オメガvsアルファ
『前回のあらすじ』
ナイトメアゼノ・ハザードの置き土産により、墓場島より出られなかった貴紀達一行。しかし、そんな足止めを打開せんと。
寧・マキのコンビと真夜は二機のサポートユニットを完成させ、試験運用とトワイの失恋を知る。残るは切り札の一枚となる第三装甲・二号に該当するグラビトン・アーマーの完成。
なのだが……第二装甲・エックス・アーマーの機能を起動しなければ満足に動けず、起動には超重力が必要と言われ、心当たりへ向かう事に。
ある程度サポートユニット・バハムートの運転操作を練習してから、アイツを求めて愛憎島へ出発。
運転方法は紐を持ってボートで引っ張って貰う、ウェイクサーフィン? って感じ。違いはボートの有無。
墓場島より出発して一直線に進めば、愛憎島を確認。なんと三十分で着き、以前来た時と同じ岩辺へ着陸。
電池の残量は──六割残っている為、帰りは持つな。サポートユニット・バハムートを近辺に隠す為、降りて後方を見ると……
「……何してんの? てか君、誰?」
「ちょっ、それはないですわ、上玉! ワタクシ、ヴェルですわよ」
バハムートにしがみ付いていたのは、自身をヴェルと名乗る黒髪セミロングの若い女……と真夜。
パッと見、十代後半か二十歳そこそこ位の人間。喋り方や口調はお嬢様っぽくて、あのナルシスト人魚の……名前、何だっけ?
あの口調で覚えている為か、名前すら出て来ない。とは言え、容姿や声すらも違う赤の他人が何を言っているのやら。
「上玉って……アイツじゃあるまいし。まあいい。真夜、用事を終わらせて戻るまでコイツとバハムートを頼む」
「アイアイサー! 後ですね、貴紀さん」
「何だよ?」
あぁ~……クソッ、喉元まで出掛かった名前が出ない。一般人とバハムートのお守りを頼めば。
意気揚々と真夜は敬礼をして承諾した後、ワクワクした様子で此方に近付いて来て──
「こんなお守りなど、IQ三でも任せなさ~いってぇぇっ! 許してヒヤシンスプラッ○ーハウス?!」
告らせたいヒロインのアニメ・エンディング曲歌詞の一部を満開の笑顔で言い始めたので。
懐から右手でハリセンを取り出し、頭上から一発。すると日常的なアニメの許しを求める台詞に続けるんで。
切り返しの叩き上げで顎にもう一発。悲鳴も何故、十三日の金曜日に出そうな殺人鬼っぽい男の出るゲーム名を出す?
「これぞ天駆けるツッコミの煌めき……まさに隙を生じぬ二段構エーックス!」
「明治維新を駆けた人斬り抜刀斎じゃねーよ」
本当どっから出てくるんだか。そのボケ倒せる程のネタは……頭に軽く左手チョップを叩き込みつつ。
それにツッコミを入れれる自分も大概か、と内心突っ込む。いやまあ、これも真夜とのスキンシップだけどさ。
「場合によっては先生に頼むのも一手ですよ?」
「お願い☆先生って馬鹿野郎。同じ理由で双子に頼むのも駄目だぞ」
「いや~本当こうやってネタを拾ってくれたり、乗りツッコミをしてくれるのは貴紀さん位なモンですよ」
知る人ぞ知る。なネタにツッコミを入れたり、乗りツッコミをするのは正直言って楽しい。
でもまあ、緊張をほぐす為にやってくれるのは嬉しいよ。真夜のそう言うところ、好きなんだよな。
後は彼女に任せ、魔力を脚に込めてハイジャンプ三連発で五十メートル先の山頂へ向け跳躍。壊滅した村へ視線を向けると──
「やっと来たか。相変わらず行動力、思考能力共に鈍い奴だ」
「ッ……そう言うアルファ。お前こそ何日も此処で油を売っていたのか?」
頭を覆う白い仮面を被り、白い執事服を着る目的の人物──アルファは罵る言葉と共に振り向く。
それに対し、貴紀は問い掛けつつも静かに身構え、相手に己は戦う意思を持っていると行動で伝える。
「答える必要はない。しかし破壊者、お前が俺に有効打を一発当てる度、質問に答えてやろう」
「そりゃ良い提案だ。俺がどの程度力を取り戻し、使いこなせているか──試させて貰う!」
一撃一答の条件を飲み、奴が動く前に地を駆け懐へ跳躍。仮面を割る勢いで右拳を作り、打つ。
「なっ……ッ!!」
「もう忘れたのか? 俺の異能は重力。異能・魔法・奇跡には、こう言う使い方もある」
魔力を込めた拳は、容易く左手で受け止められた。それはいい。いや、良くは無いが予想の範囲内。
問題は……右腕を襲う想像を絶する負荷。寝転んでたら関取が右腕に体重を乗せて座ったかのような、滅茶苦茶な重さ。
実体験を通して理解する。奴は拳を掴むと同時に、重力操作で『右腕に数十倍の重力』を付与しているのだと。
「これは俺流に無垢なる道化を観察し、何度も真似る鍛練を繰り返した成果だ。何も貴様だけ強くなれる訳ではない」
放り出す様に離され、追撃かと後退するも何もしてこない。掴まれた手から離れると重力は元に戻り、何か変だと感じる妙な違和感。
奴の言動、その意味は理解している。けれど何故、それを行って奴に何の意味・メリットがあるのかサッパリ分からん。
けど今は……水葉師匠、ナイア姉、ユウキ、拳法家の門番から学んだ武術の全てを思い出し、挑む!
