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ワールドロード  作者: オメガ
二章・Ev'ry Smile Ev'ry Tear
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枯れぬ欲望

 『前回のあらすじ』

 ベーゼレブル・ツヴァイ達の戦いが幕を開け、理由や現実を教えようにも話を聞かないゲミュート。

 なんと昔の同胞・終焉の闇No.Ⅷの魂を引き継いたのが、ゲミュートとなった人間達だと知る。

 少し戦いが進むと、ツヴァイ達は新たなる第二形態を見せ、少し遅れて駆け付けたトワイと共に挑む。



 ホライズンと再戦する時の復習にと、姿を真似たツヴァイへ一人挑むと。

 奴は右腕を此方に向け、ボウガンに変化。ラプターの鋭利な爪を矢にして、射って来る。が……


「いっ、威嚇射撃のつもりで外したのか?」


「チッ……あの化けモン野郎。こんな恐ろしいモンを、微動だにせず射ったのかよ」


 真っ正面の俺に射ったであろう矢は、左斜め上の青空へ飛んだだけで、命中はしていない。

 一旦足を止め、疑問を呟きつつもツヴァイを見ると──奴にも予想外な展開だったらしく。

 射った衝撃で右足は大きく下がり、右腕が真後ろを向く程、反動が強いんだと理解出来た。


「どんな威力であろうと、当たらなければ意味は無い!」


「それは確かにな。だがそれなら……『当たる距離』に移動範囲を固定すれば良い話だ」


「何を言って……ッ?!」


 そう。例え一撃必殺にせよ、状態異常を与える何かにしても、当たらなければ意味は無い。

 再度奴に向かって走ってはいるが、脅威となる右腕の向きに注意を払えば避けられる確率は高い。

 そう思った矢先……右足に違和感を覚え確認すると、奴の尻尾が砂浜から飛び出し、巻き付いていた。


「何を驚く。これはテメェが此処で、道化師野郎に使った手段だぜ?」


 言われた通り、人質の心情さんを助けるに、似た手段をトリックに使ったが。

 ツヴァイの奴、何処で見ていたんだか。しかも尻尾の癖に巻き付く力は強い上、足下を掬われ。

 仰向けに倒されてしまい、ますます身動きを取れなくされて行く始末。


「チェーンデスマッチ。時にはこう言う趣向も大切だ。何事も『同じ事の繰り返し』では、飽きて浮気にも走るってなモンだ!」


「確かにな……けど、俺とお前は付き合ってもなけりゃ、浮気もクソもネェんだが──なッ!!」


 人の欲望ってモンは、常々刺激を求める。故に恋や愛にも賞味期限はあるし、永遠なんてモンは無い。

 枯れない欲望、人の欲望はどんな植物の根より深いと言う言葉は、全くその通りで草も枯れる。

 此方に向ける右腕にガジェットを振るい、緋色の光鞭を巻き付け、照準を無理矢理右へ反らす。


「無駄な行為だな。この形態はホライズンとか言う怪物の容姿や中身も、可能な限り真似たもの」


「なんっ……つう、馬鹿力ッ、だ」


 ずらした照準が少しずつ戻されて行き、お互いの距離は約五メートル、これで避けるのは至難の技。

 直感も顔面に直撃を受けて即死。と言う警報を鳴らしてくれるも、出来る回避も体を転がす程度。

 次々射たれると、死ぬまでの時間の延長&死因が変わるだけ。それは愚策でしかないので却下。


「とは言え……煙草を三本吸い尽くす前に終わっちまう。なら、本気を出せる様にしてやるか」


「テメェ……まさかッ!!」


 照準はキッチンと俺を捉え、外れない。後は射てば終わりだが、顔と声からして大層退屈そうで。

 どうすれば面白くなるか悩む中。此方に背を向け、ゲミュートの繰り出す触手に氷槍で対処するトワイを見。

 奴の照準はトワイの背中を捉えた。クッソ……シオリの二の舞なんぞ、させて──たまるかぁ!!


