The Dark Side of The Moon 6
「予定していたより時間がかかったので心配しておりましたが、首尾はいかがでしたか?」
春香と別れた恭が待たせていた車に乗り込むといつもように運転手が声をかけてきた。
「当然成功だ。余計な出費をしたけれども、僕の筋書きどおりに進んだよ。それにしても、小野寺麻里奈は取り巻きたちにも随分嫌われているのだな。この前の腰巾着といい、今日の馬場春香といい、ボロクソだったよ」
「それは結構なことではありませんか」
「まあ、これで小野寺麻里奈の取り巻きをふたり寝返らせたことになる」
「残りふたりということになりますね」
「そうだね。ところで、小野寺麻里奈のクラブの顧問が決まったそうだな。これもなんとかしないといけないね」
「いいえ。そちらはやめておいたほうがいいでしょう」
「なぜだい」
運転手のその言葉にやや機嫌を損ねたように彼の雇い主は訊ねた。
だが、運転手の方はその表情をあまり気にすることなく雇い主の疑問に答える。
「相手は大人ですし、教師という立場上教え子を陥れるような行為に加担するとは思えません。下手をすれば恭様の計画が露見する可能性があります」
「なるほど。それは言えるね。では、次はどちらと交渉したほうがいいと思う?」
「やはり、こちらと交渉すべきでしょう。というか、これが最後にしたほうがいいでしょう」
「理由は?」
「もうひとりの松本まみは、小野寺麻里奈にかなり入れ込んでいます。ですから、先ほどの教師と同じで情報が小野寺麻里奈に洩れる可能性があります。触らぬほうがいいでしょう」
「だが、こっちのチビメガネは中学校の時から小野寺麻里奈の子分だよ。そういうことなら、こっちだって危ないと思うけどね」
「そういう可能性もありますが、その腹心を落とせれば小野寺麻里奈にとって大打撃でしょう。私が調べたところでは自分を子分扱いする小野寺麻里奈に不満も持っているようでもあります。ここは恭様の交渉力の見せ所といえるのではないでしょうか」
「なるほど。たしかにそうだね。わかった。では、最後のひとりはチビメガネにしよう。まあ、あの頭の悪いチビメガネを寝返らせることなど僕にかかればあっという間だけどね」
「それは頼もしい。大成功を期待しております」
……お嬢様、ご指示通りに計画は進んでおります。
……ありがとうございます。はっきり言って一番の不安が恵理子先生だったので、うまくいってよかったです。彼の注意を先生とまみたんから遠ざけたあなたの功績は大です。
……お嬢様。ひとつお伺いしてよろしいでしょうか?
……どうぞ。
……その上村なる教師は本当に裏切る可能性があったのですか?
……なにしろ、恵理子先生は自他とも認める守銭奴ですのでお金に釣られる可能性が絶対ないとは言えませんでしたから。それに欲をかきすぎて消されるなどということも考えられますので、この手が一番だと思います。ということで、やっと私の出番です。
……明日にでも私が無礼な言葉を吐くあの生意気なクソガキを縛り上げてお屋敷地下の硫酸のプールに放り込んでしまえばすべてが終わり、お嬢様のお手を煩わせることもないと思いますが。
……いいえ。それでは半分しか片付いたことになりません。とにかく、あなたの出番はちゃんと用意しておきますので指示通りに動いてください。
……もちろん、それは承知しております。お任せください。




