リトライ
『前回のあらすじ』
気付かぬ内に固有結界である終焉の地へ閉じ込められ、其処に現れた謎多き女剣士・シナナメに襲われるも。
ルシファーから半ば強制的に交代させられ、反撃開始──と挑むが、お互いに攻撃と回避を繰り返し決定打は無く。
時間稼ぎが目的だったシナナメは突如現れた、今とは異なる別時間・別次元へ繋がる次元穴へ自ら飛び込む。
好敵手との決着はルシファーに任せ、貴紀達もシナナメを追うべく、吸引範囲を広げる次元穴へと飛び込むのであった。
別の時間軸や次元に繋がる穴。通称・次元穴が狙いだった謎の女剣士・シナナメ。
奴に巻き込まれ、終焉の地と言う固有結界に閉じ込められた自分達も、追い掛ける形で次元穴へ突入。
まるで竜巻の中にでも入ったかの様に、振り回され続け──自分達は意識を失った。
また無意識的に世界を俯瞰する力。俯瞰視点が発動していると、ゲームの様な視点で気付く。
滝が流れる心地良い音、森と言う大自然の豊かさの中、馬車に乗る女性が小さな橋を渡り切った後。
其処で何かに気付き、馬車を引く馬の手綱を強く引っ張り、止めてから気付いた自分に近付き引き上げる。
「良かった。この人、まだ生きてる」
木製橋の支柱に引っ掛かっていた自分を馬車まで一人で引き上げた彼女は、夕暮れも近い事から。
大急ぎで森を抜け、広大な平原を駆け抜け、日が落ちるもなんとか無事に村へと帰る事が出来た。
「おい、宿主様。起きろ」
「……っ。後、十五時間寝かせて」
「寝過ぎだ馬鹿野郎!」
懐かしい部屋で、青いカーテンの隙間から差し込む日の光。
白いベッドとふかふか毛布に包まれ、眠っている自分を起こそうと呼び掛けるゼロ。
低血圧で寝坊助、寝返りをしつつもっと寝かせる様言った為、影であるゼロにベッドから落とされた。
「いい加減に起きろ。全く……二度目だって言うのに、同じ事やらせんなよ」
「二度目? 同じ事……ッ!?」
寝起きで頭の回転が悪く、混乱している所に叩き込まれた二度目と言うワード。
オウム返しの如く言葉を繰り返す最中、フラッシュバックが起こり言われた言葉の意味を理解する。
「あぁ……そう言う事か。にしても、都合が良過ぎるだろ」
「別に良いんじゃねぇか? これ位のハンデがあって漸く、スタート地点に立ててるって位だしよ」
余りにも都合の良い展開に、正直溜め息が出そうになるも、ハンデ云々と述べられ納得してしまう。
そりゃまあ、相手優位な状態から覆せ。って無茶振りを大抵やらされてるんだ。これ位は別に良いよな?
