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小野寺麻里奈は全校男子の敵である  作者: 田丸 彬禰
閑話

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続 がーるずとーく Ⅳ

 千葉県の田舎にある千葉県立北総高等学校通称北高。


 その敷地の端にポツンと建つ古い木造校舎の一室では、この部屋を部室として占拠している関係者たちが日々自称名門北高男子にふさわしい立派な男の戯言を聞き流しながらとりとめのない会話を楽しんでいた。


 それはまったく中身のないものである。


 しかし、彼女たちのことをよく知るすべての北高関係者は口を揃えてこう言う。


「部活動がおしゃべりをしているだけ?結構なことではないか。彼女たちがお菓子を食べて雑談しているだけで済むなら我々にとってこれほど幸せなことはない」


 彼女たちが属する組織。


 その組織こそ悪名高き創作料理研究会であり、それを統べるのが小野寺麻里奈なのである。


 さて、今回は……あの話の続報である。


「おい、知っているか。うちらの隣にできるらしい」


「何が?」


「ショッピングモール。昨日、親が教えてくれた」


 ……さすが地元の名士です。情報が早い。


「こんなところにそのようなものをつくるとは物好きだが、どこのスーパーが入るのだ」


 ……スーパーは入りません。


「ほう。お仕置きされることにしか興味のない変態の橘でも興味があるのか。だが、そこまでは知らない」


「春香さん、ちなみにそれはいつにできるのですか?」


「それも知らないけれど、驚くのはできる場所だよ」


「あんた、学校の隣と言ったじゃないの」


「違うよ。できるのはこの木造校舎の隣だよ」


 ……そのとおりです。


「ということは、北高の敷地にショッピングモールができるということですか?」


「そういうことになる」


「……それは土地を売ったということでしょうか?」


「おそらくそうだろう。この学校の貧乏も相当なものだからやむを得ずというところなのだろう」


 ……いいえ。借りただけです。


「そうだな。なにしろ、この学校は役に立たないおばさん教師を飼っているのだから、貧乏にもなるだろう。かわいそうな校長だ」


「ムカっ。そのおばさん教師って、もしかして私のことかしら」


「それ以外考えられないだろう」


「そうそう。そんな珍獣教師は先生しかいないだろう」


「失礼な。私だって十分役に立っているし、そもそも私は学校から給料をもらっているわけではないから」


「でも、校長先生が先生は役立たずの無駄飯食らいだから、別の学校に押し付けようとか言っていたのを聞いたよ」


「えっ」


「私は先生の給料を半分にするとかいう話を聞いたぞ」


「それはひどすぎるでしょう。一大事よ。あなたたち、署名活動してよ。『給料を倍増して私を引き留めよう運動』」


「……まあ、やってもいいいけど日当はいくらもらえるの?」


「当然交通費もいただく」


「橘の言う通りだ。もちろん昼食とおやつと飲み物もつけてもらう。それから言うまでもないことだが支払いはすべて前払いだ」


「あなたたちは困っている人を助けるのにお金を要求するの?」


「それはそれ、これはこれだ」


「なんという強欲」


「先生に言われたくないよ」


「まったくだ」


「それに、もしも私が違う学校に異動になったら、私はこのクラブの顧問でいられなくなるのよ」


「当然そうなるよね」


「困るでしょう」


「いや」


「何でよ」


「すでに先生の後任に立候補している人がいる」


「絶対嘘だよ。私以外にこのクラブの顧問をやりたい人なんているわけがないでしょう。誰よ、その変人は」


「まずは山﨑先生」


「理沙先生は吹奏楽部の顧問でしょうが」


「それから、森本先生」


 ……さすがはまりんさん。ピンポイントでその名前を出しますか。


「森本先生は料理なんかできそうにないよ。だいたい森本先生はまりんの嫌いな男じゃないの。本当に立候補しているの?」


「この際顧問になってくれれば誰でもいいわけだし、いざとなれば現料理研顧問の田代先生に声をかける。田代先生を迎えるために恵理子先生を追放しましたと言えば、田代先生は喜んでやってくれると思うよ」


