サポート
『前回のあらすじ』
墓場島の近海はハザードの襲来で汚染され、海賊船も腐食で使い物にならず、第三装甲・二号はまだ問題過多。
海賊船の船員は心情ゆかりを除き、行方不明。そんな停滞状態を打破すべくやって来た這い寄る混沌・真夜。
母・霊華や協力者・真夜との会話から愛情を言うものを再確認し、意識不明のオラシオン・シオリを助けたい想いも愛情なのか、判断に迷う。
真夜が第三装甲・二号の手助けに入ってから二日目の朝。愛から五月蝿いと苦情を受け。
自分達と付いてきた心情さんは浜辺へ向かい、使わない魔力をエナジーバレットにしたり、ローブの内側に仕込んでる武器。
投擲用と近接用ナイフの手入れを終わらし、実戦に近い模擬戦をルシファーと行うも……
「だぁぁぁ~……まだ勝てないか~」
結果はご覧の有り様。ルシファーは頼まれた役目を終え、ウォッチの中へ帰還。
自分と狼状態の愛は砂浜に倒れている。やはり『使える魔力量』と使い方の差はまだ覆せない。
「もう少し仲間に頼る戦法を考えろ。幾ら技術や力を持っても、未知の存在には通用しないぞ?」とは悪魔王の言葉。
休憩してると店の方から此方、砂浜へと駆ける二人に気付き、振り返り立ち上がると。
「お待たせ~、たっくん。やっとサポートユニットがこの通り、二機とも完成したよ!」
「おぉ~、それはそれは……って、たっくん?!」
目の下に隈を作り白蛇ユニットを自身で、マンタユニットをトワイに持って貰い見せに来た。
何故白蛇とマンタ? そう疑問に思ったり、新たなあだ名に困惑。たっくん……丸いタコに人間の手足を生やした怪獣?
それとも猫舌の灰色怪人? な~んて此方の思考を読み取ったのか、マキは興奮冷めぬ勢いで口を開く。
「この白蛇ユニットはね。たっ──もごもご……」
「たっ……?」
「まずは落ち着け。勢いのまま話すな」
慌てず騒がず、冷静に左手でマキの口を塞ぐ。予想では自分のパワーアップ兼サポートユニット。
と言うつもりだったんだろう。いや本当、まずは落ち着いてくれ。そして心情さんの存在を認識しろ。
居るんだよ。可能なら一生自分達の素性を知らず、巻き込まれず、平和に過ごして欲しい人が。
「で……トワイ。もう動いても大丈夫なのか?」
『はい。天野川様、エピメテウス様も復帰されております』
「良かった~。ずっと眠りっぱなしで、もう目覚めないかと思ってました」
話題を変更し他の二人も回復済みと知り、心配して話す心情さんを横目に内心安堵の溜め息を吐く。
同時にマキへ落ち着き、周りを見て発言してくれと、耳元で小さく呟き理解を求めたら。頷いて理解してくれたので、手と体を離す。
まあ、マキも寧も。興奮して大暴走するのは構わんけど、他人に迷惑を与えない程度にな?
「あの二人は?」
『エピメテウス様は魔法薬の素材集めへ向かい、天野川様は貴紀様のお側に』
自分の近く? などと思っていたら白蛇サポートユニットが左腕に巻き付き、自身だと主張。
魔力感知で見てみたら明るい緑色の魔力で本当に静久だった。蛇形態でユニットの中に入ってるのか?
「白蛇ユニットはレヴィアタン、マンタのユニットがバハムートって名前。格好良いでしょ?」
「あれ? その名前って確か、機都の図書館で読んだような」
『両方共、遥か昔の文明の旧約聖書に書かれていた怪物の名前ですね』
補足するとレヴィアタンは悪魔としての名前もあり、地獄の海軍大提督。新約聖書では嫉妬を司る悪魔。
バハムートとベヒモスは同一存在だけど、異国の発音だと違って、時代と共に別存在扱いされちゃったんだよね。
「それじゃ、早速バハムートの運用テストをしてくれないかな?」
そのお願いに対し、マキ自身で試せば? と普通なら思う。実際、自分もそう思うけどなぁ~。
寧・マキ・真夜が本気で造る物はピーキーな性能をしてるんだよ。製作者すら扱えない代物を平気で完成させて。
スキル・積年の努力を持つ自分に試験運用を頼む。そりゃまあ使うのは主に自分だけどさ。最初は試作品を作って試験運用しないのか?
「……これ、どうやって使うのさ?」
「まずは下に置いて、背中にサーフィン感覚で乗ってくれれば良いかな」
取り敢えず言われた通りに行うけど、ハッキリ言ってこれ……顔を手で隠したい程恥ずいんですけど!
