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ワールドロード  作者: オメガ
二章・Ev'ry Smile Ev'ry Tear
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隠された真実

 『前回のあらすじ』

 非戦闘員であるマキによる、起死回生の策とツヴァイの裏切りで、再起に必要な補給を受ける貴紀。

 ゲミュートはまだ勝機はあると考えるも、吸収した魔力は自身に悪影響を及ぼし、人質を解放してしまう。

 解禁された異能、アイン・ソフ・オウルと麒麟・黒刃の力で、跡形もなく消滅させ、辛くも勝利を得た。



 なんやかんや、色々とあったけれど……漸く勝った。その証に暗雲は晴れ、太陽が顔を覗かせ。

 海は元の綺麗な、青々とした色を取り戻して行く。それを見て……此処での戦いは終わったと確信した。

 この悪意漂う海に、捻れ、歪んだ果ての愛憎と心禍に勝ったと。例え絵本や漫画の主人公みたく──

 格好良くなくても良いんだ。泥まみれ血塗れ、汗だく傷だらけの格好悪い姿こそ、人間らしい姿だ。


「上玉!」


「ヒーローさ~ん……」


 救助しぐったりしたトワイやルージュ達を連れ、海を泳ぎつつ此方へ呼び掛ける二人に、自分は。

 サムズアップ……では無く、左手で握り拳を作り、天高く掲げて笑みを浮かべ、勝利したと示す。

 すると二人は顔を見合わせ、心配する蕾の様な表情から一転。笑顔と言う花を咲かせ、此方へ急ぐ。


「私達……やったんだね。たっくん」


「あぁ、勝ったんだ。自分達の力を合わせて、この海を覆う闇に」


 勝った……確かにゲミュートには勝ったと言える。それでも大元を断った、改善出来たとは言えず。

 内心、もやもやしているものの。それは敢えて口に出さず、肩を貸してくれるマキに笑顔を向ける。


「でも……また同じ事が繰り返されて、またゲミュートが現れた時。その時代の人達は、どうするのかな」


 けれど、顔に出ていたのか。マキは自分が抱えている不安を代弁し、口にした。

 人間は過ちを何度でも繰り返す。過程や方法に、幾らかの違いはあれど。もしそうなった場合──

 自分は呼ばれても一切手助けをせず、自業自得、自己責任だと言い捨てて、見殺しにするだろう。

 その時、加害者達は被害者面をして自ら招いた滅亡を前に批判や批難、罵詈雑言は言うだろうけどな。


「そら見ろ、ムピテ。取り引きで交わした約束、ちゃんと果たしてやったぞ?」


「えぇ、えぇ……ッ!! 正直っ、まさか本当にっ……やり切ってみせるとは、思いませんでしたわ」


「ハッ。これで此処で交わした取り引き、約束はほぼ全部、果たしてやったぜ」


 にしても──本当、約束はほぼ全部果たしてやった。パイソンやムピテとの取り引きも。

 残る約束は、クトゥルフに百合と薔薇の本を渡してやるだけか。まあそれは、副王に任すけど、な……

 駄目だ。長距離マラソンをハイペースで走り切った後みたいな疲労感、空腹感、眠気が一気に押し寄せ。

 緊張感の欠片もない、勝利の余韻に浸る余裕もない腹の音が鳴り響き、三人は笑う。


「ふぅ……ヒーローさん。おなかすいてるならさ~……わたしたちがなにか、もってきてあげるー」


「それは助かる。もう、一人で歩く力すら残ってないんでな」


 そう言うと、二人は救出したトワイとルージュを砂浜に寝かせ、海の中へと潜って行く。


「お疲れ様、ワールドロード。今回もなかなか、面白い舞台劇を見せて貰ったわ」


 自分をそう呼び、此方へ何処ぞのお嬢様同然に麦わら帽子が飛ばぬよう。

 右手で押さえ、歩いて来るのは──白いワンピースを着た少女姿の副王。

 砂浜にそう言う衣装って本当、似合うよな。外見だけは……とか言ったら絶対、機嫌悪くしそう。


「後で私の空間に来なさい? 私愛用のクソゲーを五本、連続クリアするまでやらせてあげるから」


「すみません、それだけは許してください」


 心を読まないで欲しい。それは兎も角、副王愛用のクソゲー五本連続クリアはマジ勘弁。

 一人で歩く力も残ってない癖に、土下座だけは綺麗に、礼儀正しく出来る不思議。

 マキの前でやると言う屈辱も、精神異常か崩壊を起こすよりは遥かにマシ。屈辱も霞むレベル。


「それはそうと……ほら、受け取りなさい。そろそろ在庫も切れる頃合いでしょ?」


 指を擦り合わせ、音を鳴らしたかと思えば、何もない空間から黒いトランクが一つ。

 砂浜に音を立てて落下。副王から直接、一本の注射器を手渡された。


「助かる。クエストの途中で代用品に回復薬(ポーション)を試してみたけど、どうにも合わなくてな」


「当たり前よ。貴方の体はもう、人間が耐え切れる範囲をとっくに超えてるんだから。摩耗しない方が不思議よ」


「えっ?」


「ハハッ。大の負けず嫌いな人間、ナメたら痛い目を見るぜ?」


 在庫と言う単語から、寧以外には内緒で使っていた材料だと確信し、代用品(ポーション)では駄目だったと話す。

 言われる通り、この体はもう既に──人間の限界を優に超えている。力を蓄えるタンクとしても。

 戦闘に耐え切れる、許容範囲としても。だから精密検査の時は寧に頼み、薬で無理矢理基準値をキープ。

 ズボンの裾をめくり、貰った注射器を傷だらけの右足へ刺し、中の青い液体を半分程注入しては抜き。左足にも同じ様に行う。


「たっくん、その脚……」


「知らなかった? 彼は身体中、一生消えない傷だらけなのよ。だから肌を人前に出すのを極端に嫌がってね」


 見られたのが脚だけなら、まだ誤魔化しも出来たと言うのに、隠された真実を次々と暴露する副王。

 あぁそうだよ。その為に長袖長ズボン、保険の意味も含めてロングコート、ローブを着てるんだよ。

 自分の選んだ道に同情や哀れみは要らない。馬鹿にする奴、無理だと言う奴に、達成と言う結果を突き付けてやる為にも!


