔面に向かって右拳を突き出す。
まあ、静久のお言葉もごもっともで……返す言葉もない。予想外な展開に一瞬気を取られたのか、拳は顔面を捉え。
力いっぱい殴り飛ばせば、後方の木に激突し何本かへし折れた。これ、志桜里にバレたら怒られるな……
「成る程。それがMALICE MIZERで得た新たなる力、と言う訳か」
「その元気一杯な発言からして……効いてる様子はない……か」
「ハン──ただの一撃で仮面を半壊されるとは思わなかったぞ。ブレイブが言っていた事は、正しかった訳か」
痛みも何のその。な感じで喋り出し会話を終えると上半身を起こし、立ち上がり此方へ一気に突っ込んで来た。
お互いに両手を突き出し、そのまま力比べに移行。やはりグラビトン・アーマーは凄い、重力の影響も何のその。
重量は重いが、元々は砲撃専用だ。力もアルファには負けておらず、少しずつ押し込めてい……えっ?
(おいおい、ちょっと待てよ!)
(どうして!? アンタは死んだ筈なのに)
(チッ……調律者ノ奴ラ、俺ノ劣化クローンマデ作レルノカ!)
なんで? どうして……どうして兄貴であるユウキが、調律者の右腕として仕えるアルファなんだよ?
「うぐっ!?」
「決闘の瞬間に注意を逸らすとは──貴様、やる気はあるのか!!」
砕けた左半分から見える顔に心は動揺し魔力の出力に影響。押し込んでいた手は瞬時に押し返され、劣性に……
仮面がボイスチェンジャーの機能を持っていたのか、今耳に聞こえる声がユウキ本人に聞こえて更に心が揺さぶられ。
力はドンドン低下して行き、叱責も含めた頭突きを受けて大きく後退し、よろめいたばかりか、再度膝を着いてしまう。
「……失望したぞ、オメガゼロ・エックス。貴様が戦いで手を抜く奴だったとはな」
その言葉が次々に心へと突き刺さり、出力は最低値まで低下。グラビトン・アーマーを動かす力も出ない。
トドメを刺そうとするアルファの顔を見ると、恐怖心が突如として膨れ上がるのを感じた。
兄や師匠と慕う者に殺される。その事実が、恐怖心を益々膨れ上がらせ、体が動かない。
「さらばだ。七分の一にも満たない破壊者よ」
重力を纏わせた手刀が振り下ろされる時、死を覚悟した──と同時に、ムート君の事を思い出す。
彼は俺の現状と同じ恐怖心を味わっていた筈なのに、死ぬ確率の高い指示を飲み込んで行動してくれた。
その勇気は……死を乗り越え、未来へ託すその覚悟は、無駄には出来ないしたくない!! その想いが心に炎を灯す。
「なぬっ!?」
「これは──鉄扇?」
されど一歩遅く、受け止めるのも間に合わない時、ユウキが振り下ろす右腕に鉄扇が飛来し、激突。
地面に突き刺さる鉄扇。直撃した右腕を糸が切れた様にだら~んとさせ、左腕で支えるユウキが見る先に──
「まあ、調律者の連中がやりそうな事よね。私の居た世界でも、全く同じ事をやってくれた外道だし」
「……平行世界に存在する、オメガゼロ・エックスの娘。その一人か」
「ご名答。正解した序でに、その命を貰っても──いい?」
平行世界で生まれた俺と寧の一人娘で、動き易さを重視してか袴や専用の装束にスリットを入れたネロ。
発言から、ネロの世界線にも調律者は現れていたらしい。刺さった鉄扇を片手で抜き、ユウキに勝負を挑む。
「それは出来ん。それに……少々時間を使い過ぎて、タイムリミットが近いのでな」
そう言うと瞬間移動か、テレポーターの力でも使ったのか? ユウキはその姿を消してしまう。
全く動けない俺……自分を見て察したらしく、バックルから携帯電話を抜き、スーツの装着を解除してくれた。
「お父さん……辛い気持ちは分かるし、気持ちの整理をしたいのも分かる。でも」
「分かってる、大丈夫だよ、ネロ。娘の前でくよくよしてられる程、弱くはない」
同情してくれる娘の言葉を、最後まで言い切られる前に止め、自分自身へ言い聞かせる様に喋る。
もし全部言われたら、暫くは立ち直れそうにないから。だから、無理矢理にでも立ち上がるしかない。
左腕に静久を戻し、コートの袖で涙が出そうな顔を拭い、先に潜入させた二人を追うべく──自分も人間牧場へと走り出す。




