∞:||・Ⅶ
『前回のあらすじ』
真実神社から拠点のある墓場島へ戻ると、肉体的と精神的疲労から倒れてしまう貴紀。
目を覚ますとムピテとエスの姿が見えず、魔力感知を利用して砂浜へと向かうと、リートと再会するムピテを発見。
二人の再会を微笑ましく見守る中、エスが現れるも、突然首を絞めようと襲って来た。それはゲミュートに取り憑かれており、続けて現れたベーゼレブルがゲミュートを喰らい、勝負を挑んできた。
奴の肉体変化が完了する前に、此方もパワードスーツを着ようとズボンのポケットを探ると……無い!
「チッ……あの時か」
あの時──ナイトメアゼノ・メイトと行った決戦後。浜辺に戻され、打ち上げられていた際にはもう。
パワードスーツの転送・装着やスキャン機能をも持つフュージョン・フォンは恐らく、手元から無くなっていたと思う。
運良く何処かに打ち上げられているか、もしくは海の底で永眠か……あぁ~、ヤっちまったぁー!!
殺せー! 殺してくれー!! 内心、頭抱えて屈みたい位の馬鹿やっても、シリアスでそれすら許されねぇとかマジ勘弁!
「クックックッ……俺の変身を悠々と待っているとは、余程余裕があると見える」
「ふっ。テメェとの戦いも、ある意味ゲーム感覚に思える程になっちまったからな」
って──自分の阿呆ー!! なに格好付けてんだよ。テメェ相手に余裕なんぞミジンコ程もないわ!
と言うか、なんか増えてるぅー!! 白いベーゼレブルも加えての一対ニとか。
赤子に独り立ちさせようと、丸腰で外へ放り出すレベルだぞ?! チラッと海を見れば、ムピテ達の姿がない。
「私達の子供達を殺したのは、貴方ね……」
「……結果的にはそうだ。だが、そうなる結果を生み出したのは、アンタ達──」
「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!! 何も知らないアンタに、私達の何が分かるって言うのよ!」
ポツリと複数の女性声で話し掛けて来たので、それに対し嘘偽り無く答え。
根本的な原因を伝えようとした途端、此方の言葉を遮らんと大声で叫び。
武器の一つも持たず、突っ込んで来る。直感から伝えられるイメージでは、首を絞め殺す気らしい。
「あぁ、全く分からんし、理解する気も無いねッ! 我が子や家族に愛憎を向けるフール共の考えなんぞ」
鷲掴もうと手を伸ばして来るも、大振りで動きが読み易く、逆に言い返しつつも相手の手を払い。
相手の喉へ素早く右手を伸ばし、力強く押せる程。想定外の一撃を受けたからか、大きく後退した為。
序でにもう一丁、追加で愚者達の戯れ言に理解を示す気は微塵もないと、言葉に蹴りも付け加えて言う。
「そう言ってやるな、デトラ。コイツは俺達の元同僚、No.Ⅷ・フールの魂を継いだ阿呆共だぜ?」
「何ッ?! アイツは確か……」
「そう。愚かな人間共を唆し、大昔に封印した両面宿儺を解き放たせ、デトラに挑むも完敗した阿呆だ」
白い女版ベーゼレブル改め、ゲミュート・レディと戦う中、手も出さず喋るツヴァイの言葉に驚く。
まさか、ゲミュートが終焉の闇No.Ⅷ、愚者を意味するフールの魂を継ぐ者達だったとは。
いや、自分も光と闇の両方を受け継いだ身。全く……光と影、光と闇、正義と悪。その戦いはいつまで続くんだか。
「いつまでこの戦いは続くのか? って顔してんな。いいぜ、少しだけ教えてやる。今は∞:||・Ⅶだ」
「えんどれす……リピート、セブン?」
打たれ弱いのか、ゲミュート・レディは予想以上に悶え苦しみ、蹴られたお腹を抱えている様子。
次はお前か。と意を決してツヴァイを睨み付けるも、此方の心を読み取ったのか、理解に苦しむ言語を話す。
エンドレス、終わりの無い。リピート、繰り返し。セブン、数字の七番を意味するけど、まさか……
「自分が救い、人類が自ら破滅へ進み滅びる──それを繰り返した回数、なのか?」
「イグザクトリー。終わり無く繰り返す、それが今回で七回目ってだけさ。本当、学習しねぇフール共だ!」
ハッと思い付いた予想、認めたくない内容を──恐る恐る口に出すと……それは嬉しくない事に的中。
改めて思い返す。初代終焉の闇と相討ち、繰り返される光と闇の闘争、ワールドエスケープや調律者の乱入。
魔神王討伐へ向かった日の事、そして……今現在、繰り返す様に戦っている事実を。
「だが、此処で負けて終わらせる。なんて思うなよ? そんな事をしてみろ、俺達が倒すべき最強の敵に太刀打ちなんざ夢のまた夢だ」
「お前は、何処まで知っているんだ?」
「デトラ……いやアダム。お前やイヴと初めてエデンで出会い、七度ループする今現在まで……さッ!」
「ッ!?」
相も変わらず此方の心を読み取り、先回りしやがる。そんな苛立ちすら忘れさせるワードが一つ。
自分達が倒すべき最強の敵とはなんだ? 初代終焉の欠片から生まれたNo.ズや、まだ情報不足な魔神王の事か?