「大の負けず嫌いで、恥ずかしがり屋。その上、こっそり隠れて努力してたりね」


「いや……マキ? そんな目で見ないで」


 調子に乗って、要らん事までポロポロと喋る副王の言葉を聞いて、知らなかった意外性を知った。

 そんな眼差しを向けられ、恥ずかしさの余りそっぽを向いて言う。そんな目も正直、求めてない。


「言い忘れていたけど、オルタナティブメモリーは貴方が砕くか、取り込む形で回収しなさい」


「なんでさ?」


 オルタナティブメモリー。その回収は副王と交わした契約、取り引きの最重要条件。

 そんで今更言われる、回収方法。取り込むのは言いとして、何故砕くと言う選択肢があるのか訊くと。


「オルタナティブメモリーは赤き光の力。極一部でも、歴史を『異質な記憶で上書き』してしまう程の力を持っているからよ」


 話を纏めると──オルタナティブメモリーは赤き光が闇復活を阻止する為、各地へ放った力の結晶。

 それはトリスティス大陸や此処でも、魔人やらナイトメアゼノシリーズを誕生させる程、異質な代物。

 多分、拾い主の願いやら心情を汲み取って、歴史と言う記憶の上塗りや上書きを行うのだと言う。


「もしそうなら、此処をこんな危険地帯に変えたのも、拾い主が原因って事よね?」


「えぇ。拾い主……ムピテと言うお馬鹿な人魚が、我が儘を妥協せず願った結果とも言えるわね」


「え? ムピテ? いやいや、そんなフラグは何処にも無かった……あぁ?」


 この世界、時代で初めて結晶を拾ったのはムピテであり、願ったのも彼女だと言うが。

 そんなフラグ、発言は一度も聞いた覚えがない……と思って曖昧な記憶を頼りに振り返ると。


「確か、ムピテさんに釣り合う宝石のようなオーラ。輝かしき才能を持つ者、ダーリンを求めてたよね?」


「あぁ。静久の何故恋人を求めるのか? って問いにも、地上で読んだ人魚物語の様な恋愛をする為って」


「もしかしたら、美しい自身に釣り合う恋人が欲しい。って気持ちに反応して……」


「そんな人物が現れる危険極まりない、ナイトメアゼノシリーズを産み出す様な環境にしたと?!」


 二人で次々と思い出してみると、バラバラだった点と点が一つの線で繋がり、仮説が生まれて行く。

 恐らく大陸が沈没する前に、絵本を見たと予想。その後に大陸は人間の兵器を受けて沈没。

 無垢なる道化現れ、白き人が何とかした後にでも、結晶を拾ったのだろう。

 そして結晶は心を写し取った。自身に釣り合う恋人が現れる環境に、作り替えようと。それが今回の原因かも知れん。


「故に貴方が結晶を取り込む、砕く事で上塗りされた歴史、記憶は元の状態へ戻って行く」


「同時に、自分は少しずつ力を取り戻して行くと。そう言う事か」


「その通り。でも、気を付けなさい? 三勢力だけが敵とは限らないのだから」


「あぁ。それとクトゥルフの奴に、植物じゃない百合と薔薇の本を幾つか送ってやってくれ」


 副王の話を聞いて、改めてオルタナティブメモリーを全て回収しようと思った他。

 三勢力。即ち魔神王軍のレヴェリー、調律者、ナイトメアゼノシリーズに加え、敵は他にもいると。

 視るべきは目の前のみにあらず。周りも注意深く観察し判断せよ。そう言いたいのだろう。

