最狂の欠片
『前回のあらすじ』
テレポート先は墓場島の砂浜。携帯電話を使い、寧とマキへ連絡をし迎えに来て貰える事に。
出来る用事を済ませ、深夜の砂浜を一人歩く貴紀の前に海から姿を出すリート。彼女から恋愛話を訊かれ答えて行った。
話疲れて眠るリートの代わりに、現れた四天王・トリックと恋愛関連の愚痴を話し合う。と言う、不思議な夜を過ごす。
翌朝。気晴らしに浜辺へ向かうと、遠目で海賊船・スカルスネーク号を確認。到着まで後十数分か。
安堵はしても魔力探知は解かず、船の到着を静久と待つ。
──次の瞬間、自分達と船の間に紫色の球体は突如として現れた。
「イヒヒヒヒッ」
「何だ……コイツ……私達の探知をすり抜けた上で現れたのか……?!」
異なる種類の警戒心と言う網を、自分達二人で張り巡らせたにも関わらず。
魔力・霊力・異能のどれにも引っ掛かる事も無く、不規則かつデタラメな軌道で砂浜へと落下。
噴き上がる砂が落ちた後、其処に立っていたのは……不気味な声で笑う貌の無い怪人。
「顔の無い、怪人?」
「ヒョッヒョッヒョッヒョッヒョッ」
「チッ……薄気味悪い笑い声をする奴め……」
頭部と呼べる部位はあれど、顔のパーツは無く頭部は明るい紫色に明滅中。
体は膝まで届く白いロングコートらしき衣装に、紫色のラインや模様が所々に入っており、体の関節部には光球が付いている。
全体的に中学生と思わしき体型・身長、道化を思わせる衣装。そして不気味な笑い声と……目の錯覚なのか。
フュージョン・フォンのスキャン機能を通しても、直立する奴を前後左右に傾き揺れ動いている様な、滅茶苦茶な姿勢に見える。
「貴紀、奴の数値は出たか……?」
「無理だ。コイツは正真正銘、混じりっけのない終焉の闇、No.0の欠片だ」
「No.0……この星へ紅き光と降り立った伝説の存在。つまり『最狂の一欠片』と言う訳か……」
幾ら訊かれようと、何度測定しようとも、数値化など出来ない。出来る訳がない。
それは虚無を測定する行為と同じ。空間やエネルギーすらも計測出来ないモノを、どう数値に表せと言うのか?
とは言え……コイツらを倒す為に、No.0のサンプルから設計されたオメガゼロなら、倒せる筈!
「来るぞ、静──ッ!?」
此方へ歩み始めた奴を視界に捉えたまま、瞬きもせず隣に立つ静久へ話し掛けた直後。
話し切るよりも早く奴は渦巻く闇に呑まれて消え、此方に身構える暇も与えず目の前に出現。
突然の事に驚き始めた時にはもう、左手の甲で左頬を叩かれていた時、直感が働く。
「貴──っ……!!」
「クソっ、間に合え!」
静久は両手で首を絞められて殺される。直感はそうイメージを強く自分に見せ付け。
今現在進行形でその通りに進んでおり、助けるべく奴の両腕に掴み掛かると……
「ウフフフフッ」
「何ッ」
「「──!?」」
「アハハハハッ」
また視界から消え去り、慌てて周囲を見渡すと背後から無数の紫色誘導弾が襲って来ては。
自分達やその周辺に着弾しては、次々と爆発を繰り返す。被弾時の痛みも当然ながら、飛散する砂もあって今は目を開けられない。
「っ……貴紀の持つ恋月と同じ。いや、上位互換も同然の誘導弾か……」
「連射性は、朔月に匹敵してるけど……な!」
喋りつつも恋月を取り出し、右手で銃を作る静久と共に誘導式魔力弾、連射性の高い水鉄砲を撃つ。
「エヘヘヘヘ」
接近してもワープされ、不意打ちを受ける。ならば遠距離攻撃で……と思い行うも。
上半身を前後左右に揺れ動かし攻撃を易々と避け、下半身を狙うも命中前に弾道が湾曲し当たらない。
お返しにとばかりに関節部の光球から光る鞭を出し、此方へ執拗に打ち付けて来る始末。
「ヒヒヒッ」
「何だ? 突然肌寒く──静久!」
「了解した……傍観決め込む水の精、大いなる力にて逃げ場を奪え。アクア・プリズン!」
相も変わらず笑い声しか発しない中、寒さを苦手とする事もあってか。異変にいち早く気付く。
夏の始まり程度だった気温は、一気に冬の気温まで激変。それを起こせる人物を知る為、静久に呼び掛け。
奴を囲えとハンドサインを送る。意図を一瞬で理解したらしく、魔法で正方形の水監獄を作る。
『凍り、凍てつきなさい。スキル発動、零の息』
「今だ!」
背後から再度感じる冷気は肌に突き刺さる程冷たく、水の監獄と海が軽く凍り付く。
そして再三迫る冷気の魔力を探知した瞬間、二人揃って高く跳躍した。直後──
