遭遇
二人横に並んで人気の無い道、帰路を歩いていれば「ねぇ、貴紀」と顔を覗き込みながら話し掛けられキョトンとした表情で立ち止まり、深い溜め息を吐く。
「キチンと前を見ないと危ないぞ」
「大丈夫よ。だって、何か起きる前に助けてくれるんでしょ?」
転ける、ぶつかる、落ちる。様々な要素が起こりうる可能性を思い、注意するも満面の笑みで言われ、右頬を軽く掻きながら「そ、そりゃあ、そうだけどなあ……」
茜空に照らされたサクヤの顔を見ると思わず一瞬見とれ、照れてしまい直視出来ない為に照れ隠しも含めてそっぽを向き、はや歩きで呟く。
それを理解してクスクスッと笑われ、一気に恥ずかしさが沸き上がり「幾ら助けるって言っても、限度があるんだぞ!?」頬をほんのり赤く染め続く言葉を言い並べる。
「ふふっ。判ってるわよ。ねぇ、貴紀?」
「はあぁ……今度は何さ?」
「前」
「ま――ええぇぇっ!?」
眼に見えて分かる子供っぽい反応がとても可愛らしく思え、笑いながらもう一度、先へ先へと進む彼へ話し掛け、名前を呼ぶ。
またか……そんな思いからか振り向かず、目を瞑ったまま再び溜め息を吐き、何事かと聞き返せばたった一言の短い言葉を言われ、一体前に何があるのかと思い前を向き目を開けた矢先――
顔面から低く設置されたカーブミラー……道路反射鏡へ勢い良くぶつかり、千鳥足で後退し尻餅をつくと、反射鏡に小さな亀裂が入っていた。
「大丈夫?」
「まあ、なんとか……!?」
立ち上がるよう手を差し伸べられた時。瞬く間に起こり、感じた違和感へ何事かと一瞬驚き周りを見渡す。
空飛ぶカラスは空中で止まり、目の前で微笑むサクヤも動きが停止。それは再生した映像の一時停止を思わせる現象。
「……この現象や此処へ飛ばしたのも、アンタの仕業か」
「相変わらず勘が鋭いわね。私の玩具は」
静かに立ち上がり、振り向かずやや呆れた声で何処か近くに居るであろう存在へ話し、問い掛ける。
話し掛けに応じ現れたのは白いワンピースを着、日焼けも知らぬ肌を持つ麦わら帽子を深々と被り、赤い靴を穿いた幼き少女。
見事言い当てた事へ小さな拍手で返し、口元がニヤリと笑う。
「誰がアンタの玩具だ。毎度毎度、何度も何度も、時間や次元を弄くり回しやがって」
「あら。二十七歳までしか生きれない失敗作が、良く吼えるじゃない」
「アンタらが創ったんだろ。終焉の闇を倒す為に俺と、サクヤを!!」
「えぇ。終焉と滅亡をもたらす闇と対になる存在、OMEGAZERO・Xをね」
玩具扱いや時間次元を弄くり回す相手へ振り返り不満をぶつけるも、火に油を注ぐ失敗作呼ばわりして少女達が自身らを創造し、失敗したんだろと怒らせる。
言葉足らずを補足した後。以前を思い出し「あぁ、でも貴方達は何十回も戦っておきながら、まだ雑魚と半数しか倒せてないものね」と言い腹を抱えて笑う。
「力の大半を失った初代無月終焉。いえ、原初の闇すら倒せない処か、返り討ちにされた失敗作さん」
「ハン。序盤や中盤から神々やらラスボス級にぶつけようとする、ド畜生がよく言う」
お互い売り言葉に買い言葉で言い合う二人。進まない話に呆れてか、紫の光球が貴紀の懐から飛び出し。
「遊ビニ来タダケナラ悪イガ、オ引キ取リ願オウ」と横槍が入り、やれやれと首を振り言い合いを止める。
「盲目白知って本当に罪よね。でもまあ、何処へ送り込んでも生きて帰って来て私を楽しませてくれるのは、唯一評価出来る点ね」
「獅子は我が子を千尋の谷に落とすってか? 素直に宿主様達が最後の希望で心配って言やああぁぁ!?!?」
