幽霊船
『前回のあらすじ』
セメタリー島へ戻った貴紀達。ゲートを通り現れたのは、オラシオンの一人、トワイ・ゼクスだけ。
オメガゼロ・エックスや冒険者スレイヤーの正体を察しているらしく、協力はしてくれるらしい。
パワードスーツの改修は終わり、元々の仲間であった賢狼愛も再加入し、戦力は徐々に取り戻しつつあった。
──夢を見た。集った仲間達が魔族や人外なる存在に次々と倒れる中、次は自分自身だと言う恐怖心に駆られ。
逃げ出して行き。そして自分も──進む道を遮るモノ達や妨害するモノ、終焉達や調律者姉妹との戦いで、身体中から血を流していた。
「……テメェらか。俺の家族を、此処まで傷付けたのは」
後ろには互いを守ろうと抱き締め、横たわる瀕死の金髪と銀髪の少女。泣いているサクヤ……恐らく素人目でも分かる出血の酷さから。
一時間と持たないと知ってだろう。嘲笑う敵達、汚物でも見る様な目で見る人類へ向け、憎悪と殺意を込めた眼で睨み付ける。
ふふ、フハハハハ……そうだ。こんな人類を守り救う価値なんて無い。世界平和? あぁ、叶えてやるよ。この惑星の生命体を皆殺しにしてなぁ!!
「ハァ、ハァ、ハァ……」
憎悪と殺意の赴くまま女子供も関係なく、命乞いすら踏みにじって殺戮と蹂躙を繰り返す。
人の痛みなど、他人には分からないし関係無い。理解出来たとしても、全てではない。殴り潰す頭から噴き出す鮮血。
返り血を全身に浴び、夕焼けの見える丘で数多の死体を背に一人立ち尽くす。そんな俺に話し掛ける麦わら帽子の少女は、こう言う。
「また殺ってしまったのね。でも──えぇ、とても楽しい余興だったわ。オメガゼロ・エックス」……と。
「──ッ!!」
その言葉を言われ、俺はむせび泣く。仲間や家族へ注いだ時間と愛情。こんな結果になるなら、これ程傷付くなら。
友情や愛情など要らない。心なんか要らない!! そう強く何度も繰り返し心の中で叫ぶ。
そんな時、真っ白になって行く景色の中で、耳を塞ぎたくなる様な音を聴く……
「ぬし様、ぬし様!?」
「うん……愛か。どうした、そんな顔して」
目蓋を開くと、視界いっぱいに映る今にも泣き出しそうな愛の顔で自分を呼ぶ光景を見て。
思わず何か悲しい事でもあったのか、問い掛ける。全く……心配性なんだから。
「うむ、様子を見に来たら酷くうなされておってな。幾ら揺すっても呼び掛けても起きぬから……」
「あぁ、ちょっと。悪い夢を見ただけだよ」
「そうか。それだけなら……」
あぁ、そうだ。思い出してきた。新しい装備品の靴と単眼鏡を装備し、数日分の食糧も船に詰め込み。
セメタリー島から出発したのが、確か今から二日前。寧と静久、トワイも同行してくれてるんだったな。
「他のみんなは?」
「グッスリ眠っておる。なんせ、夜中の二時かつ、人魚の歌声響いた後じゃからな」
「人魚? 歌声……敵襲か!」
人魚・歌声と言う単語から、今更思い出す。人魚とは伝説でも歌を歌い、航海者や船乗りを惑わし破滅へと導く存在。
ならば響いていたのは魅了、もしくは子守り歌のどちらか。慌てて装備を整え、揺さぶられる中、甲板へ出向くと。
「ッ……酷い、豪雨だな」
「う、うむ。幾ら雨と言えど、この勢いは雹と変わらぬ」
空は暗雲に包まれ、雷鳴轟くゲリラ豪雨の降り注ぐ海域へ突入していたらしい。自分達の他に、誰も居ない。
「この魔力……もしかして上玉? 上玉、其処の船に居ますの!?」
「少なくとも名前で呼べ! と言うか、船員を歌で眠らせたのはお前か!?」
「そうですわ。けれど、アレを直接見せない為でもありますのよ」
と思った矢先。海から聞き覚えのある声に呼ばれ、覗き込んで見れば──此方の船と並んで泳ぐムピテを発見。
少し言い争いをするも、突然指を差し言う『アレ』に視線を向ける。あぁ、確かに常人なら発狂するな。とは個人的に思う。
「幽霊船……映画とかでもチラホラ観るけど、遭遇して直接見るのは初めてだな」
「わっち等はこう言うのを見慣れておるが。相変わらずどう言う原理で動いておるかは、未だに不明じゃな」
此方へ迫って来るボロい木造船には、青白い炎が幾つも浮かび、骸骨の船員も武器を片手に飛び移る準備も万端。
まさしく幽霊船と呼べるだろう。ゲームなら倒せば終わりになるも、この手は操るモノを倒さなければ無意味。
とは言え、操る本体は青白い炎の死霊、怨霊の類い。物理的な力は通用しない。なら、塵も残さず消滅させるか?
