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ワールドロード  作者: オメガ
二章・Ev'ry Smile Ev'ry Tear
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心禍の果て

 『前回のあらすじ』

 ホライズンの姿を真似たツヴァイを復習戦に見立てて、戦闘をする貴紀。

 しかしその実力は今の貴紀を上回り、ツヴァイ本人ですら力をもて余す程。そして本気をださせるべく、トワイを狙うも。

 破壊の力を流し込まれ、予期せぬ一撃を受ける。勇者候補生・ルージュも参戦し、連携でゲミュートを真っ二つに裂いた。



 氷の槍を巧みに振り上げ、邪神ゲミュート・レディをバターでも切る様に、綺麗に真っ二つ。


『やりました』


「やったね、君。これで形勢逆転だよ」


「チッ、あの雪女。やりました、じゃねぇーんだよ……計算外の余計な事をしやがって」


 無表情ながらも、目の前でサムズアップを決め、討伐達成の報告を筆談で行うトワイ。

 そんな時、ポツリと愚痴を漏らすツヴァイの言葉に疑問が浮かぶ。計算外、余計な事とは……一体?


『た、貴紀様』


「わわわっ!? ボク、そう言う趣味は持ち合わせてないんだけど!」


 その疑問は直ぐに晴れた。裂けたゲミュートの内部から黒い触手が無数に伸び。

 トワイとルージュの全身を捕らえ、水中から飛び出し、獲物を捕食するワニの如く取り込まれた。

 あっと言う間の出来事に、反応が遅れつつも駆け出そうとした時──後ろから肩を掴み、制止され振り向くと。


「今は止めとけ。デトラまで取り込まれかねんぞ」


「ツヴァイ……お前は、何を知ってるんだ?!」


「この先の未来……。此処でテメェが負けりゃあ、この悪夢は再び、時間を巻き戻されてループする」


 左手で俺を止めるツヴァイ。悔しいけど、奴の忠告は正しく、感情的に動こうとした俺は間違い。

 続く言葉は、勝つまでコンティニューも同然な結果。恐らく心折れるまで続く、副王の計らいだろう。

 駆け出したい気持ちをグッと堪え、握り拳を作る。そんな中、奴は別の動きを取り出す。


「新だな肉体を得で、甦りなざい……我が子だち!」


「なっ!?」


 細い無数の触手と、老若男女問わぬ顔を掻き分け、排出──違うな。出産したのは……

 完全体ナイトメアゼノ・メイト、融合海獣スプリッティングの二体。

 そうか、此処で奴が出産していたのか! チラッと視線を背後に向ける……四対三、圧倒的に不利。

 何食わぬ顔で背中をブスり。そんな予感すら覚え、慌てて前へ駆け出すも……それは、最悪の悪手。


「復讐のじがんよぉ……私達の子だぢ!」


「珍しいな、デトラ。テメェがこんな初歩的なミスをするだなんてよぉ!」


「「あぁあああぁぁぁッ!!」」


 気付けば四方を囲まれており、一体に対処しても横から、背後から、足下からと横槍を入れられ続け。

 削られて行く体力、増して行く疲労と激痛。立ち上がっても、上がれずとも追撃は止む気配を見せず……


「うっ、くぅぅっ……」


「隙だらけだぜ、デトラァ!」


「終焉の息吹をうげなざい……シャドウ・ミスト!」


「何──ッ!!」


 仲間達を想う気持ちに支えられ、最後まで戦おうと四つん這いから這い上がる時。

 男性像の触手に真下から高く突き上げられ、ツヴァイの左腕により叩き落とされ。

 追い撃ちに女性像の触手から闇を吹き付けられ、残り活動可能時間を知らせようと点滅する魔力経路。


「心の禍(わざわい)と書いて心禍(しんか)と読む。これが人類の行き着く先、心禍の果てだ。デトラ」


 心禍……心の災難、心の不幸を引き起こす原因の果てとは、ツヴァイの奴、上手い事を言ったつもりか?

