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ワールドロード  作者: オメガ
三章・alternative answer
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支払うべき代償     

 『前回のあらすじ』

 無理をした反動で満身創痍になり、動けない状態で仲間達が脳手術をされる様子を、モニター越しに見るしかない中。

 突然停電が発生、DT-0による緊急時ほ施設内放送が始まり、施設その物がナイトメアゼノシリーズの襲撃を受ける。

 電気が復旧されたと思えば、今度は勇者候補生のルージュ達に人質達を救助され、更には悪夢の侵入を許してしまう。

 連鎖して起こる出来事、アニマが残した意味深な言葉の数々。貴紀はルージュ達のお陰で、何とか脱出に成功する。



 あの施設──人間牧場関連には、思わぬ程の大打撃を与えれた。けれど、慢心はしない……出来ない。

 あの結果は、連鎖的に雪崩れ込む形で起きた出来事が決め手。悔しいが……奴らに勝ったとは、口が裂けても言えない。

 今の視界は俯瞰視点か、それとも夢か? 手術台で眠る自分から、ナイア姉が黒と透明の二つの結晶を取り出す。


「全く……脆弱な人間の体で、人が持つ本来の力を全力で使えばどうなるか──分かる筈なんだけどね」


 その言葉は、文武不相応な力は身を滅ぼす。と聞こえたが──それはどんな相手にも言える言葉だった。

 力と一言に言っても、様々な力がある。言葉や暴力の他に知恵、勇気、行動力や情報。

 目に見える、見えないにしろ、自分達は常々様々な力を使う。その力が引き起こす問題点すら意識せずに。


「この時代を支配してる力は調律者姉妹の知恵と情報。勇気(行動力)や物理的な力じゃ、勝てないわよ?」


 取り出した二つの結晶に魔力や霊力を注ぎ、自分の体内へと戻す。

 力を注いだ結晶を戻したからか。身体中に力が溢れてくるのが分かる。


 それが切っ掛けとなのか……意識が遠退く。目が覚める頃だと理解しつつ、重たい目蓋を閉じ目覚めを待つ。

 …………幾ら待てど、何も見えない。視界が真っ暗だとか、真っ白と言う概念や表現じゃない。

 まるで眼を失ったかの様に、全く何も見えない。何が何処にあって、誰が何処に居るのかさえも。


「紅君。調子は……どう?」


「その声は──心情さんか。調子はどうか聞かれても、眼が見えない事以外は、平気かな?」


 寝かされている体を起こし、声がした方へ向き心配させない様言葉を選びつつ、返事を返す。


「貴紀殿ッ……すまぬ! 儂らが捕まってしまったばかりに、余計な無茶までやらせてしまうとは……」


「ははっ。無茶には慣れてるから、気にする必要は無いって。それで、此処は何処なんだ?」


「脱出した施設、人間牧場から幾らか離れた場所じゃ。皆、疲弊しておるからのぅ」


 今にも土下座をしそうな位の勢い、申し訳なさを感じる声で謝られるも。

 自分が勝手に無茶をしてるだけで、序でに言えば毎度の事でやりたいからやってるだけ。

 言わば、会話のキャッチボールを一人で勝手に必死になってやってるだけ、みたいなモンだしな。

 そんで話を聞けば、他の捕まっていた仲間達や家族、住民達も疲弊気味で護衛も考えて野宿中らしい。


「四方の陣形を組んでおる。儂らは住民達の少し後ろで警戒を担当しとるんじゃ」


「でもね、紅君。道中で幸運な事に、旅の女医さんに出会えたから後で紅君も診て貰えるよ」


 どうやら四方からの奇襲に備え、前方をルージュ。右側へ恋で左側にネロ、後方がシュッツ達の陣形。

 話し掛けている自身が何処に居るか、肩に手を置いたり手や腕を掴んで分かり易くしてくれる二人。

 にしても、旅の女医──か。大将や巴さんが連れてきた女医を思い出す。あぁ、二人は大丈夫だろうか? 