「覚えてると思うが、此処は飛び込む前と同じ年数、一月一日の牧場兼農場のケーフィヒ牧場だ」
「あぁ、覚えてる。でも同じルートとは限らん以上、大胆不敵かつ慎重に物事を進めるぞ」
「だな。となれば、先ずは情報の照らし合わせが必要だな」
寝ていた民家から外へ出ると、其処は事件の根っこが始まる前のケーフィヒ牧場。
自由気ままに動き回る動物や家畜達、言葉を交わしながらも忙しく動き回る女性達。
「一応、村とか人が居る場所では黙ってるからよ。話し掛けてくんなら人気の無い場所にしろよ」
「了解。さて……リトライかリスタートだか分からんが、とりま聞き込むか」
話し掛けようにも、初回と同様に住民達は忙しくせっせと動き回る為、なかなか話し掛け辛い。
オーバーオールを着た老婆へ話し掛けてみるも、やはり大半の人達は揃いも揃って同じ事を言う。
「悪い事は言わねぇ。一刻も速く此処を出て行った方が身の為だよ」
「……やはりそう言うか。となれば、リトライの表現が正しそうだ」
一刻も速く此処を出て行った方が身の為だ。その意味は、本来なら一ヶ月に知る出来事。
後々初めて魔人・フルヒトと遭遇し、三度に渡る遭遇戦を経て倒す。
問題は何処まで同じルートを通り、何処から違うルートを通るか……そこが問題点となる。
「お兄さん、こっちこっち」
声が聞こえ、自身が寝かされていた二階建て民家の窓を振り向くと──
明るい茶髪の少女が此方に手を振っていた。このまま外に居ても情報収集は出来ないし、意味もない。
少女が手を振る民家へと戻り、ドアノブを回すとやはり難無く開く。
鍵は掛かっておらず、部屋へ入ると先程手を振っていたあの子が居た。
「急にベッドから居なくなっちゃったから、ビックリしちゃった」
「あぁ、申し訳ない」
心配してくれる彼女に謝り、ベッドへ座ると彼女も隣へ座り、ニコニコ笑顔で此方を見ている。
「お兄さん、外から来た人でしょ?」
「その外って言うのは、村の外。って意味であってるよな?」
「うん。私、村の外には出た事がないの」
ゆったりとした白いT字型ワンピースを着た長い茶髪の少女は此方を見上げつつ。
村の外から来た自分へ興味津々な様子で話し掛ける。世界を知る事が正しい事……正義なのだろうか?
それとも、ケーフィヒ牧場で世界を知らない一生を送る方が幸せなのか。正直、自分には分からん。
「他の人達もぜーいん、お外へは出られないの。お兄さんを連れて帰って来た私のお姉ちゃん以外は」
「おかしな話だな。それ」
「でしょ? 不思議に思って聞いても、みんな答えてくれないの」
一応、初回と同じ会話で流す。事件が起き始めるまでは今暫く、初回と同じ会話と行動で行くべきだな。
そう決めた時、彼女には大人が誰も答えず、自分が話す時は村から出て行く様促す理由は……何だっけ?
「ルナ、ただいま……あ、目が覚めたのね」
「お帰り~、お姉ちゃん」
「どうも。どうやら、助けて頂いたようで。えぇ~っと」
「私はサキ、ルナのお姉さん。それに、大した事はしてないわ」
考え込んでいると閉めた扉が開き、隣に座る少女・ルナの姉、サキさんが帰って来た。
身長は女性の平均的身長よりもやや高く、ルナとは少し違い、背中まで届く長い茶髪。
衣服は白いオーバー・シャツに青いロングスカート、ニコッと微笑む笑顔。
「その野菜と瓶、またやられたの?」
「うん……村の人達には、本当申し訳なくて、ね」
部屋の隅っこへ置いた、藁等で作ったであろう籠の中には──砕けた人参や玉葱と言った野菜の他。
割れた牛乳瓶等が入っている。初回と同じく叩き付ける様に割れたのではなく。
野菜や牛乳瓶も、ピッチフォークで突かれた後が残っている。リトライ……で間違いないのか?
