黒き王の復活
『前回のあらすじ』
寧達に電話で連絡を取り、墓場島の直ぐ側まで迎えに来て貰った時、予想外の存在と遭遇。
それは終焉の闇No.0の一欠片、無垢なる道化であった。その実力と能力に苦戦する貴紀と静久。
トワイ達援軍と共に挑むも、全く歯が立たない。このままでは全滅は確実……意識が朦朧とする貴紀はどうなる?
今の自分達じゃ無理だ。そう痛感し薄れる意識の中、沸騰する熱湯の如く湧き上がる感情が一つ。
でも負けるのは嫌だ、絶対に勝ちたい。と言う、醜くも勝利へ執着する願望。では何故、勝利へ拘るのか? と疑問も浮上する。
それは単純明快、とても簡単な話だ。自分は──いや、俺は醜い欲望に取り憑かれた卑しい人間だ。
「ウヒヒヒッ……」
仲間を、家族を、大切な人達を守りたい。その為になら……悪人・スレイヤーへ堕ちてやるさ!!
無垢なる道化の俺達へ対する嘲笑う声を聴き、負けず嫌いの理由が心を震わせ再び燃える闘志。
やる気を取り戻した時、突然バイザーは暗転。直後、チクッと首に針が刺さった感覚に襲われ。
緊急を表すような赤い光が視界を照らす。力の抜けた体が突然動き出すと握り拳を作り、砂浜に着けた両膝をゆっくりと起こす。
「ゼロ、お前の仕業か!?」
(出来るっちゃ出来るけどよ、俺じゃねぇ。このパワードスーツが勝手に動いてんだよ!)
「いやいや。そんな暴走システム、寧達……組みそう。いや組むわ、そう言うロマン大好きだし」
体を共有している時は例え俺自身の意識を失わせたとしても、ゼロ達も俺の体を動かす事は可能。
なんだけれど……今回は違う。体の自由は効かず、寧ろスーツと溢れ出す何かに操作されている感じ。
俺も寧達も、暴走系システムとかは大好物とは言え。体験する立場としては、止めて欲しい機能だな。
「イヒヒッ、ウフフフフ!」
「うっ……おぉ、ウォォオオォッ!!」
負けず嫌いと闘争心に引き続き、烈火の如く燃え盛るっ……今にも飲み込まれそうな、この荒々しくも冷徹な感情ッ!
意識を飲まれる。そう理解するも、既に遅い。嘲笑いつつ迫り来る敵……仲間を、家族を傷付けた憎い敵。
そんな奴を目の前にどうするか? そんなモン、わざわざ答えてやるまでもない。当然──
「アヒャッ!?」
気に食わねぇその面ァぶち壊す為、溢れんばかりの殺意を込めて、右拳で力の限り殴り飛ばす。
「ハッ……フフフ、フハハハハハッ!!」
(攻撃が、通った!? ちょ、ちょっと、貴紀?)
仮面の口部が開いたか。丁度良い、これで戦場に漂う空気を堪能出来る上、喋り易くもなった。
あぁ……とても心地良い気分だ。目障りな奴、気に入らねぇ野郎、殺したい馬鹿共を手加減もせず。
心の底から溢れ出す感情、殺意に心身を浸し暴力を振るう。当時、最強の『黒き王』と呼ばれていた頃を思い出す。
(駄目だ、霊華。俺達の声は今の宿主様にゃあ全然届いてねぇ)
(抑制も効かない。これじゃあ昔の、仲間を殺されて殺意に目覚めた頃の復活じゃない!!)
(いや、もっと最悪のパターンだ。終焉の闇No.02・黒き王の復活……)
にしても、少し殴る位置を意図的にずらされた?
フッ、フフフ……あぁ、そうだ、そう来なくてはな。もっとだ、もっと死に物狂いで抵抗し続けろ!
