預言者
『前回のあらすじ』
イエッツト城へ入る時、俯瞰視点にて発見していた峰平進と接触。真夜と愛の二人を先に行かせ、念の為の手を打つ。
戦力の低下を確認したからか、現れた機械兵・アポトーシスとネクロシースの三組部隊を倒す為、城下町へ移動。
敵の武器や敵すらも利用して計六機を撃破。しかし峰平進曰く、行方不明になったホームレス達だと言う。
調律者こと管理者軍の掲げる正義、新聞記者である自身の正義に困惑し、貴紀に淡い期待を持つも砕かれてしまった。
行く先を妨害する調律者軍改め、管理者の機械兵・アポトーシスとネクロシースは倒した。
が──もしかしたら既に此方の情報は送信済みの可能性も拭い切れん。早くみんなと合流しなくては……
先に行かせた愛達を追い掛け、イエッツト城へと駆け込む。中も崩落の痕跡があり、ボロさに磨きが掛かっている。
「内装は城と言うよりは、何かを祀る神殿の様にも思えるな」
天井は一部が崩れ落ち、差し込む太陽光が前方の祭壇を照らす。
ガラスの破片でもあるのか、祭壇の上で光を反射する何か。その後ろには巨人専用と思える様な……
全長六十メートル? らしき石の扉がある。祭壇へ近付いてみると、光を反射していた物体が何か分かった。
「やはり、強化素材は破壊されている……か。それより、みんなを追い掛けなくては」
「マフラーの残骸が君の言う強化素材……なのかい?」
「バイクや車の排気ガス排出口だがな」
大理石と思われる素材で作られた祭壇。その上で散らばるは、バイクや自動車にあるマフラー。
破壊されているのは残念だが、寧達の安否が最優先。なんだが……この新聞記者、何処まで付いて来る?
さも当たり前な感じに残骸の写真を撮ってるし。それより十中八九、此処にも隠し通路がある筈なんだが……
「無い──な。床に地下通路への道も無いし、祭壇が動くギミックもなし……にしても」
「漸く……漸くイエッツト城に入れた。此処を取材したかったが、あの機械兵達が警備をしていて入れなかったんだ!」
忙しそうに入り口付近へ戻ったかと思えば、外からの外観や内装を色んな角度から撮っている様子。
此方は此方で、愛達の魔力を感知して何処へ行ったか探らなくては。
目と俯瞰視点を閉じ、魔力反応を感知する事にだけ、全神経を集中させる。……少し、ぼんやりと見える。
黒の太い線と藍色の線。その二本が伸びている先は──獣の紋様を連想させる絵が彫られた扉の先。
「うおぉ~ッ!! これが太古の昔より存在する高さ六十二の横幅三十六、厚さ二十メートルの償いの扉か! 彫られた紋様はその種族を示すと言う!」
……クッソ五月蝿い熱血漢だな、この峰平進と言う新聞記者。集中力が切れて線を見失ってしまった。
観光ガイドの解説も同然に言う償いの扉へ、俯瞰視点を向けると──左手の甲が突然緋色に発光。
太陽の紋章が浮かび上がっている……この扉と呼応してるのか。滅茶苦茶重そうだが──おぉっと!?
