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ワールドロード  作者: オメガ
二章・Ev'ry Smile Ev'ry Tear
123/384

正体

 『前回のあらすじ』

 墓場島の砂浜で、ナイトメアゼノ・スカルフェイスに捕まった貴紀。しかし仲間の援護や燃え上がる勇気により窮地を脱する。

 逆転の手段として、三位一体身心融合を狙うも、妨害される中、援護射撃とパイソンの出現にチャンスを得て行う。

 その力は宇宙にある爆弾を抱えし衛星兵器を破壊し、今まで苦戦を強いられてきたアニマも撤退に持ち込む力だった。



 深い眠りに着いた静久を背負い、行方不明だったパイソンを連れて浜辺を歩いている。


「そう言えば、変身を手助けしてくれた時の御礼、まだ言ってなかったな。ありがとう」


「礼には及ばん。そもそも、俺様の撃った弾じゃないんでな」


「えっ? それじゃあ、あの援護射撃は一体……ん?」


 礼を言うも、あの援護はパイソンではないと言われ、では誰が援護をしたのか。訊こうとした途中、何やら大声で言い合っている二人を発見。


「アレは……クラゲ娘のリートと、店で留守番させてる筈の──ヴェル?」


「リート? あぁ、ナルシスト人魚の友人だっけか」


 浜辺と海側で言い合っている様子から、まるで男女関係や、互いの言い分を表している様にも思える。

 誰だっけか? と右手で顎を触り、思い出す仕草を見せるパイソンを置いて、何を言い合っているのかと歩いて近付く。


「何を言い合ってるんだ?」


「あー……ヒーローさんだ~」


「上玉! ワタクシの話を聞いて下さいまし。リートったら、ワタクシを知らない人だと言いますのよ!?」


 二人は此方の呼び掛けに気付き、振り向くなり片やまったり、片や切羽詰まった様子で口を開く。

 しかしまあ、リートの言い分も分かる。自分だって『初対面』の相手から馴れ馴れしく話し掛けられたら、困惑もするわ。


「俺様は他人の空似だと思うぜ。ほら、世界中にゃあ似た野郎は三人もいる。って言うしな」


「そんな事ありませんわ。そもそも、リートと同じ容姿の他人なんて居ませんもの!」


「う~ん……そーいわれても、わたしは~……あなたをしらないし~」


 追い付いたパイソンも話に加わるも、話は進展する気配を見せない。話す内に、何か『妙な違和感』を感じる自分に気付く。


「兎も角、日を改めて話そう。感情的に話しても解決しないし、余計にややこしくなる」


「だな。今夜は頭を冷やし、身に覚えがないか振り返って、別の日に話せば良いだろうよ」


「……分かりましたわ」


「わかった~」


 取り敢えず、夜の言い合いは争い事無く納めれた。とは言え、このなんとも気持ちの悪い違和感。

 何かを忘れている、思い出せていない、認識出来ていない。それはどれも正解なんだけれども、ソレが何か──分からぬまま。

 モヤモヤした状態で店に帰るや否や、出入り口付近で倒れている男一人と女二人を発見。

 その隣で礼儀正しく椅子に座り、優雅に紅茶を飲むトワイに対してwhy(ホワイ)? だよ。すると店の奥からエピメテウスが来て……


「何かあったのか?」


「お疲れ様です、皆さん。いや、あの~……店を荒らす泥棒でしたので、トワイさんとぼくで懲らしめたんです」


「おぉ~、そりゃご苦労様。おぉっと……(まな)もお留守番、ご苦様。良い子にしてたか?」


 理由を訊けば泥棒行為をしていた三人にお灸を据え、気絶した女二人も含めて両手を縛り、店の外へ放り出したそうな。

 話していると尻尾を大きく振り、此方へ駆け寄る狼形態の愛がお出迎え。こう言う時は左手で頭や顎を撫でてやるのも、楽しみの一つ。

 興味本意で盗人の顔を見てみたら……トリスティス大陸へ向かう前、ベビドに見せて貰った指名手配の勇者候補生とその仲間達だった。


「んん~……何処かで見た覚えのある顔だなぁ」


