欲しかったモノ
『前回のあらすじ』
昼食時にナイトメアゼノ・メイトの襲来を受け、仲間達への被害も考え、パイソンと共に密林へと押し込む。
異国の言葉で何やら訴えるメイトの発言は全てご飯に関するモノで、突然暴発した覚える能力により、貴紀はメイトの過去を知る。
救いたい気持ちから、仲間達への被害や反応などは知りつつ食事のマナーを覚える事を条件に、貴紀はメイトを昼食に誘う。
必要最低限のマナーをメイトに教え、出来るのを確認してから拠点へ戻る途中──
「おぉ~。本当に連れてくるとは……相も変わらず、命知らずのお人好しですねぇ」
『お人好しと言うよりは、単なる独断ではないでしょうか』
「真夜、トワイ、何か変わった事はあったか?」
出迎えてくれたのは、ナイア姉が持つ何番目の姿か分からない存在・真夜と、オラシオンの一人であるトワイの二名。
不在中の出来事を訊ねると、山側にある一本の木を指差す。あの場所は確か……男の勇者候補生パーティーを括り付けていた場所。
なんだけど、三人の姿は何処にもない。十中八九、隠し持っていた短剣とかで逃げたのだろう。
「寧とマキはどうしてる?」
『あれからずっと、アーマーの精密検査と改修を行っております。食事は研究室で取っておりますね』
「マジか……いやまあ、バラバラにされたり想定外の融合までしちまったからな。データの分析と確認は必須か」
最近姿を見ない二人はどうやら、アニマ戦でバラバラにされたアーマーの対処をしているそうな。
本当、毎度毎度申し訳ない。また恩返しの意味も込めて何処かへ連れてったり、デートにも行ってあげなければ……
他に見当たらない人物はいるか見渡すと、ヴェルが居ない。また何も言わず出掛けたのか、仕方ない、探そう。
「紅君、ヴェルちゃん見てない? お店の周辺には何処にも居なくて……」
「見てない。と言うか、これから探しに行くところだ。心情さんも一緒に行くか?」
「う……うん。紅君に注意された後だし、付いて行く」
山の方から息も苦しげなエスを置き去りに悠々と走って来た心情ゆかり。すげぇスタミナだな……
話を聞けば、行方不明のヴェルを捜索している様子。
遅れて到着したエスはもう限界の様でフラフラな為、代わりにゆかりを連れて行く事にし、まだ未捜索の浜辺方面へ向かう。
「最近ヴェルちゃん、一人で居る時は暗い顔をしてるみたいでね。何か悩み事かと思って訊いても、何でもないの一点張りで……」
「そう言う奴に限って、大抵は色々と抱えてるモンだ。それこそ、一人じゃ抱え切れない大荷物をな」
「そう、だね」
話してくれる内容には友達として心配し、その奥にまで踏み込むべきか、戸惑っているんだと解る。
自分なりに助言はしてみるものの、これを助言と言って良いのか、判断に困る。それはゆかりも同じ感想っぽい。
さっきから無言を貫いているメイトの方を向くと、自分の左側面──ゆかりとは離れた場所で震えている。
「何はともあれ。相手の心に余裕がないと、幾ら優しくしても負担になっちまうのは辛いよな」
「そうだよね。それで自分自身まで苛立ったり、怒ったりしたら意味をなさないし」
会話を交わし、昼の陽を浴びつつ進む先は、陽も上らない内に調査をしたあの場所。
アーチ状の岩トンネルを潜り抜け──切る直前、聞き覚えのある大きな声が自分達の耳に飛び込んで来た。
「確かに、ワタクシは素敵な恋愛をしたいと言いましたわ。けれど、その代償がコレだとか、一言も聞いていませんわよ!?」
「ふふふっ。何をやる、何を得るにしても、対価や代償と言うモノは付き物。過去の自分を棄てれば、幸せは目前ではありませんか」
何やら、誰かと話している様子。気付かれると逃げられる為、出口前で身を隠しつつ。
偶然にも此方に背を向け、話し相手が見えない立ち位置に居るヴェルを覗き、聞き耳を立てる。
その声は裏切られた、認められない、認めたくない。そう言った気持ちを強く感じさせる、大きく悲痛な叫び。
「それは……そうかも知れませんけれど。ワタクシ、大切な友人にすら忘れ去られるのは耐えられませんの!」
「ワガママなお方。貴女の欲しかったモノの対価はとても高く、これでもまだまだ優しい方」
「でも!」
「では、こうしましょう。貴女の幸せと、以前の貴女と言う存在の証明。どちらを選びますか?」
集中して聞くとこの声──三騎士・ミミツか。過去の自分を棄てる、欲しかったモノの対価。
己の幸せと存在の証明と言う天秤……予想外な遭遇とは言え、考察に使えるキーワードや情報もチラホラ入手出来たのは儲けモンだな。
