続 がーるずとーく Ⅱ
千葉県の田舎にある千葉県立北総高等学校通称北高。
その敷地の端にポツンと建つ古い木造校舎の一室では、この部屋を部室として占拠している関係者たちが勇気もなければ意気地もない唯一の男子部員の負の武勇伝を披露しながらとりとめのない会話を楽しんでいた。
それはまったく中身のないものである。
しかし、彼女たちのことをよく知るすべての北高関係者は口を揃えてこう言う。
「部活動がおしゃべりをしているだけ?結構なことではないか。彼女たちがお菓子を食べて雑談しているだけで済むなら我々にとってこれほど幸せなことはない」
彼女たちが属する組織。
その組織こそ悪名高き創作料理研究会であり、それを統べるのが小野寺麻里奈なのである。
さて、今回はゴールデンウイークとも呼ばれている春の大型連休に橘家で開催された幼女からアラフォーまでの幅広い層を取り揃えた賑やかな女子会での会話である。
「……麻里奈ちゃんか博子ちゃんが恭平をもらってくれれば、親としてはこれほどうれしいことはないのだけどね」
「恭平君は私の好みではないので、引き取りを断固お断りいたします」
「私だってそうだよ。だいたい恭平が好きなのは私たちではなくまみたんだよ。だから、恭平との結婚をお願いするなら、まみたんにすべきだと思うよ」
「う~ん」
「……何でしょうか?」
「こんなかわいい子が恭平の嫁になるなど勿体無さすぎる。絶対にありえない。やっぱり恭平は麻里奈ちゃんや博子ちゃんのような自分の身の丈にあった女性を選ぶべきだろうね」
「まみたんが恭平のお嫁さんには勿体ないというところはわかる。だが、私たちが恭平に丁度よいというところは、まったく納得できないよ」
「まったくです。私たちが恭平君ごときの身の丈にあっていると言っているところから、お母さんの話はすでに破たんしていると言えます。ということで、ここは身の丈に合わせてハルピか先生に恭平君をもらってもらうのがよいと思います」
「チョット待て、ヒロリン。なぜ、私が橘を引き取らなければならんのじゃ。ゴミを押し付けるな。ゴミを」
「お兄ちゃん、人気ないね」
「仕方がないよ。私のパンツを覗き見する変態だから」
「では、ここは顧問である先生に責任を持って恭平君を引き取ってもらうことにいたしましょう」
「賛成」
「え~私だって嫌だよ」
「通帳だけが友達のおばさんの分際で生意気な」
「通帳だけが友達とはあまりにも失礼でしょう。まだおばさんでもないし」
「でも、先生。恭平と結婚したら持参金がもらえるかもよ」
「本当に?」
「出す、出す。一千万円の持参金付き。だから貰って」
「う~ん、橘君を引き取るならもう一声かな」
「じゃあ、二千万円」
「買った。いや、もらった。いやいや乗った」
本音をオブラートに包んだ久美子の希望は博子と麻里奈にあっさりと拒絶され、さらに日頃から恭平をこき下ろしている春香にも引き取りを拒否された哀れな恭平は最終的には多額の持参金を条件に我慢して恵理子にもらっていただくことが本人のいないところでこの日勝手に決まったのだった。
メデタシ、メデタシ。