本当に何処まで、何を知っているんだか。そう問い掛けると、予想外な返答に注意を削がれ。
此方へ向けたツヴァイの左手から放たれる、黒い紐を浴び、縄で縛られたかの様に身動きを封じられてしまった。
「人間ってのは、本当に愚かな存在だ。生きていても、死んでも大なり小なり世に害を残す。そう思わねぇか? デトラ」
「それは激しく同感だよ……ッ! 極端な話、恋すれば他人から何かを欲し、愛すれば身が滅ぶ程に自己犠牲までするんだからな」
盲目な恋や愛は己のみならず、他人すら滅びに導く。結婚は人生のスタート地点と言う輩もいるが──
自分はそうは思わない。結婚とは相手を選び間違えれば幸せから一転し、人生の墓場となる。
男に頼り切る、散財が止められない、責任転嫁。言い出せば切り無く、当たりの異性は極めて少ない。
「怨めしい……私達の子供達に眩しい程の愛情を注ぎ、あの子達の姿に心を痛めれるアンタがぁぁっ!!」
「あ……っ、かっ……はぁっ!?」
ツヴァイと話していると、漸く痛みが引いたのだろう。
此方目掛け、一直線に走って来たゲミュート・レディに首を絞められ、そのまま砂浜へ押し倒され。
嫉妬から来る怨みに突き動かされ、喉に押し込まれる指は徐々に強く、深くなって、呼吸、が……
「あの子達はもっと、もっともっと大きく輝けるの! そうよ、あんな惨めな家に生まれた天才児以上に!!」
「クックックッ……見ろ、平凡な愛情に嫉妬を幾らか足しただけでこのザマだ!」
「ツヴァ、イッ」
身体を縛られ、無抵抗な自分へ馬乗りになり首を絞め続けるレディ。
その瞳は狂気に染まっているらしく、我が子の幸せより優秀な他人の子に嫉妬し、貶している。
右手で顔を隠しては前髪を上げ、人間を嘲笑い、これが人間の本性だと言わんばかりに言う。
「女は高性能な男と子供で他人にマウントを取り、優越感に浸る。デトラ、テメェが護ってたこの世界の女の多くが、きっとそうなんだろうなぁ?」
その言葉に、否定はしない。動物は餌で飼えるし、人間や社会も金で飼える世の中、判決だって金の力で捻曲げれる。
女は男を子供だの馬鹿だと言い、女心を理解しろと言うが、女は男心を全く理解しようとしない阿呆だ。
今の世の中に必要なのは、優しいだけの人間じゃない。嫌われる勇気と行動力を持った人間だと、何故気付かん?!
「例えッ、そうだとしても……俺はぁッ!!」
「ヒイィッ!?」
全身に魔力を込め、身体を縛る紐を無理矢理引き千切り、レディの顔面に右拳を叩き込み退かす。
情けない声と共に砂浜で悶え狂い、倒れたまま暴れる様子に愚かさと言うか、惨めさを感じた。
「はぁ、はぁ……っ。何故、二人掛かりで来ない?」
「言った筈だぜ? 俺は完全復活したテメェを倒し、喰らう為に手を貸しただけだ。と」
「完全復活した俺を──ねぇ。その部分に固執する理由をまだ、訊けてないんだが?」
チラッとレディを一定感覚で視界に捉えつつも、ツヴァイに疑問をぶつけると……
またソレだ。しかしその部分を執拗に突っついて訊ねたら、仕方ないと言わんばかりの溜め息を吐き──
「一言で言えば最強の敵を倒す為だ。福王もそれが目的で、テメェを平行世界である此処と……おぉっと、コレはまだ秘密だったな」
「平行世界?! じゃあ、ゲートへ入る前の場所も平行世界だって言うのか?」
あの福王までも、ツヴァイの言う最強の敵とやらを倒す目的で、俺達を平行世界へ繋げたのか?