「二人に聞きたい。捕まった時の事、聞いてもいいかな?」


 何にしても、情報が全くと言っていい程足りない。何故ベビド兵士長、実力者まで捕まったのか訊くと。


「うむ。アレは朝方じゃったか……兵士長として仕事へ出る瞬間、部外者達に四方八方から襲われたんじゃ」


「お爺ちゃんを囲ったかと思ったら、今度は見送る私の方にも雪崩れ込んで来て、気付けば……」


「捕まっていた訳か。でも、どうして部外者達と分かったんだ?」


 戦う準備も、戦える場所でもない所へ集団で四方八方から襲い掛かり、身動きを封じ捕縛。

 続けて血縁者の心情ゆかりさんへも襲い掛かり、ベビド兵士長を脅す材料を得、抵抗させない。

 話を聞く限り、タイミングが完璧過ぎるし、囲う程の人数ともなれば犯行は計画的だ。何故部外者と分かったか訊けば──


「流石に分かるわい。毎日の警備もある上、ヴォール王国は基本的に移民の受け入れを断っとるからのぅ!」


「外部による国内からの侵略を防ぐ為。の名目でね」


 部外者達と分かったのも、襲って来た全員が見知らぬ顔かつ、街の警備と国の方針で判別したとか。

 にしても……そんな大勢の部外者がよくヴォール王国へ早朝から侵入し、計画的に行動出来たもんだ。


「じゃがなぁ……余りにも手際が良過ぎて、まるで機械兵でも相手にしてる気分じゃったわい」


 その言葉に思わず、人間牧場で行われていた事を言うか否か──迷ってしまった。

 非人道的な、効率のみを求めた所業。その内容を……いつかは伝えなければ成らないのに、声が出ない。

 そんな想いを胸に抱えていると、離れた場所から此方へ駆け寄ってくる足音が一つ。


「ベビド兵士長、周辺の警戒状況を報告します。敵の反応は無し、他の方々は夜襲に備え、仮眠を推奨しています」


「うぅ~む……そうは言うがな。他に警戒出来る者が居らぬ現状ではのぅ」


「視覚以外の五感は残ってるし、探知も出来るから休むといい。今の自分に出来るのは、これ位だし」


 足音の主はトリスティス大陸で仲間になった人間の青年、ムート君。

 ベビドから余り良い評価の無かった彼が、情報伝達をやっているとは……自分の戦いを見付けたのかな?

 他の方々。つまり四方陣の面々から言われてるんだと理解し、渋るベビドに進言すると、渋々頷く。


「何かあれば、直ぐに呼びに来るんじゃぞ?」


「はい。重々承知しております、ベビド兵士長!」


 念には念を入れ、釘を刺す姿に姿勢を正し、敬礼と堅苦しい言葉遣いで返すムート君。

 あんな重装甲の鎧を着たまま寝れるのかは疑問だが、一々着替えるのは手間と思考を切り捨てる。


「それにしても──お久し振りです。紅さん」


「あぁ、久し振り。以前のようなオドオド感は無くなったな」


「はい。兵士長に鍛えられて、少しは落ち着きを持てるようになりました」


 兵士になる為の訓練を耐え抜き、心に余裕を持ったであろう彼は、苦笑いをしていそうな声で言う。

 足音から察するに装備は軽装で、動き易さを重視していると思われる。


「そのお陰で勇者候補生さん達と協力して、もう一人の勇者候補生パーティーを追い払えましたし」


「あの施設に居たのか。アイツら」


「あぁ、知ってるんですね。装備を見るに恐らく、あの施設の関係者に協力していると思われます」


 話してる内に、あの場にもう一人の勇者候補生改め──ルーザーが居たのにも内心驚きだが。

 まさか調律者姉妹と協力し関係とは……候補生とは言え、勇者だったら何をしても良いと思ってるのか?


「……すみません。兵士長との会話、この通信機を通して聞いていたんです」


 突然頭を下げると理由を述べて謝り、頭に装着していたマイク付きヘッドフォンで聞いていたと自白。


「それで……その、眼が見えないって聞いちゃって」


「もっと早く行動していれば──ってか? 関係ねぇよ。これは支払うべき代償だからさ」


 よくある話だ。結果よりも早く行動していれば、結果は変わったかも知れない。

 そう言いたいのだろう。確かに自分もそう思う事はあるし、その考えに苦しめられる事も多々あるさ。

 でも──これは支払うべき代償。夢か俯瞰視点で視たナイア姉が言った言葉通り、文武不相応の代償。


「そんな『たられば』に固執するな!! 情けなく悔やんだ所で結果は変わるか?! 答えは否だ!」


「紅君……」


「人ひとりがどれだけ頑張った所で、結果は何も変わらん。変わったとしても一時的か、根本的な解決にはならん!」


 こうしたら、あぁしていれば。そんな後悔は無理にでもいいから頭の片隅に追いやれ!

