旅の歴史
昔々、紅き光が現れるよりも遥か昔。地球から四百光年も離れた宙域。とある宙域では様々な種族や神々、外宇宙から来た種族が集められ、議論を繰り広げていた。
「賛成多数で可決、安全性を重視したデチューンタイプを2体創る事で決定」
「オォー!!」
当時、彼らは共通の強大で太刀打ち出来ない相手を前に、一致団結してある生体兵器を創る事を決めた。
ソイツは自らを原初の闇、又は終焉の闇と名乗った。世界が何を思ってか生み出したか判らない、史上最悪の強大な闇。
奴を倒す為、数多の犠牲を払い得た敵の一部やデータを元に、アダムとイヴを製造、経過観察等々を議論している中。
「退屈そうね?」
「デチューンタイプ……つまり失敗作、出来損ないじゃない』
「男性は圧倒的な火力と突撃力を以って、正面突破を可能とするタイプ」
「女性が遠距離メインの、二人一体型らしいな」
議論をする会議室から少し離れた一室で黒い服装のシスターを始め、黄色いローブを被る男や和服姿の女が集まり、話す。
終焉の闇を倒す者として、アダムとイヴは製造No.02、03を与えられた他。終焉を破壊する者と言う期待と、その力が自身らへ向く不安から破壊者と呼ばれ。
アダムは相討ち、初代終焉の闇を倒し封印する事に成功。それから神々達の間で戦争が発生、大半の神々は封印しあった。
「さて、と。此処までは私達の計画通り。後はどうなるかしら。ねぇ」
「さあな。だが、俺としては古き約束を果たしてくれればそれで良い」
「古き約束? あぁ、昔に滅びた原初の島での事ね」
破壊者を恐れた者達は残るイヴを処分しようとしたが、身勝手な神々へ嫌気が差したイヴは失踪。表舞台から姿を忽然と消した。
それから気が遠くなる程年月が流れ、神々の封印が解けて行く中……11月10日・夜。この世に一つの小さな命が生を受け、誕生した日の夜。
とある存在が本来の姿・形を変え、人気の無い神社の境内へゆっくりと降り立った。
「此処が──……随分と貧しい場所ね』
黒い修道服は胸元が見える程開き、銀色十字架ネックレスがチラチラと見える。辺りを彷徨いていると…
「あ~うー」
「!? こ、この赤ん坊……」
神社横、縁側から部屋を覗けば赤ん坊が彼女を母親と間違えてか、言葉として発音出来て無いまま両手を一生懸命伸ばし。
懸命に動きで抱っこを要求して来た赤ん坊を見た時、彼女に衝撃が走る。
「か、可愛いぃ! 将来、化ける可能性も十分あり得る……よし」
彼女にあるまじき思想を叩き出させた感情、それは……一目惚れ。要求を受け入れ、優しく抱き上げれば額へそっと一瞬だけ唇を当てた後。
地球上で使われる如何なる言葉とも当てはまらず、発音すら出来ない不思議な呪文を唱えてから竹籠の中へ戻す。
「これで目印は付けた。将来が楽しみね」
この目印……もとい、唾こそ。彼女より贈られたギフト兼マーカー、ゼロである。それから何度か母親が居ない時を狙って神社へ足を運んでは、赤ん坊と会い、遊んだりした。
「まさか、邪神が来るとは思わなかったよ」
「私も紅一族が人間風情と結ばれるなんて、思わなかったわ」
母親が居ない時……つまりは父親が面倒を見ている時を狙い、気分転換がてらやって来ていた邪神は両手で赤子の頬を包む。
「この子が生きる未来は洗脳教育や侵略、他者を蹴落とす程に自分勝手で、自ら地球を滅ぼす愚かな屑だらけでしょうね」
「かもな。正義なんて、命の数だけある。戦争や侵略、やる事の大半、その押し付けさ」
青い袴に白い着物を着た短髪黒髪の男性は縁側へ座り、邪神との会話を楽しむ。赤ん坊が産まれてから約4ヶ月後、この赤ん坊を誘拐される事件が発生するも、4日後には解決した。
しかし生みの親の元へは帰れず、拾った一家が育て親として赤子を育て、それから邪神が見守り続ける事約三年後。