「すまない、サキさん。幾らか聞きたい事があるんだけど、構わないかな」
「えっ? うん。答えられる範囲で良いなら構わないけど」
記憶してる地図や認識に違いがあるか、確かめる意味も含めて話し掛けると、やはり承諾してくれた。
「私も聞きたーい」
「アンタは駄目。まだ宿題が残ってるでしょ?」
「……はーい」
答えられる範囲でのみ。と言うのは相変わらずで、一緒に聞きたいと言うルナは宿題を済ます様促し。
自室へ戻らせた後。肩を落として深い溜め息を吐き、顔を上げる時には少し困った笑顔を見せる。
「先ず一つ。この村は何処にあるんだ」
「何処って、ユーベル地方に在るケーフィヒ牧場よ」
現在位置と名前に変化は無し。近くにオルクス火山があるド田舎と言う点も──同じか。
地図を広げて貰った感想としては、近辺に大小問わず村や町は無く孤立し、在っても×印が付いた所だけ。
念の為、✕印の場所には向かうがな。もしリトライなら、彼女やアイツが居る筈だし。
「サキさん以外の村人が外へ出れないと言う話を聞いたけど、それは?」
「ルナったら……えぇ、本当よ。でも、一日一回の配達時だけ」
やはり村の住民で外へ出られるのはサキだけだが、出入り出来るタイミングは毎度行う配達時限定。
曰く「配達以外で試したけど駄目だった」、そう苦笑いで言う表情は、話していない何かを隠している。
「それに例え配達で出ても、魔物やブルート牧場の兄弟から嫌がらせがあるし」
「それで、持って帰って来た籠の中身って訳か。苦労してるな、その若さで」
例え二度目でも俯いて行くサキの顔が見てられなくなり、目線を突かれた野菜や牛乳瓶の籠へ向ける。
訳有りの村、配達限定で出られる牧場、時間帯を見計らい襲撃しに来る魔物やブルート兄弟。
嫌がらせに来ては、配達先へ必要な数の野菜や牛乳瓶へ被害を与えられる始末。
「本当は、私も逃げ出したいの。こんな村からは! でも、此処に居なきゃ」
「あぁ~……昨日今日会ったばかりの自分で良ければ、吐きたいだけ愚痴を聞くよ?」
「アンタ。変な人だね」
「残念な事に、言われ慣れてるんだな。コレが」
相当心の中に愚痴や鬱憤を溜め込んで居るのは、二回目ともなれば流石に知っているさ。
彼女が吐き出す愚痴等には、怒りや苛立ちが込められており、感情に任せて本心も吐き出し続ける。
暫く愚痴を聞き続け、気付けば夕方。愚痴や配達で疲れ果てたのか、サキは机へ倒れ込む形で熟睡。
「しゃーない。部屋まで運ぶか」
お姫様抱っこで持ち上げるも、此処でとある問題がある事に今更気付き動きが止まる。
「サキさんの部屋って、何処だっけ?」
「ちょ、おま、ダッサ。えぇーっ、今更気付くか、宿主様よぉ」
「うるせぇ。あぁー、うぅーん。そうだ、ルナちゃんの部屋へ寝かせよ」
自分自身の影に宿るゼロに馬鹿にされつつ、妹であるルナの部屋へ移す途中。
鏡が在ったので俯瞰視点越しに覗くと──中性的な顔に眉程まで伸びた黒い前髪と黒い瞳の男が見えた。
途端、自分自身へ殺意がふつふつと湧く。これは仕方ない、毎度毎度飽きずに抱く、自己険悪だ。
二階左側の部屋へ軽いノックし、開いた扉からルナが出て来たので事情を説明。ベッドへ寝かせ部屋を出る時。
「お兄さんが伝説の破壊者様だったら、良かったんだけどなぁ」
「伝説の破壊者……ねぇ」
「うん。普段はとっても臆病で寂しがり屋なんだけどね」
ナトゥーア大陸に残る伝承、伝説の破壊者の話を──彼女は生き生きと話す。
普段は臆病で寂しがり屋な上、落ちこぼれな破壊者だが、仲間や家族を助ける・間違いを正す時は。
とても凄い勇気と力を引き出し、どんな困難にも立ち向かうありきたりな伝説。
普通は勇者だが、ルナは破壊者で間違いないと言う。
「少し前、人探しで此処に来たルージュって人が教えてくれたの」
「ルージュ……サクヤって名前じゃなくて?」