海賊船前方から墓場島の密林前方までが一気に凍り付き、一面銀世界のような領域に。
「幾ら弾道を曲げれようと、このコンボは曲げれまい」
「成る程……確かに水と凍結のコンボなら、回避は出来ない。考えたな……」
『すみません。少々遅れました』
「構わんよ、トワイ。寧ろ丁度良いタイミングだ」
物理は避け、射撃は捻じ曲げる。ならば動ける範囲を無理矢理狭め、其処へ攻撃を撃ち込む。
凍結した海を歩き、遅れたと謝り頭を下げるトワイ。だけど最適なタイミング、最善の判断だった。
余程寒いのか。自分の着ているローブの内側に静久が入り込んでなお、寒さに震えている。
「おわっとっとっと!? 凄い魔力。海や砂浜、密林も凍り付けだよ!」
『雪女専用の固有スキルです。それに、規模は抑えてありますので』
船から降り、凍り付いた海を駆け足気味に、今にも滑り転けそうに此方へ来たエピメテウス。
トワイに興味津々で褒め称えるも、本人は相変わらず無表情な顔とスケッチブックで返事を返す。
雪女の固有スキル……とーはー言ーえ、こんな威力は初めて見る。手加減してこれじゃ例え防御壁を張っても無意味。恐ろしい種族だ、雪女とは。
「「「──!?!?」」」
銀世界に有る氷塊から一切、目を離していない。にも関わらず上空から降り注ぐ黒紫色の落雷。
収まった頃を見計らい、何事かと言う思いを胸に見上げると……
「イヒヒヒヒヒッ」
「クッソ。これだから常識の通用しない奴は……」
氷塊は砕けていない。それでも奴は易々と脱出し、自分達の上空でイカれた様に頭を前後左右へ振り五月蝿い声で笑う。
「ッ、伏せろ!!」
「あひゃひゃひゃひゃ!」
背後への転移、右手の素早い横振り払い、転げ落ちる四つの首。それを一瞬で直感は自分に見せ。
ゾッとする背筋。死の恐怖により腹の底から指示を叫び、条件反射的に動く体。三人も咄嗟の指示に対応。
崩れ落ちる様に伏せた後──あの笑い声と共に密林と店は横一閃に切れ、支えを失ってずれ落ちる。
「くっ、奴は化け物か……!」
「問題は、アイツの能力です。それさえ分かれば、何か攻略の手口も見える筈です」
「静久、愚痴るのは後だ。先ずは覚えてみる」
戦況は敵の一方的な攻撃で停滞中。此方の攻撃を全て捻り曲げられちゃ、話しにならん。
ウオッチのダイヤルを緋色へ回し、一回叩き自分の持つ異能・覚える能力を使い無茶苦茶過ぎる奴を理解すると……
「湾曲の異能と魔法を使え、自分達と圧倒的な実力差があり、それを埋めない限り勝機は無い……」
「なら、少しでも力を合わせれば実力差を埋めれる筈です。紅さん、行きましょう!」
「「変身!」」
奴の名は『無垢なる道化』、異能・湾曲は常時発動型の自身に触れる全てのモノを捻じ曲げる力。
攻略法も似通った・相反する能力による干渉。もしくは理屈を超える圧倒的な力での攻撃。
残念ながら、自分達にはそのどれも無い。それでも、スーツと魔法少女の力を合わせれば湾曲を突破出来るかも知れない。
僅かな望みを託し、自分とエピメテウスは携帯電話・魔法のステッキを手に決められた動作を取り変身。
「ライトニング、ラディウス!」
「愛と正義の名の下に……マジック、ブラスター!」
「渦巻く水よ、降り掛かる災厄を絡め取り、我が前に立つ敵を穿て……アクア・スパイラル!」
最後の希望と全力を込め、降り立った相手へ向け三人の技と魔法を組み合わせた。
今撃てる、最大級の一撃を放つ。避ける動作は無い、弾く様子も無い。当てる、当たる、当たった!!
三人の全力を合わせ、漸く異能・湾曲を突破出来た。喜びと達成感が湧く中、爆煙の晴れた後──
「イィッヒヒヒヒヒ、アーッハッハッハ!」
「な、っ……うぅッ!!」
『こ、れ、は』
「クヴァール・グロッケっ……だ。湾曲を利用して、音を……!!」
ハンドベルを鳴らす様に、左右へ大きく頭を振る無垢なる道化。頭がベルにでもなっているのか。
湾曲させた音を周辺に響かせる。鐘にも似た音を聴いた途端、今にも割れそうな頭の痛みに砂浜へ寝転び、悶え苦しむ三人。
両膝を着き、自分も頭を抱える中──意識、薄れて……視界、真っ暗で……身体中から、力が抜ける。
これが……終焉の闇No.0、最狂の欠片。欠片なのに、同じ欠片のイブリースとは……天と地程も差があるのか……
協力者・Яainさんより序章・Put out walkは意味が間違ってる。
と指摘を受け、タイトルを序章・first stepに変更致しました事、お伝え致します。




