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続 がーるずとーく Ⅲ

 千葉県の田舎にある千葉県立北総高等学校通称北高。


 その敷地の端にポツンと建つ古い木造校舎の一室では、この部屋を部室として占拠している関係者たちが日々小心者の男子部員が披露する恥ずかしい言葉の数々に眉を顰めながらとりとめのない会話を楽しんでいた。


 それはまったく中身のないものである。


 しかし、彼女たちのことをよく知るすべての北高関係者は口を揃えてこう言う。


「部活動がおしゃべりをしているだけ?結構なことではないか。彼女たちがお菓子を食べて雑談しているだけで済むなら我々にとってこれほど幸せなことはない」


 彼女たちが属する組織。


 その組織こそ悪名高き創作料理研究会であり、それを統べるのが小野寺麻里奈なのである。


 さて、今回はあるサイトについての話である。


「そういえば、まりんのファンサイトがあることを知っている?」


 そう切り出したのは顧問の恵理子である。


「誰じゃ、そんな余計なものをつくったのは」


「知らんよ」


「聞きたくはないが、とりあえず聞く。その迷惑サイトの中身はどういうの?」


「『今日のまりんさん』というタイトルで、ほぼ毎日更新しているみたいだよ。写真が並んでいるだけどアクセスカウンターがよく回っているからすごく人気があるみたいだね。まみたんは知っている?」


「はい、毎日見ています」


「私は知らん。それで、そのサイトには橘が大好きなまりんのエロい写真はあるの?」


「ふざけるな。なぜ、そこで俺の名前が出る?だいたい俺は麻里奈の写真など見たくもないし、見せられたくも○%×$☆♭♯▲!※」


「何よ。その失礼な言い方は」


「そうです。橘さん謝ってください」


「……す、すまん」


「あんた、謝る相手が違うでしょう」


「○%×$☆♭♯▲!※」


「それで、どうなの?あるの?ないの?まりんのエロ写真」


「もちろん、そのようなものはありません」


「私も探したけどなかったよ。残念ながら」


「じゃあ、私は見ない。毎日見飽きるくらいまりんを見ているのに家に帰ってまでそんなものを見ているまみたんの気持ちがわからんよ。そもそも私はまみたんと違って女子には興味がない」


「私だって女子には興味ないです。私が好きなのはまりんさんです」


「ちょっと待った。私だって立派な女子じゃ」


「それからその写真だけど、不思議なことにこの部室で撮影したものも結構あるよ」


「ということは、内部犯行説的な……」


「わかった。犯人は先生だよ。どうせ、そのサイトに広告バナーを貼りつけて小銭稼ぎをしているのだろう。おい、強欲守銭奴教師。校長に知られて給料が半分になるのが嫌なら私に口止め料を払え」


「え~私じゃないよ。だいたい、そのような物はつくれないし」


「シラを切るな。橘のアホではあるましその程度の嘘で逃げ切れると思うな。第一発見者が一番怪しいというのは世の理だ」


「本当だよ。私じゃないよ。それにお金儲けをするなら撮影した写真をサイトに送ったほうが簡単だよ」


「そうなの?」


「……そういえば採用された写真の投稿者にはお金が支払われるみたいなことが書いてあります」


「ん?それが本当なら先生犯人説が成り立たないな。なんといってもケチな恵理子先生が他人に金を支払うなどありえないことだからな」


「先生なら逆に掲載料としてお金を取りそうだ」


「そのとおりだ。アホな橘にしてはまともなことを言うではないか」


「失礼なことを言うわね。あなたたちは私を何だと思っているの?」


「ケチな教師」


「ドケチなおばさん教師」


「スーパーウルトラ超ドケチなおばさん教師」


「全部違うわよ」


「仕方がない。おい、橘」


「何だ」


「ケチな先生が犯人でないことは確定した。だが、話の都合上犯人は必要だ。ということで、犯人はおまえということにしておく。では、さっそく犯人であるおまえに対するお仕置きを始めようか」


「チョット待て。なぜ、そこで俺が犯人になるのだ。だいたい俺よりも怪しいやつがひとりいるだろう。まず、そいつを調べろ」


「そのようなことは、おまえに言われなくてもわかっている。だが、それでは面白くないではないか。ここは男らしく罪を認めて断頭台の露と消えろ」


「ふざけるな。俺は無実○%×$☆♭♯▲!※」




 ……先生が言っていたサイトの運営者って、ヒロリンでしょう。


 ……はい。


 ……ヒロリンが理由なしに何かをやるわけがないのはわかっている。一応理由を聞いてもいい?


 ……まりんさんを守るためです。


 ……私を守る?


 ……実は卒業式の日にまりんさんが楽しい高校生活を送れるように学校周辺には来ないようにと皆さんにお願いをしました。その時にその代わりとして新しく立ち上げるサイトでまりんさんの高校生活の様子を見せると約束しました。


 ……なるほど。それはまみたんにも言ったの?


 ……はい。それで、どうしますか?


 ……何が?


 ……まりんさんがサイトを閉鎖しろと言うならそうしますが、そうなると『まりんさんの様子は各自確認してください』と書かざるを得ません。そうすると……。


 ……駅前のネフェルネフェルにたむろしている子たちがこっちにやってくる。


 ……そうなります。そうなれば校内にいるまりんさんのファンも黙ってはいません。クラブ活動中と登下校時にはまりんさんの邪魔をしないという取り決めは崩壊します。


 ……それは待ったなしの大惨事じゃ。困るよ、それは。


 ……ということで、写真は今までどおり撮り放題、載せ放題でいいでしょうか。


 ……仕方がない。あ~仕方がない。


 ……では、記念すべき今日の一枚を撮りましょう。はい、チーズ。それから「まりんさん公認」とサイトに載せますね。




 ふたりの会話からもわかるとおり、諸般の事情により渋々サイトの存続を承認した麻里奈はもちろん、こまめに更新作業をおこなっていた博子でさえ、この時点ではこのサイトをとりたてて重要視していたわけではなかった。


 しかし、この年の九月中旬にこのサイトから発せられた短いメッセージが引き金となり、千葉の田舎にある貧乏高校の見栄えのしない学校行事がその年に県内で起こった主なできごとのひとつに選ばれるほどの一大イベントに発展することになる。

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