各々の正義
『前回のあらすじ』
仲間である青年・ムート、サキとルナの姉妹を助けれず、怪しい人物も見逃し、朝を迎えてしまう。
それは以前に経験した出来事がフラッシュバックした為。修行も兼ね、動物走りをさせられる貴紀。
左腕の線は仲間の有無を表すモノで、呼び出しと呼び戻しが可能らしい。
辿り着いたイエッツト城下町で新聞記者・峰平進と遭遇。新聞と言う情報の力、その強さと恐ろしさを伝えるのであった。
襲撃があったらしい、ボロボロのお城。長い年月が経過しているのか──
蔦が城のあちこちに絡み付いており、蕾もチラホラ見受けられる。この古風な感じ……個人的には好きだな。
「それで──いつまで付いて来る気だ?」
城へ入る前に足を止め、振り替える。其処に居るのは先程見た、スーツ姿の新聞記者・峰平進。
彼は既に肩下げバックから、メモ帳と黒ペンを取り出しており、取材準備完了って感じで嫌気が差した。
「君達に付いて行けば、俺はこの世界の真実に辿り着ける!! そう確信したんだ!」
「ど~すんですか、貴紀さん。最悪、我々の拠点が管理者に見付かりますよ?」
「……他に拠点として使えそうな所は──あるか?」
眼を輝かせ、此方を見る峰平進。真夜と背を向け、小声で別の拠点は無いか──と相談する。
すると短く頷いた為、思考を張り巡らせる。目が見えず視点も慣れんが、俯瞰視点と言うのは便利なモノだ。
「愛、真夜と先に降りて引っ越し準備をさせろ。もし此処を通してしまったら、遠慮無く潰せ」
「承知した」
道案内として真夜を先行させ、愛に後を追わせ廃墟の城内へ向かわす。
残ったのは自分と恋、それから戦力外の峰平進。人数が減ったのを確認したからか、茂みから次々と現れる人影。
「これは……調律者様達、管理者の機械兵・アポトーシスとネクロシース!?」
「ご主人様、私は入り口に結界を張り守護する。思う存分やっても構わないぞ」
「助かる。久し振りに暴れるとするか」
白銀装甲の接近戦闘用機械兵・アポトーシス、黒緑装甲の遠距離専用機械兵・ネクロシースが出現。
細かい造形は違えど、白銀が一本角で黒緑は二本角って違いだけ。身長はバラバラで統一感はない。
こんな茂みと通路だけ──な狭い場所を戦場にしたら、四方から物量で潰されてしまう。
そう考え、峰平進を掴まえ廃墟の城下町へ降りると──奴らは自分が狙いらしく、追い掛けて来る。
「成る程。邪魔をして来るって事は……余程自分が邪魔か、あの城へ入るのを阻止したいと見える」
「おぉっ!! それは即ち、管理者様が握り潰していると言う極秘情報が!?」
「まぁ、そんなに真実を追いたいのなら──コイツら相手に五体満足で生き延びる事だな」
新装備らしき右腕の折り畳み式ブレイドを展開し、口封じとばかりに周囲を囲み始めるアポトーシス。
ネクロシースは左腕の携帯式砲身を構え、此方に狙いを定めている。一ヶ所に留まるのは悪手……よし。
「逃げるなら逃げろ。面倒は見切れん」
「ご忠告、どうもありがとう。けど、護身術位は覚えているんでね」
邪魔になると思い、逃げる様促すも……彼の掲げる正義が真実を求めるのだろう。
その沸き上がる執着心の余り、護身術で切り抜けようとしている。命より真実……か。
まあ、奴らの処理は基本的に近付いて来た順番通り。後は臨機応変に対処するべきだな。
「指令……イエッツト城への侵入者抹殺」
「成る程。極秘情報って話も、あながち嘘ではなさそうだ」
「当然だ。俺の信条と正義は、真実を正確に世界中に伝える事! 他の購買数目当ての記事とは違う!」
峰平進がそう言い切った瞬間、アポトーシスが此方へと駆け寄って来た。機械兵と言う割りには、足並みが揃ってない。
先手必勝。四肢に魔力強化を行い、此方からも駆け寄ると──腹部狙いで突き出して来た。
左足を軸に左回転のスピンを掛け、これを回避──直後に左手で相手の右腕を掴み、利き手の手刀で掴んだ腕を関節から切断。
そのまま相手の首にブレイドを突き刺せば、人間と同じ眼の光が明滅し始めた。恐らく、機能停止寸前か。
「アリ……ッ、ト──」
「アインス!」
「上司の指示──ハ、絶対……服従」
「人間……は、社会の使い捨て用、ギア」
最後の言葉は聞き切れなかったが……大方の推測は出来る。これが調律者の──管理者としての正義なのか!?
