連鎖
『前回のあらすじ』
調律者姉妹の創造した後継型・第七世代と戦うも……貴紀の攻撃は防がれ、避けられる始末。
何かしらチートをしていると認識し、チートにはチート。その考えで覚える能力のリミットを外し限界を突破。
その力でケンプファーに大打撃を与えるも、頭や攻撃した際の反動で貴紀もボロボロになり、戦闘不能に。
動けない中、見せられる仲間達や家族が脳手術をされる光景がモニターに映る。満身創痍で助けようとするも……
今まで体験した事の無い、麻酔無し意識ありと言う脳手術。ロボットアームには様々な手術用の品々。
それが頭に迫って来る不安要素の塊みたいな体験、高まる死の恐怖により各々が声をあげる。
「……ッ!!」
助けなきゃ。そんな想いで体を動かそうとするも、逆に右脚を床に着け、体を支えるだけで精一杯。
各々の悲鳴や覚悟を決めたり、俺との別れを口にする言葉が響く中。ふと聞き覚えのある声に気付く。
どうなるのか心配する幼い声と、大丈夫だと落ち着かせる女性の声だと知り、慌ててモニターを見る。
仲間達と共に映る茶髪の姉妹は……まさか! 昔、ユーベル地方を旅した時にお世話になったあの姉妹か!
「あなた達の掲げる有象無象の正義など不要。私達の掲げる正義こそ、唯一無二の絶対正義!」
「無駄な感情やモノを全て切り捨ててこそ、真の平和は簡単に訪れるのに……本当、馬鹿な人類だよね!」
言い返してやりたいが──喋る元気すら出て来ない。確かに数多の正義を一つに絞り、無駄を無くせば。
戦争や争いは無くなるだろう。けど!! 人間って奴は無駄があるからこそ生を謳歌出来る生命体。
そんな人間から感情まで切り捨てたら、ロボットと変わらない。それすら分からんのか、調律者姉妹は!
「「──!?」」
そんな時、突然地下フロアが大きな地震でも起きたのか!? と疑問に思う位の勢いで大きく揺れ動き。
モニターやガラス越しに見えていた、調律者姉妹の明るい部屋まで真っ暗になった。恐らく停電と思うが……
『非常事態にて、DT-0が緊急放送をお送りします。現在、当施設はナイトメアゼノの猛攻を受けております』
地下に居ても、外から地中深くまで轟きそうに聴こえる複数の爆発音。
その頻繁さたるや──太鼓の激しい連打や、爆撃機達の爆雷連続投下にも等しい。
「破壊者にトドメを刺せるこのタイミングで?! っ……DT-0、停電はそれが原因!?」
『否定。停電の理由は、ブレイン・フルヒトの拒絶によるものと判断。ナイトメアゼノ、施設内に複数体出現』
まだチビの頃に戦ったディーテの声が部屋に響く。施設内放送らしく、此方にも聞こえてくる。察するに──
『嘘偽り無く本当』にイレギュラーな事態らしい。しかし何故、ナイトメアゼノがこのタイミングで襲撃を?
「ッ!? ……チッ。チャンスと思ったが、それ程甘い話じゃないって訳か」
頭痛状態に追加で来る痛み。それは常時発動状態に切り替えた覚える能力の代償、覚える見返りの一つ。
奴らの狙いは……相も変わらず俺だ。悪夢の王と深い縁とやらがある俺自身らしい。
助け──と言うよりは、殺される前に奇襲を仕掛け、混乱の最中に目標を奪え──と言った感じか。
『緊急警報。緊急警報。施設内、内部にナイトメアゼノシリーズの出現を確認。停電により、全機能停止中』
「あなたの量産型を遠隔操作で起動させて、迎撃に当たらせなさい!! それからアルファにも連絡を!」
『指令、受諾。任務……遂行開始』
此方にも聞こえる位の大声で喋る辺り、相当焦っている様子。
これ以上の頭痛や吐き気は耐え切れない為、ウォッチを床に向けて叩き付け、押し込まれた状態から戻す。
鼻から床に滴り落ちる血に気付き、限界が近かったと知る。……照明が、明滅を繰り返してる?
