第三の遺跡
『前回のあらすじ』
運良くムピテと合流後、海底へ案内される貴紀達だが、パイソンは一人別行動を取る。
途中でクラゲ娘のリートと再会。ムピテは自身の恋愛観や思想に辛辣なコメントを受け、意気消沈。
彼女を置いて進む中、フォローするリートを他所にナイトメアゼノ・ゲミュートに遭遇し移動の勢いに流されてしまう一行。
あの後。自分達は運良く何処かの建造物内へ流し込まれ、溺死だけはなんとか回避した。ものの……
パンドラや影武者ミミツと戦い、消耗した状態で土壇場の魔力障壁を張った為。魔力切れで意識を失った。
「わっぷ!? て、敵襲?!」
「阿呆……何時まで寝ぼけている」
顔に水をぶっかけられ、条件反射もあり慌てて身体を起こし辺りを見回すと。
其処は古い石造りの通路──もしくは、出入り口。水を掛けた張本人であろう静久は、通路の奥を見ている。
「やるじゃねぇか、宿主様。咄嗟に球形の魔力障壁を張るとはよぉ」
「……悪い。あの時は助けるのに無我夢中で、何をしたか覚えてないんだ」
「まあ、次からは意識してやってみな。それが出来りゃあ宿主様はもう一段階、強くなってる筈だ」
褒められても意識して出来た事じゃないからか、余り嬉しく感じない。
謝るも次からは──と言われ有り難み半分、期待に応えなくては……と焦り半分を感じていた。
「此処、水が入って来ないし、空気もある。そうだ、静久、リートは?」
「あのクラゲ娘か……流れに呑まれて何処かへ行った」
幸運な事に建造物の中へ水は入って来ず、空気もある。衣服や髪もずぶ濡れ状態で気持ち悪い。
そうか。リートは流されたのか。そう言えばムピテも初対面の時、そんな愚痴を言ってたな。
まあ、クラゲに対して波に抵抗しろ。ってのも酷な話だわな、そりゃあ。
「それよりも──宿主様。この外見、超古代遺跡じゃねぇか?」
立ち上がってからもう一度、辺りをじっくり見回る。壁に彫られた不思議な絵。
老若男女の魚人、人魚達が人間達と争う中。
その絵の隣では一つの黒い何かが、彼ら彼女らの前へ落ちて行く様子が描かれていた。
「トリスティス大陸の遺跡でも見たよな。この手の壁画は」
「あぁ。でもこれは──」
「……天からの贈り物。もしくは例の魔法少女の名前から取って災厄と呼ぶか……」
自分は上着とシャツを脱ぎ、両手で強めに絞りつつ壁画へ視線を向け、二人と話す。
そんな中、黄色い光球が遺跡の奥から此方へ意気揚々と飛来しては眩しい閃光を放ち──
「あぁ~もう。ゼロから逐一連絡は貰ってたけど、本当に無事で良かった……」
「……あの、恥ずかしい……んだけど」
人の姿へ変わったと思いきや。勢いもそのままに、抱き付いて来ては頬を擦り付けてくる母さん。
と言うか今ずぶ濡れ状態だから、母さんの巫女服も濡れちゃうって。まあ、恥ずかしいのもあるけど。
そんな時。左手の甲に、強く光る紋章が浮かぶ。
「これは──あの時で現れた緋色の紋章?」
「っ……どうやら、此処にいる全員に起きている現象らしい……」
不思議そうに視ていると四人全員、各々に紋章が浮かんでいるらしい。
自分は緋色の太陽、静久なら緑色の眼から落ちそうな一滴の涙。
母さんは翼の生えた黄色いハート、ゼロのは天に吠える青い獣。
「この感じ。もしかして紋章が何かに反応してるのかしら?」
「多分な。その証拠に、向かえと言わんばかりに紋章から一筋の光が出てらぁ」
何に反応してか分からない中、各々の甲から放たれた光の指し示す先は。
目的や目標も無く生きる人生の如く、お先真っ暗な通路の奥。光源も無く進むのは迷子の元。
魔力で光源となる光球を作ろうとするも、静久に「止めろ……途中で魔力切れになる」と言われ、却下。
「ならよぉ、宿主様。コイツを使おうぜ」
そう言って自ら右腕を動かし、意気揚々と右ポケットから単眼鏡を取り出すので受け取ると。
器用に柄部分をカチカチと弄くり回すと、先端から光を放つ懐中電灯になった。どう言う作りだ、コレ……
「あの嬢ちゃん達、やっぱり天才だな。七つの機能をこれ一本に凝縮させたアタッチメント。その名も」
──フォースガジェット。トリスティス大陸の超古代遺跡で得たデータを元に。
接近戦用の携帯武器、危機的状況を乗り越える道具として、以前渡した単眼鏡を改造した物だとか。
魔力を充電して使うらしい。先に続く通路や壁画を照らしつつ、先へと進む途中。
「黒き物体落ちし後、我らの日常に異変生じる」
「どうした、霊華。頭でもぶつけたか?」
「感じない? この壁画達、私達の頭に語り掛けてきてる」
ポツリポツリと呟く母さん。何も知らない第三者から見れば、ゼロと同じ意見だろう。
けれど言われる通り、壁画を視ていると意味と内容を自然と理解出来る辺り、そうなのだろうと納得してしまう。
左右の壁に光を当て、刻まれた絵を視る。その中では黒い物体から溢れ出す閃光に怯え、逃げ戸惑う者達の他。
水辺に困っている白い人物へ対し、紫色の服……らしき物を献上している魚人・人魚・人間達。
「黒き物体炸裂せし後に現れし無垢なる道化、我ら一同を永久に覚めぬ悪夢へ捕らえん。全てが歪み汚染される中、白き鎧着し者、現れん……ね」
「永久に覚めぬ悪夢……か。此処もトリスティス大陸と同じ、なのかもな。宿主様」
絵の内容を口に出して語る母さんと、此処と似通った境遇のトリスティス大陸を思い出し、懐かしむゼロ。
続く壁画の内容は──されど白き人。海中を移動する手段を持たぬ故、海に潜みし悪夢に悪戦苦闘。
我ら、残されし遺言に従い、超古代の遺産を白き人へ献上する……って事は、もう遺産は無いのか?