「おや、誰か居たみたいだ……すまない。私は昔から目が見えなくてね」
「いや、別に気にはしていない」
「そうか、それは良かった……でも、変だね。私は人の気配には人一倍敏感なんだが、君は全く気配を感じないね?」
「そうかい? 此方としては貴方の気配を二重に感じて違和感が強いんだが?」
突然左肩に誰かがぶつかった感触、衝撃を受けて前方へ出た赤いマントの男性へ視線を向けると…
相手は此方に振り返り、謝罪と……余計な一言も付けてきた。左右に跳ねた青い短髪、固く閉じた目。
平均の成人男性と同じ体型、整った顔立ち、右手には樫木から作った──天秤の付いた杖を持っている。
気配とは言ったが、どちらかと言えば魔力と臭いだ。どちらも生者と死者の感じがするんだよなぁ……
「それはすまない。私は懐に死者の魂を忍ばせているんでね、きっとそれだろう」
「ほお~……?」
なんと言うか、信用しちゃいけない。そんな予感がするのは何故だ……嘘を吐いてる感じは無いのに。
そんな疑心暗鬼もあり、変に追求するのは控えるべきだ……と認識。適当に曖昧な返事を返し、話を流す。
「自己紹介が遅れたね。私はアンパイア、世間からは預言者──と呼ばれている裁定者だ」
「裁定者・アンパイア。此処から遥か西部に在るストレンジ王国に現れ、天使が舞い降りると預言した人物!」
「そんな大それた預言じゃないよ。天使現れ、悪魔が討つ。ただそれだけの話さ」
預言者・アンパイア。元の時代でストレンジ王国に現れたと聞いたが……この過去でも現れていたのか。
ちょっと待て……確か聞いた話では──天使が降り立つ為、悪魔の土地を粛清すべしって預言だった筈。
何かがおかしい、話が噛み合わない。同一人物ではなく、預言者の名を借りた第三者の可能性もある──か。
と言うか峰平進、話し掛ける直前に横から口を……いや、もういい。なんかメモ帳に取材内容書いてるし。
「それで──その天使と悪魔の容姿や名前、出現位置に時間は!?」
「天使も悪魔も私達と同じ容姿でね。一人の悪魔を討つ為、無数の機械天使が夕暮れのストレンジ王国に降り立つ」
「となると、決戦の場は俺達の本社があるストレンジ王国になる。これはいい写真と記事が出来るぞ!」
興奮冷めぬまま、空腹の猛獣が獲物へ執拗に噛み付くが如く質問を繰り返しては、メモ帳に記す。
涼しい顔で話す預言者には恐怖を感じる。それすら気にせず書き続ける記者には、呆れて何も言えん。
「それでは、改めてよろしくお願いしますね。人類を滅ぼす破壊者、オメガゼロ・エックス」
「ッ……」
恐らく今後のスケジュールを書いているであろう、峰平進に背を向け此方に挨拶をし通り過ぎる際──
預言者は耳元でそう呟く。更に恐怖を感じ、巨大な扉の方へ振り返るも、奴は何事もない様に微笑んでいる。
「けれど──人類とは愚かですね。神や天使が自身らを救う存在だと、本気で信じている」
「アンパイア。アンタはそう考えていない……と言いたいのか?」
「勿論。人類は文明レベルが極端に低過ぎる反面、娯楽はレベルが高い。評価点はソコだけ」
人類を貶すその言葉は裁定者としての言葉なのか、正直言って分からない。
「今回はどうするんでしょうね、此処の住民達は。貴方と対立・和解・差別、そのいずれかを選ぶのか」
「アンタ……楽しそうだな?」
「えぇ、とても。私には関係のない話ですのでね。どの道、天使に勝機などありはしないのですから」
「まるで知ってるかの様に話すが──遥か未来から精神だけ飛ばして来てはないか?」
人類の決断・判断の行方を微笑み、此方の言葉にもあっさり答えた上、関係のない話と言い切る……か。
人類や神々は自分とイヴを悪魔と言うが──この預言者は一体、誰を悪魔と言っているんだ?
鎌を掛けてみるも、微笑んでいるだけで何も答えない。仮に自分達以外の悪魔って……誰だろう。
「ほらほら、紅君! 早くこの祭壇に手を置いて、扉を開けてくれないか!?」
「なんでそんな事を知ってるんだよ……」
「何故ってそりゃあ、壁画に描かれていたからさ!」
左腕を引っ張られ我に返ると──峰平進に扉の開ける為に祭壇へ手を置けと言われ。
何故って聞いたら壁画か……俯瞰視点でチラッと見れば──輝く紋章を祭壇に示す時、扉開かん。
とあった。別に置かなくてもいいんじゃね? 何はともあれ、祭壇の前に向かい、左手を向けてみたら……
聞くからに重々しい音を鳴らし、石扉が開いて行く。何やら黄色と藍色の膜らしいのが見えるが、あれは?
