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ワールドロード  作者: オメガ
二章・Ev'ry Smile Ev'ry Tear
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壊れる揺り籠

 『前回のあらすじ』

 完全体のナイトメアゼノ・メイトの予期せぬ攻撃方法に、貴紀は可能な限り対処し続けるも。

 徐々に被害は増え、遂には罠に嵌まり海底の砂に落とされ、身動きを封じられてしまう。

 されど第三装甲・二号の装備を上手く使い、無事脱出。更にはメイトから受けたダメージを装填し、最大火力のコロナバーンを発動させた。



 爆発に包まれている最中、自分は意識を失い、メイトがどうなったのかなど検討もつかない。

 良くて腹一杯にして浄化出来た。悪くてエネルギー不足で浄化までは届かず、引き分け。

 藁をも掴む気持ちで握り拳を作り、重い目蓋を開き目を覚ますと、其処は──


「生き……て、る?」


 ポツリと呟く言葉。それに応えようと耳に聴こえ、手や頬へ当たっては引いて行くさざ波。

 冷たいだけで、痛くはない。視界も明るく、照らす太陽が暖かくて心地よく、元の浜辺に戻れたらしい。

 太陽光を浴びて、魔力も少しずつ回復している。それでも、第二開戦は幾らか時間を空けないと無理だ。


「静久、愛……何処へ……行った、んだ?」


 両手を使って起き上がり、ずぶ濡れのまま辺りを見渡す。……誰もいない。

 パージされたかも知れない第三装甲や、メイトの破片と思わしきモノ、融合していた静久や愛の姿もない。

 一歩、また一歩。鉛でも身に付けたように重たい足を動かし、痛む左肩に手を当て、波打ち際から浜辺へと離れるも。


「ヤバ……い。また、意識、が……」


 敵陣地故、慣れない環境で満足に休息を取れず、気の抜けない日々。

 強敵に次ぐ強敵、乗り越えるには高過ぎるハードル、溜まって行く肉体的疲労、気苦労。

 それは仲間達も同じだ。だからこそ、一刻も早く転移前の時代へ戻りたい気持ちに反して、薄れる意識。

 前のめりに倒れる中、誰かに当たった。優しく支えられ、頭を撫でられている。まるで、母親が愛情を注ぐ様に……


「懐かしい……温かさと、心落ち着き……安心する匂い……」


「良く……『一人で』頑張ったわね。彼女達は無事よ」


 目も霞んで、よく見えない。それでも、この温もりや、包まれている安心感。

 その全てを懐かしく感じ、泣きじゃくる赤子を宥めるように語り掛ける言葉に、自分は……

 情けなくも、絶対に大丈夫と言う謎の根拠と安堵感の余り、残っていた意識をも、手放し始める。


「アダム……私だけの、私の為に存在する大切な貴方。あぁ、本当にごめんなさい」


「泣く、な……イ、ヴ」


「共に歩む事が、私に与えられた本来の役割なのに。今の私は──五分しか元の姿を維持出来ないの」


 哀しみに満ちた、彼女の声を聞くと……ズキッと心が痛み、抱き締められる力が強くなって行く。

 目は見えずとも、分かる、分かってしまう。泣いているのだと、声から、彼女と共鳴する心から伝わって来る。

 残る意識を総動員し、辛うじて呟いた言葉。それの返答にと、告げられた謎の告白──

 それを聞いた直後、自分の目の前は真っ暗になった。


「起きてください、早く! お願いですからッ!!」


「誰、だ。自分に、呼び掛けるのは……」


 肩を揺すられ、耳元ではないにしろ、大きな声で話し掛けてくるは、知っている男性の声。

 返答混じりにまだ眠たい目を開く。先ず見えたのは、青い空と白い雲、真夏の如く照らす太陽。それから──


「パパなんか……早く、死んじゃえ!」


(やべぇ! 宿主様、体借りるぜ!)