 言う事だけ言って、幽霊の様に消えて行く後ろ姿に頼み事をした。

 あの消え方……海辺・夏・幽霊・怪談と連想ゲームみたく繋げたのだろうか?


「いやはや……ボクとした事が、みっともない姿を見せちゃったね」


「そうでもないさ。ルージュが来てくれなきゃ、負けていた可能性が高い」


 目を覚ましたルージュは、活躍出来なかったイコール、みっともない姿と捉えている様だったので。

 本音でフォローを入れ、活躍は出来ていたと話す。すると念を押すように本当か否か、密着してまで聞かれ。

 何度も本当だと伝えたら、曇り気味だった顔は晴れ渡った表情に切り替わり、漸く離れてくれた。


「にひひ~っ。実はねぇ、取り込まれた時にコレをもぎ取ってやってたんだ~」


 そう言って、自分が貸したコートの右ポケットから取り出して見せたのは──

 ゲミュートが取り込んでいた筈の、オルタナティブメモリー。奴の中でもぎ取るとか、普通にすげぇ……


「はい、コレあげる。それと~、借りてたコートや君の武器もね」


「コートや武器を返してくれるのは当たり前として……コレは、いいのか?」


「いいのいいの。だって、ボクには持ってても意味のない代物だけど、君には必要なんでしょ?」


 貸したコートの上に恋月と朔月、結晶を乗せて返してくれた。

 恐らく、先程の会話を聞かれていたんだと思う。念の為、本当に良いのか訊ねても、いいの一点張り。

 結晶は有り難く頂戴し、ムピテ達が戻って来る前に、右手で強く握り潰した。すると空間が歪み──


「戻って行くね。ボク達の戦いや、君達の冒険すらも無かった事にして」


「別に構わんさ。誰かに褒められたい、認められたくてやった訳じゃないしな」


「たっくんがそう言っても、私個人としては何か、心に引っ掛かるモノを感じて……気持ち悪いよ」


 修正されて行く世界と時代。自分達が奮闘した結果すらも、文字通り白紙に戻す勢いで。

 英雄扱いされたいのなら、砕くべきでは無いのだろうが生憎、自分はそんなモノに興味は微塵もない。

 歪みが収まると其処は──砂浜は砂浜でも、名前の刻まれた長方形の石が突き刺さっている砂浜。


「……行こう。時代が正された今、もうムピテ達が戻って来る事はないんだから」


「そう、だね。修正された今、私達と彼女達はお互いに赤の他人になった訳だし」


「元の時代に戻るんでしょ? ボクも一緒に行くよ」


 時代の修正を受けてないであろう、拠点へと戻る中、ルージュはまだ目を覚まさないトワイを担ぎ。

 横隣を歩いて行く。こうして自分達は拠点に戻り、ゲートに触れる事で起動させて元の時代へ無事帰還。

 その後は拠点の修復、治療、報告と……あれやこれやと忙しく、まだ目を覚まさないシオリ。

 彼女の面会や冒険者ギルドにすら、なかなか行けないでいた。ある意味、戦いよりも忙しい。






 次回の更新で二章のストーリーは最後となり、閑話を挟んで新たなるお話。

 三章・alternative answerの第一話をお届け致します。

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