「とは言うものの──『そうなってしまった』以上、私にも貴女を以前の姿に戻す事は叶いません」
「そん、な……」
「故に、私から言える言葉は一つ。過去の自分なんて棄ててしまいなさい。それこそ苦しみから解放され、幸せになる為の条件ですわ」
聞いていれば、自業自得だと思った。確認不足、理解不足、それらから生まれた要らぬ不安要素。
整形のし過ぎで元の顔や体型からかけ離れ、誰からも赤の他人に視られるのも、自分が居た時代では何度かあった。
両親から産まれて初めて受ける、容姿と言う愛情。それを考え無しに、無闇に整形とかで弄くり続けた結果……に思えて仕方ない会話だな。
「い、いや……ワタクシに近寄らないで!」
「なんでしたら、それすらも私が……ッ!?」
ゆっくりとヴェルの頬へ手を伸ばすも、接近を拒否されるミツツ。
助ける義理は無い。……んだがな、此方をじぃ~っと見つめるゆかりの眼差しに耐え切れず、ポケットから恋月を取り出し。
今にも触れそうなミツツの左手を誘導弾で撃ち抜くと、影となり四散し、後退しまた再構築して何事かと歩み出た此方を見る。
「かも知れんな。けど、過去の自分を棄てちゃあ、今の自分が幸せかも分からんよな?」
「ふ……ふふふふふっ。辛く、苦しい過去より、今の幸せこそ最優先ではありませんか。恋愛は、そう言うモノで御座いましょう?」
「確かにそうかも知れない。それでも、欲しかったモノの為に、その理由や友達までも失うのは違うよ」
「心情……」
自分達の会話に介入し、同意してくれたゆかり。
何故か、何年も対立していた友人に賛同して貰えた様に感じて、凄く嬉しかった。
「それでは……見せて貰いましょうか。貴方達の選択や、その結果を」
「紅君、あの人を逃しちゃ駄目!」
「いや、無理だ。アイツは本体じゃないし、影を捕まえる方法も得ていない。悔しいけど、今は……な」
砂浜に着く程長いドレスのスカートから、徐々に沈んで行くミツツ。
阻止するよう言われるも、今は捕縛する手段を持ち合わせていない。
それを知ってか、ニンマリと笑う奴の微笑みには悔しさと苛立ち、無力感しか沸いて来ず……握り拳を作るしか出来なかった。
「さて。これはどう言う事か、話して貰おうか」
「そ、それは……」
「紅君。今は問い詰めるより、お店に戻ろう。みんな、ヴェルちゃんを心配してるだろうし」
行き場を失った感情の矛先は、寄りによって三騎士と何かしら取り引きを行っていたヴェルへと向く。
どんな強敵よりも信頼出来ない味方程、厄介な奴はいない。叱咤も含めて問い詰めようとするも説得され、吐き出し掛けた言葉を飲み込む。
「分かった。少なくとも、今日は問い詰めん。けど、明日はキチンと叱咤も含めて聞くからな」
「わ……分かりましたわ」
「く、紅君。何もそんな言い方をしなくても」
「分かってる。でもな、やってしまった罪を隠して抱えるよりも、キチンと罰を受けた方が長期的に見ても良いんだよ」
今は気持ちの問題や整理する時間も必要だと考え、今日は叱ると言った行動は止めるべきだと判断。
しょんぼりする様子に、そんな言い方をしては駄目。と言った感じで言われるも、こればっかりは真面目に叱るべきだと主張。
「万引きもそうだ。バレなきゃ大丈夫とか、スリルが欲しいって理由で繰り返しちまうからな」
「それは……体験談?」
「まあ、親友の……な」
甘やかすだけは、愛情とは言わない。良いことをすれば褒め、悪いことをしたらちゃんと叱る。
物事の善悪や愛情とかも親から学び、次に伝えて行かなければならない。それを続けて行けば、少しずつでも犯罪を防げるかも知れない。
親友は平和な日常に刺激を求め、万引きを繰り返し、捕まった経験を持つ。あの時、傍に居れたら止めれたのにな……
「ちょ……ちょっ、上玉! 先に聞いてましたけれど、本当に連れてくるとか馬鹿なんですの?!」
今更気付いたのか……まあ予想通りかつ、経験通りの反応に正直何も言えず、メイトと繋いだ手を握ったまま歩く。
まあそれはそれとして、その罵声をも含めた言葉には、キチンと返答を返してやらないとな。
「あぁ、自他共に認める馬鹿だよ。それがどうした? それにな、容姿は良くても中身が最悪な連中もいるんだ、外面で決め付けるな」
「むぐっ……ふ、フンッ!! 勝手にすればいいですわ!」
「そうさせて貰う。……すまない、心情さん。自分のワガママに無理矢理付き合わせて」
ハッキリ言って自分は馬鹿だ。小中共に体育以外の成績はほぼ最低値、高校にも行かず小さな工場で働き、安月給を貰う日々。
今も大して変わらん。好きな事以外は殆んど頭に残らんしな。即答で言い返し、不貞腐れるヴェルを他所に深々と謝る。
