エピソード ゼロ Ⅴ
三月下旬のある日。
中学校を卒業したたばかりのふたりの少女が四月から自分たちが通うことになっている千葉県立北総高等学校通称北高の校舎から姿を現した。
ひとりは長身の美人。
そして、もうひとりは小柄でお世辞にも美人とは言えない黒縁メガネをかけた地味顔の少女だった。
「この前来たのは試験のときだったから、じっくり見なかったけど……改めて見直すと……」
「どうかしましたか?」
「古いよね」
「まあ、北高は伝統校ですから」
「それでも古い。古すぎだよ。ほら見なよ。あれなんか崩壊寸前の古さだよ。なぜあんなものを残しておくのかな」
麻里奈が指さしたのは広い敷地の端にポツンと建つ二階建ての木造校舎だった。
「以前使用していた校舎なのでしょうか。今時木造校舎があるとはさすがです。趣があっていいですね」
「懐古趣味のヒロリンにはいいかもしれないけれども、私は嫌だよ。あんなところに押し込められそうになったら断固抗議する。いっそのこと、今のうちに焼却処分にしておこうか」
「耐震補強工事をした様子も見られませんから、さすがに授業では使用していないと思います。倉庫かもしれません」
「倉庫か。まあ、それなら許してやろう」
「ところで用事は何だったのですか?」
「入学式で新入生代表としてあいさつしろ。だって」
「そうでしょうね」
「それから……」
「何ですか?」
「クラス分けの件はOKだって。というか、すでにそうなっていた」
「そうですか」
「この学校では各クラスの学力が平均になるように生徒を均等に振り分けられるのが慣例になっているのだから、入学試験の一番と二番が同じクラスになるのはおかしいとかなり揉めたらしい。最後は校長が押し切ったらしいけど」
「それは校長先生にお礼を言わなければなりませんね。ところで、まみたんと恭平君はどうでした?」
「まみたんは私たちと同じクラス。恭平は別のクラスだった」
「まあ、ほぼ完璧ですね」
「そうだね。私たちと同じクラスにしておけば、まみたんが女子にいじめられることはないだろうからよかったよ。これぞ、鶴の一言。さすがヒロリン」
「私は何も知らない。ということになっています」
「そうだった。では、私もあの約束を果たすよ。入学したらすぐに活動開始だからね」
「楽しみです。まりんさんには特別に美味しいものをつくりますね」
「……それは遠慮しておこう」