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ワールドロード  作者: オメガ
序章・our first step
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調査

 貴紀とサクヤがノゾミさんの襲撃を受け、敗北した直後の事。

 機都・エントヴィッケルンに在る中高一貫の学園。花一華(はないちげ)学園、魔法研究室では夕暮れにも関わらず室内の蛍光灯を点けず、辞書並に分厚い本を持つ白い髪の少女が立っていた。


「これで良し……邪魔者は捕らえた。後は時を待つだけ、か」


 紅い瞳、首元まで伸ばしたもみあげ、黒いゴムで括った後ろ髪。足下には逆向き五亡星を描いた陣と複数の火が点いた蝋燭。

 陣の中心へはサクヤの写真が置いてあり、発言と怪しい儀式的な道具類から、此処で何かをしていた事は素人でも判る。

 やるべき事を終えたらしく、扉を開けて部屋を一歩出ると――――魔法研究室から出て来たのは、桃髪と長いもみあげが特徴の心情ゆかりだけ。白髪の少女は何処にも居ない。


「あれ? 私……確か校長先生に呼ばれて、校長室へ行った後……?」


「心情さん。もう下校時刻を過ぎてますよ、早く帰りなさい」


「は、はい! 失礼します」


 ふと気が付けば自身は廊下で棒立ち、今何処に居るのか周りを見渡し後ろの部屋を見れば魔法を研究し、学ぶ魔法研究室前。

 記憶が途切れる前、最後に何処で何をしていたか思い出すも……校長室から後が思い出せない。

 歩き近付いてくる足音に気付き、顔を上げると花一華学園の女校長に早く帰宅するよう注意され、一礼して足早に正門へ向かう。

 その一部始終を天井に付けられた、防犯カメラが見ていた。翌朝。朝食を作り、食べ終わった時に朝刊を見、大きく眼を見開き朝刊を落とす。


「そ、んな……どうし、て?」


「ゆかりよ、どうしたんじゃ。ほれ、朝刊が落ちたぞ……むっ?」


 大きく後退り壁にぶつかると、そのまま床に座り込み両手で顔を覆う。何があったのか判らない祖父・心情ベビドが落ちた朝刊を手に取り表紙に眼を通せば。

 今回の行方不明者と書かれた文章に、新月サクヤと紅貴紀の名前、顔写真が載っていた。現場には割れた反射鏡が在る他に、手掛かり無しとも。


「この者達は志願兵の無月終焉。ゆかりが儂に良く話してくれる、彼の友人じゃったな」


「……うん。友達の寧ちゃんが切っ掛けで、友達になれたの」


「そうかそうか。友達が出来たと喜んでおったから、今回の事は辛く感じてしまうのう」


 二人とは一度冒険者ギルドで知り合い、孫娘からやっと出来た友達と喜ぶ姿と共に聞き、終焉が兵士へ志願した為ベビドの印象に深く残っていた。

 大切な友人が事件に巻き込まれたショックが強く、体育座りで膝を抱え、俯いたまま喋る。


「一緒に居てやりたいが、儂はこの事件を調査しなくてはならんのじゃ」


「うん」


「親として、子より仕事を優先する儂を軽蔑しても構わん」


 孫娘が眼に見えて落ち込んでいる様子から、立ち直るまで居てやりたい。されど被害拡大を阻止する為には仕事へ行く必要がある。

 なるべく誤解を生まないよう言葉を選び、親失格として軽蔑も受け入れる旨も伝えた上で。

「孫娘と同じ者をこれ以上増やさぬ為、儂は親として人として、事件を解決してみせる」と約束を交わし、家を出た。


「…………此処が、事件現場」