「ハハッ。勿論、テメェらの存在も忘れちゃあいねぇよ」


 狙いを定める背後から迫り、飛び掛かるは、各々のサポートユニットを纏った静久と愛。

 けれどソレすら見抜き、地を這っていた静久は右足に踏みつけられ、愛は左手で首根っこを掴まれ捕獲。

 懸命に暴れるも脱出は出来ない。痛めつける様に少しずつ力を込めて行く光景に、俺は心を痛め。

 せめて此方に注意を引こうと、ガジェットから出る魔力鞭を左手で引っ張ると、急に出力が上昇し──


「グッ!? おっ、おぉぉぉぉ……っ!!」


「な、なんだ。今の現象は?!」


「はっ、ハハッ。ハハハハハッ!! 漸くッ、破壊の力が外に溢れ出したか!」


 鞭が巻き付いていたツヴァイの右腕は突然、内部から破裂した奴は驚きの余り手を離し、後退。

 左手首に付いてるウォッチを見ると、黒い光──デトラの力が、ゆっくりと明滅し揺らめいている。


「なら。俺もそれに対抗すべく、影の魔女と道化師が持ち込んだコイツを使わせて貰うぜ」


「なっ……どうして、ソレを!」


 もはや申し訳程度に残った神父服、そのポケットから取り出したのは──

 トリスティス大陸を再度闇に染めた切っ掛けの一つ、魔人・インサニアを生むヴェレーノの実。

 ソレを奴は五個纏めて頬張り、一切噛む事もせずに飲み込んだ。が、一個だけ吐き出すと……


「フンッ、ハハァッ。破壊に対抗するにゃあ再生、例え幾ら壊されようとも再生すれば、万事解決よ」


「再生と言うには、容姿もがらりと変わっちゃあいねぇか?」


「ハッ。なら、こう言い換えてやろう。再構築やアップデート──と」


 此方へ逃げて来た静久と愛を迎える中。破壊した右腕を文字通り生やし、肉体も更に変化。

 メイトの体と目玉も追加され、ギョロッと俺達に視線を向け、人差し指を向けられた途端。


「はっ、背後から?!」


 誰もいない背後から突然飛び出した触手に、四肢や首へ巻き付かれ、文字通り手も足も出せない。


「人に指を差しテハいけナい……その理由ヲ、知ッていルかしらァ?」


「当ッ、然。人に指を差すと言う行為はっ……指差した相手を呪うっ、意味を持つからだ」


 頭に直接響くゲミュートの女声で訊ねてくる内容は、子供の頃によく言われた注意喚起。

 失礼に当たるとか言うけれど、実は言霊や呪いを相手に飛ばす意味すら持っている方法だ。

 話している間にも、静久と愛は触手を噛み千切ろうと行動してくれている。


「君達大人が幾ら注意しても、子供と言うのは枯れない欲望に負け、言い付けを破ってしまうものさ!」


「ギイィィィッ!? ぎ、ギザマ……私達の子供を殺した奴の仲間がぁぁ?!」


 あの声が聞こえたと同時に、巻き付いていた触手から力は抜け簡単に解けた為、乱暴に投げ捨てる。

 振り返るよりも早く、前に出て来たのは──君か。相変わらず、良いタイミングで来るねぇ。


「残念だったね。子供達を殺したのは君達大人だよ。例え命を奪わずとも、未来は奪ってるんだから」


「あぁ、ルージュの言う通りだ。例え命を奪わなくても子供の未来と選択肢を奪う以上、殺人と同じだ」


「遅れてごめん。責めるなら責めてくれていいよ、ボクは言い訳をする気は無いから」


「責める気はねぇよ。そんな細事より、目の前にある最悪の未来を破壊する方が先だろ」


 助けてくれた上、ゲミュートに現実を突き付けるのは勇者候補生のルージュ・スターチス。

 誰かの命を奪うのは、誰かの未来を奪う事。自分の思い通りに選択肢を奪うのも、十分同罪だろう。

 遅れた事に謝られるも、些細な結果を責める程馬鹿じゃねぇ。一言二言話し、互いの片腕を交差させ、身構え直す。