 甲殻系の融合海獣・スプリッティング。撃退したと思っていた奴の右腕。

 蟹鋏が自分の首目掛け、迫って来ている真っ最中。

 寝起きで普段より回らない頭、無抵抗な自分の体をゼロが大急ぎで動かすと──


「マ、マ……?」


「ふぃ~、危ねぇ危ねぇ。お陰で間に合ったぜ、白兎」


「……」


 奴は強烈な飛び蹴りを前頭に受け、少し怯んだ隙にゼロと交代は完了。

 首を切断しようとする鋏を両手で掴み、自慢の馬鹿力で起き上がりつつ押し返し、顎らしき部位を殴り上げる。

 此方も完全に目が覚め、ゼロの言葉、視界から気付く──トリスティス大陸で遭遇した。

 白兎型のパワードスーツを着込んだ謎のアンノンウン、コードネーム・白兎が立っていると。


「紅……さ、ん?」


「今の俺はゼロと呼べ、駆け出し錬金術師。ほぉ~っら、煮ても焼いても喰えん甲殻類は殺る気だ」


「パパは浮気をして、ママを悲しませ……ママと私達の人生を狂わせる、悪。だから……ッ?!」


 呼び方が被ると面倒だ、と考えたんだろう。

 即刻注意して、追求を逃れようと殺意満々なスプリッティングへ意識を向けさせる。

 奴は奴で、相も変わらずパパ=男性は悪、ママ=女性は善だと認識してるようで、面倒臭いと思っていたら……白兎が我先にと奴を蹴り飛ばす。


「貴女達の個人的な認識や常識を、関係無い我々にまで押し付けるな。迷惑以外の何でもない」


「確かにな。誰かにとって悪でも、違う奴からすれば善になる。それは個人の認識や常識次第だ」


 隣に並び立つも、白兎は融合海獣から視線を外さず、猪突猛進に蹴り技を連続して叩き込んで行く。


「脚は常日頃から自重を支える為、腕の三倍力があると言うが……白兎は身軽さと脚を武器に戦うタイプか」


「でもそれだと、空振りした時とか、隙が大きくなりませんか?」


「それは大丈夫だろ。ほれ、よく見てみろ、白兎の脚捌きを」


 今行っても邪魔になるだけと知ってか、観戦と観察に力を注ぎ、呟くゼロを見て。

 エピメテウスことエスが近付き、不安と疑問をぶつける。けれどまあ、よく観察していると分かるモンだな。

 白兎はスマッシュ攻撃以外、最低でも二連擊を繰り出している。外れても追撃、当たれば追い打ち。

 素早く俊敏な身のこなし。脚だけではなく手の甲や掌底を使い、敵の予想裏を突き、怯ませ、本命の脚を叩き込んでいる。


「だけどまあ、ありゃ駄目だ。怯む動作はしてるが、内部までダメージは通ってない」


「それじゃあ、白兎さんの体力切れを狙って?!」


「だろうな。さぁ~って、いっちょ甲殻類の殻でも叩き割りに行くか」


 会話の通り、スマッシュ攻撃を受けて怯みはすれど、それは強く押されて下がっただけに近い。

 融合海獣は堅牢な甲殻に包まれ、白兎の猛攻すら内部までは届かない。反対に白兎は連擊に次ぐ連擊に。

 体力の消耗は早く、既にペースダウン中。意気揚々と前に出るゼロだが、何か忘れているような……?


「ふぅ、ふぅ……くっ」


「止めとけ止めとけ。全身鎧の奴に、対策も知らねぇ徒手空拳で挑むのは阿呆のやる事だ」


「ならば、貴殿にはあの堅牢な甲殻を突破する手立てがあると?」


「あぁ、ある。強固な奴、重量級の野郎共にも通じる人類が生み出した、最高の方法がな!」


 白兎ヘッドから息切れの声が聞こえ、距離も空けて息を整えている隣に並び立ち、代わりに前へ出る。

 そう、自分がスプリッティングに『ゼロ向き』だと判断したのには、戦法的な理由もあっての事。

 話している隙に、と鋏で突き刺そうと走って迫り来ている光景に、気付かない訳がない。


「筋肉は決して自分自身を裏切らず、筋トレは精神を鍛えれる。人類から堕ちたテメェには、人類の編み出した技がお似合いだぜ!」


「いや……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だぁぁぁっ!」


 左拳で鋏を下から弾き、相手の右腕ごと胴体をガッチリと両腕で掴み、逆さに持ち上げると。

 突然喚き始めた。幾ら火炎弾を吐こうが、お前さんの正面は辺り一面海。何をしようと無駄だ。


「堅牢な殻を纏い、ぶくぶく肥えた己が体重を恨みな。脳天杭打ち改め──パイルッ、ドライッ、バー!」


 砂の上では威力半減と理解しており、木々の生える地面へ跳躍しては、そのまま飛び上がり──

 奴とゼロの体重、落下速度すらも加え、奴の頭部を地面へと垂直に叩き付けた。しかもコレ……

 略称でSSDと呼ばれる、死人が出てもおかしくないブレーンバスター版パイルドライバー寄りじゃん。

 えげつねぇ……と言うか、容赦ねぇ。余程効いたのか、離して距離を取るも、倒れてから動かない。


「そう、プロレスの投げ技こそ、テメェへの最適解。まさに筋肉と、人類が編み出した技術の勝利!」


「二人分の重量に落下速度、被害箇所は脳天と首……考えるだけでも肝が冷えますよ」


「だからこそ、俺は声を大にして言うぜ。青春や夢へ続くスポーツを殺しに押し上げるな。そう言うのは俺達だけで十分だ……」


 堅牢や重量級を武器にするが故に、それを逆手に取られると、返って深い痛手となる。

 威力を計算して震えるエスに、ゼロは振り替えって言う。スポーツを殺しの方法に押し上げるな、と。

 お前が言うな。と思えるけど、自分達は全てを終えたら、罪と罰を受け入れるつもりだ。それまでは──悔しいが……!?