「エヘヘッ。ホロコースト・ボム」
此方に背を向け倒れ伏した野郎へ、凍った砂浜を踏み締めて近付けば、背中から紫色誘導弾を撃って来た。
罠に嵌めた気で嬉しいんだろうが、残念だったな。接触を条件に爆発する誘導性能と爆発力しか取り柄の無い技なんぞ。
この地形なら砂を蹴り上げてやりゃあ、一発で済む話だ。有言実行してやると驚いたのか、恐る恐る一歩二歩と後退しよる。
……まさかテメェ以上の敵と戦った経験の無い臆病者か? そりゃあ益々愉快だ。教えてやるよ、圧倒的な実力差ってヤツをよ!!
「ヒヒッ!?」
「ヌアァァァッ、ムウゥゥン!!」
臆する暇は与えても、逃げ出す余裕はやらん。凍った足場は滑るだろうが、踏み抜きゃあ関係ねぇ。
野郎へ走り出し、首根っこを掴み氷塊へ力強く投げ付けたら、逆さまの姿勢で食い込んだ。
まあ、ちょこまか逃げ回られて苛立つよりは幾分かマシか。
(ちょ、ちょっと。どうして普通にダメージを与えれてるのよ?!)
(そりゃそうだろうよ。デトラはNo.0と同じ種族で実力も対等に等しい存在)
「ヒヒッ、ヒイィィ……でぃ、ディスペアー・レイ!」
一歩一歩、凍った砂浜を踏み抜く中。頭部や胸部の光球から黒い稲妻の様な光線を放って来るんで。
一発目は右拳で殴って弾き、二発目は左手で受け止めて防ぎ、落胆の溜め息を吐いた辺りで三発目。
防ぐ価値も無いと理解。何せ防御や回避も無しに真っ正面から受け、胸部で弾いてしまえる威力。
(相手は本体の一欠片、此方は弱体化済み。それでも最強の破壊相手に最狂の虚無程度じゃ、話にもならねぇよ)
「ダァアアアァァアァァアア―ッ!!」
「──!?!?」
全く問題外な威力とは言え、浴び続けるのは鬱陶しくて殺意しか湧かん。ちょっくら黙らせるか……
歩きから走行へ切り替え、雄叫びと共に野郎へ飛び込み、ドロップキックを叩き込んでやったら。
氷塊諸共蹴り抜き仰向けになったところに乗っかって、思う存分憎たらしい面を拳で殴ったり叩き続ける。
「オラッ。さっさと起きろ!」
(これじゃあ最強と言うより、最凶じゃないの……)
(当然だ。ディストラクションとは破壊と滅亡を意味する。例え相手が虚無の存在だとしても、干渉して破壊しちまう)
野郎から降り、左手で首根っこを掴み持ち上げる。……動く様子を見せない。つまりは──
「オホホホホッ!?」
「ククク……やっぱりな。死んだふりたぁ、姑息な真似をしてくれるじゃねぇか」
「クヴァール……!」
「この短時間に二度目だ。余程の阿呆でもなけりゃ、妨害やら行動の阻止位は思い付くぞ?」
大きく振りかぶって氷塊に叩き付けて見たら……思った通り、死んだふりでやり過ごす魂胆か。
負けじと抵抗し、楽しませてくれるのは大歓迎──とは言え。同じ技を繰り返すってのは興醒めでしかない。
その技はテメェの能力と頭を振る行為を行って初めて機能する技。ならば右手で顔面を鷲掴み、振れなくすれば簡単に阻止出来る。
「ウヒヒ……じぇ……」
「あぁん?」
「ジェノサイドサンダーボルト!!」
死を悟って笑ったのか。と思いきや、頭部に魔力を集中させていると知った矢先。
黒と紫の稲妻を見境無く放電すると理解し、野郎お得意の短距離連続瞬間移動を真似て少し距離を取る。
まあそれでも、野郎の放つ稲妻は自由自在に曲がりくねり、追い掛けて来る。が……んんなモン、次々と叩き落とせば済む話だ。
「ヒッヒッヒ」
「ハッ、自分が本家本元だってか。……欠片を全部かき集めて、本体に戻ってから言いな!」
幾らか距離を取ったからかだろう。短距離連続瞬間移動で四方八方に出現と消失を何度も繰り返し。
惑わした気でいる様子なんで。背後やら左右側面に現れた瞬間を狙って。
愚痴ついでの拳と足での打撃を打ち込み、見切っていると体に教え込んで、蹴り飛ばし距離を離す。
「湾曲・集束・圧縮、湾曲・集束・圧縮……」
(アイツの手をグルグル回してる前方の空間、捻れ歪んでない?)
