区域
『前回のあらすじ』
魔法少女パンドラと戦うも、彼女は村への被害は頭にない。
戦う最中。突然子供がナイトメアゼノ・メイトに変貌。他の村人達もメイトやラプター、ヘンカァへ変えてしまう。
乱入する形で現れたアニマは敵味方関係無く無差別攻撃を行い、新種を連れ退散。貴紀達も船へ戻る。
疲れ切った体に鞭を打ち、なんとか船へ戻って来た自分達。次の目的地はムピテと初遭遇した海域。
今はもう、沈没都市位しか調べられそうな所も無い。少しでも回復する為、自室へ戻って寝る──
つもりが先客二名にベッドを占拠され、しぶしぶ動物形態の二人を抱いて眠る事に。あぁ、眠い。
帰ったら……そうだな、対三勢力用の何かでも作ろう。恩返しのヴォール王国復興も終わったし。今は早く寝よ……
「紅くん、起きて!」
……あれから、どれ程眠っていたのだろう?
突然何時の間に乗馬マシンへ乗ったのか。と誤認する勢いで肩を揺すられ、重たい目蓋を開く。
「ほら、早く早く!」
間も無く、右腕を掴み半ば強制的に何処かへ連れて行かれる自分。
こう言うと変だけど、そんなに引っ張られたら右腕が取れる。って言うか伸びてる!!
気付かれない内に駆け足で近寄り、右腕の長さを平均に戻す。そうして連れ込まれた部屋では──
「もう一度確認するぞ。お前があの魔法少女パンドラで間違いないんだな!?」
「は、はい。ぼく自身も、ちゃんと覚えています……ので」
一つの小さな机を挟み、船長パイソンが……なんとも気の弱そうな、茶色い短髪の。
見るからに中学生っぽい服装の優男を、魔法少女パンドラなんだな!?
と、刑事ドラマでよくある取調室のやり取りを再現していた。
「何を口煩く吠えとる……ってお主、エピメテウス。何時の間に此処へ来たんじゃ?」
「あぁ、賢狼様!」
「なんだ。狼嬢ちゃんの知り合いか?」
「わっちらの協力者じゃ。あの島、アイゾー島へぬし様と行った時は会わんかったがな」
部屋の外にも響く音量だった為か、寝ていた愛も起きて来ちまった。
気づけばなんか、静久も白蛇姿で自分の首に巻き付いとる。まあ、ヒヤッとして気持ち良いけどさ。
てか知り合い。もとい、コイツが言ってた協力者なのか。しかもあの魔法少女パンドラぁ?
しっかし島の名前も物騒なもんだねぇ……愛憎島たぁ、どんな頭してりゃあ、思い付くんだか。
「改めまして。ぼくの名前はエピメテウス。錬金術師を目指している」
「とは言うても、精々色々な魔法薬を作るのが今は精一杯の半人前じゃがな」
「け、賢狼様!! ぼくはまだ、錬金術師の夢は諦めてないんですから!」
律儀にも椅子から立ち、礼儀正しく頭を下げて自己紹介してくれた優男は、自らをエピメテウス。
つまりパンドラの夫の名前で呼んだ。半人前だと笑いながら言われ、懸命に愛へ抗議中。
さてはて、エピメテウス……か。久し振りに気に入る人間を見付けたな。
「でも、本当に凄いですよね。賢狼様の仕える人は」
「確かにな。恐らく俺様と同じスキル・直感を持ち、人外も恐れぬ度胸。そんで複数の──っと」
此方が褒められてるのに、自分の事の様に喜び頷く愛と、左頬に顔を擦り付けてくる静久。
予想通り、パイソンは直感持ちか。丁度地雷を踏む直前命の危険を察知し、右手で慌て口を閉じた。
「まあ、ぬし様は嘲笑う連中へ復讐する為に頑張ったからのぅ」
「頑張った……って普通は何ヵ月、何年間もの期間を使って習得するんじゃ?」
「くふふ。普通ならそうじゃな」
嘲笑う連中。と言っても人間だけでは無く、威張る神々や下等と見下す魔族連中なども当然込み。
ちょっとした工夫、抜け道を仲間達と見付けて文字通り体を張り、命を懸けて……おい止めろ、右腕!
