The Dark Side of The Moon 8
「では、お話します。まず、恭君の目的は私をまりんさんから離反させることです。これを承諾します。もちろん偽りですが」
「それは承知しております」
「ですが、それだけでは当然面白くありません。『ネフェルネフェル』に恭君を引きこんでクレジットカードから彼の個人情報をすべて吸いとります」
「たしかに店長の小峰はスキミングのプロですし、彼が持つあの暗黒マシーン『ラフレシア』であればデータを丸裸にするのも可能でしょう。しかし、ガキにあの店でどうやってクレジットカードを使わせるのですか?」
「裏メニュー」
「……裏メニューですか。それで、それはどのようなものを予定しているのでしょうか?」
「そうですね……特別なお客にしか出さない一個五千円の高級ハンバーガーのような選民意識の塊である恭君がいかにも喜びそうなものです」
「しかし、現金が足りなくてもクレジットカードで支払いをするとは限らないのではないですか?」
「その点は心配ありません。先日ハルピに『普段はクレジットカードでしか支払いをしないが、こういう店はクレジットカードが使用できなくて困る』と金持ち自慢をしていたそうですから、特別にクレジットカードが使用できるなどと誘ってやれば間違いなくハルピに見せびらかしていたという自慢のプラチナカードを出します」
「では、さっそくその『高級ハンバーガー』とやらを準備するように伝えますがどのようなものにいたしましましょうか。ふぐ毒でも入れますか。私的にはやはりトウゴマがおすすめですが」
「いいえ。私も食べますし、恭君にお願いして恭君の運転手をやっている鎧塚の分も注文するつもりなので値段にふさわしい良い材料を用意してください」
「そういうことなら最高級の肉を用意させなければならないな」
「そのとおりです」
「ですが、ガキが金額にビビッて注文を取消しすることはないのですか?」
「たとえば、それが恭平君ならまちがいなく取り消すでしょうが、プライドの高い恭君にかぎってそれは絶対にありません。まして、普段バカにしている私の前です。彼にそのようなことをできるはずがありません。それこそが恭君が恭平君よりも扱いやすいところになります」
「なるほど」
「それにしても、小野寺麻里奈の取り巻きどもを留め置く場所として確保したあの店がこのような形で利用できるとは思いませんでした」
「まったくです。さすがお嬢様」
「そういえば、数日前に店にやってきた馬場春香の父親が『この店は募集もせずにどうやって人集めをしているのか』と小峰に訊ねたそうです。コツがあるのなら教えてくれと」
「今はどこでも人手不足らしいな。それで小峰は何と答えたのだ」
「『僕の魅力で黙っていても女の子たちが寄ってきます』と答えたと言っていました」
「ふざけやがって。泣いて頼んで東京から人間を派遣してもらっていることのどこが『僕の魅力』となるのだ。というか、うちが三月に店を買い取ってからは働いている全員が橘花の人間だろうが」
「殺すか」
「そうだな。やつをミンチにしてガキに食わせるハンバーガーの材料にしよう」
「そういうことはすべてが終わってからにしてください。では、準備に入ってください」




