二重の意味
『前回のあらすじ』
自らを魔法少女パンドラだ。と白状する錬金術師を目指す少年、エピメテウスを船旅の仲間に加え。
何も知らない皆の前で幽霊船が来たと吠え、注目を浴びるゼロ。それは仲間内で秘密の話をする為だった。
骨海賊を操る黒ドレスの女を倒すも、それは文字通りの影武者。一行は沈没大陸を探索すべく、ムピテと遭遇した海域を目指す。
あの後、偶然か必然か。タイミング良くムピテの方から現れ、自分とゼロ。
人の姿へ戻った静久、パイソンの四名で沈没大陸の探索へ向かう準備を整え、残りは留守番。
ムピテがバブルラッパに魔力を注いだ二つの泡へ各々入り、目的地の海底へ運んで貰い別行動へ。
「早速別行動とか、死にたいのか。あの海賊は……」
この泡に入るのは三度目だけど、どうにも歩き辛い。
体感的には大きなボールの中に入った感じ。淡く光る不思議な岩や魚達のお陰で視界は良好。
オマケに砂や岩の中に隠れている深海魚達の処理法が見えて、何気に面倒臭く感じる。
「うっ……貴女、リートといい勝負。で、でも輝かしい鱗はワタクシにしかありませんから……」
「フッ。例えそんな外見的な輝きを持とうが、私には到底敵わぬと知れ……」
「うぬぬ……リートから水系と聞いてはいましたが、どうもギリギリの戦いが多いですわ……」
こっちはこっちで、何やら女の勝負が始まっているらしい。
けれどまあ、静久に勝負を挑む時点で結果はお察し。家事全般得意、男心もある程度理解しつつ、受け入れくれる器。
最終的に……うん。夜のアレも此方の心情を理解した上で自ら来るしな。本当、恐ろしくも頼もしい。
「こっちだよー……ヒーローさん、みずのひとー」
「クラゲ娘……人魚、お前の友達か?」
「えぇ。ワタクシの大切な友人ですわ」
明かり届かず先の見えない上層から、此方へ降りて来るのは。
腰にあるふわふわしたクラゲの傘を使った泳ぎ方で、我先にと先行し、道案内するクラゲ娘のリート。
相も変わらず、此方の名前は覚えてくれていない様子。
「ムピテ……お前の事は貴紀の記憶を読み取ったから知っている。だから敢えて言う」
「なんですの?」
シャボン玉の隣を優雅に泳ぐムピテを睨み、静久は口を開く。
「貴紀は『私達と言う世界の王にして道』、共に最後を迎える覚悟も無い人魚風情が……我ら百鬼夜行に入り、恩情を受けられると思うな……!!」
それは獲物を睨む眼であり、ある種の試練。確かに様々な時代で戦い、仲間を増やした。
それに関しては間違いない。けれど中には自分を王様と認識し、従う者も複数おり。何を話し合って決めたのか。
各々と言う世界の王であり進むべき道──即ち、二重の意味でワールドロードと呼び始めていたな。
蛇に睨まれた蛙の如く、硬直して泳ぐ事も忘れていたムピテだが……我に返り、泳ぎ始めた。
「ムピテ……びびった?」
「な、何を言いますか。わ、ワタクシがビビるなど」
「それに……お前が求めるのはアクセサリーにもなる男。それを私達の王たる貴紀に求めるな……」
ムピテの求める相手は、自身に釣り合う宝石みたいなオーラと、輝かしき才能を持つ者。
まあ自分や静久から言わせれば、ATMであり自らの欲望・願望を聞き入れ、叶える存在。
ハッキリ言って、女王に仕える家臣も同然。個人的に大抵の女は自己中・コミュ症・性格ブスの三拍子と思う。
「あ、貴女に言われる筋合いはありませんわ!」
「ならば問おう。お前は何故……恋人を求める?」
「そ、それは……地上で読んだ人魚に関する物語の様な恋愛をする為ですわ。当然、美しいワタクシに釣り合う恋人と!」
予想通り、怒りと言う感情に身を任せて言い返すも。
恋人を求める理由を問われ、図星やら都合の悪い話題から逸れた為か、自信満々に言い切るムピテ。
正直、内心深い溜め息を吐いた。それは静久も同じだけど、違いは──心に留めるか口に出すか。
「分かった……やはりお前は他者にマウントを取り、優越感に浸る為の恋人を求めている……」
「おぉー。どすとれーとにいうー」
二人の言葉に激しく同意だ。
女性はマウントを取りたがり、男女問わず相手より上だと思いたがる。