 誰かの失敗や行動が原因を悔やんでも、手や声が届いても、相手に意味が伝わらなければ無意味も同然。

 仕事も、世界も、一個人の頑張りだけでは変わらない。それを悔やむムート君にキツく伝える。


「今回は自分が自己犠牲の決断を取り、代償を支払っただけに過ぎん。人の決断を勝手に悔やむな!」


「で、でも……」


 まだ納得がいかない様子。そんな彼にどう言えば伝わり易くなるのか、考えていると頭が痛くなってきた。


「例えばだけど──赤の他人が犯罪を犯したとしても、君は自分が悪いって悔やむの?」


「い、いや……流石にそれは、悔やまないよ」


「紅君が伝えたいのは、そう言う事なんだと思うの。自身や誰かの決断や行動を悔やんでも、結果は変わらないって」


 余計な口出しをしなかった心情さんが横から割って入り、ムート君に質問を行い、話す。

 それは自分の言葉よりも、個人的に分かり易く思えた。過ぎた結果は変えられない、それは当たり前。


「調律者姉妹が世界を支配すれば、そんな悩みは消えるだろうさ。人間から家畜に成り下がるんだから」


「そ、そんな……」


 彼女の言葉に乗っかる形で、調律者姉妹の計画を止めなかった際の結果を話す。

 滅亡や虐殺とはまた違う絶望が待ち受ける、そんな未来。それを想像してか、俯く。


「自分はそれを阻止したい。けど、自分一人が頑張った所で、周りに迷惑を与えて邪険にされる。君はそんな時、問題を起こした自分……俺に後悔したり、悪者だと憎み、怨むかい?」


 そんな未来を迎えさせる訳には行かない。でも個人が幾ら頑張っても結果は変わらない。

 寧ろ悪化さえする──そして人々は事態を悪化させた自分を悪者扱いし、村八にすらするだろう。

 その時、ムート君は自分を──紅貴紀の行動を悔やみ、憎み、怨むのか問い掛ける。が、彼は何も答えない。


「生きると言う事は戦いの連続だ。自分はアイツらと戦う命懸けの道を選んだけど、後悔はしてない」


「どうして……アナタは、そんな悪者扱いされるような選択を」


「じゃあ逆に訊くけど、正義って──何? 正しい事が正義って言うのなら、相手を傷付ける事も正義?」


 人生とは戦いの連続だ。誕生から死ぬまで、他者の命を喰らい続ける行為に過ぎない。

 ヴィーガンは植物は命じゃないと言うつもりか? いいや、植物も立派な命だ。それに──だ。

 人生に疲れ、死にたいと願う者に生きろ。とエゴを押し付ける輩を正義と言えるか? 否、断じて否!

 生きる事は絶対悪だ、正義なんて何処にもない。もしあるとすれば、それは──人間に取って都合の良い正義だけ。


「ムート君、自分は断じて正義の味方じゃないよ。寧ろ、悪の権化だと断言する」


「なんで……」


 声から察するに、落ち込んでいる様子の彼には悪いが、続けて自分の気持ちを身勝手に伝える。


「自分は幾つもの命・夢・未来・希望を奪っている。止めてくれと懇願する者の願いすら蹴って」


「学校や社会で起こるイジメも──そう言う事だよね。相手の懇願を嘲笑い、却下するのは」


「あぁ、正義じゃ悪は絶やせない。だからこそ自分は、悪を成して巨悪を討つ。失明は代償の一つに過ぎん」


 殆どの人間は意識していないだろう。自身の言動が、相手にどの様な結果を与えているかなんて事は。

 誰かを蹴落とし喜ぶ奴、未来や夢を奪い嘲笑う愚か者。されど、いざ己の番となれば土下座をしてでも許しを乞う。

 自分はそんな連中が大ッッ嫌いだ。魔神王軍や調律者姉妹達はそんな選択肢は取らないが、奴らの計画は絶対に阻止する。

 例え──人類を敵に回す事になったとしても、この選択だけは譲らないし曲げない。一人の人間として。






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