「現物は無いにしても何かしらの情報はあるだろうし、先へ進みましょ」
「そうだね。黒い物体ってのも気になるし」
望みの物は無いかも知れない。それでも、この時代に関する情報はあるだろう。
そう信じ、後ろの警戒を静久に頼りつつ先へと進む。すると部屋の奥へ破られた、分厚い扉を発見。
目で視、手で触れて分かった事だが……厚さ四十センチはある扉は、正面から物理的に破られた様子。
「……私達の他にも、予期せぬ来訪者が来ている……?」
「クソッ。急ぐぞ、宿主様。こんな所へ来れる奴らは、敵ってのが相場だ!」
海底に沈んだ超古代遺跡へやって来ている、予期せぬ来訪者。
一瞬魚人やら人魚かと思ったが、リートやムピテを見るに陸上へは上がれても制限時間はある様子。
つまりゼロの言う通り敵勢力だと考えれば、此処へ来ているのも納得が行く話。
最悪の事態を予想し、奥の部屋へと駆け出せば──
「予想より随分早い到着だな。オメガゼロ・エックス」
「テメェは……調律者姉妹の犬、アルファか!!」
「その通りだ。飼い犬にまで成り下がった、外なる神の一部よ」
其処には……調律者姉妹に仕える最強の側近、白銀のパワードスーツを身に纏うアルファが居た。
今にも噛み付きそうなまま発言をするゼロに対し、冷静な言動で自ら肯定し言い返すアルファ。
奴の直ぐ側にある石造りの机には完全に錆びきった鎧らしき物と、床周りへ落ちているバラバラの機械部品が多数。
「貴様……何をしていた?」
「愚問だな、白き蛟よ。調律者様の命に従い、超古代の遺産を破壊したに過ぎん」
「前回もそうだったが、どうやって深海へ潜った?!」
「それも愚問だ。我が異能は重力、如何なる重力場や深海であろうと最善の動きが出来る」
此方の質問に対しても、スラスラと答える。それも、調律者姉妹の命令か?
けれどまあ、敵の妨害でパワーアップアイテムの破壊とかは……悔しいけど有効だ。
以前、海底に現れたのは奴の異能・重力での姿勢制御、重力制御などによるモノらしい。
つまり奴は……『如何なる重さと言う力が加わる空間』でも通常と同じ、もしくはソレ以上で動ける訳か、成る程な。
「悪いが、お前達に構っている程暇では無い。愛憎と言われる島の調査も残っているのでな」
「待ちなさい!」
任務の一つを終え、奴の通って来たルートから立ち去ろうとする奴を呼び止める母さん。しかし……
「これ以上、俺に構っている暇はお前達にも無い筈だ」
足を止め、首だけ此方へ振り向きいい放った言葉。
「忘れたか? 此処は悪夢と融合獣の量産場だと言う事を」そう言われた次の瞬間──
あの足音が背後から遺跡の壁に反響して聴こえる。
「永久の悪夢と激しい愛憎の果てに生まれ、墓場にも入れぬ小娘達か。哀れな……」
「アルファ、それはどう言う──」
「貴紀……構うな。今は此処から撤退するしかない……」
今、此処で融合海獣・スプリッティングを倒すには狭すぎる。
来た道と奴の通った右斜め上の道は何のカラクリか。石の擦れる音を響かせ分厚い石扉は降り。
代わり左斜め上の石扉が開く。……進むしかない。静久と母さんが部品や鎧を全て拾ったのを確認後、開いた扉へと駆け込む。