なんかこう、誰にも知られたくない秘密の趣味のエアギターとか、エアサーフィンをさ。大衆の白い目の前で行うって感じで凄い嫌。
「後は両目の間付近の背中にある取っ手を掴んで思いっきり引っ張る」
え? マンタの両目の間付近とか言われてもサッパリ分からん……背中と一言で言うけど、どの辺り?!
棒立ちで困惑してても意味はない。仕方なく五メートルはあろう背中を手探りで触り、一つの取っ手を探すハメに。
「マンタの目は前方先端の二つだから~。此処だね」
「お、おう。あり──ッ!!」
そんな自分に気を利かせてか。近付いて来た心情さんは直ぐに取っ手を見付け、教えてくれた。
ホッと一息吐き、教えてくれたお礼を言おうと顔を上げると母親の様に微笑む顔に、思わず背ける。
『これは心情様を異性と意識してますね』
「るせぇ……そう言うトワイはどうなんだよ。恋愛とか」
『ありますよ。失恋で宜しければ』
図星を突かれ、恥ずかしい気持ちを抱えつつ言い返すも、何やら少し間を空けて出したスケッチブックと。
その内容に思わず、あ……トワイの地雷踏んだわ。そう内心思うと共に、血の気が引いて行くのも分かった。
「あぁ~、うん、ごめん。思い出したくなかったよな」
『いえ、構いませんよ。あの時のことは、忘れたくても忘れられない記憶ですので』
なんと謝ったものか。そう思うも、やっぱり謝る理由も含めた謝罪を行うも。
彼女の表情は一つも変わらない。でも少しだけ理解した。此方でトワイと合流し話してた時の片鱗。
それは──彼女の体験した失恋に深く関係しているのだと、自分の心は感じ取ったらしい。
「はいはい、この話は終わり。はい終了~、ってことでマキ、バハムートの使い方を教えて欲しい」
「うん。それじゃあ説明するね」
普段は暗い話や言い難い話は無理に聞き出さない。それが自分のあり方。
故に話題を再度切り替え、サポートユニット・バハムートへ。話と説明を聞く限りでは──
バハムートは乗り物で、水中や水上で使える乗馬マシンのようなモノ。陸上でも使える反面、最高速度は落ちるそうな。
「はぁ~……バリア機能も付いてる上に、魔力電池で動くのか」
「今、新しく再改造してるグラビトン・アーマーの試作品でもあるからね」
「ぐらびとん、あーまー? 誰が着るの?」
それ見たことか、と言いたい程にピーキー。バリアは使えるけど、使えば稼働時間は減り、動力源は魔力を蓄えたエナジーデンチ。
グラビトン・アーマーは既に再改造中。思わずスルーしてしまったが、自分も心情さんの存在を一瞬忘れて話しており。
誰が着るのか? と言う問いに、なんと答えるべきか悩んでいると──
『少なくとも、総重量百五十キロの追加装甲と装備を纏った状態で、砲撃戦を行える方でしょうね』
「え? そんな化け物みたいな人、いるかなぁ……」
スケッチブックに嘘偽り無く書いて見せるトワイと、極々普通の感想を述べる心情さん。
何気にナイスサポート! と内心思った。普通に考えれば、そんな筋肉もりもりマッチョマンな変態は少なくとも此処には居ない。
相変わらずボケか素か不明だけど、そんな話を続けてくれている今の内に、レヴィアタンの方も聞こう。
「たっくん。レヴィアタンはね、グラビトン・アーマーの強化兼サポートユニットって言う立ち位置で」
「トリスティス大陸で得た鉱石を全部使い切った?! お、おぉぉ……マジか」
「で、問題の稼働時間なんだけど」
話を纏めると──サポートユニット・レヴィアタンは静久がユニットと融合して操作するらしく。
真夜からの追加素材を加え、防御力強化と軽量化も出来、分離・合体してグラビトン・アーマーの腰と右腕へ装着可能。
稼働時間は第二装甲とは別にして、第三装甲に搭載する二本のエナジーデンチで十分。フル稼働なら八分。
これで九割完成。そして残り一割に必要不可欠なモノを聞かされた時、正直焦った。持ち合わせていなモノだと。
「まさかブラックホール級の重力を必要とか、どんな発想してたらそうなるんだか」
「第二装甲・パワードスーツに元々ある機能の一つを使うには、どぉぉぉ~……っしても、必要でね」
「色んな空間でも戦える機能、だったな」
そう。持ってない最後のピースとして、ブラックホール級の超重力が欲しいと所望してきた。
……確かアイツ、愛憎島を調査するとか言ってたよな。もう何日も前の話だけど、今はアイツを利用するしか手はない──な。