 昼過ぎ頃。落ち込んだ気分を晴らそうと一人で散歩するも、気が付けば何故か、事件現場へ足を運んでいた。

 辺りを見回しても野次馬は居ない。この辺りは朝・昼は人通りがちらほらと見受けられるのだが、事件発生後と言う事もあり人気は無い。


「反射鏡が割れてる。でもこれ。人がぶつかって割れたとかじゃなくて」


「おいおい。此処は立ち入り禁止……って、兵士長の孫娘か」


「無月君」


「君は止めろ、君は。終焉で良いっての」


 事件現場を見てみる。変わった処は鏡が割れている程度で、事件解決の手掛かりへは繋がりそうに思えない。

 しかし疑問に思う点を見付けた時。後ろから突然声を掛けられ、振り返ってみればスレイヤー冒険譚を土地まで聞かせた相手。

 兜や鎧は一切身に付けず、青いズボンと白いシャツ、赤い上着を一枚着ている程度。余程君付けが嫌なのか、名前で呼ぶよう言う。


「……まさか、俺が失意の間に義妹弟が事件へ巻き込まれるとはな」


「魔神王が放った襲撃者事件、だね」


「あぁ。だが、お陰で眼が覚めた」


 横へ並んで現場を眺め、圧倒的実力差に戦う意思を折られていた間、義妹弟が事件へ巻き込まれた。

 当然ジャッジ達の襲撃は記事へ載ったし、古都壊滅や兵達が受けた被害、実力の欠片も世界中へ知れ渡った程大きなニュース。

 されど今回巻き込まれたショックが、逆に自身へいい結果を与えたと言う。


「俺はもう一度奴らとやり合う。今度は魔神王とやらも叩き潰してやる」


「お、大きく出たね……」


「先ずは都市伝説・ノゾミさんだ。その手掛かりを探してるんだがな」


 折られた心は長男として二人を守れなかった事実が切っ掛けとなり、立ち直った。家族を脅かす存在、魔神王をすらも倒す決意を抱いて。

 現状ではジャッジ達には微塵も勝てない。成長も含め、事件の原因とされる都市伝説・ノゾミさんを倒す為、手掛かりを探し求め調査中。


「あの反射鏡、鈍器で割った感じがするんだけど。手掛かりになりそう?」


「反射鏡か。確か事件現場の反射鏡、及び鏡の類は全て割られてたが、手掛かりには……なぁ」


 証拠となる手掛かりが一つも見付からず、調査は難航気味らしく腕を組み悩む姿を見て、自身が気付いた疑問点を話してみる。

 それは事件現場にある共通点だと言い、鏡が割れている程度、手掛かりとはならない。調査中の兵士達は全員知っているし、気付いてもいる情報。


「……いや、ちょっと待てよ。確か古都には古い文献や資料が有ったか。サクヤが暇を作っては読み漁ってたな」


「もしかして、魔神王の配下達はソレを知ってて古都を滅ぼしたんじゃ……?」


「あり得るな。そう考えるとサクヤが標的で、貴紀は偶然一緒に居て守ろうと戦った、か。よし、そうなれば」


 壊滅的な被害を受けた古都、事件現場に唯一共通する割れた鏡。二点から古き物、歴史を大切にする古都で過ごしていた頃。

 サクヤが文献や資料、書物を好んで読み漁っていた事を思い出し、追加の判断材料を提供され手掛かりへ一歩進んだと内心グッとガッツポーズ。

 同時にサクヤが狙われた理由も判明。残る手掛かりを得る為、ズボンのポケットから薄い携帯電話を取り出し、兵士長のアドレスから電話を掛ける。


(でもそうなると、他の被害者さん達はどうして行方不明になったんだろう?)


「よしよし。古都に有った資料や本は全て機都の大図書館へ納められてると来た」


 ふと思った疑問。仮に古き歴史や出来事を知っていたが為に事件へ巻き込まれたなら、他の被害者達はどうなのか?