次は左右から二体──攻撃方法は振り下ろしと振り払い。ならば倒した奴を振り払いの左側に押し付け──
代わりに斬らせると、脊髄の辺りで食い込んだ。そのまま半回転しての左回し蹴りで、三体目の右手を蹴り──砕いてしまう。
「チッ……砕いちまったか。仕方ない!」
手首を蹴り裂く予定が、砕いてしまったのは想定外。恋月や朔月を抜こうにも、既に左手が動いている。
慌てて懐に手を入れ、恋から貰った苦無を三体目の眉間に刃を刺せば──機能停止。
直ぐ様苦無を抜き、右手で逆手持ちに──刃が抜けず、正面の視界も塞がれ四苦八苦してる奴の右首へ刺し──停止。
「ツヴァイ、ドライ」
「ご主人様!」
「社会……個性、不要──ッ!!」
「恋……すまん、助かった!」
背後から迫っているのは、見えていた。けれど、対処し切れない中投げ込まれるは──恋の作った刺又。
強化されていたのか。不意打ちを仕掛けた奴は胴体から挟まれ、地面に押し込まれ身動きが取れない。
苦無を引き抜くと……刃が欠けて刃物として使い物にならない為──後部の輪で殴り、顔面を叩き割る。
「おい、新聞記者! 機械兵は後何体残ってる!?」
「はぁはぁ。白銀が三体……黒緑が……はぁ、六体──だね!」
ただの人間にしては奮闘し、近接攻撃を上手く受け流している峰平進へ話し掛けるも、限界は近い。
タイミングを見計らっていたのか。アポトーシスは動きが鈍り始めた峰平進に照準を向け、緑色の光弾を溜める。
「峰平進!! 敵の位置を利用しろ!」
「敵の位置を……利用……そうか、そう言う事が!」
呼び掛けると言葉の意味を理解したらしく、発射される頃を見計らい五体目の真っ正面に隠れると──
砲撃は仲間とその周辺に当たり、火花が飛び散る。爆発による煙幕も出来た為、彼が逃げるには十分。
「まあ、此方も接近するには十分過ぎる時間は貰えたがな」
「指示を受け付けぬ者……社会には、不よ──」
「YESマンや盲目的に従う連中ばかり集めてれば確かにッ、会社としては成功かもな。でも!」
抜いて来た刺又に魔力を込めて投げ、砲撃手一体の胴体を真っ二つに切断。身近な砲撃手に接近。
両手で顔を掴み、無理矢理捻って首を折る。残る四体が砲撃を撃って来るも、今丁度倒した奴を盾に投げ飛ばし──
「その砲身、使わせて貰うぜ?」
その影に紛れ接近。砲撃手・三体目の両腕を掴み、砲身で峰平進を襲うアポトーシス二体の頭部を狙う。
ガンガンと五月蝿いが……砲撃手を盾にしてるんだ、そこは我慢しないとな。狙いを定め……砲撃。
頭を失い倒れたのを確認後、砲身を担い手自身の顎に無理矢理押し当て、発砲させて撃破。緑の何かが散布される。
「さ、流石に……そろそろ、限界……」
「余計な行動をする者……排除」
「クソッ、間に合えっ!」
体術や武術を学んでいるっぽいが、ただの新聞記者。戦場で命のやり取りに耐え切れる程の体力はない。
尻餅を着き、動きを止めてしまう。そんなチャンスを逃さないと言わんばかりに、ネクロシースは狙いを定める。
ムート君やあの姉妹に引き続き、死者を出したくない。左拳を額に近付け、彼へ向けて指を指す。
「うわっ!? ……これは、バリアー?」
「何故救う。余計な行動をする者、指示に従わぬ者は迷惑にしかなら──」
上手く出来た……中距離用照射型バリア。まだ名前もない技だが、これはなかなか使えそうだ。
疑問と砲身を此方に向けるネクロシースに、様々な暗器が飛び込んで行く。これは恋の……よし、これはチャンス。
一体は身体中に暗器が刺さり、機能を停した。残るは──配置的に横並びの二体だけ!
「くおぉっらぁぁッ!!」
叫び声に気付き、振り向いた瞬間──二体に対し、飛び込みラリアットを食らわせ、仰向けに倒す。
急いで立ち上がり、一体の頭を右足で勢い良く踏み潰す。ラスト一体は頭を右手、左手で首を鷲掴み──
頭を脊髄ごと無理矢理引き抜くと、オイルだか血液だかが滴り落ちる。全く……主人公には向かんな。
「ふぅ、ふぅ……殲滅、完了」
「す、凄い……管理者様の機械兵をあっと言う間に殲滅してしまうと──は……?」
「ただの人造兵だ。一般人でも数で攻めれば勝てる」
引き抜いた顔面を握り潰し、投げ捨てて高ぶった気持ちを落ち着ける。
峰平進は余程アポトーシス、ネクロシースの残骸が珍しいらしく、写真を撮ったり詳しく調べている様子。
とは言え、イジメでもする様に囲んで棒で叩けば、数の暴力で倒せる相手。別に誇れる事はない。
「なんで……行方不明の被害者が、管理者様の機械兵に……?」
「それが、奴らの正義だからだろ? ホームレスやニート、無能な連中を機械兵に改造して使役するのが」
恐らく、今まで調律者を信頼していたんだろうな。其処に叩き付けられる真実と言う証拠。
新聞記者だからこそ分かる、分かってしまう行方不明や犯罪者達の顔。
ソイツらが改造され、機械兵として使役されていると知った今の気持ちは──相当なもんだろうよ。
そんな心境を察してか。ポツポツと雨が降り始めて来た……これは大雨になりそうだ。
「で、でも……紅君なら、オメガゼロである君なら、彼らを元に戻せるんじゃないか? そうだろ? そうだと言ってくれ!!」
小さな希望にすがり付く様に、望んでいる言葉を求める様に、雨で濡れた困り笑顔を此方に向ける。
何が正しく、正義であるのか──正直分からない。嘘偽りが本当に悪で、嫌悪されるモノかすら。
彼が求めるのは、根拠も何もない醜い嘘。だけど真実を求め、それのみを記載する彼の信条を汲むのであれば……
「無理だ。死んだ命、改造された肉体、壊れた心を元通りにする力は──持ち合わせていない」
人生とは一度きり。故に個性や自己主張が必要であり、それに苦しめられる事も多々ある。
例え長い年月を掛け、死者蘇生や機械的な肉体改造、その過程で心が壊れ治せるとしても──
それは──決して、人間が手を出して良い範疇を越えるだろう。そして人間はそれに恐れる者、恐れない者の二択に別れる。
それと同じ様にまた──自分達を敵と見なし、情報を敵に売ったり村八分にする者も現れる。歴史を繰り返す限り……




