愛情・後編
『前回のあらすじ』
ギブアンドテイクで助けてくれたマジックに料理を振る舞い、貴紀がこの地と海で得た情報を共有。
お礼に墓場島の山にある洞窟内へ案内され、ナイトメアゼノ・メイトや融合海獣・スプリッテイングの秘密を知る。
融合獣の核の存在も確認。眠る子供達へ届くかすら知らない約束を口にして出る時、崩落が起きて洞窟へは入れなくなってしまった。
洞窟内であの出来事を知った三日後。自分は真剣にどうすれば良いのか、腐食した海賊船を横目に。
母さんと罠を仕掛けつつ考える。いや本当、どうすんべさ、これ……自分は何故か泳げなくなってるし。
本来の姿へ戻った静久の背に乗って~……も駄目だな。ナイトメアゼノ・ハザード襲来時に近辺の海域は汚染され、現状は島から出れない。
「オマケに、避難させた船員達も行方不明。戻って来たのは心情さんただ一人。どーなってんだか」
実は早朝に寧から完成度八割のグラビトン・アーマーの試着も兼ねて、運用テストを行ったものの。
その馬鹿げた重量に身動きすらキツく、第三装甲・二号機の総重量はなんと約百五十キロ。魔力消費量も規定の数値より大きく、まさに大食らい。
五分装着しただけで魔力切れを起こし、動けなくなった。原因は重武装化の対策不足。
「ん? アレは……」
「こっちに降って来るわね」
青空を縦に切り裂いて落ちる赤い落下物。ソレは近くの砂浜へ落下した為、近付いてみると──
予想よりも小さいクレーター痕の中心には、未来から過去へとある女性を抹殺しに来た全裸ロボと同じポーズをしている変態を発見。
黒髪ロングの変態女は顔を上げ、此方に気付くや否やゆっくりと立ち上がり右手に持ったアサルトライフルを肩に置く。
「誰にやられた?」
「色々とツッコミたいが先ずは……違う作品に登場する同じ俳優ネタと台詞を混ぜるんじゃねぇ」
終わらせるもの、コマンド部隊の元大佐、略奪者、それらを混ぜるな。色々と危ないんだよ。
ツッコミに満足したのか。闇を纏うと女学生の服へ変化し、真夜はライフルを其処らに投げ捨て。
元気一杯に此方へ手を振りつつ走って来た。
「いやいや、本当にどげんしたとですか? その右腕」
「あぁ~。此処へ来た直後、ちょっとナイトメアゼノシリーズと二対一でやり合ってな」
「はっはっは! いや~、そう言う時の為にゼロを渡したんですけどねぇ~」
誰にやられた? と言ったのは台詞的なネタと、右腕の怪我はどうしたのか問う意味もあった様子。
事情を話し別行動中の出来事だったと説明すると、突然屈んで右腕に擬態したゼロを見詰め──
「……ゼロ? 後で私の下へ来なさいな。久し振りにゆっくり、じっくりとお話を聴かせて貰いましょうか?」
なんと言うか。顔は笑っているんだけど、雰囲気から察するに寧ろ逆に怒っており。
小刻みに振るえる右腕を見ると、余程怖いのだと分かる。自分も試練やテスト? で対面したけど。
ゼロ曰く「アレはお遊び程度。俺や他の連中だと遠慮のえの字すらねぇ」とか。本当、何で毎度物理的ツッコミを自ら受けに来るかねぇ?
「それで? わざわざ私の息子に逢う為だけに此処まで追い掛けて来た訳じゃないんでしょ?」
「いや~、毎度毎度良い勘をしてますねぇ~。私……勘の良い小娘は嫌いですよ」
やっぱり女って怖っ……だからハーレムとかは嫌なんだよ。精神的に持たないって理解してるから。
と言うかな、豊満な胸をぶつけ合いながら話すな。真夜もあっけらかんな表情から真顔に戻るな、余計に怖いわ!