赤ん坊は幼い少年へと成長、家庭内問題で育った家を追い出され、夜の街を当てもなく歩く途中。彼女……邪神に拾われ、一時を共に過ごした。
「今日は人間を壊す技、サブミッションを教えてあげるわ」
「さぶ、みっしょん?」
「さぁ、この人形を使ってどんどん教えて行くわよ。先ずは……チキンウイングアームロック」
一緒に暮らす内、邪神は護身術として3ヶ月の間、色々な事を徹底的に教え込んだ。人間の壊し方や筋トレ、あらゆる生命体の殺し方を。
人形と言って取り出したのは、防腐処理した成人男性の死体。一見地味だが強力で人殺しも可能な関節技から始め、人体や様々な生命体の解剖説明等々を教え込み。
ずっと技術伝授等々教えていたが、きっと近い歳をした者とも遊びたいだろう、そう考え。何度か公園で女の子と遊ばせた。それ自体は良かった。が、当時、子供狙った悪質な誘拐事件があり。
「今回はこのガキ共の親からた~んまり、身代金を頂戴するとすっか」
「イテッ!? このクソガキャあ!」
少年と少女は2人っきりで遊んでいた所を狙われ、教えて貰った関節技で抵抗するも相手は4人。
抵抗も虚しくスタンガンで気絶させられ、誘拐され、邪神が戻って来た時は既に遅く、誘拐された後。
「仕方ない。警察に変身して、人間を利用する方が無難ね」
そうして若い男性警官へ変身、少年と少女を探して小さな建物へ辿り着いた時……悲鳴が次々と外へ響いて来た。
「ば、化け、化け物……た、たたた助け、へぶっ!?」
大層怯え、警察へ変身した邪神の足へすがりつこうとした誘拐犯は、頭を踏みつけられ徐々に、ゆっくりと足に力を加え。
恐怖心と激痛でじっくりと痛めつけられた後。誘拐犯の頭は踏み潰され、中身を飛び散らし絶命。急いで建物内へ救出しに向かうと……
「……」
「コレは、君がやったのか?」
その場に立っている、全身返り血で汚れた一人の少年に問う。少年は右手に掴んだ脊髄付きの頭を虚ろな眼で見、無表情で頷き答えた。
「正当防衛にしても、コレはやり過ぎだ」
「なんで? 人でなしは人間じゃ無い、ただのゴミ屑だって、お姉ちゃんが言ってたよ?」
少年は聞き慣れた言葉を大層不思議そうに捉え、間を空けて喋った後、歩く。文字通り、数多の屍を通りながら。
ある者は拳や鈍器等で殴り殺し、またある者は刃物等で殺してある。理由は簡単。人でなしを人間と認識しておらず、殺して罪の意識が無いのも。
善悪の区別がつかない子供が虫を殺し、罪悪感を覚えないのと一緒。邪神が辺りを見回すも少年と遊んでいた少女の姿が見えず、隣りへ続く扉を開けば……酷く怯え、体育座りで座っていた。
「仕方ない。まぁ、誘拐犯は因果応報だが」
少女は親元へ返され、少年は親元へ返される事無く再びシスターの姿へ変えた邪神と9ヶ月間。
精神が怪物や己ら神話生物を見ても発狂しない様精神的訓練を施し、計一年間。学校や世間で問題が少し落ち着くまで、鍛え上げた。
「ちょっと貸して欲しい物があるんだけど」
「あらあら。貴女がその姿で頼みに来るなんてね」
「五月蝿いわよ、副王」
邪神仲間からアニメ全般、特撮、テレビ放送された番組を少女の姿で色々と試聴。動きや台詞等を頭へ叩き込んだ。
後に少年は神無月水葉と出会い、変わって行ったが水葉は交通事故で事実上、他界。知らぬ間に別の場所へ飛ばされていた。
「ただいま帰りましたよ~。今夜は焼き肉っしょ!」
「おかえりー、お姉ちゃん」
そして邪神は少年と再び出会った時、彼は心の支えであった水葉と義母の父親を失い、深く絶望しており。
もし彼が苦しんでいたら笑わせてあげようと考えていた邪神は、少女へ姿を変えてお馬鹿を演じ。仕事の都合で再び少年と別れ、七年後に戻って来れば──
「これはどう言う事よ……」
「どう言う事も何も、彼は私達が探していた存在。その残光」