「電気が……復旧した? あぁ、花が行ってくれたのね」
『肯定。報告中に動いていたと判断。迎撃率、約四十パーセント──最新型の機体も幾つかは乗っ取られた様子』
電気が戻ったらしい。視界も幾らか見え易くなった。どうやらスキル・スレイヤーは……
所有者が瀕死に近付くにつれ、効力が薄れるようだ。どうりで停電中、視界が暗かった訳か。
最新型が乗っ取られるとか、調律者勢力も災難だな。いやいや、そんな事より仲間達は!?
「電源が戻ったのなら公開手術の再開を──居ない?!」
モニターの電源を入れたのだろう。が……何処の部屋も空っぽの手術台しか映らない。
停電中に何が起こったのか? 疑問と謎で頭が真っ白になっていると──画面下から黒髪の人が現れ。
「残念だけど、捕まってた人達は全員解放させて貰ってるよ。こんなの、ゴブリンの生態と大差変わりないし」
「その声。ルージュ……? ルージュ・スターチスか!?」
「イエーイ、見てる~? 君と運命共同体のボク、ルージュ・スターチスがまたまた助けに来たよ!」
してやったりな顔を見せ、調律者姉妹の計画を小鬼の生態と大差無いと言い放つ勇者候補生。
左目は見えず、右目も霞んで殆んど見えない為、聞こえてくる声から判断し大きな声で呼び掛ける。
聞こえてるのか否かは兎も角……返事を返すルージュは意味を分かって言ってるのか? 運命共同体とぬかす。
「十八番目君は勇気君と一緒に、誠実ちゃんの護衛を受けながら撤退。殿はボクに任せてよ」
「DT-0、アルファ!! 侵入者と収容者達の脱出を阻止しなさい! ……返事をしなさい!」
何の呼び方か分からんが……分かるのはルージュ達が捕まった者達を連れ。
脱出中と言う点のみ。それを阻止しようと指示を飛ばすも──返事は無い。
「どうしたって言うのよ……まさか、アルファまでもがやられたって言う──」
「悪い子は──居ねぇがぁぁッ!!」
思い詰めた様な声に変わったと思いきや、今度はルージュがなまはげの台詞を叫び。
調律者・桜の顔面に綺麗なフォームのドロップキックを叩き込み。
ガラスを割り、此方側へ二人揃って……上階からドロップキックを決めたまま落ちて来た!
「おっと、これは予想外。想像以上に高いね」
「左手は……まだ動く。スカーレット・ウィップ!」
ガジェットを取り出して弄るより素手の方が早い為、左手に緋色の魔力を集め、鞭の様に伸ばす。
狙い通りルージュに巻き付いた瞬間、パワーグリップを発動させ此方側へ引き寄せるも。
受け止め切れず、仰向けに押し倒され目を開ければ……ルージュの顔と唇が間近にあった。
「ナイスキャッチ」
「いっつつ……あ、あんまり間近で喋るな。変に意識すんだろ」
「別に構わないよ? どうせ、ボクに近付くのはボクの力にしか興味の無い連中だし」
にかッと無邪気に笑う君の顔はなんと言うか~……その、いい意味でとても心臓に悪い。
多分、頬は赤くなってると思う。これ以上意識しない為にも視線を逸らし、注意するも効果無し。
「いい雰囲気。と、世間一般では言うんでしょうけれど。ケンプファー、行けるわね?」
「損害箇所、確認。完全回復完了、準備万端」
「そう。それなら──侵入者諸共、破壊者を倒しなさい!」
話し掛けられ、二人揃って同時に調律者・桜とケンプファーへ振り向く。
無茶やって戦闘不能にまで追い込んだのに、もう完全に傷を回復し切ってやがるとは。
そして下された命令に従い、此方へ駆け出して来た!
「──ッ!?」
「この魔力量……このドタバタ連鎖に面倒な奴まで来たみたいね」
重なり合う姿勢からじゃ、例え体が無事でも流石に間に合わん。そんな時……
目の前に蒼炎が円陣を横一列に作り、ケンプファーの接近を遮ると同時に──魔力反応からして、俺達二人。
その後方にも蒼炎の円陣が三つ展開されているらしい。十中八九、どの位置に誰が現れるか……分かった。
「悪い子は……えぇ~っとぉ? んん~……! 斬首だ~」
「なまはげの台詞何処へ行った!?」
予想通り、正面に現れたのは働き蜂の階級的な奴。
茶色いローブで身を隠し、調律者側に何やら青い光弾を撃っている様子。
後方には赤い髑髏のナイトメアゼノ・アニマ、髑髏武者のナイトメアゼノ・スカルフェイスが二体。
あ……やっぱり俺達の腕を掴んで捕獲しますか、そうですか。って、なんでルージュまで?!