「口は災いの元、と言う言葉を知らないみたいね」
遠回しに周りが見えていない、考えが足りないと注意すれば。無用心にもゼロは少女へ近付き、そんな言い方では無く率直に言えと発言した矢先右手で握られ、痛がる。
「ま、弱者なら弱者らしく走り回って、恐怖に飛び込む位しなきゃ勝てないんじゃない?」
「どう言う意味さ」
踵を翻し、貴紀達へ背を向け一歩、また一歩とゆっくり歩きながら言い放った言葉へ意味を訊かれると。
「それ位、自分の足りない頭で考えなさい。どうせ、一人じゃ勝てない半人前なんだから」等と好き勝手言った後、右手の指を擦り鳴らし消えた。
すると停止していた時間は再び動き出し、サクヤはいつの間にか立ち上がっていた事や、背を向けている事を不思議に思う。
「貴紀?」
「あぁ、ごめん。さ、日が落ちる前に帰ろう」
名前を呼ばれると一応謝罪の言葉を述べ、暗くなる前に帰宅しようと提案。
善は急げとばかりに自らサクヤの手を取り、一緒に帰路を歩いて行く。のだが……
「変だな。なんか、同じ場所をぐるぐる回ってる?」
「貴紀もそう思うって事は、私の勘違いじゃないわね」
「……急ごう。嫌な予感がして来た」
「えぇ。 急に暗くなり始めてるわ」
十字の道を幾ら真っ直ぐ進もうとも、同じ場所に出てしまう。目印となる割れた反射鏡を見て疑問を口に出せば、お互いに同じ事を思っていると発覚。
常時発動型スキル・直感が身の危険を察知し現在地からの脱出、移動を強く促す。空を見上げたら日が沈むにはまだ、時間があるにも関わらず闇が漂う。
夕日の弱い太陽光さえ一筋も通さないと言わんばかりに遮り始めた為、二人は四方の道全てを通るが……結局同じ場所へ戻って来る。
「塀の上も駄目かな?」
「駄目でしょうね。この一帯から強い魔力を感じるもの……獲物が罠に掛かった、と言わんばかりに」
通路が駄目なら塀の上……と思い相談するが、周辺が魔力で覆われて逃げれないと話す。互いに背を向け合い、背後からの奇襲を防ぐ。
「視られている? でも、何処から?」
「多分、この闇全部だ。自分達を観察してるのか?」
「……っ、来るわよ!」
何処からか感じる視線に焦り、周囲を見渡すが、あるのは全てを覆い尽くそうとあちこちから溢れ出てくる闇。
その闇が恐らく視線の正体だと思い口に出すも確信は無く、理由も判らない。周辺が闇で覆われ満ちた時……闇から人型に近い存在が現れた。
「今宵の獲物は貴様か……女」
「成る程。今度の狙いは私、と言う訳ね」
「コイツが都市伝説の……ノゾミ、さん?」
「ほう。我を知るか、男」
ソレは尖った耳元まで裂けた大きな口、頭の左右からクネリ伸びた角、つり上がった赤い眼はサクヤを獲物と捉え、溢れ出す唾液を身に纏った紫色ローブの袖で拭う。
発言から自身が標的と知り、少し後退りながら話す。もしかしてコイツが? 疑問系で問えば当たりらしく、貴紀へ左手を向ける。
「っ!? 体、がっ!」
「貴様は奴らの標的外だ。其処で女が我に喰われる様を眺めているがいい」
「汝を焼き払うは赤き放火!」
するとどう言う訳か、上半身が見えない何かに握られたかの如く締め付けられ、身動きが取れない。
そのまま左手を斜め上へ上げれば、一緒に体も浮き上がってしまう。助けようと奇跡の火炎球をノゾミさんへ連続で放つサクヤ。
火炎球は身動き一つ取らない相手へ命中。炎は役目を果たす為ローブへ燃え移り、全身を赤々と燃え上がる。
「この程度で我が倒せると思うか、女?」
「残念ながら、微塵も思って無いわ。聖なる十字に裁かれよ!!」
「弱い。弱過ぎるぞ、女!」