「ふふふ。会いたかった、会いたかったぞ? お嬢、奴こそ我らが宿敵にして裏切り者、終焉の破壊者」
「ほう。珍しいな、ロリとショタにしか興味を示さんトリック。テメェがソイツに付き添うとは」
幽霊船の骸骨船員達に紛れ、金髪ツインテかつ股間の金色結晶目立つ変態は付き添いらしき黒い人物と前へ出て来る。
黒いドレスを着る巨乳の女性らしき人物へ、濡れぬ様黄色い傘を差して話している。おかしい……身長も平均的な大人の女性位はあるのに。
「お初にお目にかかります。三騎士の一人、ミミツと申します」
「三騎士……トリスティス大陸で会ったコトハやヴォール王国へ攻め込んだ奴の仲間か」
「えぇ、その通りです。けれど、貴方様達のご活躍により撤退を余儀なくされておりまして……ぅぅ」
「ぬし様よ。奴の言う事は信じるな。アレは嘘じゃ」
礼儀正しくお辞儀をし、水色の瞳を向けて話し掛けてくる。当たり前の礼儀、それだけでも第一印象は良く見える。
聞く前に自ら三騎士を名乗り、質問にも答えてくれるミミツは次第に背を背け、泣き始めてしまう。
確かに三騎士の内、コトハと剣士は撤退させた。活躍と言って良いのかは兎も角な。話を続けるか困っていると。
左側へそっと近付き、耳元で助言を伝えられミミツの方を向けば、此方をチラッと見ている事に気付く。
「誠に残念ですが、今回は顔合わせだけ。次回以降からは、お手合わせをお願い致しますね。それと」
「なんじゃ。わっちに何かあるのかや?」
「賢狼愛……さん、でしたか。四天王の皆々様方も、貴女達との決着を心待にしておりましたよ?」
嘘泣きとバレてか、向き直り堂々と話し掛けて来た。話の中、愛の顔を見て嘘の有無を確認すると、嘘は無いらしい。
同時に四天王達の狙い、静久や愛達との決着も──嘘ではないとの事。トリックは静久を求め、ジャッジは自分や愛との決着。
「悪夢の異形に襲われて災難と思いますけれども、私達のお相手も、宜しくお願い致しますね」
「また会おう、破壊者。今度はマイプリンセスの所有権を賭けて」
言いたい事を好き放題言って、奴らと幽霊船はスカルスネーク号より離れて行った。本当に顔合わせだけ、だったのだろうか?
って言うか、テメェみたいな変態野郎に静久を渡してやるか!! そもそも、本人の気持ちすら無視する様な輩になんぞやらん。
「幽霊船は立ち去った様ですわね」
「あぁ。乗員してた内の二人は、いずれ倒す奴らだ」
奴らとの会話に混ざって来ない。と思いきや、ずっと水中に潜っていたらしく。幽霊船の撤退後に現れ、安堵していた。
取り敢えず、船は守れたし破損箇所も無い。されど海面は荒れに荒れ、暴風も強くなる一方。
なんだけど……船は暴風の影響を受けず、目的地である島の方向へ猛スピードで進んでいた。何がなんだか分からず、海面へ視線を向けると。
「この感じは──ナイトメアゼノ・ゲミュート!?」
海面に浮かぶ一つの巨大な影。それをゲミュートだと理解するのに苦労は無かった。
何故目的地の島へ導こうとするのか、それは全くもって分からないけれど。今だけは──素直に喜ぼう。
どうやらムピテを置いてけぼりにしてるっぽいし。まあなんと言うか、あのお嬢様口調って言うの? どうにも苦手だったしな。
「ぬし様。少しずつ見えてきたぞ。あの島こそ協力者の居る島じゃ」
「そうか。空も回復して来て、波も落ち着きを取り戻しつつある。早朝に乗り込むぞ」
「うむ」
ゲミュートのお陰で予想よりも早く、目的地へ到着。しかし夜中は流石に協力者も出ては来れない。
早朝を狙い、今夜はグッスリと眠って、鋭気を養えるべく。自分達はベッドへと戻って行った。