「金的を防ぐ為に股は閉じ、体は被弾面積削減と急所を隠す意味も込め、左半身は捻って構える。漸くマシになったか」
「ハイジャンプを応用し、イメージ通りに……動け!」
「ッ、消え──」
解説は無視しろ。脚に魔力を込め駆けるのではなく、跳ぶ。一歩で奴の懐へ速く潜り込み。
流れる様に強く・深く・鋭い拳を打ち込んでダウンを取るイメージで動き、右足で地を蹴り跳躍。
奴の知覚を越え後は急ブレーキと一撃を……と思うも、加速を止めれたのは一メートル程離れた場所。大急ぎで近付き繰り出すは、胸部狙いの左足後ろ回し蹴り。
「学習能力の無い奴め。何故お前程度如きを器に選んだのやら」
「いちいち、うるせぇ!!」
「な──にぃッ!?」
達人やら格上相手だと、一瞬でも隙や猶予を与えるのは自殺行為と言うのは、重々理解している。
故に人を小馬鹿にした言葉を吐きつつ、左足を掴む。そう言う輩はどうも昔から嫌いだ。
先程と同じ結果になる──筈だった。突然アルファは左手で掴む足を慌てて離した為、何が起きたのか奴の手や俺自身の足を視ると。
「桜様より頂いた衝撃吸収の手袋越しに、Ωの……文字ッ!」
「寧達の造った戦闘用靴が、起動してる?!」
奴は焼き印に等しい苦痛に耐え、俺は起動した靴に驚き、気になる部分を眺める俺達二人。
ブーツに有る複数の 赤いライン。単なる見映えかと思いきや、これは効果こそ低いものの俺が所持する破壊の異能、その力を引き出している。
「ッ──まあ良い。有効打と認め、答えてやる。俺に課せられた任務は、愛憎島に在る村の殲滅」
「村の?! だが、あの村はアニマの攻撃で……」
「壊滅した、か? ならアレはどう説明をつける」
律儀に自ら言った一撃一答の提案を守り、足を止め話し始める。壊滅した村の殲滅とか意味不明。
など思いつつ指差された先を視ると、其処には壊滅した村、ナイトメアゼノや融合獣化した筈の住民が何事も無かったように生活している。
「……そうか。トリスティス大陸で戦ったイブリースの発言通りなのか、此処も」
「そう。此処でも悪夢の無限ループは機能している為、俺は他の任務を果たせずにいて……なッ!」
ゲート先に在る世界は三勢力のいずれかに支配され、終焉であり虚無なる王の欠片が繰り返す未来永劫の悪夢だと思い出した矢先。
構えを解いた俺目掛け右手で空を切り、黒紫色の刃が迫り来る。二歩三歩と跳んで後退。
「回答時間は終了ってか。サーキュラーブレード!」
右手を天高く掲げ、素早く振り下ろすと同時に魔力の弧月刃を放ち、奴の刃にぶつけるも。
次第にジリジリと押される緋色の刃。負けじとクロスチョップの動作に合わせ、X字の刃を追加し押し止める。
「フン。こんな見え透いた目先の力比べ引っ掛かるとはな。貴様を指導した連中の眼は節穴と見える」
「どう言う──ッ!!」
相殺するも目の前にアルファの姿は何処にも無く、足下から手が伸び両足を掴み聴こえるは奴の声。
文字通り足下を掬われ、持ち上げられた際に疑問と謎は解けた。コイツ……重力を穴掘りに使って奇襲を仕掛けやがったのか!