たった右腕を振るうだけで燃え上がる炎を消し去り、続けざまに発動した奇跡。足下に描かれた十字の陣より光刃が噴き出すも敢えて受け効果が弱いと発言。
「どうして……なんで効かないのよ!」
「もっと泣け、怒れ、喚け! その感情こそ、我にとっては最高の御馳走になるのだからな!」
「サクヤ、落ち、いいぃぃっ!?」
「さあ。その魂を肉体諸共、我が御馳走として頂くとしようか」
火炎球、光刃を受けても目立った傷一つ追わせれず焦り涙眼で力不足な自身へ怒り、喚く。一歩ずつ近付いて来るノゾミさんを前に。
圧倒的実力者のジャッジ達の姿が脳裏に浮かび、恐怖心が勇気に勝り一歩ずつ後退る。そんな姿と表情を見てニヤリと笑い、それが御馳走だと言う。
気持ちを落ち着かせようと呼び掛ける時、自身を締め付ける不可視の力が強まり、耐え難い苦痛に声が思わず出てしまう。
それがサクヤの恐怖心に拍車を掛け、後退りから逃走へ移った瞬間。裂けた口から白い煙が獲物を捕らえ。
カメレオンの舌の如く引き寄せられ、白い煙と一体化したサクヤを一口で食べてしまった。
「サクヤ……畜生!」
「男。貴様にはコイツをくれてやる」
「宿主様!!」
スレイヤーである事、オメガゼロと言う正体を隠す余り助けれなかった自身へ怒り、不可視の拘束へ抵抗しようと腕に力を込める。
無駄な足掻きだと右手より魔力で固めた尖った土塊、闇から得た紫雷を貴紀へ放つ。腹部や四肢に刺さった激痛。
体を流れる電流に意識は飛び、気を失ってしまい、心配の余り懐から飛び出した青い光。
「貴様は用済みだ。我が全ての力を取り戻し、世界を滅ぼすまで好きに生きるがいい」
「…………」
押し飛ばす動作をすれば、拘束されていた貴紀は勢い良く高く放り飛ばされ、闇の中へ消え青い光も慌てて後を追う。
闇が覆ったとかではない、正真正銘の夜。薄暗い森の中、仰向けに倒れた体の衣服は焦げて煙が立ち上っている。
何事かと思った動物達が見に来た。一匹のリスが恐る恐る左手に近付くと……ピクッ。指が動き、条件反射的に離れて木の上へ逃亡。
「グルルルルッ」
「ウォォォン」
「不味イナ。狼共ガ仲間ヲ呼ビヤガッタ」
茂みから出て来た狼達は不可抗力とは言えそれを知らず、不法侵入者である貴紀へ警告と唸り、他の狼は仲間を呼び集めようと低く遠吠えを上げる。
単体なら追い払えるが、複数で来られると厄介だな。飛び出た紫の光がそう考える最中にも周囲は囲まれ、お互いに警戒し身動きが取れない。
「……仕方ナイ。威圧デ追イ払ウカ」
「なんじゃなんじゃ。月見酒の最中に耳障りな遠吠えなんぞしおって……ん?」
無益な殺生は好まないのか、威圧を叩き付けて追い払おうとした矢先。今度は森の中から茂みを越え、年寄り口調を使う若い声の朱色着物を着た女性が現れた。
どうやら彼女は発言から一人で月見酒をしていたが、狼が行った突然の遠吠えに興を削がれ足を運んだ模様。スンスンと鼻をひくつかせると――
「ほう、これは珍しい。同類の匂いがするではないか。ほれほれ、此処はわしに任せて散らんか」
女性は貴紀から気になる匂いがしたらしく、獣達へ自身が対応するから寝床へ帰れと手で払う仕草を見せ追い払う。
徐々に月光が木々の隙間から射し込んで照らし、二人の姿を明確にする。
鮮やかな緑色をした瞳に金髪セミロングの髪……なのだが、頭に狐耳が生えており、彼女を人間とは言い切れない。
「何者ダ?」
「人に話す時は先ず自身の名前から。と言う礼儀を知らぬのか?」
問い掛けへ問い掛けで返され、互いに相手が何者かすら判らず警戒心と沈黙だけが続き、場を支配する。