 とは言え、そう考えればアニマが自身らを進化した新人類。と言っていたのも、俺が幾ら頑張っても無駄ってのも。

 成る程な、上手く的を射ている。大きな影響力や結果を与えるには、小さな積み重ねと行動が必要不可欠。

 良くも悪くも──な。ある意味、私生活や病気にも似た事が言える。ダイエット成功後、元の食生活に戻せばリバウンドは確定事項だし。


「そぉ~っら、デトラ。抵抗しなきゃ江戸時代末期から明治初期頃みたいに、首打ちの獄門状態になるぞ~?」


「それはッ……勘弁っ、願いたい、なッ!」


 意識も薄れ始めた時、限定的かつ明確な結末を言われ、愚かにもイメージしてしまう。

 木の台に釘を突き出させ、其処へ首を乗せて周りを粘土で固定され、三日間見せしめにされる自身。

 そんなグロい光景に意識は覚醒し、目を見開けば、目の前には甲殻類野郎の大鋏が、俺の首を切ろうと急接近中。

 慌てて左手首のウォッチを回し、叩いた途端に鋏は切断する音を鳴り響かせた。


「あっぶねぇ……ドイツもコイツも、首を狙い過ぎだろ?!」


「そりゃあ、大抵は首を落としゃあ──死亡確認の手間や、危険性も省けるから……なぁッ!!」


 ウォッチ経由でゼロの力を使い、影の中に入り囲いから脱出し這い出るも。

 先を読まれていたらしく、首を掴まれ、右腕のラプターで左脇腹から右肩まで切り裂かれて吹っ飛んだ。


「ぬし様!?」


「貴紀……意識はあるか?」


 加速状態の自転車から放り出されたみたいに転がり、ダメージを受けた部分に手を当てなぞると──

 装甲は鋭利な爪で裂かれた様な傷痕があり、そう何度も受けれないと、バイザーにも忠告が出る始末。

 サポート・ユニットと融合状態の二人も、心配して駆け寄ってくれるものの、例え第三装甲を使えても奴らに勝てる未来が見えねぇ……


「意識は、あるよ。でも実際問題、奴らをどう攻略すべきかね」


「浄化技──は、無理じゃな。その様な時間や隙を見逃してくれる程、あの異形共は大人しゅうない」


「貴紀……絶頂期に使っていたあの技。まだ、使えるのか?」


「どう、だろうな。仮に使えても、かなり効果は落ちてるだろうし、何より──威力や範囲もヘッポコだろうよ」


 意識は残っている。幸か不幸か、命の危機に瀕して、緊急時強制発動用のスキル・火事場の馬鹿力が発動中。

 静久が使用可能か訊ねる技は三つ。確かにアレなら二人を救い、奴らを倒せるかも知れん。

 が……問題は二つ。一つはエネルギー不足、二つ目は──あの技は俺個人で使える技ではない点。

 オメガゼロ・アダムとデストラクション。元々は一つだったけど、個々の人格を得た彼らと心を通わせ、協力して貰う事が必要不可欠。


「それはそうと……いい加減、姿を見せたらどうだ? ナイトメアゼノ・ゲミュート」


「あっあっあぁぁぁ!!」


「いや……錬金術師にして父・エピメテウス。そして魔法少女であり母・パンドラ!」


 千鳥足のまま、これで何度目になるのか分からない回数立ち上がり、言葉を、真実を突き付けると──


「くふっ……フフフフフッ。一体いつから──気付いていたんだい?」


「確かな確証を得たのはテメェがその、邪神形態を見せた時だが。疑ってたのは初期の頃からだ」


「それも──君の本能、直感が教えてくれたモノかい?」


「阿呆。直感はそこまで万能じゃねぇよ。ただな、誰かを信頼する時こそ、一番に疑う必要があるだけだ、バカ野郎」


 奴の男女像の触手は目を開き、口を開けて話し始める。

 放たれる声はエスとパンドラ、両者のモノ。本性を見抜いたのは直感じゃない。

 人を信頼する為に必要な行為でありつつ、矛盾した行為──疑心。信用したいからこそ一番に疑い、ハッキリさせる必要もある。


「ふふっ……でも、君に勝ち目なんて微塵もないよ? だって、君を攻略する為だけに同行したんだから」


「だろう──なッ!?」


「戦闘パターン、使用する技、スキル。そのどれも、我が子達を通して観察済みなんだよ?」


 突然背後の砂中から甲殻類野郎が現れ、大鋏で胴体を挟みやがった。これじゃ、身動きが取れん!