「様子が……変わっ、た?」


「白兎さんの言う通り、何か様子が変です!」


「気を付けろよ。白兎にエス、アレは自爆とかの類いじゃねぇ。コレは……『中身』が出て来る雰囲気だ」


 もぞもぞと動くスプリッティング。しかし反撃しようとか、そう言う気配は微塵も感じられない。

 寧ろ、甲殻類や昆虫で見られる脱皮に近い。それなら柔らかい内に叩け、とも思うけど……

 なんだ、この異様な寒気は……死の直感、ではない。生理的に受け付けない、とでも言うべき何か。

 子供の頃は平気だった昆虫が大人になり、触れなくなった──そんな感覚に近く、触りたくないと本能が叫ぶ。


「あらあら……遂に壊してしまったのですね。揺り籠を」


「どう言う意味?」


「言葉の通り、ですの。貴方達の言い方で言えば、猛獣を閉じ込める檻を破壊した、でしょうか」


 相も変わらず神出鬼没、可能なら出会いたくない敵でも上位に食い込む──ナイトメアゼノ・アニマ。

 奴の言葉へ疑問を投げ付ける白兎に、アニマは自分達に分かり易い例えで答え始めた。


「鯨を増やせば鮫が鯨を求め、結果として海水へ来る人間にも被害が増える。まあ、人命より鯨とお金を優先する害人(がいじん)の思考では、当然そうなりますけれどね」


 その説明はある意味、的を射ていた。

 天秤に乗せられた多くの人命と、増え過ぎた鯨とそれによって得られる金銭的な利益。

 嘘偽りで歴史や誰かの評価を上塗り、目先の大金に転び、数多くの人命に害しか与えない。

 そんなゴミ屑も同然な思考しか持てない連中は、害虫となんら変わりはなく、救う価値も無い。


Ev'ry(エヴリー) Smile(スマイル) Ev'ry(エヴリー) Tear(ティアー)。世界中には、欲望に穢れたそれが溢れ返っていますのよ?」


「それがテメェら、ナイトメアゼノシリーズが誕生した理由だとでも言う気か?」


「えぇ。少なくとも、その一端を担っている……と、言って置きましょうか。ほら、その被害者が現れますわよ」


 元々、外国の言葉はどうにも苦手だ。

 技に付けてるのは仲間に教えて貰ったり、直感的に命名してる。後々調べたら合ってたりするな。

 エヴリーの意味は分からないけど、スマイルやティアーは笑顔と涙って位は分かる。

 話していると融合海獣の方を指差し、欲望に穢れたソレの被害者が現れると言い、視線を向けると──


「私達は──絶対に許せない。絶望に染まり凍える程冷たくされた仕打ち(愛憎)を、貴方達に全て返すその時まで」


「ナイトメアゼノ・アンビバレンス。二つ名は不倶戴天(ふぐたいてん)。意味はどうしても許せない、深く恨む……ですのよ」


「アンビバレンス……確か心理学用語で使う言葉で、意味は──」


「早い話が愛憎感情だ。好きと嫌いのような、対立する二つの感情を同時期に存在する事を意味する」


 出て来たのは……朱色の粘液体スライム。

 名前は相も変わらずカタカナだらけ。それでも名前と二つ名はある意味、関連性があるのかも知れんな。

 そんな会話をしていると、スライムは内部から人間と思わしき骸骨や各部の骨を出し、上半身だけ。

 人型に近くも、決して人とは言えない姿を取った。さっきの発言から察するに、殺る気は十分か!






『エネミーファイル』


名前:ナイトメアゼノ・メイト

年齢:不明

身長:空中&水中時・全長851cm

怪物形態時・全長382cm

人型形態時・182cm

体重:128kg

性別:不明(捕食犠牲者と言う意味では男女問わず)

種族:ナイトメアゼノ

説明


 二章第五話『悪夢の海・前編』より登場。

 水中では四足歩行、地上なら二足歩行、空中も飛べる陸海空を自在に移動出来る珍しい可変型ナイトメアゼノシリーズ。

 二つ名は百代過客(ひゃくだいのかかく)=永遠に歩き続ける旅人と言う意味。


 『一人は嫌だ。だから永遠に何処へも行かない友達で心と体を満たす為、挨拶と友愛の言葉は忘れないよ。hello(こんにちは)!』


 エイを思わせる姿で空中、太い四足歩行の足に口が尾付近まで裂けた鮫を搭載して自由自在に泳ぎ回り、自身以外を捕食しようと誰彼構わず襲い掛かる。

 特に肉の柔らかい相手が好みで、一応程度の会話や意志疎通は出来るものの……根本的な『認識』が違う為、双方で言葉の意味は異なってしまう。

 地上では身体中に人間や人魚の身体・骨・内臓が生え出ており、怪物体では四足歩行。人型形態なら二足歩行の手足や尻尾等として機能している。

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