がーるずとーく Ⅲ
千葉県の田舎にある千葉県立北総高等学校通称北高。
その敷地の端にポツンと建つ古い木造校舎の一室では、この部屋を部室として占拠している関係者たちが日々唯一の男子部員の男子としてだけでなく人間としても情けない数々の言動に眉を顰めながらとりとめのない会話を楽しんでいた。
それはまったく中身のないものである。
しかし、彼女たちのことをよく知るすべての北高関係者は口を揃えてこう言う。
「部活動がおしゃべりをしているだけ?結構なことではないか。彼女たちがお菓子を食べて雑談しているだけで済むなら我々にとってこれほど幸せなことはない」
彼女たちが属する組織。
その組織こそ悪名高き創作料理研究会であり、それを統べるのが小野寺麻里奈なのである。
さて、今回の登場人物はふたりだけである。
そして、その内容はあの話に関わるものとなる。
「ハルピに相談があります。それから、これはほかの人たちには内緒です」
「OKだよ。それで何?橘の新しいお仕置き方法でも開発したの?」
「いいえ。もっと面白いことです」
「へえ。それは楽しみ。それで何?」
「実はですね。近いうちにハルピにこの人が接触します」
そう言って博子は一枚の写真を見せた。
「誰?」
「片山恭君。私たちと同じ中学校出身で今年の春から一高に通っています」
「写真を見るかぎり軽薄そうで私の好みではないな。それで、その一高生が私に何の用があって接触してくるのかな……わかった、まりん絡みだ」
「そうです」
博子は中学校の卒業式の一件を説明し片山の動機を説明した。
「それは完璧な逆恨みだな。ところで、何でヒロリンがその片山なんとかが私に接触してくることを知っているの?」
「それは恭君が愚かだからです」
「意味がわからん」
「下見帰りの恭君と子分が『ネフェルネフェル』で打ち合わせをしていたのです。隣に私がいることに気がつかずに」
「……なるほど。それは確かに愚かだな。それで私はどうすればいい?その片山なんとかが近づいた瞬間に殴りつければいいのか。それとも、『痴漢だ』と叫んだ後にスタンガンで死ぬまで懲らしめるか」
「それでは、いつも恭平君にやっていることと変わりません。せっかくですから、もっと面白いことをしましょう」
「いいね。具体的にはどうすればいい?」
「簡単です。今回は恭君の策に乗ったフリをしてください」
「たしかにそれは簡単だが、本当にそれだけでいいの?」
「恭君は勉強ができます。しかし、彼は視野が狭く非常に傲慢で自分が考えたことはすべて正しいと思っています。しかも、人間に優劣をつけたうえに、自分よりも劣っていると判断した人間は自分の考えたとおりに動く駒だと考えています。彼は自分を有能な策士だと思っているようですが、彼のようなタイプの人間を罠に嵌めることは非常に簡単です」
「……相手が見たいと欲しているものを見せる。それで彼が考えた策に乗ったフリをするわけか」
「そのとおりです。そして、完ぺきに自分の策が成功したと思った瞬間に大どんでん返しで種明かしをする。どうですか?」
「……ヒロリン」
「何でしょうか?」
「私はヒロリンと喧嘩しないことを誓うよ。絶対に勝てないから」