相違点を発見した。話の後、サクヤの事を教えてくれるのに、ルージュに変更されていた。
何故ルージュが……と言う疑問もあるが、もし次元穴の吸引に巻き込まれたのなら、あの場所に居る筈。
「お兄さん、青くて綺麗な眼ね」
「青い、眼。おかしいな、さっき鏡を見た時は黒色だった筈」
俯いていたからか、覗き込むルナから眼が青い事を言われ疑問を持つ。
先程鏡で見た瞳の色は黒色、しかし彼女は青色だと言うので、もしかしたらまた見間違えたのかと思った。
「もし、夜外を出歩くなら宇宙人に気を付けてね。生き物も不殺の掟で殺しちゃ駄目だよ」
「宇宙人、ねぇ。知り合いに宇宙人……いや、人じゃないけどいるな。他は殺し合いもしたわ、うん」
「知り合いの宇宙人かは知らないけど、此処に現れる宇宙人は私達や牛さん達を拐っちゃうの」
「人や家畜もキャトるのか。その宇宙人、友達はご馳走。とか言わないよな?」
一応の忠告を受け、部屋を出てて一階へ降り椅子に座り考える内容が幾つかある。
今現在、村で起きている不可思議な数々の現象。これはルナの言う『宇宙人』の仕業。
配達するサキ以外へ出れない謎、村人達が隠す何か。不殺の掟、魔物やブルート牧場兄弟の嫌がらせ。
村人や家畜をキャトる宇宙人の存在。男性不在、女性だらけの閉じ込められた村──これは一気に解決していいのか?
「ケーフィヒ牧場とは、相変わらずな名前だよな。ある意味、此処も人間牧場と変わらん」
「あのさ、宿主様」
「なんだ、ゼロ」
名は体を示す。そんな牧場に嫌みを言いつつ、もう一度嫌々鏡を覗くが……黒い瞳が覗き込む自分を映す。
一階で傷物となった野菜を籠ごと持ち、台所へ向かう最中話し掛けられ、耳を傾け問い返せば──
「あの×印……明日の夜、忍び込むよな?」
「あぁ。初回でもそうだったし、リトライの今回も同じく忍び込むつもりだ」
地図に黒ペンで書かれた×印──其処に何があるのか。前回と同じなら、あの場所にあるのは……
まあ考え事は夕御飯を食べ、三大欲求の空腹を少しでも満たしてからだ。
残っている材料で軽く野菜炒めを作り、ルナとサキの分を先に渡し、余った分を皿に盛り食べる。
「さてさて……どれから問題を解決して行くべきか」
「やっぱりよぉ。フラグを回収しないと色々と不味くないか?」
「かもな。推理物で事件も発生してないのに犯人を言い当てて、未遂の内に終わらせる様なモンだしな」
木を削って作られた箸で乱切りカットの人参を転がしつつ、ゼロとメタい話を進め。
改めて今着ている衣服や靴を見直す。白いシャツにいつものコート、下は青いジーンズと特製ブーツ。
コートの右ポケットには、一枚の折り畳まれた紙があり、開いてみると……
「丸腰でも現地調達すると思い、武器はナイフ二本にしました。グッドラック。だとよ」
「何がグッドラック、だ。ふざけんなよあの副王!」
前回と同じ内容の手紙を読んだ後、コートやズボンのポケットを調べた結果。
コートの左ポケットから鞘に収まったナイフが二本と、革財布が一つ出て来た。本当にこれだけかよ。
魔力や霊力は感じない為、本当にスーパーとかで売っている極々普通のナイフ。
確かに現地調達は避けられぬ道、されどもう少しマシな装備を期待……するのは諦めている。
「金は一万ルージュだってよ、宿主様。っておい、この額ならそこら辺の社会人はもっと持ってんぞ!」
「仕方ない。今日は様子見で下手な外出は無しだ」
「どの道、今夜は何処にも行けねぇしな」
手持ちは所持金が金貨・銀貨・銅貨を含めて一万ルージュ、武器は通常ナイフ二本と所持してた代物。
まあ、大抵のRPG初期装備と金額に比べればかなり嬉しいし、強くてニューゲーム感はある。
敵も強くてニューゲーム……だけどな。今夜は様子見も含め外出は無し、晩御飯を全て平らげて部屋へ戻り寝た。




