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小野寺麻里奈は全校男子の敵である  作者: 田丸 彬禰
閑話

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続 がーるずとーく Ⅰ

 千葉県の田舎にある千葉県立北総高等学校通称北高。


 その敷地の端にポツンと建つ古い木造校舎の一室では、この部屋を部室として占拠している関係者たちが唯一の男子部員が晒すぶざまな姿を冷ややかに眺めながらとりとめのない会話を楽しんでいた。


 それはまったく中身のないものである。


 しかし、彼女たちのことをよく知るすべての北高関係者は口を揃えてこう言う。


「部活動がおしゃべりをしているだけ?結構なことではないか。彼女たちがお菓子を食べて雑談しているだけで済むなら我々にとってこれほど幸せなことはない」


 彼女たちが属する組織。


 その組織こそ悪名高き創作料理研究会であり、それを統べるのが小野寺麻里奈なのである。


 さて、今日の彼女たちの会話はこれである。


「橘、おまえは今から耳を塞げ」


「何だと」


「今日は特別にこれを用意した。ありがたく受け取れ」


「ありがとう。というか、春香。何だ、これは」


「わからないのか」


「わかるわけがないだろう」


「まったく橘は愚かだな。では、教えてやろう。これは耳栓といって……」


「そこではない。俺はこれを渡される理由を聞いている」


「そう怒るな。もちろん、これは軽いジョークだ」


「くそっ。それでどういうことだ?」


「創作料理研究会はこれから重要な極秘会議をおこなうのだ。だから、部員どころか人間でもないおまえには聞く権利などあろうはずもなく耳をしっかり塞ぐ義務がある。どうだ、これだけ親切丁寧な説明してやればバカなおまえでもわかったであろう」


「ちっともわからん。そもそも俺だってここの部員だぞ」


「ほう。それは初耳だ」


「ふざけるな」


「まあいい。とにかく耳を塞げ」


「嫌だ」


「嫌なのか」


「もちろんだ」


「では、仕方がないな」


「仕方がないもさっきも言ったとおり、俺はここの部員で……おい、ちょっと待て。何だ?それは」


「貴様はここの部員などと言いながら、これもわからないのか。まったく愚かだ。だが、何事にも寛容な私だ。今日は特別に無知蒙昧な貴様にもわかるようにありがたくも私が直々に親切丁寧に説明してやろう。これはフライパンといって……」


「そうではない。俺はなぜ料理をしないおまえがフライパンを持っているかを訊ねているのだ。俺の経験上、おまえがそのようなものを持ちだしたときはその後に俺の身に悪いことが起こることになっている。だが、今の俺はそのような理不尽な暴力を受けなければいけない理由など何ひとつないぞ」


「ほう、随分な言いようだな。それでは、このあとに私がおまえに理不尽な暴力を振るうようではないか」


「……違うのか」


「いや。まったく違ってはいない」


 次の瞬間、恭平の脳天に激しい衝撃を伴う轟音が鳴り響いた。


「橘君は寝てくれた?」


「見てのとおりだよ。さて、邪魔者が昼寝を始めたところで話を始めようか」


「春香さん、橘さんに部屋から出るように言えばよかったのではないですか?橘さんが少しだけかわいそうです」


「いや、それではあまりにも普通で面白くない。やつにはこのぶざまな姿こそがよく似合う」


「アハハ。まったくそのとおり」


「春香もひどいが、それを聞いて笑っている先生も相当なものだな」


「まりんにだけは言われたくないわよ」


「まったくだ。さて本題だ。ヒロリン」


「何ですか?」


「今日は私たちにとっての最重要案件についてヒロリンに質問がある。心して答えてもらいたい」


「ハイハイ」


「では、問おう。ヒロリンはどうやってその胸を手に入れた?」


「はあ?」


「おいおい、恭平に聞かれたくない話というのはそれなのかい」


 間の抜けた声をあげたのは、この分野での勝ち組である博子と麻里奈だった。


「はあ?はあ?とはなんじゃ。これは最重要案件だと言っただろう」


「まったくだよ。だいたい、あなたたちは持たざる者の気持ちがわからないからそういうことを言っていられるよ。毎日のようにあの忌々しい田代玲子に大きな胸を自慢される身になってごらんなさい。なにしろ、あの女ときたら……」


 ……と、ここから春香とともにその部分が非常に寂しい恵理子本人より彼女の黒歴史が長々と披露されたのだが、本人以外にはどうでもいいことなのですべて省略。


「……とにかく私は胸が大きくなる秘訣を知りたいのよ。そして田代玲子より胸が大きくなって、あの無礼者を見返してやりたいの」


 ……ちなみに、恵理子の言う忌々しい田代玲子とは、恵理子とは正反対の豊かなバストをセールスポイントとしており、「胸が重くて肩こりが酷い。そういう悩みには無縁なあなたが羨ましい」という最高級の嫌がらせの言葉を恵理子との挨拶代わりに使用している彼女とはライバル関係にある北高教師のことである。


 そして、もうひとりも……。


「私もぜひ聞きたいです」


 ……正真正銘のまりんラブであるこちらも実は胸の大きさに悩んでいた。彼女は自分の胸に麻里奈の顔を埋めたいという大いなる野望を抱いていたのだが、現在のサイズではそれはとうてい叶わなぬ夢なのである。もっとも麻里奈は「私は女子を恋愛対象には見ていない」と繰り返し宣言しているために、たとえ彼女の胸が博子並みに大きくなってもその願いが成就されるのかは甚だ微妙ではあるのだが。


 ということで、理由は様々ではあるが、とりあえず三人とも真剣ではあったのだが、困ったのは春香に指名されたヒロリンこと立花博子である。


 ……私の胸が大きいのは母親からの遺伝などと言ったらがっかりするだろうな。


 ……何かないかな?魔法のアイテムになりそうなもの。


 そして、思いついたものがこれである。


 クリームパン。


 もちろんそれは購買部で比較的安価で購入できるため貧乏を自慢する彼女が頻繁に食しているものであることは事実ではあるのだが、古今東西クリームパンを食べて胸が大きくなったなどという話は聞いたことがない。


 しかし、溺れる者は藁をも掴む。


 返答に窮した彼女が口にしたその情報は、あっという間に北高中に広まり様々な喜劇が引き起こされることとなる。

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