 理由や共通点は何かと考えていると、幸運が舞い込んできたと言わんばかりの満足げな顔で話し、大図書館へ駆け出す。




「おいおい……コレを全部調べるのか」


「私も此処を使う時はあるけど、調べ物する時は本当に大変でね」


 大図書館内部、入り口で周りを見渡す二人。大図書館の名に相応しく、横幅も広くフロア別な上、最上階は七階まである。

 各所へ配置されている検索機を捜索してみるが、フロア別に表示される為か、大体の位置と階を絞った後は自分で探さなければならない。


「古都から回収し納めた本等は七階、全十二フロア!?」


「手間だけど、探すしかないね」


「目的の情報を得るのに、何日掛かる事やら」


 探している本等の位置と階は判った。が、全十二フロア……つまり三階建てマンション、全四十五部屋を埋め尽くす本を調べるに等しい。


「仕方ねえ。片っ端からしらみ潰しに調べて行くか」


「じゃあ、私は反対側から調べて行くわ」


 膨大な本を一ヶ所ずつ調べるより、二手に別れ左右両端から調べて行く為別行動を取る。

 しかしパッと見るだけでも圧倒的な本や巻物の数々から、必要な情報を得るのは難しい事が判る辺り、探そうとする気持ちはやはり失せてしまう。


「う~ん……まあ、やって行こうか」


「…………」


「今の人……手招きをしてた?」


 何はともあれ、始めなければ時間の無駄。片っ端から本棚に詰め込まれた本や巻物から悪魔関係がないか見て行くと。

 花一華学園のセーラー服を来た白い髪の女子が、窓際で微笑みながらゆかりへ手招きをし、隣の本棚へ移動して姿を消す。

 もしかして、自身らが探している本か巻物の事を偶然聞き、位置を知っているから教えてくれるのだろうか? 淡く都合の良い解釈で後をついて行く。


「あれ? 居ない。はあぁ……そうだよね。そんなに都合良くある訳無いか」


「ゆかりちゃん? 七階へ来るなんて珍しいね」


「寧ちゃんこそ、どうして此処に」


 後ろ姿を追って読書スペースへ辿り着くも、自身を手招きした女子の姿は消えていた。深い溜め息を吐き、都合の良い幻覚でも見たのだと思う。

 すると読書スペースに座って沢山の本を読む人物、未来寧に話し掛けられ、お互い古い文献等全く興味無いが故に、七階に居る事へ疑問を持つ。


「私は都市伝説・ノゾミさんの情報を探ろうと思って、此処へ来たんだよ」


「寧ちゃんも? 実は私と無月君も同じでね」


「そっか……でもタイミング良いね。今丁度、見付けたところなんだ。ほら」


 お互いに今回の事件を探ろうと思い、調べに来ていたと話し、開いている巻物を指差してコレだと言う。

 隣の席へ座り、指定された箇所を見てみる。記載されていた文字は古くて読めないが悪魔を表す絵があり、絵で何を伝えたいか多少は判る。


「我々がノゾミさんと呼び、文明を滅ぼした悪魔。その名はアバドン、後に光の使者が封印した。ってあるの」


「アバドン?」


「元々は悪魔王を冷獄へ封じ千年間見張った蝗姿の天使だったんだけど、何かしらの出来事があったみたい」


「い、イナ……ゴ」


 遂に判明したノゾミさんの真名。容姿が幾ら悪かろうと元々は神の使い、天使。それが何故悪魔へと変わり果て、超古代文明を滅ぼした理由。

 原因までは何一つ書いていないが、最後の方に赤い文字で悪魔去りて花が咲き、幸せの悪夢に人は堕ち、光は去りて蘇った滅亡の闇が文明を滅ぼした。とある。


「弱点とか、何か書いてない?」


「堕ちし者、マコトに一切映らず。汝、力を削ぐならばマコトを手に、勇気を胸に心の臓へ飛び込むべし」


「マコト……もう。謎を解きに来て謎が増えるのって、一番嫌なパターン」


 悪魔と言えど弱点は有る。もしも遭遇した際に所持していれば、追い返す事も出来るかも。そんな思いで聞いてみたけれど。

 返って来たのは、謎解きを要求する言葉。また頭を使うパターンに少し、嫌気が差し表情を曇らせながら終焉を呼びに出て行く。


「…………貴紀君はね。毎度毎度、死に物狂いで頑張ったんだよ。謎解きも、異形や地球外の邪神との戦いも」


 ゆかりの背中を見送った後、巻物を丸めつつ独り言の様に呟く。思い返す姿はどれも痛々しく、ボロボロな姿が多い。

 両腕を切り落とされても脚で戦い、人を助ける為に何度も庇い傷付く。自分はただ守られ、力になれず悔しい思いをした事を振り返る。





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