 あの頃は殆んど訓練やら勉強だらけで、ぜんぜん思い出せなかったけど……実物を視ると、何か思い出せそう。


「仲間から話を聞いた時は見間違いだと思ってたが……テメェ、落ちこぼれのジャンク野郎か!」


「あぁ、思い出した。親の七光で威張る大バカ者か、この生ごみ」


 落ちこぼれ、ジャンク野郎。二つのキーワードを同時に言った為、この生ごみを思い出せてスッキリした。

 結城中学校三年生になった頃、サクヤを誘拐しようとした校長のバカ息子だわ。あぁ、訂正する。プライド『だけは』一丁前の生ごみだったな。


「トワイ。この生ゴミを使い捨て餌に、スプリッティングとメイトを釣る。氷漬けにして手足をもぎ、達磨にするぞ」


 自分の発言に驚いた様子のエピメテウス──略してエス達は此方を二度見し、トワイはチラッと視線を向けた後。

 席を立ち、一度頷くとスキルで氷の槍を作る辺り、やる気満々の御様子。他の面々は自分達を止めようと必死だけどな。


「そ、そんな……駄目ですよ。人殺しなんて!」


「退け、エス。コイツは『人』じゃない、ただ人の形をした生ゴミだ。ごみはキチンと処理して有効活用しないと損だろ」


「じょ……上、玉?」


「一度は『あんな奴、早く死ねば良いのに』……って思うだろ。それを実行するだけ、さッ!!」


 左手だけで背負う静久を支え、右手はズボンの右ポケットからフォースガジェットを取り出し、魔力の刃を出す。

 本気と悟ったエスは此方の前に出て、恐怖心からか涙目でも両手を広げ自分を止めんと言動で示す辺り。

 君は魔法少女に変身せずとも、心の強い奴だよ。内心褒めつつも、口にして語り掛ける言葉と共に、エスの頭上から奴へ向け突き下ろす。


「チッ、エスに救われたか」


「ッ……て、テメェ!! 今本気で殺しに来ただろ!? 俺は勇者候補に選ばれた、お前らモブとは違──」


 首に突き刺してやろうと思ってたのに、どうやら『エスに邪魔された所為で』狙いを外寄りに外しちまった。

 恐怖心で黙るかと思いきや、逆に口煩く、自身と他人を比べて愉悦に浸ろうとは。いやはや……

 これは『思わず手に力が入って』、首へじっくりゆっくり進んでしまうと、これ以上口出しした場合を悟ってか黙り込んだ。


「いや。更に縛って袋へ詰め、ルージュに突き出してやるかな。あぁ、それも良いな。でも」


「な、なんだよ……」


「此処はスカルスネーク海賊船、その船長に決めて貰おうか。パイソン、どうする?」


 勇者を名乗り、立場を悪用し逃げ回る不届き者。こう言う悪は手早く裁くに限る──んだけれども。

 今の自分はスカルスネーク号の船員かつ協力関係でもある為、船長に決めて貰おうと思い、訊ねると。


「俺様達海賊は少しでも金になる方を選ぶ。と言う訳で──生きたまま身動きと口を封じ、求める奴に突き出す。これで決まりだな」


「よ、良かった~。あ、す、スミマセン。ぼく……」


 男の勇者候補生は捕縛し、必要な所へ突き出す。パイソンの決定でその方向に決まった。

 緊張の糸は切れ、深い溜め息と共に安堵するエスは何やら思い返し焦った様子で謝って来た為、自分はエスの左肩を軽く叩き──


「良い勇気だったぞ。その覚悟と気持ち、忘れるなよ」


「は……はい!」


 話は纏まり、トワイの当て身で気絶した生ゴミとその仲間は店に近い木へ。

 そのまま縄で一括りに巻き付けて放置。交代で見張れば幾らかは大丈夫だろう。


「ヴェルは先に地下室で寝てな。気持ちや頭の整理もあるだろうし」


「え、えぇ。そうさせて頂きますわ」


「エス。君も精神的に疲れただろ? 今日はもうゆっくりと休むと良い」


「わ、分かりました。ご厚意に甘えさせて貰います」


 ヴェルとエスの二人を地下室へ戻らせ、残ったのは自分とパイソン、狼形態の(まな)と眠る静久だけ。


「……パイソン。こうして何度か一緒にいて、気付いた事が幾つかある。それを確認したい」


「おう。何でも話してみな」


