裏の裏は表ではない
……そして、闇へ続くもうひとつの扉も開く。
「博子、高校入学に際して言っておくことがある」
「何でしょうか、お爺様」
「いまさら言うことではないが、おまえは私が指名した立花家次期当主である」
「承知しています」
「だが、おまえはその心構えが足りない」
「そうでしょうか?」
「おまえはずば抜けた知識と洞察力に加えて冷徹な判断力まで兼ね備えている。それにもかかわらず、おまえは自分が我々立花家の跡取りであることを忘れることがある。私が心配しているのはそのことだ」
「……」
「たしかにおまえは強い。その辺にたむろするチンピラ程度なら問題なく倒せるだろう。だが、世の中にはおまえよりも強いバケモノなどいくらでもいる。おまえがそのようなバケモノたちに戦いを挑んでしまったら取り返しのつかないことになる。次期当主であるおまえは立花家にとっては代えがたい存在なのだ。ゆえに現当主としておまえに命じる。高校に入ってからは汚れ仕事は一切してはならぬ。登下校時の護衛に加えおまえが入学する高校にも影を紛れ込ませる段取りも済ませてある。必要があればその者たちを使え。それでも足りなければこちらから好きなだけ呼び寄せても構わない。とにかくおまえは高校生活を楽しむことに専念しろ」
「……わかりました。では、そうさせてもらいます」
「ところで、おまえが親しくしている小野寺兄妹だが……どうだ」
「まりんさんもお兄さんも私や立花家がどのような存在かを知ってそれでも普通に付き合えるというだけでも察しがつくでしょう。言ってしまえばバケモノをバケモノと知って普通に付き合える。いいえ、飲み込むだけの度量があります。あのふたりはある意味では私以上の存在といえるでしょう」
「ふむ。たしかに小野寺麻里奈は見てくれだけでなく、そのすべてが眩しすぎる光のようだ。そして、それはおまえが影として隠れ住むには格好の場所となる」
これだけは、「Afterglow」~「The Dark Side of The Moon」へと続く裏ストーリーへのプロローグとなります。