「宿主様、俺の魔力探知で敵を感知した。十中八九、例の幽霊船だ!」
「「「──!?」」」
あ~ぁ。人間の腕から黒い獣の頭部へ形状を変え、何も知らない三人の前で喋りやがった。
敵襲を教えてくれるのは良いけど、こう言う場面では……ちょっと。何事かと注目を浴びるし。
「坊主、その腕に関しては後だ。女子供連中は船内へ、戦える野郎共は甲板へ上がれ!」
言われた直後、大きく揺れる船と振動。ゾッとする背筋にパイソンは慌ただしく動き始め。
各々へ指示を出して甲板へ向かい、指示を受け動き出す者達。そんな中、ポツンと残された自分達。
「して──虚無よ。何故皆の前で喋った?」
「んなモン簡単だ。秘密の話をする他にあるかよ」
問い掛けられた質問に対し、真面目な声で言い返す。
その内容は「この海域……違うな。この『区域』、俺達だけじゃ攻略出来ねぇ」と言うモノ。
「アイゾー島、だっけか? セメタリー島も大概だけどよ。此処、滅茶苦茶ヤバい。とても生者が居て良い場所じゃねぇ!!」
「ほう。わっちら『だけ』、では無理と抜かすか」
「あぁ。最悪、俺達もナイトメアゼノシリーズの仲間入りを果たす事になる……」
生憎、自分達は何も感じなかった。が、ゼロは此方へ来た時から何かを感じ取っていたらしく。
言い出す決め手となったのは、アイゾー島での一件。
村人達と悪影響、そしてアニマが回収したあの木箱。発言と行動から分かっている限りでも──
無限湧き&神出鬼没。確か無限湧きに押し潰される負けイベント戦のゲーム、あったな。
「最低でも霊華。贅沢を言って追加で狐が居て欲しいところだ」
「必要なのは巫女、もしくは……霊力を使える面子じゃな?」
「あぁ。話や記憶を覗いた限りじゃ、敵の一体は物理無効の魔力吸収持ち。となれば相反する霊力か、対抗しうる能力しかねぇ」
魔力も霊力も、自然界の生み出す産物だったり、体内で生成する発生源や理由は全く同じ。
でもソレを取り込む存在の魂──魔族に近いか、神仏に近いかで二種類に分かれる。
魔法関連方面の者だと魂は魔族寄りに傾き、教会や神社系へ毎日通う者なら神仏寄りに傾く。
魔法は魔族寄り、奇跡は神仏寄り。異能やスキルは恐らく中間だろう。一応、神社生まれの自分も霊力持ちだからな。
「ふむ。わっちと静久は魔族寄りじゃからな。攻略の要にはなれん……か」
「いや。あんの憎たらしく面倒臭いアルファ、ラプター相手にゃ十分有り難い戦力だ。そんで宿主様」
右拳を口元に当て考え込む愛にフォローを入れた後、自分に呼び掛けられ、何かと思うと。
「俺は嬢ちゃん達の作る第三装甲・二号の完成内容を全部知ってる。だから言わせて貰う」
第三装甲・二号──確か機動力を捨てた固定砲台に特化したモノだった筈。
静久との融合で使える、水中遠距離専用アーマー。でも話を聞く限りじゃ、まだ未完成。
「俺達を守るイメージを強く持て。敵の絨毯爆撃みたいな猛攻から、どうやって守るかを」
「爆撃……そうじゃな。回避先を先に潰して来る輩もおるしのぅ」
「それと思い出せ、霊華の戦いを。それを宿主様自身も出来るんだと」
広範囲攻撃から、みんなを守るイメージ? 母さんと同じ戦い方を、自分も出来る?
殆んどの敵は格上だらけで、自分自身の身を守るので精一杯な中、仲間達を守る……イメージ。
「話は以上だ。そろそろ俺達も甲板へ向かわねぇと……ほれ」
「おい、坊主! 何処で油を売ってる!? さっさと甲板へ上がって来い!」
幾らかの睡眠でパンドラやアニマとの戦闘で消費した魔力は、微量ながらも回復した。
突然金色の筒から船内に響く程大音量の怒鳴り声。
内心ビクッとしつつも甲板を目指して走り、辿り着くと。
「幽霊船から乗り込んで来た未練がましい亡者共だ。さっさと送り返すぞ」
「宿主様。魔力で操られた骨海賊共だ、操る奴を叩くか霊力で供養しなきゃ終わらねぇ!」
暗雲の覆う薄暗い空と激しい雨降り雷鳴轟く中、敵を引き受けてくれている間に。
魔力探知に意識を集中させる。見えた、操られてサーベルを振るう亡者の頭上から伸びる漆黒の魔力。
その主は──密接する幽霊船の甲板で指揮者の如く、両手を激しく振るう黒ドレスの女!!
「アイツか。一気に叩くぞ、宿主様!」
脚に魔力を込め、ハイジャンプで一気に加速して飛び込む。
此方の動きに反応し切れなかったのか、奴が気付き振り向いたのは幽霊船へ乗り移った後。
懐目掛けて跳躍。護衛もない指揮者の顔を右手で鷲掴み、加速した勢いのまま手すりへ叩き付ける!
「チッ……文字通りの『影武者』か、コイツ」
「指揮官を殺ったんだな! こっちの亡者共は全員成仏したぞ」
「だ、そうだ、宿主様。とは言え──これで三騎士の情報は分かったな」
殺人も同然な方法で倒した直後、黒い敵将の体は文字通り溶けて無くなり。
呼び声に気付き手すりを掴み海賊船を見れば、亡者達は将を失いただの骨へ戻った様子。
しかし三騎士の職業は判明した。巫女のコトハ、影使いのミミツ、女剣士の計三人。
「海賊船へ移るぞ。船体が消え始めた」
透け始めた幽霊船から海賊船へ移り、見回すと──
船員達は全員無事。海の荒れ具合から多分、そろそろムピテと会った海域だろう。
「遂に沈没大陸を探れるのか。めぼしいモノを見つけれると良いが」
「俺達としては、遺跡を見付けて探索したいところだな」
多分と言うか予想なんだけど。パイソンの欲しいモノはきっと……
自分達の求めるモノと同じじゃなかろうか? その場合、奪い合いか交換条件になるか。
可能な限り、奪い合いは避けたいな。




