House of Cards 2
千葉の田舎にある広大な敷地に建つ「幽霊屋敷」という別名もある古びた洋館の一室。
「まず計画についての率直な意見を聞かせてもらえますか?」
この館の実質的主であるその少女にそう問われたのは、少女に招かれてこの館を訪れていた三十代半ばと思われる男と、彼よりも十歳ほど若い女であった。
「では、まず私から。お嬢さまの計画ですが御父上は反対されたと聞いております」
「そのとおりです。あなたも父の意見に賛成ですか?」
「一般論でいえば。御父上のおっしゃるとおり、それだけ大きな施設をつくって休み時間と放課後以外は来店者がいないというのであれば、オープンしても早晩立ち行かなくなるのは間違いないでしょう」
「……そうですか」
「お嬢様、ガッカリしないでください。もちろん私の話には続きがあります。だいたいここで話が終わるようでは、田舎にある平凡な建築事務所の無能な人間と同じではありませんか。我々ふたりが何と呼ばれているかご存じですか?」
「もちろん。テリブル・ツインズです」
「その名は伊達に頂いているわけではないことをお見せいたします。お嬢さまもそう思ったからこそ我々をこの計画の推進者に指名したのではないのですか?」
「そのとおりです。では、田舎の建築事務所の人間とは違うあなたの意見とはどのようなものでしょうか?」
「一言で言えば非常におもしろい」
「それは賛成ということですか?」
「もとより私と彼女は計画を進めるためにやってきているので、私たちの賛否など気になさる必要はないのですが、賛否をあきらかにしろということであれば、もちろん賛成です」
「私も一の谷と同意見です。ついでにいえば、私のスタッフはすでに国と県に対しての交渉の準備を始めています。私も計画を成功させることをお約束いたします」
「ありがとうございます」
「それで、お嬢様の計画に一点修正を加えたいところがあるのですが聞いていただけるでしょうか?」
「もちろん。どこでしょうか?」
「キャパシティが五百人というところです」
「あなたも多すぎると考えているのですか?」
「いいえ。逆に少ないのではないでしょうか?ご希望のフードコートを含めて最低でも千席という案を提示させていただきます」
「千人?千人ですか」
「私の腹案では千五百人を予定しています。これは得られる敷地との兼ね合いがありますから流動的ではありますが」
「……たしかにそれはすごいのですが、私が通う学校の生徒数は千人弱です」
「もちろん承知しております。ですが、先ほどの述べた理由により生徒だけをターゲットにしているわけではないので問題ありません」
「どういうことですか?」
「私が調べたところでは、学校周辺には食事をする場所どころか、買い物をする場所もありません。これは狙い目です。それでも足りなければ呼び寄せればいいだけのことです」
「学校の敷地にショッピングモールでもつくるつもりなのですか?」
「お嬢様の希望は地元の商店街からの出店なのでショッピングモールとは少し違うのですがそのようなものです。そこで、最初の関門となるのは学校の敷地に商業施設を建てることとなります。土地を買い取るほうが制約もなくなり簡単なのですが、借地としたほうが継続的な収入が得られるので学校にとってはよいと思われます。どちらにしても晶さんの出番となります」
「おまかせあれ。その程度のことを田舎の木っ端役人に認めさせるなど造作もないこと」
「では、さっそく計画を進めまたいと思うのですが、せっかくですから計画名をつけたられたらいかがでしょうか?お嬢様、何かよい名前がございますか?」
「そうですね。……砂上の楼閣……ハウス・オブ・カーズはどうですか?」
「カードでつくられた家。お嬢様、それはすばらしいです。この施設の名前にも使えそうです」