「うるさい……五月蝿い煩い五月蝿い! 現実も知らないアンタ達、ケツの青いガキが大人に口答えすんじゃないよぉぉぉ!!」


「やれやれ……確かにボク十六歳だけどね。それにしても、ヒステリックな女性は男女問わず嫌われるよ?」


 海に居た本体が砂浜を突き破って現れ、突き付けられた言葉にわざと大声を発し、聞こえないフリ。

 子供扱いされた返答を受け入れる心の余裕を見せ付けたると言う、ゲミュートより上だと証明し。

 二重の意味で現実を突き付ける、恐ろしい追撃に言葉を挟めない。やっぱり女同士の喧嘩は怖いわ。


「根深く枯れぬ欲望を道にぃぃ、地獄の底より憤怒の炎を噴き上げぇぇ、愚か者達を焼き払えぇ!! 魔法(マジック)激怒の(ラース)(ブレイズ)!」


「……自己犠牲の果てに、辿り着きし(人生)の果て。永遠を誓いし激しい愛も、悠久の中では無に等しい……奇跡・愛情の羽衣」


 女性像の触手は砂浜から火柱を次々と噴き出させ、男性像の触手は何故か、此方に奇跡の術を掛ける。

 そのお陰か、火の粉に当たっても熱くないし火傷をする気配もなく、回避に専念出来て有り難い。


「怒ったり焦るって事は、図星を突かれたと自ら自白している証拠だぜ?」


「年若い頃にチヤホヤされた栄光へ今もすがり付き、高い化粧品で見かけ倒しの若さを得る。同じ女性としても、見苦しいよ。その行為は」


「確かにな。化粧品やら香水が臭くて、近付きたいとも思えんし、此方から願い下げだわ」


「くっ……口の減らないクソガキ共がぁぁぁぁっ!!」


 図星を突き煽りに煽りを続ける程、攻撃は激しさを増す反面、噴き出す位置が赤く発行し丸わかり。

 煽りとは言え本音十割、同意十割である。女性とは三十代から女としての価値が徐々に落ちて行く。

 だがまあ──重ねる年齢を受け入れ、心に余裕と落ち着きを持つ女性は素晴らしいと、俺は思うがね。


「援護は任せた」


「あいよっ、任された!」


 ローブの内側から恋月を取り出し、自分でも何を思ったのか、ルージュに投げ渡し援護を要請。

 すると逆に剣と盾を投げ渡され、事実上の武具交換。突っ込む俺に受け取ったであろう瞬間から。

 頼もしい言葉と共に、直線的・湾曲的な軌道を描く魔力弾がゲミュートに浴びせられ続ける。


「デトラッ。テメェの相手は、この俺だ!」


「残念だったな、ツヴァイ。メイトの容姿を得たのは良い発走だが、余計なモンまで付け過ぎだ」


「何を言って……い、いでぇぇ!?」


 直線コースに割って入り、タゲを自身に集めようとするも、下手な合体や融合は弱点を生みかねん。

 現に今、走りながら少し姿勢を低くして左手で砂を拾い、ツヴァイの体に振り掛けてやった。

 付与したメイトの目は瞬きが出来ない為、砂浜の砂でも立派な目潰しとなる。痛がっている間に横を通り抜け──


「くっ、来るな……来るなぁぁぁッ!!」


「現実を直視しろ。自分に都合の良い男女平等発言や責任転換じゃなく、本当の自分の点数を知れ!」


 駄々をこね、接近を拒む様に触手を動かすも剣で切り裂き、攻めて来ても盾で塞ぎ、払い除けて進む。

 懐へ飛び込めば、複数の顔が付いた足下部分へ──剣を突き刺す。


「トドメだ、トワイ!」


『畏まりました、貴紀様』


 途中、姿を見せなかったトワイ。試しも含めて大声で叫ぶと、ゲミュートの背後から現れ。

 尾の部分から頭まで、綺麗に縦一閃を決め、真っ二つにしてしまった。






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