けどソレは恋人や友人、結婚相手すらも自ら遠ざける行為。男は女の備品じゃないと、いい加減理解してくれ。
「カッカッカッ! それにな。地上の生活も海中に住む連中が思う程、良いモンじゃねぇぞ?」
「どーゆーことー……?」
「話の通りだぜ。地上も海中でも弱肉強食のルールは変わらねぇ。寧ろ、地上の方がヒデェわな!」
どっかの阿修羅みたいな笑い方をする右腕に、全員の視線が向く。
全く理解出来ていないリートに意味を伝える中、ゼロの発言に不思議と共感していた。
地上も海中も、野生生物達のルールは弱肉強食。敗北は死に直結する一世一代の大勝負。
でも下手に知恵を持つ人間は、足を引っ張り合い騙し合う。失敗しても命を失わない代わり、精神を病んだりする。
「それに、お前達が人間の居る地上へ気軽に出て見ろ。捕まって見世物にってのがオチだろ」
「フフッ……リートは水族館。ムピテなら剥がされた鱗は売り物に、本人は一生見世物……か」
二人の発言を聞くだけで、そうなる結末を容易に思い浮かべれる。
良くも悪くも、人間とは二重の意味で恐ろしい存在。自らの欲望を叶える為、他者の人生を使い潰す者。
生まれた格差やら問題を埋めず、放置や改悪をする者達。白人黒人が何だ? 同じ人間だろうに。
「それにお前は……絶対悪い奴に、良いように使われて棄てられる。それだけは言い切れる……」
「だってさー……きをつけなきゃねー」
「な、ななななな……何を根拠にそう言い切れますの!?」
「ハァ……だからそう言う女脳特有の、感情的になる点だと言っている……脳味噌お花畑の阿呆」
こう言っちゃあ悪いけど、自分も静久に同意見だ。
無駄に高いプライドを口八丁手八丁で刺激され、天狗になった鼻を鷲掴みされるだろう。
図星を突かれて動揺する辺り、過去に一度体験済みだろうな。
でも、無駄に増大したプライドと女脳は反省を許さず認めないって感じか。コレ、恋人は無理だな。
「貴紀……この井の中の蛙に、一言でも何か言ってやれ」
いや、マジですか? こう言うのは女同士の方が最善だと個人的に思うんだけど……
仕方ない。井の中の蛙ならぬ、井の中の人魚に一言、無駄だと知りつつ言うとしようか。
「そうだな。ムピテ」
「なんですの?」
「例え図星を突かれたとしても、決して感情的にはなるな。そうじゃなきゃ──」
軽く呼び掛けるとやはりと言うか、当然と言うか。
不服感全開な顔で振り向いた。なので……一応解決策を提示してみたのだが、プルプルと震え出し。
「好き勝手言い過ぎではありません事!? 一体ワタクシに、何の恨みがあると言いますの!」
「ハァ……もういい。こんな阿呆に構う程、私達に時間は残されていない。リート、先へ案内しろ……」
これまた予想通り、顔を真っ赤にする程感情的に怒り始めた。
男性も頑固者は当然の如く居るが、こう言う輩は男女問わず、理解するまで痛い目を見ればいい。
歩みを止めて文句を言い続けるムピテを無視し、先へと案内してくれるリートを追い掛けて進む。
「……ムピテ、ほんとうはね、とてもいいこなんだよー」
「だから嫌いになってやるな。ってか? 残念だな。俺達は自分自身で確かめなきゃ、信じれねぇよ」
「だな。それだけ慎重になっても、損は無いしな」
「結婚する前に……じっくりと相手を見極めろ。特に金の借り貸しは相手を信用するかどうかも……」
見えなくなった後にフォローしてあげるとは……良い子だな、リート。
とは言え、此方も慎重でね。更新無き恋と愛には消費期限はあるし、結局は破局や離婚に繋がる。
金の借り貸しにせよ、好いた惚れたで高額なモノを買うにしろ、冷静に……なんだ、この振動は?
「……きた。わたしたちのさとをおそった……かいぶつ」
「宿主様、俺が言った通りに──!!」
歩いて来た道の奥から、此方へ猛スピードで迫って来る何か。
肉眼でソイツを捉えた時、呟くリートの言葉と叫ぶゼロの声が聞こえ守りの構えを取った直後。
通過するナイトメアゼノ・ゲミュートにシャボン玉を破られ、続けて勢いの良い水流に全員、流されしまった。




