The Dark Side of The Moon 7
エセ文学少女ヒロリンこと立花博子の自宅があるボロアパートの隣にある広大な敷地を持つ古びた洋館。
秘密の地下道を使って隣からやってきたこの館の実質的な主人であるこの少女を中心にして、館の二階である打ち合わせがおこなわれていた。
「……お嬢様、以上が現状報告でございます」
「ということは、恭君は三日後の夕方に私に接触するということですね」
「そういうことです」
「それは楽しみです」
「お嬢様、そのような下賤な輩などお嬢様がわざわざ相手にする必要などございません。我々が出かけていき、明日にでもその目障りなガキを狩ってまいります」
「私もその意見に賛成です」
「同じく。しかも鎧塚の報告によれば、そのガキは普段から口の端に乗せるのも憚るような無礼な呼び方をしてお嬢様を嘲っているそうではないですか。そのガキは三日後といわず今すぐ八つ裂きにすべきでしょう」
「そのとおり」
「……その無礼な呼び名とはチビメガネのことですか。たしかに無礼な物言いです。しかし、まりんさんに比べれば私はかなり小柄ですし、恭君の前ではいつもこのメガネをかけていましたから文学的な要素がかける直接的すぎる表現ですが、適切ではあるとも言えます」
そう言って、彼女は「チビメガネ」を気にすることもなくテーブルの上に置かれた黒縁のメガネを摘まみ上げた。
「しかし……」
「とにかく、今回は彼を害しません。これは決定事項です。もちろん彼が私に刃物を見せたりすれば別ですが。よろしいですね」
「……はっ」
全員が少女の言葉に承諾したものの、それに納得しているわけでなかったのはあきらかだった。
この場にいる十二人の男たちのリーダーである男が恐る恐る口を開いた。
「できればお嬢様の策をご披露していただきたいのですが、それは可能でしょうか」
「……策ですか。わかりました」




