鎮魂歌
「蒐書官」は、閑話「古書街の魔女」に登場した天野川夜見子と彼女配下の蒐書官たちが主人公として活躍するスピンオフ的作品群になります。
本編で使えないネタをここで消費する目的があるとかないとか・・・。
「……悪いな、久住君。本は君ひとりで夜見子様へ届けてくれ」
「……中野さん」
「それから、夜見子様に報復は不要だと伝えてくれ。やられた俺が悪いのだ。絶対だぞ。そうでなければ夜見子様は必ず……」
「夜見子様。中野がロンドン郊外で射殺されました。本は無事ですので、私ひとりで……現地で待機?待機というのは?」
「……あなたは現地スタッフとともに中野を殺した者たちの特定をしなさい。ただし、手出し無用。始末は私がやります」
「由紀子。私です。蒐書官がひとりロンドンで殺されました。これからイギリスに行って仕事をしますので手伝いをお願いします。そちらに着いたらまた連絡します」
あれから、四日後。
イギリス、ロンドンのウエスト・ブロンプトンにある邸宅の前にふたりの日本人女性が立っていた。
「ここで間違いなさそうね。あなたたちはここで待っていてください。用事はすぐに済ませてきますから」
「夜見子様、私たちも同行させてください」
「中野さんの仇を取るお手伝いをさせてください」
「いいえ。これは私の仕事です。それに彼女も行きますから」
「そうそう。心配しないで。彼女はナイフ専門だけど、私はこれも使えるから。それよりも、館から正門に逃げてきた者は年齢性別を問わずどのような者でも必ず仕留めなさい。躊躇なくできますか?」
「我々は誇り高き蒐書官。それはもちろんできますが、他は?」
「大丈夫。残りは全部私のチームが狙撃するから」
「行くわよ。由紀子」
「ハイハイ。じゃあ、行ってくるわね」
高い塀を軽々と乗り越えた女性たちは広い敷地の中に消えていった。
それから三十分後、彼女たちは正門前に現れた。
全身を真っ赤に染め上げて。
「終わりました」
「おふたりともお怪我はありませんか?」
「ないよ。これは全部返り血だから」
「……ありがとうございます」
「中野の無念もこれで晴れたのではないかと」
「そうであればいいわね。さっき連絡があった。私の部下による残り三か所のオペもすべて成功した。これで、今回の関係者はすべてこの世から消えたわよ」
「ありがとうございます」
車外で待っていた三人の男と運転手のもうひとりの男も心の中で思う。
「我々蒐書官は失敗だけでなく死ぬことも許されないのだ」
彼女がロンドン在住の知り合いとともにやってきたこと。
それは、愛する部下の命を奪った関係者とその家族に対する苛烈極まる報復である。
……夜見子です。終了しました。
……では、一時間後に周辺の情報封鎖を解除するように当局に伝えます。それから、お爺様が上と話しをつけてくれましたので、彼を弔ってから帰ってきてください。
……ありがとうございます。お嬢様。