「しゃあねぇ、これだけは教えてやる。テメェが拠点としてる時代、あれは俺達が通って来た一本道だ。枝分かれした此処やトリスティス大陸とは違う」
そんな疑問に頭を乱暴に掻き、嫌々ながらも教えてくれた貴重な情報。
そうか……超古代遺産のゲートは平行世界を繋ぐ門。けれど繋いだ為に、向こうで起きた厄介事の影響を受けてしまうと、そう言う事か。
ループに関しては、恐らく福王の仕業だろうよ。弱くなった自分を継承式強くてニューゲームで育ててる、とそんな感じだろう。
「満足した、って顔だな。そんじゃ、そろそろお互いに、本気出して行こうか!」
「あぁ。今回も、連勝記録を更新させて貰うとするか!」
「ハッ、それはどうかな? 俺は此処で沢山学んで摘まみ食いもしたからな。今度は俺が度肝を抜いてやんぜ」
此処の話だけ聞けば、自宅でゲームを遊んでいる。とも聞こえるかも知れんな。
再度肉体変化……いや、最初のは分裂か。今回の肉体変化が済むのを、好きな物の発売日当日に並ぶ客の。
ワクワクした、待ち遠しい気持ちで見守っている自分。その間に手持ちで残っている武器──
フォースガジェットをローブの内側ポケットから取り出し、鞭モードに切り替え身構える。
「待たせたな。これが今回の第二形態・ラピエサージュだ!」
「ッ……コイツぁまーた、嬉しいサプライズじゃねぇか」
継ぎ接ぎの名を持つ第二形態。ラプターの鋭い爪に骸骨を思わせる白い鎧、見るからに硬い黒皮膚。
筋肉質な腕と脚。蛇か鰻に近い尻尾を持った人型。その姿を見て正直、背筋に走るゾッとした寒気──
と、シオリを守り切れず味わった辛酸と屈辱を思い出す。丁度良い、ホライズンにリベンジする気で挑ませて貰う!!
「アアァァアァァッ!!」
「何っ?!」
「何を驚く? 俺の一部を与えたんだ。奴らも当然、肉体変化位は出来るさ」
突然の雄叫びに気を引かれ、レディの方へ向くと海へ飛び込む様子が見えたと思いきや。
人間体にゲミュートの頭と尾を生やし、無数の細い触手へ変化した脚から浮かび出る無数の顔。
船の先端に飾る像さながら、男と女を象った左右の太い触手を見せ付けて浮上……うーん、邪神かな?
「ハハッ……第二形態の二体を相手に勝負か。こりゃあ、普段以上に死ぬ気で挑まないと──えっ?」
腹を括ろうと決めた時、足下に落ちてきた黄色いリュック。
辺りを見回すと、後ろから此方へ近付くトワイが投げた物らしい。何事かと思っていると……
リュックの中に必要な物を入れてあります。と、筆談で言われリュックを探ると──
「フュージョン・フォン?!」
『スプリッティングやアンビバレンスとの戦闘中、リート様が集めてくれていました』
軽いリュックの中には、欲しかったフュージョン・フォンがあった。
どうやら、メイトとの戦闘で紛失した荷物を全てリートが集め。
それを何故かアンノンウン・白兎が俺達に投げ渡した黄色いリュックに詰ていたらしい。
手っ取り早く変身動作を取り、バックルに差し込みスーツを身に纏う。よし、これで少しは心強い。
「行くぞ、トワイ!」
『はい。貴紀様』
第二形態となったベーゼレブルと、ゲミュートの二体を視界に入れれる位置に一旦下がり。
自らの力で氷の槍を作り、手にするトワイと横並びに立ち、呼び掛けと共に駆け出す。




