視る者
『前回のあらすじ』
マンタ型乗り物サポートユニット・バハムートに乗り、目的の人物を求めて愛憎島へ向かった貴紀であったが……
予期せぬ同乗者の真夜と、自らをヴェルと名乗る見ず知らずの女性。一人で壊滅した村へ行くと、アルファと遭遇。
戦闘へ持ち込むも、違和感を感じさせる戦い方に疑問を抱きつつ、本来の目的。超重力の攻撃を第三の異能・装填で受け入れ、予想外の情報を貰い墓場島へ戻る。
大急ぎで墓場島へ戻り、店内のリビングで対話中のトワイ、何処で手に入れたのか不明な兎耳頭巾を被る心情さんに。
ヴェルとバハムートを預け、地下室へと駆け込む。
「何も言わず出掛けてすまん。それより──」
「大丈夫、何も異常は無かったよ。そ・れ・に、準備もバッチリ済んでるから何時でも良いよ」
「助かる」
皆に何も言わず愛憎島へ行ったことを謝りつつ、奥の方で椅子に座りキーボードを打つ寧へ近付く。
全てを話し切る前に此方の言う内容を言い当て、更にはその先さえ理解し、振り向くと微笑んで帰りを出迎えてくれて。
渡された細い真空管らしき入れ物を見て理解し、左腕に装填した超小型の超重力を移した後、少し様子を見てから返す。
「これで後の問題は私達が彼女達のサルベージ」
「自分は電池か。了解した」
「……分かってる、私も同じ気持ちだよ」
彼女達をサルベージする。その言葉から、誰を意味しているのか今更察して暗い顔をしてしまった。EVE計画……
その呪縛と戦闘から解放されたのに、必要だからと言う理由で嫌がっていた戦いへ呼び戻そうとしている罪悪感。それは寧も同じだそうな。
確かに──静久とノエルは射撃を得意とし、狙撃もお手の物。二人の協力を得れたら、宇宙への狙撃も可能だろう。
「あ、電池は単二電池を四本お願い出来るかな?」
「仮眠を取ってからでも良ければ」
「うん。最終チェックを終えたら作戦会議を始めるから、余った時間で作れたら大丈夫だよ」
何年、何十年も付き合っている為。訊こうとする質問は先に言い、返答にも此方を気遣ってくれる。
部屋の隅っこで仮眠を取るべく振り返ると……子供の様に拗ねてそっぽ向くマキと、爆笑中の真夜。
「何拗ねてんだよ。マキ」
「いや~、貴紀さんと寧さんは相変わらずツーカーの仲ですからねぇ。それに嫉妬してるんですよぅ」
何を理由に拗ねてるのかと思えば、ツーカーの仲に嫉妬してるのか。そりゃお前、こちとら寧とは幼少期からの付き合いだぞ?
何度もループする大戦時代を共に最後まで駆け抜けた上、好いた惚れたの関係だ。理解し続け合った年期が違う。
「それはそうと真夜。ツーカーの仲って、無限郷時代ですら死語だぞ?」
「ま、マジですか?! それなら……ナウでヤングなチョベリバ~とかおきゃん、マンモスラッキーも?!」
「死語だよ」
「なら、パーラーで生唾ごっくんなハクいグラマーをトレンディーなスーパーカーでランデブーも死語だと言うんですか!?」
発言を死語だと注意してやったら、確認も含めて現代っ子にゃあ通じなさそうな、懐かしい言語が出て来て思わず笑った。
まあ邪神と人間とじゃ、時間感覚は当然異なる。かく言う自分も普通の日常会話で死語を使ってしまうのは、何度もあるので他人事じゃない。
「残念な事にな。まあ別に良いんじゃないか? 誰に迷惑を掛けてる訳でもないし」
動物形態の静久と愛が眠り、マキも座っているソファーに被せてある青い布を手に取り自分の体に包む時。
眠っていた二人も目を覚まし近付いて来ては床へと寝転び、三人に背を向ける自分に付き添う形で、懐へ潜り込んで来た。
床で寝る理由は地下室にあるベッドは一つだけ。残りは切断され、崩壊した二階にあった。動物形態二人のお陰で、余り寒くはない。
「……マキちゃん。余り貴紀君を困らせちゃ駄目だよ?」
「まあ理由を話さないと理解出来ないでしょーよ。とは言えこの手の話、貴紀さん見聞きするのも酷く嫌がりますけどね」
おいおい、何を話す気だよ。せめて外で話せ……あぁいや、外は駄目だ。此処で話せ。と言うかだな。
もしくは完全に眠ってから話を始めてくれ。少し不安になり愛と静久を優しく抱き寄せ、瞼を閉じる。
「……何の話?」
「私達や敵勢力から視ても、貴紀君は確かに強いよ。でもね、貴紀君が表立って戦わないのにはちゃんとした理由があるの」
「味方勢力から当てにされない為。敵勢力には弱点を知られない為に、わざわざ素性を隠して戦ってるんですよ、これが」
