House of Cards 5
「あれ、まりん。今日はひとりなの?」
「そう。ヒロリンは用事があって学校に来られないそうだよ。私を起こしにいつもどおり家までは来たけど、そのあとにどこかに出かけるとか言って帰っていった」
「出かける?学校をサボって出かける場所とはどこだ」
「知らんがな」
「病院でしょうか?」
「まみたん、病院に行かなければならないくらいに具合の悪いなやつがまりんを叩き起こすためだけに朝から他人の家まで押しかけるか?」
「それはそうですね」
「しかも、いつものように私の家で朝食まで食べていった。ご飯三杯と食パン二枚」
「よしサボリ確定だ。ということで、ヒロリンのサボりについては明日厳しく問い詰める必要がある。もちろん、みんなが勉強している最中に自分だけいい思いをしていたのだから、全員分の土産を買ってくるくらいのことはしてもらわなければならない。万が一土産を買ってこなかった場合には、橘と一緒にお仕置きをして社会の厳しさをたっぷりと教えねばならない」
「……やっぱり橘さんはお仕置きされるのですね」
「当然だ。それだけがあいつの存在意義だ」
「壮観ですね」
「まったくです」
高速道路を走る車中からその光景を眺める男女が感嘆の声を上げる。
「防弾仕様の黒塗りに乗り完全武装の護衛を乗せた警護車三台に囲まれて高速道路を走る抜ける体験などそうそうできないです」
「しかも、パトカーの先導付き。何も知らない人がこの車列を見たら、いったいどこの国のVIPかと思うでしょうね」
「まあ、そのおかげで私たちもいつも以上に快適に移動ができるわけなのですが」
「それについてはお嬢様に感謝しましょう。ところで、一の谷」
「年長者を呼び捨てとは晶さんは相変わらずですね。それで、何でしょうか?」
「あなたはお嬢様の秘策について心当たりはありますか?」
「もちろん。と言いたいところですが、まったくありません。交渉のプロであるあなたでさえ匙を投げるような相手を跪かせるような魔法がどのようなものかなど私にわかるはずがありません。もしかしたらお嬢様は日野さんの弱みを握っているのではないかと推測するまでが私の限界です」
「相手は気に入らなければ当主様の命令でも従わないあの頑固爺さんです。よほどの弱みを握られなければ全面降伏などありえないと思いますが……」
女は前を走るもう一台の黒塗りの高級車に目をやりながら話を続けた。
「それから、お嬢様が学校をお休みになられることがないようにお嬢さまが同行すると決まった時点で交渉は学校が休みの日か、せめて夜におこなうように変更するべきだったと私は思うのですが、なぜそうしなかったのですか?」
「もちろん私もそうしたいと思いましたよ。でも、できなかったのです」
「なぜ?」
「先方の指定だからです。日時指定でそれが嫌なら来るなと言われました」
「忌々しい年寄りですね」
「まったくです。しかし、こうなっては致し方ありません。不甲斐ない我々のためにお嬢様が一緒に来てくださったのですから、我々もほんの少しでもお嬢様のお役に立てるように努力することにいたしましょう」