理解したまでは良い。けど、団扇を縦に扇ぐように地面に叩き付けられている現状を打破するには……
「なんのっ、これしき!!」
「成る程、そう返すか」
「フゥー、フゥー」
激突時に地面を両手で受け止め、体を捻り回転させ腕を絡ませない為に、手を離させることに成功。
焦りと疲労から高鳴る鼓動を落ち着かせるべく距離を取り、構えつつ姿勢と息を整えたら奴を視界に捉え、駆け出す。
「まだ遥かに遠いな。調律者の一人である桜様を二度も深く傷付け、三度目の決戦に敗北したあの頃の貴様よりは」
「何を、知っている!」
打ち合う拳、ぶつけ合う足技。その最中、此方の集中を削ぐ為か否か、気になる話題を振って来た。
思わず右腕同士をぶつけ合わせ、力比べに持ち込みつつ訊ねる。けど、まだ次の有効打は打ち込めていない為、奴は答えない。
「教えて欲しくばッ、この回避不能の大技。見事、乗り越えて見せろ!!」
「一体何……を」
倒れない事に苛立ちを感じたのか、距離を取る為に俺の腹を力強く蹴り飛ばし、両手を大きく広げ。
無数の重力球を展開。それを一斉に此方へ向けて発射する……訳ではなく、抱き締めるように両手を胸元で向かい合わせ、凝縮し一つの手鞠程の球体へ。
その瞬間地面──いや、愛憎島全体は揺れ動き、黒紫の球体から溢れたと思わしき稲妻が周囲に次々と亀裂を作って行く。
「これぞ、重力使いが持つ奥の手。それを技として押し込めた一つ……ブラックホール・テスタメント!!」
回避不能と言う大技。その言葉に嘘偽りは無く『移動系統による回避は不能』なモノ。仮に避けれる存在がいるのなら、それは……
マジックの様に『時間を操れる者』や『光より速く動ける者』のみ。とは言え、宇宙へ生身で出れる条件付きだけどな。
生憎前者は無理、後者は昔の俺ならイケた。例え破壊の力で砕こうと、余波で島は全壊確定。ともなれば『第三の異能』で対処するしかない。
「悪い、みんな。この超大博打に付き合って貰う」
(安心しろ。霊華やルシファー、勿論俺も既に宿主様と一緒にアレを『受け入れる』気満々だからよ!)
「ハッ……毎度の事ながら助かる。さあ、あの生けすかねぇ仮面野郎に、人間の凄さを見せ付けてやるぞ」
アルファの手から放たれた一つの球体。それは周囲の草花や地面、挙げ句の果てには空気すら吸い込む超重力。
強制の超大博打に付き合わせる旨を話すも、三人共既に準備万端と言う。今も昔も無茶に付き合ってくれる仲間に感謝しつつ。
左手首に装備しているウォッチのダイヤルを緋色へ回し、覚える・破壊に続く第三の力を使うべく三回叩く。
(ability・Ⅲ。AreYou Ready?)
踏ん張る為、地面に両足をめり込ませて待ち構え──先ずは第三の力を宿した左手で鷲掴み止める。
大きく上下左右へブレる左腕を固定すべく、右手で腕を掴みブレを最小限に無理矢理にでも押さえ込む。
そして腕の震えが止まった今この時こそ、鷲掴んでいる超重力球を──握り潰し、左腕に『装填』と言う形で受け入れ完了。
「フン。光と闇の属性を持つ以上、この程度は出来て貰わなければ困る」
「肝は冷えるし左腕は痛いから、出来れば使用回数は減らしたいけどな」
「要件は済んだろ? さっさと帰って新しいアーマーを造り、十三時間後に降って来る衛星兵器を何とかしろ」
何処まで何を知っているのやら。此方に背を向け、俺達に必要で欲しているモノや第三装甲・二号。
挙げ句の果てには衛星兵器落下まで理解して……は? 後十三時間後に降って来る? 今は昼の一時頃だから、時刻的に今夜の真夜中!?
その話の真偽は兎も角として、俺は大急ぎで真夜とヴェルと言う小娘を待たせている岩場へ降りる。
スキット・一話目
『何時もの事』
岩場へ戻っている最中──
「おぉ~怖っ……ブラックホールを受け入れるとか、何時もの事ながら肝が冷える冷える。本当に悪いな、三人共」
「なぁ~に今更な事を謝ってんだよ、宿主様。何時もの事だろうに」
「そうそう。昔なんか一人で敵の攻撃を受け入れようとした挙げ句、両腕が血だらけ……とかあった位だもの」
「アァ。ソウ考エレバ受ケ入レル前ニ一言クレルダケ、少シハ進歩シタ。トモ言エルダロウ」
「なんか……本当にすみません」
一話目・終




