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The Dark Side of The Moon 9

 やや疲れた顔に無理やり薄ら笑いを浮かべた自分の雇い主が戻ってくると、運転手役の男は最高の笑顔で出迎える。


「おかえりなさいませ。今日は随分時間がかかりましたね。おじょ、いや彼女は手強かったのですか?」


「いや、そういうわけではない。ただ、いろいろあってね。それで、これは君への土産だよ」


 そう言って全国展開しているハンバーガーチェーン「ネフェルネフェル」のロゴが入った紙包みを彼に渡す。


「ありがとうございます。これはハンバーガーですか」


「そうだよ。ところで鎧塚。君は『ネフェルネフェル』に裏メニューがあるということを知っているかい?」


「ピクルス抜きとか、パテ増量のことでしょうか?」


「いや、正真正銘の裏メニューだ」


「それは知りません。そのようなものがあるのですか?」


「実は僕も今日初めて知ったのだけども、高級ハンバーガーというものがあるのだ。そして鎧塚に渡したそれがその高級ハンバーガーということになる。ところで、それはいくらだと思う?」


「そうですね……裏メニューというくらいですから千円くらいでしょうか?」


「なんとひとつ六千円。だから、味わって食べてね」


「もちろんです。ありがたく頂戴いたします。それにしても六千円とは驚きです」


「僕もちょっと驚いたよ。試験的にあの店で始めたらしく、まだ特別な客にしか出していないらしい。それから、『ネフェルネフェル』でもクレジットカードが使えることを知っているかい」


「電子マネーではなくクレジットカードですか?」


「そう」


「知りません」


「これも特別な客だけらしいのだけどね」


「その特別な客に恭様を選ぶとはその店長は随分人を見る目があるようですね」


「そうだね。聡明な彼は将来出世することだろう」


「……そうですね。ところで、首尾はいかがでしたか」


「成功だ。それにしても、一番の子分であるチビメガネにも裏切られて小野寺麻里奈も哀れなものだな。鎧塚にも聞かせたかったよ。ずらりと並んだ高校に入ってからの小野寺麻里奈の悪行の数々と小野寺麻里奈に対する積もり積もった不満。まあ、笑えたけど」


「そうですか。それではすぐに報復は実行されるのですか?」


「いや。もう少し計画を練りこんでからだ。できるだけ小野寺麻里奈にダメージを与えたい。ただ辱められて泣きながら許しを請う小野寺麻里奈を撮影するだけでなく精神的なダメージも与えて立ち直れなくしたいからね」


「なるほど」


「まあ、楽しみにしていることだ」


「はい。心の底から楽しみにしております」




 ……会話は聞かせてもらったよ。年下のゲス相手にそつのない見事な返答。そして白々しいセリフのオンパレード。あれは全身から下僕感漂う根っからの嘘つきである君にしかできない素晴らしい芸当だよ。高貴で誠実さだけが取り柄の僕にはあのような恥ずかしい真似はとてもできない。感服したよ。


 ……よく言った。今度会ったら必ずおまえを殺す。


 ……失礼な。僕は友人として君の恥ずかしい行為を精一杯褒めているのだよ。君は友達思いのこの僕に感謝の言葉を捧げるべきだと思うけどね。


 ……うるさい。必ず殺す。それとも俺と交代しろ。


 ……うっ。それは殺されるより苦痛だよ。

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