(湾曲と言う能力を上手く利用してんな。恐らく最大級の威力でブッ放してくんぞ!)
ほう……右手でゆっくりと大きく円を描き、関節部の球と共鳴。その中央に湾曲で曲げた魔力をかき集め、漏れ出さない様に練り込む。
確かにそれなら、持てる力以上を撃ち出せるだろう。ならば其処へ至った発想と、例えヤケクソだとしても。
逃げぬ姿勢に敬意を払い、俺も『劣化版』では無く、本来のライトニングラディウスで応えてやろう。
「ヌウゥゥン!」
下半身へ向け両腕を伸ばしたら交差させ、右手の魔力と左手の霊力を接触させ大幅に増幅後。
腕は曲げたままに胸部左右へ引けば、両腕の間で緋色と漆黒の稲妻が自ら円形を作ったら。
腕をX字に交差し、この姿勢で構える。これで俺の準備は大方完了。
「きょ、む、へ……消え、ろ。ロスト・パラダイス」
「ハッ……やなこった。アインスト・ライトニングラディウス!」
空間湾曲を利用して作り、手を回し維持し続ける水玉色の球体をどう撃って来るか。と思ったら。
湾曲を利用し球体のまま放つか。さて、右腕に増幅させた二つの力を集中させて斜め下へ振り払い。
カラテで言う正拳突きの動作で緋色と漆黒、二色の稲妻光線を撃ち放ち──俺と野郎の間で一度瞬きをすれば終わる程、一瞬の激突。
「ヒヒッ……ヒハハハハハハァッ!!」
雷光一直線。稲妻は圧縮された球体と野郎を纏めて貫き、遠くの海面へ着弾。
ドデカい水飛沫を上げ、遊びの終わりを告げるゴングを鳴らす。ん~で、肝心の野郎はと言うと……
「な……ぜ……」
「負けず嫌いで馬鹿が付く──俺達の器に挑んだのが最大の敗因だ。生き延びれていたら覚えとけ」
被弾箇所の胸元から全身に向け、破壊の効果が浸透し崩壊を始めている中、敗因を伝えると瞬間移動で逃げやがった。
俺とオメガゼロ・アダム、泣き虫は魂を分けた同一人物。とは言え、そう軽々とは出れん。
今は分散した力と記憶を取り戻しつつ、器たる貴紀を鍛える為、こう言う時位しか表には出ないと決めていたからな。
さて……と。後は頑張って本来の姿と力、記憶を取り戻せよ。迷いの森では助けれたが、今後助けてやれるかは──お前次第だからな。
(圧倒的過ぎるわね)
(しかもデトラの奴。攻防や吹っ飛ばしの他、距離を取ったのも全部、静久達を守る為だったんだぜ)
(弱体化済みであの化け物を相手にしてとか、余裕有り過ぎでしょ……)
俺やアダムに泣き虫の言うゼロや霊華達の声は聴こえない。それでも引っ込む前に言わせて貰おう。
泣き虫かつ弱虫、不安と恐怖心を苦手とする癖に仲間の前では強がる器だが……今後とも支え、力になってやってくれ。
そう心の中で呟いた後、携帯電話を取り外してスーツを送り返す。そして俺と言う力だけは残し、意識は心の奥底へ引っ込む。