「そんな事を言ってるんじゃない!! なんで、なんであの子がこんな不幸に陥ってるのよ!」
「光が闇へ堕ちた際、祝福を受けたみたいね」
手渡された資料を読み、震える声で何故か問うも。自分が求める答えではなかった為、怒りに身を任せて理由を求め怒鳴り散らす。
陥った不幸。それは互いに惚れ合い付き合った一人の女性を引き離す彼女側の出来事、惚れていた元友人や親衛隊による誘拐事件や性犯罪、妊娠と言う事態。
小学生時代の虐めも含めた結果。人間不信や人間嫌悪を引き起こし、外道等と見なした存在へ対して敵意を抱くようになった。
「それと。解け掛けた封印に反応してか、彼も目覚めの時が近付いて来たわ」
「……魂を三分割してまで戦い何度も封印し続けて漸く平穏を得たのに。また人間が闇を解き放つ、か」
三分割した魂は肉体を持ち、復活した闇の封印を行い続けた。が……毎度毎度人間が自然を破壊し、大気を汚染し続けたが為に闇を解き放ち、伝説と伝えられる光に助けを乞う。
目覚めの時が近い彼は、平凡な日常を少しの小遣いと在り来たりな時間の中で生きていた。そんなある日──
「自分が、終焉の破壊者? そんなゲームの設定みたいな馬鹿も休み休み言ってくれ」
「貴方が親友と認める子も、喰われた両親の復讐を果たす為に行ったわよ。幻想の地へ」
「アイツ……本当に、本当に自分なら。いや、俺なら止められるんだな、アイツを」
「えぇ。貴方にはその力が、絆がある。戦いなさい、オメガゼロ・エックス」
人気の無い小さな公園へ足を運んだ成年へ、麦わら帽子を被った少女は語る。同じ年頃の親友が感情に身を任せ、自分と同じ道を歩もうとしている事を。
相手が人か人外かは関係無い。親友の犯人殺しを止める為、馬鹿馬鹿しく信じがたい話を信じ、幻想の地へ自らも向かうと決意する。
「止めんなや! これは俺の問題じゃ!!」
「止めるに決まってんだろ!! 友達が、殺しをするなんて事は!」
辿り着いた地で五人の仲間を迎え入れ、短い茶髪が目印の親友と刀を、感情を幾度も激しくぶつけ合った。
何度も繰り返し出会ってはぶつかり合って傷付き、時には共闘して強敵を倒した。そして遂に滅亡の闇こと終焉の闇であり……数少ない親友の一人にして。
二代目終焉の闇が率いる闇の刺客八人と四天王。合計十二人の内、刺客四人と四天王一人を撃破。同時に好機と攻めて来た組織とも戦い、仲間や旅の途中で得た友人を失った。そして遂に……
「良く……やったな。オメガゼロ・エックス。いや、我らが闇の宿敵にして俺の大親友、紅貴紀よ」
「終焉……どうしてっ、どうして避けなかったんだよ!!」
「光と闇の戦争は……俺達の代で、ごふっ! 止める、べきだからな。調律者を、倒せ。貴紀……」
刃を突き出せば終焉は武器を捨て、自らの胸を貫かせ、光と闇の戦いに終止符を打った。涙を浮かべ問う親友に、同じ苦しみを後世に残さない為と述べ。
調律者なる存在を倒せと伝えれば、息を引き取り闇の粒子となり散った。この旅の途中で人喰い妖怪の女と愛し合い、心無い人間の策略で殺さざるを得なかった。
二面の鬼神と心を通わせるも、闇の刺客に狂わされ暴れる友を救う為、心を鬼にして殺した。病的な愛をぶつける敵も居たが、自らを助け命を落とした。
「なんでだよ。なんでだ……なんでこんな事をするんだよ、心無い人間って奴は!!」
他にも失った仲間や家族は多く、心無い人間への恨みは募るばかり。故に自身が人間と認めた存在以外は救わないと、強く心に決め立ち上がる。
だからこそ。愛し認めた尊い存在は己が身を呈してでも守り、刃や敵意を向ける存在へは破壊と殺戮を与え続けた結果。
彼……紅貴紀は敵から恐れを込めて破壊者と呼ばれ、味方からはスレイヤーと呼ばれた。遺言を実行すべく幻想の地で歴史に名を残した後、調律者を追い時空を越えて旅に出た。