「未開の場所へ突げ──あばばばばッ!?」
「この感じ……奇跡や霊力で作る結界か?」
「えぇ、招かねざる客や敵勢力への対抗策でしょう。当然祭壇に置いてある素材も、フェイクですね」
未知への探求心が抑え切れなかったらしく、意気揚々と突撃するも──
黄と藍の膜に阻まれ、接触面……今回は全身ならぬ前身に攻撃エネルギーを流されたらしい。
白目を向いて口やら耳の他、鼻からも黒い煙が出てるが……ちゃんと生きてるのか?
自分も勇気を出し、左手を膜に向けて伸ばし進めば──何事も無くすり抜け、難なく中へ入れた。
「アンタはどうする?」
「いえいえ、私は遠慮しておきます。余り怪我も出来ない身かつ、この大陸では尚の事嫌ですので」
一応呼び掛けるも、扉の中へは入って来ない。恐らく自身も招かねざる客と認識しているんだろう。
あの新聞記者も此方へは来れない。急ぎ合流したい為、通路の遥か奥へと走って行けば──
「たっくん、予定より五分の遅刻だよ?」
「まあまあ。ちゃんと生きて、再会できたんですから」
「待ってたよ、貴紀君。早速だけど、そこのカプセルに入ってほしくて……」
何やら途中で下った気もするが、今は気にしない。明るい光を目指し走った其処には──
寧とマキ、愛に真夜、ムート君と黄色いローブを着た人物が出迎えてくれて……本当に嬉しかった。
申し訳なさそうな顔で寧に言われ、各遺跡にあるタイムカプセルに近付くと、蓋に電源が入り、上昇。
言われた通り中へ入ると……ホログラムが浮いてる蓋から、小学校低学年位の子供が投影された。
「やれやれ……此処まで来るのに随分と手こずった様子じゃないか。まあ、眼を潰して来たのだけは褒めてやろう」
……子供と思ったら、滅茶苦茶イケボなんですが。時間を止めたりハジケてそうな感じの声だな、これ。
でも眼を潰して来たのだけは褒めてやろうって、何の事かさっぱりだ。
そこは質問したいが……返答として先に言われる言葉が既に思い浮かぶんですが。
「しっかしなんともまあ、俺達の時代と同じ運命を辿るとは……遥か未来の孫達は揃いも揃って馬鹿しか居ないのか?!」
「貴紀さん、滅っ茶苦茶口悪いですね……あの人工知能」
「そりゃあ口も悪くなるさ。同じ運命、結末を迎えない為に太古の昔から対策したのにも関わらず、遥か未来の孫共は全員馬鹿なんだからな!」
無駄にイケボな声で今の人類を馬鹿呼ばわりする、口悪いこの人物は一体……
真夜も同じ事を思っており、横から小声で話し掛けて来るも聞こえていた様で。
追加でもう一度、人類を馬鹿呼ばわり。まあそりゃあ、対策打ったのに我関せずで放置してこれは……ねぇ?
「自己紹介が遅れたな。俺はDr.ホイヒェライ、人類の掲げる正義に嫌気が差し、偽善で対抗した男だ」
「意外ですね。人類は割りと正義だ正論だ~……ってのを好んでいる愚か者達だと思っていましたが」
「俺達をあんな阿呆共と一緒にするな! アイツらは自らの正義や正論を掲げ、破滅の道選んだ自殺志願者の屑だ」
いや本当、ボロクソに言うな……ホイヒェライ博士。にしても──正義や正論に対して、偽善で対抗。
その二つを掲げた自殺を破滅の道を選んだ、自殺志願者だって……それはどう言う意味だろうか。
「もしよければ、その話──聞かせて貰えませんか?」
「……そうか、あんな阿呆共にまた呼び出された挙げ句、呪いまで掛けられたのか」
「ぎ、呪い?」
「良いだろう。話してやるから、渋めの熱い緑茶と茶菓子に煎餅を持って来い。勿論、海苔煎餅だぞ!?」
意を決して話したら、此方をじぃーっと視たと思いきや、また呼び出されたとか、呪いやら……
訳が分からん。話してくれる! と思ったらホログラムの癖に渋いチョイスを……この人とは良い茶が飲めそうだ。
立ってるのも疲れるので、座って話を聞く事にした。これは長話になりそうだ……本当にお茶と茶菓子が欲しい。