瞼を閉じても眠りに着けず、逆に視界を閉じた為に他の五感が研ぎ澄まされ、嫌でも耳に届く会話。
そりゃあ味方から誰々に任せれば万事解決~とか、そんな風に当てにされてはやる気も失せるし、個人的な目的からも遠ざかってしまう。
故に敵か味方か確信を持たせず、わざと味方陣営に大小問わぬ被害も与え、疑問と不安感を残す。それは今も昔も変わらない方針。
「視ていればマキちゃんにも分かるよ。何を考えてて、何を視ているのか」
「例えば貴紀さんの強力無比な三つの能力。全部使用者に多大な反動を与えるんですよ」
あぁ~……其処にも触れるか~。個人的に触れて欲しくない話題って、自分自身に関する話なのよね。
「覚える能力に直結する力は片頭痛を引き起こすし、破壊の能力は使用した四肢に痛覚麻痺レベルの激痛と傷を受けるの」
「装填する能力は装填中、永続的に受け入れた何かの影響・被害を装填箇所に受け続けるから」
「ぶっちゃけ諸刃の刃。其処に戦闘中で受けるダメージも上乗せと言う、ハイリスクハイリターンなんですよ」
簡単に言ってしまえば、点火済みの爆弾を抱えて戦ってる様なもんだ。生憎、無双系とはほど遠い。
だからこそ相方として設計・誕生したイヴの存在は本来の戦い方に必要不可欠。けれど今、自分を支えてくれているのは──
EVE計画・試作シリーズの人工型イヴ達や、何かしらの問題・事情を抱えた仲間達。言わば問題児扱いされたモノ達。
でも……彼ら彼女らにも得意分野はある。自分は迎え入れた仲間に得意を活かせる場所を提供し、貢献して貰っているだけ。
「周りの誰も、彼女の機械弄り趣味を理解しませんでした。ですが貴紀さんは──」
「再会した後も良く視てくれて、私専用の部屋をくれたの。だから恩返しの為にわざと捕まって、EVE計画を受けたんだよ」
今思い返せば、アレは寧に向けた愛情だったんだろうな。玩具を欲しがる子供に、親が与える様に。
例えそうだとしても、自分は視て心で感じた様にしているだけ。愛情と言うよりはただのお節介か、親切心だと個人的に思うぞ?
それはそうと、恩返しで人間の枠から離れるのは……どうなんだろうな。まあ、そのお陰で今も戦えてるんだけどさ。
「知ってるよ。だって……此処でたっくんと一緒にナイトメアゼノ・アニマと遭遇した時から、ずっとリンクは繋がってるんだから」
突然の予期せぬ告白に、瞼を閉じたまま驚く。多分寧達も驚いているだろう。だとしたらマキは──
此方へ来た当初から、アニマの術か何かで強制的かつ一方的なリンクを自分と繋げられていた訳か!
あの時アニマはマキを『井の中の蛙』と言っていた。あぁ~クッッッソあの野郎。強制的疑似体験でマキを殺す気か!?
「だから……ね。たっくん、起きても大丈夫だから。と言うか、私達が喋ってたから寝れないよね?」
「……悪い、狸寝入りして。話は一通り聴かせて貰った」
「うんん。たっくんは何も悪くない。ただ私が勝手に、二人の関係に嫉妬してただけだから」
一方的なリンク状態にあるのなら、これ以上狸寝入りしても無駄だと判断し、話し掛けに応じ体を起こす。
一応狸寝入り云々を謝るも。マキは落ち着いた様子で首を横に振り、自らの心情を話し、非を認めた。
個人的にだけど、こうやって自身の非を認めれる人は本当に凄いと思うし。それだけ精神的に大人なんだと尊敬する。
「そんな事思っても、何も出せないよ?」
「あぁ~……心の中も筒抜けって訳か。でもな、本当に凄いと思うぞ? なんせ自分はそう言う時、黙る癖が出ちゃうからな」
こうして話していると親子や友達に同僚も、お互いを良く視てるんだな~って実感するよ。
だからこそ、自分はどれだけ強い力を持ったとしてもお傲らず、慢心せずに日々を過ごせるし。
仲間や家族が道を踏み外した時に注意し、止めれる。大切な親友や、我が子同然に愛したイリスと殺し合う……みたいな真似は二度と御免だしな。
「寧ちゃん、真夜さん。サルベージ作業に戻ろう。今度こそ、たっくんを休ませてあげなきゃ」
「うん。そうだね」
「そうと決まればチャチャっと終わらせて、序でに電池も作れば会議まで休ませてあげれますからね」
……本当に良い仲間を持ったと、胸を張って自慢する位に言えるし、言いたい。
三人の心遣いに応える為、再度体を横にして瞼を閉じると、不思議な程の眠気に襲われあっと言う間に深い深い眠りの中へ。
ただ……また例の妙な感覚だ。今度は何を見せられるのだろうか?