「それだけはダメ。私は絶対認めない」


「認めるかどうかは部長である私が決めるのであって、北高を追い出される先生ではない」


「安心して異動してくれ」


「え~」


「さて、クビになる準備が整ったところで、先生には心置きなくゲロしてもらおうかな」


「な、何のことよ」


「あれについてだ」


「何よ、あれって」


「決まっているだろう。しらばっくれずに知っていることを全部吐け」


「嫌よ。教師には守秘義務というものがあるのよ」


「ゲロしないと本当に学校から追い出す手続きをするよ」


「そうだな。後任の玲子先生が顧問なら今よりずっと楽しい部活動ができそうだ」


「それとも、給料減額願いを偽造して提出するか。あの校長なら喜んで受理するだろう」


「それは困る。……わかったわよ。でも、これはまだ部外秘の事項だからクビになりそうになったら全力で助けてよ」


「それは約束する」


「もちろん無料で」


「くどい。先生じゃあるまいし金など取らん」


「それから私だって朝礼で校長先生が話したことしか知らないわよ」


「先生が校長先生よりも知っていたらそれこそ問題でしょう」


「でも、恵理子先生なら私利私欲のためにこっそり敷地を売り飛ばしそうだな」


「しないわよ。私を何だと思っているのよ」


「強欲守銭奴教師」


「おばさんが抜けているぞ」


「そうだった。強欲守銭奴おばさん教師と訂正だ」


「それ全部違うから。あなたたちはもっと顧問を敬うべきだと思うわ」


「とにかくサッサと吐け」


「わかったわよ。校長先生が言うには、東京のなんとかいう会社の代理人と名乗るきれいな女性が突然来て契約書に黙ってハンコを押せと言ったそうよ」


「それは詐欺師だろう。まちがいない。それは色仕掛けの詐欺だ。だが、残念ながらあの校長は橘に匹敵するくらいのロリコンだ」


「そうなのですか?」


「そうだよ、まみたん。なにしろ、以前ま……」


「ま?」


 ……しまった。つい、口が滑った。


 もちろん、春香が言いかけたのは、彼女自身が盛大に弄ったまみのいかがわしい写真を使って麻里奈が校長たち幹部三人をペテンにかけたあの事件のことである。


 当然まみ本人にその事実を告げるわけはいかない。


 出かかった言葉をどうやってごまかそうかと考えていた春香だったが、予想外の場所から助け船がやってくる。


「ちょっと待て、春香。失礼なことを言うな。名門北高男子の鑑である俺はロリコンなのではない」


「小学生の妹のパンツを被って登校する貴様がロリコンでなければこの世にロリコンなど存在しない」


「○%×$☆♭♯▲!※○%×$☆♭♯▲!※○%×$☆♭♯▲!※」


 ここで都合よく恭平が口を挟み、長いお仕置きタイムが訪れたため不都合な真実を無事ごまかすことに成功した春香は何事もなかったかのように言葉を繋ぐ。


「それより先生続けて……」


「そ、そうね。実際のところ校長先生も怪しんで県に確認したそうよ。そうしたら……」


「そうしたら?」


「その女性に言われたとおりに書類にすぐにサインしろって言われたそうよ。国も県もすべて了解しているからと。それだけでなく、『くれぐれも女性の機嫌を損ねるようなことはしないようしてください。まちがってトラブルになったら家族と一緒に東京湾に左遷しますよ』とまで言われたとか」


「東京湾に左遷って……それって脅しだよね。信じられない」


「そうでしょう。陰謀の匂いがするよね」


「もしかして、国家ぐるみの詐欺?それとも国会議員の関連案件という線もある」


「それで結局その悪徳企業にどれくらい敷地を取られたの?」


「四万平方メートル。まあ、うちの学校は空き地だけは売るほどあるからたいした被害ではないのだけども、ただ……」


「まだあるの?」


「売ったわけではなく、あくまで貸すという形になるらしいのよ。だから、黙っていても学校にはお金が入ってくるとか言っていた。しかも、それがかなりの高額らしい。」


「それでは、そこは田舎の貧乏学校のことをよく考えた良い悪徳企業ではないか」


「悪徳企業に良いとか悪いってあるの?ところで、ヒロリン」


「はい」


「さっきから随分おとなしいね。まるで、まみたんがふたりいるみたいだ」


「本当ですね」


「私はまみたんと同じくらいお淑やかなレディとして知られていますから当然のことです」


「それはない。どうせ、こいつのことだ。食いすぎで腹でも壊したのだろう」


「失礼なことを言う恭平君ですね。そういう恭平君にはハルピの厳しいお仕置きが必要です」


「ラジャー」


「○%×$☆♭♯▲!※○%×$☆♭♯▲!※」


「それで、先生。肝心の中身については聞いている?」


「これまた信じられないけれども、中心となるのはかなり大きなフードコートらしいよ。しかも、北高関係者はそこを優先利用できる」


「えっ?」


「それって」


「そうなるよね。私もそれを聞いたときそう思ったもの」


「何だ?何の話だ」


「橘、あの時貴様もいただろうが。それなのにもう忘れたのか。まったく貴様のかわいそうな脳みそはいったいいつ使われているのだろうな」


「……春香さん。あの時橘さんは春香さんにお仕置きされて……」


「あ~そうだった。橘は昼寝をしていたのだったな。肝心なときに寝ているとはまったく情けないやつだ」


「くそっ」


 ……学校側に有利な賃貸契約。何よりも私たちが先日話をした直後にこの話。しかも、つくられるのはとても利益が出そうもない施設。


 ……これはほぼまちがいなくヒロリン案件だ。


「まあ、どういう経緯かは知らないが、とにかく私たちにとってはいいことじゃないの。それで校長先生はいつ完成すると言っていたの?」


「信じられないけれども夏休み中には完成するって」


 ……早っ。でも、これで確定だね。

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