「我田引水融合人、ナイトメアゼノ・アポステル。盗人と贋作の足止めを」
「この反応信号、数値……そう言う事。盗人はどっちかしらね?」
「人類を効率良く滅ぼす為には、あなた達の兵器を使う方がとても良いですのよ?」
調律者・桜を盗人呼ばわりし、相手からも盗人呼ばわりされる。後者は緊急放送で知ってるが。
前者は──と考えると、恐らくアルファが採取して帰ったメイトの細胞だろう。
効率云々に関しては、アニマの発言が正しいと思う。自国で造らずとも、他国の技術と材料で作れば良いしな。
「ボク達、これからどうなっちゃうのかな?」
「悪夢の拠点にお持ち帰りされて、最悪、洗脳されて奴等の仲間入りかもな」
様子見なのか、アポステルと呼ばれた茶色いローブの隊は射撃の手を止め、下ろす。
次は何やら睨み合いを始め出し、蚊帳の外気味な空気の中、ルージュが不安そうに聞いて来たんで。
知ってる事と予想を伝えた。すると駄々をこねる子供の如く脚をバタバタさせ、暴れ始める始末。
「アンタらも大変だな。アニマの付き添いやら与えられた仕事をやるって言うのは」
駄々っ子な勇者候補生を見ていると、長男や長女の苦労にも思え、スカルフェイス達に同情を覚え。
上を向き返事が帰ってくる、来ないに関係無く話し掛けると「分かってくれますか……」的な表情をする辺り。
誰でも苦労と言うモノは付いてくるんだな。と思い、スカルフェイスを少し理解出来た気がした。
「ケンプファー。あなたは何故、無理矢理彼を継ぎ接ぎの駄作、酷い贋作として作り出したんです?」
「衝撃。桜様、ワタシは駄作、贋作なのですか?」
「フン。駄作贋作なのは、破壊者の方でしょう? 終焉の闇の酷い劣化コピーの贋作なのだし」
睨み合いの沈黙を破ったアニマは、ケンプファーに思う事があり、調律者・桜に問い掛けると。
発言内容が気になったらしく、闘志野郎も問い掛ける。少し間を空け、口を開いたかと思いきや。
言葉の答えをはぐらかし、話題の矛先と右人差し指を俺に向ける始末。ちゃんと言ってやれよ……
「確かに彼は今でこそ、駄作や贋作かも知れない。けど、運命は常に残酷な真実を突き付けますのよ?」
相も変わらず幼女みたいな声で、毎度の如く何やら謎を含んだ言い方をし、悩ませてくる。
喋り終えたのを合図にアポステルは再度射撃を始め、スカルフェイスが動き出した為。
そろそろ連れ帰る気だ、と理解──すると、また停電でも起きたのか。視界は真っ暗闇に包まれる。
「ナイスタイミングだよ、誠実ちゃん!」
「その呼び方は止めろって、何度も言ってんでしょーが!!」
良いタイミングだと喜ぶルージュに、記憶に残ってる声が呼び方に砕けた口調で文句を言いつつも。
掴まれていた両腕が離され、落下するも誰かが抱えて走る感覚と振動が、体に襲い来る。
「残念だけど、今回はボク達の勝ちだよ。このまま君達の計画も全部、打ち砕いてやる!」
「ふふっ……今は、貴女に預けておきますわ。二番目の花嫁さん」
「全敵勢力の離脱を確認。桜様、如何なさいますか?」
「施設の被害確認と修復──の前に、貴方は腹八分までの経口補給をしなさい。タイムリミット寸前だしね」
撤退中に二つの敵勢力に対し、中指でも立てそうな勢いの声で宣言……いや、挑発。
魔力反応から撤退したアニマ達、ナイトメアゼノの勢力。何か、妙な事……言ってた気がするんだが?
調律者勢力も此方へ追っ手を出さない辺り、今回は見逃してくれるらしい。次回は──多分無い。
こうして俺達は、人間牧場から無事仲間達や家族。捕まった者達を解放し、脱出したのだった。