 其処へ叩き付けられるメイトの鞭。被弾する度に装甲は削り取られ、防御力も落ちて行き。

 魔力経路の点滅も激しさを増して行く。そろそろ、本気でマズイ!


「そろそろフィナーレと行こうか。その為には……この海に蔓延させた心の闇を、全て我が身へ!!」


 晴天の空に分厚い暗雲が集まっては、渦を作り完全に太陽光を遮断。

 その渦の中心から黒紫色をしたエネルギーの柱が、ゲミュート目掛けて一気に降下。

 全てを受け止めた奴は急激に、成長を始めて……ドンドン高くなって行く。奴を見上げるものの──なんて、デカさだよ……


「これこそ、我らナイトメアゼノ・ゲミュート本来の、完全なる姿!!」


「両面宿儺の奴は全長二十メートル位じゃったが……コイツは」


「恐らく、全長五十メートル……その上、この島や海中にも根を張り、更に巨大化すると予想……」


 火事場の馬鹿力で無理矢理大鋏を開き、甲殻類野郎の頭上を通り抜けて脱出。

 パワードスーツが機能停止する前に脱ぐべく、バックルへ装着させた携帯電話を外そうとした時。


「何っ!」


「ぬしさ……まぁ!?」


「チッ……コイツ、私達までも栄養にする気か……」


 今度は四方八方の砂から触手が飛び出し、俺達の全身を拘束。そのまま宙に浮かせ──

 触手脚の上、胸元辺りへ景色が良く見える様にと言う気遣いか、正面を向かせたまま張り付けられ。

 静久と愛は──触手脚の中か。クソッ……これじゃあ例えゼロや母さん、ルシファーの力を借りても。

 触手に絡め取られて、事態が悪化する未来しか見えねぇ。チェックメイト……って訳かい。


「チェックメイト? 確かにそうだねぇ。でもね、我が子達にした苦痛は、今から君に返すんだよ?」


「がっ……あぁあああぁぁぁ!!」


 全身から少しずつ、残り少ないエネルギーを無理矢理吸い取られて行く。


「君のエネルギーを吸い、今、歌おう」


「な、に……を?」


「終焉なる闇の王、汝に敵対し、汝の意向に反旗を翻す愚かなる者に裁きの雷を──ラストジャッジメント!」


 視界はボヤけ、耳も遠くなった中──微かに、されど確かに聞こえる二人の声。

 それを遮る様に、全身を拘束する触手から雷が流れ込んでくる……でも、不思議だなぁ。

 痛みや、五感は何も感じない。頭の中も、真っ白になって行って……目蓋も、とても重くて。

 最後の魔力も尽き果てて──眠る様に、目蓋を閉じた。


「勝った……これでこの海は、世界はッ!! 全て我らの所有物となった!」


「こんな序盤でゲームオーバーか。随分と弱くなったモンだな。my(私の) dear(親愛) friend(なる友)……」


 何処かへ落ちて行く意識の中。

 耳を塞ぎたくなる位の大声で勝利を、この世界の全てを得たと声高に宣言するゲミュート。

 何やら哀しげな顔と声で呟く、ツヴァイを見た……気がする。まだ、負けてない……その事実を、貫き通したい気持ちは、今も変わらない。

 渦巻く暗雲の空に、右手を精一杯伸ばす。もう一度戦いたい、まだ負けてなどいないのだから。そう願いながら。






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