チョコレート戦争 Ⅴ
……今年のバレンタインデー当日、登校前のある兄妹の会話。
「床に転がって小学生の妹のスカートの中を覗く変態兄ちゃん、今日は何の日か知っている?」
「……バレンタインデーだろう。というか、無用な誤解を招くからそれはやめろ。言っておくが、あれはおまえが寝ていた俺の顔を踏みつけたときに見えたもので決して覗いたわけではない」
「涎を垂らしていたくせに。まあ、いいや。はい、これ。どうせ、また一個ももらえないだろうから、私が特別にあげる」
「……ありがとう。……ん?由佳、これは何だ」
「メッセージ」
「『あわれ』を込めて、とは何だ」
「違うよ。『哀』と書いて『あい』と読むの」
「くそっ。小学生の分際でつまらないことを思いつくやつだ。それから、俺だって本命チョコはともかく、義理チョコならいつももらっているだろう」
「どうせ自分で買っているでしょう。それとも拾ってくるのかも」
「うっ」
……なんか、それは微妙に近いものがある。
「土下座するなら今のうちだよ。そうすれば、お母さんと千夏からももらえるようにふたりに頼んであげる」
「……うるさい。お前こそ、兄貴が持ってくるチョコの数に腰を抜かすなよ」
「それは楽しみだよ、モテモテ兄ちゃん。じゃあ、おかあさんに義理チョコはいらないそうだよと言っておくからね。ちなみに私は麻里奈お姉ちゃんと博子お姉ちゃんからもらう義理チョコはもらったものとはカウントしないけど、いいよね?」
「もちろんだ。あんなものは俺だって数に入れていない」
……くそ。こうなったら、いつもの手を使うしかない。だが、俺がチョコをもらえないのは全部麻里奈のバカのせいなのだから、これをズルとは呼ばない。そう、のーぷろぶれむだ。