「余りにも展開が遅いので助太刀に来ました。スティック固定とオートの永続雑魚戦経験値稼ぎとか、飽きますからね」
「大体その手のゲームは何かしら対策されてんだろ。某人造人間みたいな渋い声の奴に遭遇とか」
「運命のリメイク版ッスか~。いやはや、貴紀さんも好きですねぇ~」
今や故郷・最果ての地へ戻る為、あらゆる時間や次元へ飛ばされているものの。
平成の時代を駆け抜けた身、実はただのインドア派ゲーム大好きっ子。沢山のゲームやら漫画、テレビ番組を見たものだ。
故に──真夜達のネタにもツッコミを入れれる。こう言う趣味の合う友人は一人居てくれるだけで、かなり精神的に助かる。
「で、具体的にはどう展開を進める気だ?」
「貴紀さんって戦略ゲーではどんなプレイをします?」
問い掛けたら何故か問い返され、素直に後手迎撃型と答えたら「待ち伏せ系ですか」と言われた。
「はっはぁ~。ソレでですか、この島を迎撃地点にしようとしているのは」
「そうよ。私達や他の娘達も同意でね」
「その為にはグラビトン・アーマーの完成は必須事項。されど未だ未完成、って訳ですか」
戦略ゲームのプレイ方針を伝えただけで此方の作戦を読み解き、新アーマー未完成も言い当てる。
やっぱりこんな見た目でも這い寄る混沌。相変わらずとんでもない奴だ。敵に回すと厄介だと、否が応でも分かるな。
「それじゃまあ、私もアーマーの完成に手を貸すとしますか」
「……なあ、訊いても良いか?」
右肩をぐるぐる回し、意気揚々と半壊した店へ向かおうとする真夜の背中を見て。
胸の奥から出た言葉は、彼女の足を止めさせた。衛星兵器落下までの残り時間も分からない現状。
貴重な時間を切り崩してまで訊く必要はあるのだろうか? 恐らく無い。それでも、心の思うままに言葉は続く。
「どうして、力を貸してくれるんだ? 自分は真夜に何も返してやれないのに……」
世の中ギブアンドテイク。少なくとも自分はそう理解し、毎度協力してくれる真夜には何も恩を返せていない。
此方の質問に対し、今更何を言ってるの? 的に不思議そうな顔で自分を見た後、深い溜め息を吐いて口を開く。
「誰かを助けるのに、何か理由や免許って要ります?」
「いや……寧ろ要らない方が大多数だろうけども」
「赤ん坊ってのは愛情を受けれないと死に、子供は親の愛情を受け背中を見て育つんですよ。つまり」
振り向き返された言葉は知っている、ありきたりな答え。此方もありふれた返答で返すと──
知らない情報も追加され親の愛情、背中を見て育つ云々を聴いて思わず母さんの方へ視線が向く。
「子供が困っていたら、世間一般的な親は助けるわよ。借り貸し云々も無しに」
「例え親じゃなくとも、親友や好きな人に借り貸し無しで施しをしたりするでしょ。そう言うモンですよ、愛情って言うのは」
「よいしょっと。なあ、宿主様も惚れた女や親友相手に本体や霊華と同じことしてたんだぜ?」
言われて気付いた。人は決して一人では生きれず、必ずしも誰かの力を借り生きてるんだと。
右腕から獣の頭へ変貌したゼロから言われ、今もそうなのだと痛感し、改めて思う。子供は親から色んな形の愛情を受けて育ち。
友人親友同士で損得無しの助け合いと言う友情から愛情への変化も存在し、愛情と言っても。
甘いモノから厳しいモノまで、まるでお握りやお弁当の様に沢山あってどれが正解とも言えない。
「うん……ありがとう、みんな」
「そうそう。厚意は素直に受け取るべきです、あれやこれやと言う前に」
「本体が言うと悪い意味で捉えられ……いだだだだっ!?」
「余計なことを言う悪い口は、どんどん閉まっちゃおうね~」
感謝の意を伝え、厚意を受け取る中。兄弟喧嘩か親子喧嘩にも思える真夜とゼロのやり取りを見て。
獣の鼻先を摘ままれて痛がる様子と、昔観た懐かしいアニメの台詞を言い替えた会話に思わず笑ってしまった。
「あぁ、そうそう忘れてました。貴紀さん、他の方々や融合パートナーとは会話してますか?」
「一応はしてるけど」
「ディ・モールトベネ!! 意志疎通もそうですが、友好関係も大切ですよ。特に貴紀さんの場合は」
じゃれあいもそこそこに、突然話し掛けられ仲間内を心配されるも一応会話はしてるよ。
自分の融合はパートナーとの関係性次第で、強くも弱くもなってしまう。それも含めて、仲間達との会話は欠かさない。
一々ツッコミたくないんだけど、何故非常に良いをフランス語で言った。普通に言えば良いものを。
そんな疑問を抱えたまま、再度店へと向かう真夜を見送った後。
「意識不明になったシオリを助けたい。って想いも、愛情の類いなのかな?」
「だろうな。おぉ~、イテテテテ……」
「息子のお嫁さんがダークエルフ。うん──寿命的な意味では背中を押せないわねぇ」
「なんの話!?」
自分の想いも愛情の類いか不思議に思い、ゼロへ訊ねてみると鼻を手で押さえつつ肯定してくれた。
母さんは──なんか話が飛躍し過ぎてない? そりゃまあ、人間とエルフの寿命差は恐ろしいけどさ。




