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House of Cards 3

 東京のとある一角。


 とても都心にあるとは思えない多くの木々に覆われた広大な敷地に建つ黒レンガ造りの洋館。


 その一室で三人の男が三者三様の表情で話し合いをおこなっていた。


「……お嬢様のご指示によって現在進めている計画の概要は以上となります」


 この館の主とその息子の前でやや緊張気味に説明をおこなっていた四十歳より少しだけ若いと思われる男がそう締めくくった。


「わずかの期間にこれだけまとめあげるとはさすが一の谷というところか」


「恐れ入ります。ただ、今回の功績の大部分は晶さんのものでしょう。あれだけの土地を手に入れてくれたのですから」


「博子も喜んでいた。感謝する」


 賞賛の言葉を贈る館の主の隣には彼の息子で博子の父親でもある男が座っていた。


 こちらは満面の笑みを浮かべる父とは対照的に、自らが持つこの計画についての疑念をまったく隠すことなく仏頂面のままふたりの会話に口を挟む。


「一の谷。博子の妄想にまじめに付きあっているとはおまえも随分暇のようだな」


「そのようなことはございません。お嬢さまの計画は私にとっても非常に魅力的なものです」


「おまえだって薄々くだらないと思っているのだろう。今からでも遅くはない。中止しろ」


「ご冗談を……」


「おい、その辺でやめておけ。ところで、一の谷。ひとつ訊ねる。これだけの大工事を二か月程度で終了させるつもりのようだがその秘策とは何だ」


「日野さんに頼みます」


「建築に関わるすべての神に愛されしもの、日野誠か。なるほどな」


「……このつまらん事業にあの頑固爺さんまで引っ張り出すのか。……だが、あの偏屈が自分がリーダーでもない仕事を引き受けるわけがないだろう。無理だな」


「まあ、あの男が仕事を引き受けるかどうかも問題だが、たとえ引き受けても今の計画を二か月で完成させるにはあの男の配下だけでは少なすぎるのではないか」


「まず日野さんを引き入れる件についてはそれこそ晶さんの出番というものです。なにしろ役人相手にあれだけの仕事をしながら木っ端役人ごときとの交渉などつまらないものと豪語していましたから。二点目については日野さんの好きな人間を好きなだけ呼び寄せても構わないと言えば何とかなると思っています」


「たしかに、あの男の世話になった者は多い。あの男に声をかけられて断るのはあの業界に住む者にとってはなかなか難しいだろうな」


「ちょっと待て。ということは、他の業者のプロジェクトから優秀な人材を引き抜くということか」


「そのとおりです」


「だが、現在は国レベルのプロジェクトを含めてどこでも技術者不足なのだろう。その状況で一流技術者の大量引き抜きをおこなったら日本各地で工期遅れが発生するのではないのか」


「それは引き抜きされた者が考えることで我々の預かり知らぬことでしょう。私にとって重要なのはお嬢様の計画を実現させることであり、そのために他のプロジェクトがどうなるかなど全く興味がありません」


「一の谷、おまえはそれで本当に胸が痛まないのか」


「まったく」


「まあ、トラブルになるようであればこちらが金銭補償してやってもよい」


「ありがとうございます」


「だが、それで出来上がるものが田舎高校の学食とは……」


「お言葉ですがそれは違います。これが完成すれば学校どころか地域のランドマークなることは間違いなしです。そして、これは後年歴史に残る一大プロジェクトだったと賞賛されることになるでしょう」


「すべて了承した。一の谷の計画どおり進めよ。資金については考慮する必要はない」


「ありがとうございます。当主様をはじめ立花家の方々のご期待に沿えるものをつくることをお約束いたします」

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