 気付いた内容を話そうとしても、動揺する仕草や様子は微塵も見せない。寧ろ堂々としているのに、顔付きは穏やかに見える。


「アンタは『人間』や『魚人』でもない。その正体は──ナイトメアゼノ・メイトだな?」


「ハッ……ご明察。そう、俺様は確かにナイトメアゼノ・メイトだ。正確的には、分裂した一部だがな」


「やっぱりか。ってなると、船員達も」


「あぁ、俺様の一部だ。どうして分かった?」


 自分の発言に、パイソンは自ら自白と補足を突っ込んできた。そして消えた船員達も、メイトの一部だとも。

 どうりで拳銃を向け合った時、手が震えてた訳だ。そりゃあ勝率の極めて低い相手を前にすりゃ、怯えもするさ。

 恐らくゲミュートに襲われず、愛憎島へ運んでくれたのも、同胞のメイトと一緒だったからじゃないだろうか。何故分かったのか、と言う問いに──


「今思い返せば、パイソン(イコール)メイトだと言う証拠はチラホラとあったんだ。発言や、この海からも」


 一つはアニマの発言『百代過客(ひゃくだいのかかく)』。これは永遠に歩き続ける旅人と言う意味を持つ、四文字熟語。

 続けて二つ。パイソンと初めて会った際の会話、その時は『俺はこの海を幾度も航海したが』、と言った。

 三つ。一緒に同行している際は必ずナイトメアゼノに襲われず、寧ろ助力してくれる場合もある程。


「当たりだ当たり。で、俺様をどうする気だ?」


「どうするもこうするも、交わした約束は果たす。この海を支配する異形を倒し、アンタ達に腹一杯飯を喰わせてやる」


「ハハッ、嬉しいねぇ。特に、後者は特別に旨いモンを頼みたいモンだ」


 発言・推測・証拠を話したら、手を叩き拍手を交えつつ自身をどうする気なのか問われ、交わした約束を果たすと説明。

 そうだな。別個体のメイトも何とかしてやりたいものの、それに就いてはパイソンから情報を引き出してから考えるしかあるまいて。

 そんで……特別に旨いモン、か。それはトワイや心情さん達と協力して、作るしかないな。一、料理好きとしても。


「ありがとな、坊主」


「何に対しての感謝よ? ……いや、気にすんなって」


 突然感謝の言葉を言われ、疑問系で返すも、少し間を空けて言葉の意味を理解し、気さくに言い返す。


「もし可能なら、他の連中も助けてやってくれ。特に──スプリッティングとゲミュートを」


「スプリッティングはあの洞窟内で分かるけど、何故ゲミュートも?」


「アレは……俺様達やスプリッティングの両親の集合体でな。喧嘩すると制裁に現れるんだ」


 意外な依頼に頭の中に増殖する?マーク。スプリッティングは愛憎を受けた娘達、とは理解していたけれど、まさか……

 ゲミュートが愛憎を与えていた親とは、予想外だろ。しかしまあ、確かに奴らを相手にしてた際、喧嘩し始めたら制裁と言うか制止に現れたな。


「俺様は坊主の腕を取り込んだ一部の為、こうして自我は取り戻してはいるが、残った大部分は酷く変態をしていてな」


「あ……もしかして単独行動した理由って、メイトの大部分を確認する為?」


「あぁ。勿論、他の連中もな。しかしまあ、ドイツもコイツも完全体へ進化しそうで怖いな」


 つまりパイソンの体内には自分の右腕があり、自我を取り戻して保つ役割を果たしている反面、大部分は更なる変態中と。

 そんで聞きたくない単語、完全体。融合獣の甲殻類は兎も角、ナイトメアゼノにも存在するのか、ランク……これは時間に焦る。


「こう言うと都合良く思われると承知の上なんだがな」


「分かってる。他の面々には黙ってる……ごぶっ!?」


 味方にナイトメアゼノ・メイトが居る。とバレれば、起きる混乱と誤解は至極当然の結果。故にこの場に居る者の秘密として、地下室へ戻り夜を過ごす。

 つもりが、突然起きた激しい吐血に意識は薄れ、地下室へ運び込まれたところまでは記憶に残っている。






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