「そんな……頭をあげて。それに私も、紅君の意見には賛成だし」
その言葉に内心、救われていた。理解してくれる誰かと言う存在、その有り難さに。
拠点兼店に戻ると、帰宅を待ってくれていたみんなが席に座り、温かくもやや遅い昼食の数々と共に迎えてくれた。
「それじゃ、手を合わせて……」
「「「頂きます」」」
メニューは昼食としては豪華で、夕飯に出す予定だったシチューやオムライス、豊富な果物入りサラダ。
どうやって取り、焼いたのか気になる二メートル級はある、大きな魚の姿焼きなどもある。とは言ってもまあ、食べ切れない量ではない。
「あたたかくて、シャキシャキしてて……どれもおいしくて、幸せ!」
「……ほら。コレは冷たくて、美味しいですわよ?」
しょんぼりしたり、不貞腐れていた張本人は空いている席がメイトの隣しか無く。
不服そうだったけど、異形なれど子供の様に感想を述べ、幸せそうに食べる姿をみてか。
スプーンでオレンジ色のシャーベットを掬い取り、横から食べさせていた。
「んん~ッ……おいしーい!」
「あ、それ、トワイさんお手製の果物シャーベットですよね」
『はい。雪女の冷たい力も、お役に立てて良かったです』
新しい味、食感に満足げな様子。ゆかりに言われて気付き、食べてみたけれど……確かに旨い。
旨いんだけど……何か、味覚的な温度とは違う冷たさすらも心に感じる。これは──悲恋や裏切り?
普段よりずっと豪華な昼食を食べ終わり、空になった食器を片付け終わった頃、服の裾をクイクイと引っ張られ振り向く。
「どうした、メイト?」
「あの……ね。ぼく達、ワールドロードである君に、頼みたいこと、あるの」
「なんだい。言ってごらん」
突然モジモジしつつ頼みたい事があると言われ、優しく問い掛けてみる。
「明日の早朝、ぼく達と……遊んで欲しいの。今になった後、ずっと欲しかった……ぼく達を救ってくれる友達を」
それはパッと聞けば、遊んで欲しいと言う内容。けれど同時に、倒して欲しい──そう言っている様に感じた。
長い悪夢から解放して欲しい、友達に囚われたみんなを助けて欲しい。そんな想いを受け取り、静かに頷いてこれを承諾。
「だから、明日遊ぶまでは……別の遊びや美味しいご飯を食べて、お腹や心を満腹にしようね」
そうして自分は、明日の早朝までに残された時間内で予備のエナジーバレット作成や、寧・マキ・真夜に事情を話し。
無理を承知で急ピッチの作業に望んで貰い、自分は手伝いをしつつ、メイトや仲間達と色々なジャンルの遊びで時間を潰した。
明日こそ──絶対にメイトを救って見せる。倒すだけじゃ守れない、救えない。それを知る者として。
装備紹介・No.Ⅳ
第三装甲・二号 グラビトン・アーマー
超古代文明人が残した部品と材料と情報を元に、静久とルシファーの力を反映させるべく未来寧とマキが力を合わせて造り上げた第三装甲・第二号。
試作品であるアルトリッターも含めるのならば、正式には第三装甲・MARK-15に相当する。
魔力の吸収・貯蔵・増幅可能かつ、アルトリッターで検証済みのルナ鉱石をエネルギーアンプとして両肩・両肘&両膝に搭載した、紫色の水中&射撃特化型。
基本コンセプトは水中や超重力下でも通常時と同等以上の攻撃・防御・機動力を保ち、アンプを使いバリアを張り遠距離にも対応出来るアーマー。
水圧・重圧対策もされており、水中戦も四肢のタービンを使えば水中でも機動力を失わず移動出来る。
一応地上でも使えるが重量過多な為か、砂地などの柔らかい場所やスライムなど粘着性のある場所は苦手。固定・移動砲台としても活躍は望める。
背中に装備されたアームに付いた板はミネラドラコの甲殻で作られ、ビットの外側に魔力反射の性質を持つコロナ鉱石。
内側に吸収・増幅・反射性質のエクリプス鉱石を粉末状にし、コーティングされている為、反射板と増幅器の役割を担っている。
砲撃時に吹き飛ばされない為、新しく腰部専用装備に小型鎖付きアンカーを搭載。ある程度は射出位置の変更は可能な模様。
最大の特長は上空の敵やブースターの役割をあわせ持つ両肩の二連砲、ヴァリアブル・キャノン。
エクリプス鉱石性レンズを三つ搭載した額にあるオメガレーザーの強化版、トリニティ・レーザー。
胸部に付いた追加装甲の内側へ搭載されたルナ・コロナ・エクリプスの三種を使った胸部砲、エクリプス・ブラスター。
正式な初登場は二章第三十二話『迫り来る悪夢』。なのだが……完成度九割なのに加え、対する敵が非常に悪く、初登場補正も無い為、無惨に引き剥がされている。




